こういう日常回も挟んでおきたいと思って、書きました。
「一体どうして、零はデジタルワールドの境界を開けようとしているんだろう」
「分からねぇけど、止めなきゃいけない事は確かだな」
「うん、そうだね! 多樹ちゃん!」
「このままじゃいけない事はミーも分かってるざんす」
多樹、北斗、スプライモン、フルーモンが歩きながら言う。
現実世界とデジタルワールドの境界線が何者かによって壊れようとしている。
阻止しなければ世界が崩壊する事は間違いないだろう。
「でも、もう、いい加減に休みたいんだけど……」
今日は土曜日なので学校が休みだ。
北斗が転校してから事件に巻き込まれてばかりの多樹は、そろそろ休みたいと思った。
いくらデジモンと一緒に戦えるとはいえ小学生なので、休息は必要だ。
「そりゃそうだな。じゃあ今日は家でゆっくり休んでろよ」
「いいの?」
「いいんだぜ! だってオレと多樹は友達だろ!」
「友達……」
多樹は心から信頼できる友達は明日香しかないかった。
北斗は転校生なのに、そんな多樹をすぐに友達だと認めてくれた。
多樹は思わず迷ってしまうが、デジヴァイスの中からスプライモンが声をかける。
「いいんじゃないかな? 北斗を友達って認めても」
「……そうだね。じゃあ、今日は一日、家で休むよ」
北斗は多樹を心の底から気遣ってくれている。
そんな北斗に、多樹はほっと一安心し、スプライモンと一緒に休む事を決めるのだった。
「ねえ、転校する前、北斗には気が置けない友達……いっぱい、いた?」
「もちろん!」
「……羨ましいね」
北斗の表情と態度には、一切の裏表がなかった。
土曜日の午後、多樹は自宅のリビングで、スプライモンと一緒にソファに横たわっていた。
いつもなら、事件に巻き込まれて走り回っている時間だ。
久しぶりに訪れた穏やかな時間に、多樹はほっと息をつく。
「ふぅ……なんか、久しぶりだね、こういうの」
「そうだね! わたしもゆっくりできるのは嬉しいな!」
スプライモンがデジヴァイスの中でぴょんぴょんと飛び跳ねる。
その小さな体からは、喜びが伝わってきた。
昼食は、冷蔵庫にあったもので簡単に済ませた。
母親は仕事に出かけており、帰宅するのは夕方だ。
多樹はソファから起き上がり、部屋の窓を開けてみた。
穏やかな風が吹き込み、カーテンを揺らす。
窓の外には、いつも通りの日常が広がっている。
しかし多樹の心には、昨日まで起こっていたデジモンに関する事件の記憶が鮮明に残っていた。
(……私は今までに色んな事件に遭遇してきた。転校生が来て、それからデジモンが現れて……)
ダークヴァイス、零、ユスティアモン、そしてデジタルワールドの境界。
たくさんの謎が、頭の中をぐるぐると回る。
「……でも、今日は休むって決めたんだから」
多樹は自分に言い聞かせるように呟き、窓を閉めてソファに戻った。
「多樹ちゃん、お昼寝でもしよっか?」
「そうだね。少しだけ……」
多樹は目を閉じ、静かな時間を過ごした。
深い闇の中、無数のデータが光の粒となって降り注ぐ空間。
そこは、デジタルワールドの中心地だった。
この場所で、二つの影が激突していた。
一つは白銀の鎧を纏い、星の兜を身に着けた神人型デジモン。
もう一つは、長い髭を蓄え、威厳を放つ魔王型デジモンだ。
「余に従えば、デジタルワールドの財宝は全て貴様の物。何故、無駄な抵抗をする?」
魔王型デジモンの背後には、無数の堕天使型デジモンがひしめき、
その邪悪なオーラで空間を歪ませていた。
彼らは魔王型デジモンの号令一つで、いつでも神人型デジモンに襲い掛かる準備ができていた。
「私の使命は、デジタルワールドの秩序と正義を守る事。
あなたのような強欲な魔王に、この世界を渡すわけにはいきません」
神人型デジモンは右手の剣を構え、きっぱりと言い放った。
その剣は、神人型デジモンの強い正義の心に呼応して、青い光を放っている。
「愚かな……! 欲望こそが、この世界を動かす真理だというのに!」
魔王型デジモンは魔杖を振りかざした。
すると、無数の堕天使型デジモンが一斉に神人型デジモンへと襲いかかる。
「スターダストスラッシュ!」
神人型デジモンは星屑を纏った剣を振るい、襲い来る堕天使型デジモンを一掃する。
しかし、次から次へと現れる堕天使型デジモンに、神人型デジモンは徐々に追い詰められた。
「ライブラジャッジメント!」
神人型デジモンは左手に持つ天秤に、堕天使型デジモンの魂を乗せ、邪悪な魂を裁いていく。
しかし、魔王型デジモンの放つ邪悪なエネルギーは、天秤の力を弱らせていた。
「ククク……無駄な足掻きを。余の力に、抗う事などできはしない!」
魔王型デジモンは不敵に笑い、巨大な両手を広げた。
ダークエリアの邪悪なエネルギーが、魔王型デジモンの手の中に集約されていく。
「パンデモニウムロスト!」
魔王型デジモンが放った超高熱の爆破エネルギーが、
神人型デジモンに向かって一直線に迫ってきた。
神人型デジモンは剣でそれを防ごうとするが、圧倒的なエネルギーの奔流に、剣が軋み始める。
(これが、七大魔王の力……!)
神人型デジモンは歯を食いしばる。
魔王型デジモンの圧倒的な力の前に、神人型デジモンの体は徐々に悲鳴を上げていった。
(私は……負けるわけにはいきません……!)
神人型デジモンは必死に耐えるが、超高熱の爆破は神人型デジモンの鎧を溶かし、
白い翼を焦がしていった。
そして、神人型デジモンは意識を失いかける。
その瞬間、神人型デジモンの脳裏に、一人の少女の姿が浮かび上がった。
「……あなたは……」
どれくらいの時間が経っただろうか。
玄関のドアが開く音がして、多樹は目を覚ました。
母親が帰ってきたのだ。
「ただいま、多樹。よく眠れた?」
「おかえりなさい、お母さん。うん、少しだけ……」
母親は優しく多樹の頭を撫で、ニコリと微笑んだ。
しかし、先程自分が見た夢が、何故か心の中に残っていた。
それは、母親には言いたくなかったので、黙っていた。
「夕飯、何がいいかしら?
冷蔵庫に合い挽き肉があったから、煮込みハンバーグでも作ろうと思うんだけど……」
「煮込みハンバーグ!」
多樹は目を輝かせた。
母親の作る煮込みハンバーグは、多樹の好きなものだ。
「じゃあ、買い出しに付き合ってくれる? 買い物かご、持ってきて」
「うん!」
多樹は元気よく返事をし、スプライモンと一緒に買い物かごを持って母親について行った。
スーパーまでの道中、他愛もない会話を交わす。
母親とこうしてゆっくり話すのも、久しぶりの事だった。
スーパーでは、煮込みハンバーグの材料である合い挽き肉や玉ねぎ、
人参、じゃがいもなどを買い込む。
多樹は、母親の後ろを歩きながら、ふと、北斗のことを思い出した。
北斗の母親も、きっと毎日ご飯を作っているのだろうか。
そんな事を考えていると、心が温かくなるのを感じた。
家に帰り、多樹は母親と一緒に夕食の準備を始めた。
玉ねぎをみじん切りにしたり、ハンバーグをこねたり。
一緒に料理をする時間は、多樹にとって何よりも大切な時間だ。
「多樹、ちょっとこっち持っててくれる?」
母親に言われるまま、多樹は煮込みハンバーグの入った鍋の蓋を開ける。
とろとろになった玉ねぎや人参、そして、香ばしいソースの匂いがふわりと広がった。
「わぁ……美味しそう!」
「ふふ、多樹のために、愛情たっぷりよ」
母親の言葉に、多樹は照れくさそうに笑った。
夕食の時間になった。
食卓には、湯気の立つ煮込みハンバーグが並んだ。
「いただきます!」
多樹は大きなハンバーグを口いっぱいに頬張る。
口の中に広がる肉の旨みと、とろりとしたソースの甘みが多樹の心をじんわりと温めてくれる。
「美味しい……! お母さん、ありがとう」
「どういたしまして。たくさん食べて、元気になりなさい」
母親は優しい眼差しで多樹を見つめる。
多樹は、心と体が満たされていくのを感じていた。
煮込みハンバーグの温かさは、まるで母親の愛情そのもののように思えた。
事件に巻き込まれて、不安で疲れ切っていた心が、ゆっくりと溶けていく。
「友達」と呼んでくれる北斗や明日香、そして「家族」である母親。
大切な人達が傍にいる。
多樹は、そんな当たり前の日常の温かさを、心から実感していた。
「うん、元気になったよ」
多樹は笑顔で答え、また一口、煮込みハンバーグを頬張るのだった。
主人公が多樹だという事を知らせるために書きました。
多樹が見た夢は、物語のカギを握る重要なもの、とだけ言っておきます。