子供の成長を書くのもまたデジモンの物語なので、こういう話を書きました。
ダークヴァイスをばらまいて、町で犯罪者を増やしている組織「ウィザード」。
標的のほとんどが社会に不満を持っている人らしく、
ウィザードはそれに付け込んで、ダークヴァイスを渡しているらしい。
このまま野放しにすれば、町の混乱どころか世界が悲劇に襲われてしまう。
それだけは阻止しなければと多樹と北斗は思うが、肝心の情報が見つからなかった。
そこで、北斗の家であるデジモン研究所に向かい、ウィザードの情報を調べるのだ。
「タイガに勝てるのかな? ソーサリモンに、スプライモンの攻撃が通用しなかったから……」
チケットを転売しようとした男を逮捕しようと追いかけていたところ、
ウィザードの一員・タイガと遭遇した。
タイガが操るソーサリモンにスプライモンは全く歯が立たなかった。
もしタイガが途中で戦闘をやめていなければスプライモンはデリートされていたかもしれない。
「オレのフルーモンも、ソーサリモンに勝てなかったな」
北斗はタイガとの戦いで、自分の力不足を否応なしに実感した。
時に多樹のピンチを助けていたのに、二人ともピンチになってしまった。
「けれど、それは諦める理由にならねぇだろ?
ウィザードを放っておいたら犯罪者だらけになっちまうしな」
「北斗って前向きなんだね」
「オレは昔からそういう性格だよ」
「羨ましいな……」
多樹はお世辞にも、明るい性格ではない。
強敵に勝てなかったのになおも前向きだなんて、到底、多樹にはできなかった。
「なんで羨ましいって言うんだ?」
「私は……ウィザードと戦うのが怖いの。
今まではゴブリモンとか、インプモンとか、そういうのが相手だったから頑張れたの。
でも、ソーサリモンは強かった! 北斗と一緒でも勝てなかった!
しかも……タイガと同じくらい強い人も、ウィザードにまだいるなんて!」
多樹は不安げな表情で、震えながら首を振った。
先程のタイガとの戦いが多樹にとって衝撃だったらしく、
多樹はウィザードと戦う事に否定的になっていた。
しかも、タイガと同程度の強さの幹部が、ウィザードにはまだいるらしい。
いくら自分達が特別な子供でも、心はまだ子供なので、耐えられなかった。
身長は多樹の方が高かったが、立場が逆転したようだった。
「多樹、まだ完全に負けたと決まったわけじゃねぇ。
その証拠に、デジモンはまだ生きてるだろ?」
北斗は多樹の顔を見ながらそう言った。
多樹がデジヴァイスを確認してみると、確かにスプライモンは元気で、
デジモンが命を落とした時に戻るデジタマになっていない。
「スプライモン……」
「まったく、多樹ちゃんってば、どうしてビビってるの?
わたしは生きているのに! 多樹ちゃんは弱虫じゃないでしょ!!
それくらいでへこたれたら、わたし、とっても悲しいんだから!!」
スプライモンはウィザードに対して弱気になっている多樹に叱咤激励する。
パートナーデジモンの言葉が、多樹の心に届いたのだろう。
家ではあまり叱られなかったのか、多樹は慌てて胸に手を置き、微笑んだ。
「……ありがとう、スプライモン」
「え? どうしてお礼を言うの?」
「誰かが叱ってくれた事はほとんどなかったからね。
私は、家でも学校でも落ち着いていたから、ほとんど叱られなかった。
それが、こうなるなんて思ってなかったけど、逆に新鮮だった。
私を叱ってくれてありがとう、スプライモン」
(うじうじした多樹ちゃんを見たくなかっただけなんだけどね……)
多樹は優等生なので、ほとんど叱られず、良くも悪くも波風は立たなかった。
初めて、きつく叱ってくれたスプライモンに、多樹は感謝した。
スプライモンとしては後ろ向きになっている多樹を見たくなかっただけなのだが、
あえて多樹にそれは伝えなかった。
「多樹、元気になったか?」
「スプライモンのおかげでね。さあ、デジモン研究所に行こう!」
笑顔を取り戻した多樹に、北斗も釣られて笑顔になった。
デジモン研究所の重厚な扉の前に、多樹と北斗は再び立っていた。
先程までの不安は、スプライモンの叱咤激励と北斗の明るさに救われ、今はもうなかった。
多樹は深呼吸をして、扉のインターホンを押す。
「はい、どうぞ」
七香の声がスピーカーから聞こえてきた。
ドアが開き、多樹は一歩、中へと足を踏み入れる。
「お邪魔します」
多樹が遠慮がちに挨拶すると、七香が笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃい、多樹ちゃん。お帰り、北斗!」
「ただいま、姉ちゃん!」
北斗は元気よく答え、多樹を促して研究所の奥へと進んでいく。
研究室の中は、相変わらず様々な機械が稼働しており、
電子音とモニターの光が多樹達を包み込んだ。
有雄はモニターの前で、何かのデータを分析していた。
「父さん、ウィザードについて聞きたい事があるんだ!」
北斗の言葉に、有雄はゆっくりと振り返った。
有雄の目は、研究に没頭している科学者特有の鋭さを帯びていた。
「おお、多樹君、北斗。タイガという男に会ったと聞いたが……無事だったか」
「はい、何とか。それで……ウィザードって、一体何なんですか?」
多樹が尋ねると、有雄はモニターのスイッチを切り、二人に向き直った。
「ウィザードは、デジタルワールドの力を利用して、社会を転覆しようとしている組織だ。
彼らは、人間が持つ不満や欲望を増幅させ、
ダークヴァイスという装置を通じてデジモンを操り、現実に干渉している」
有雄の説明に、多樹と北斗は顔を見合わせた。
タイガが言っていた「社会の不満を解消する」という言葉は、やはり彼らの詭弁だったのだ。
「でも、彼らの最終的な目的は、まだ分かっていない。
私達が突き止めているのは、ダークヴァイスが
デジタルワールドと現実世界の境界に大きな負荷をかけているという事だけだ」
有雄は真剣な表情で、ウィザードについて語った。
「タイガは、今、どこにいるんだ?」
北斗が焦れたように尋ねる。
有雄は再びモニターに向き直ると、キーボードを叩いた。
「今朝のタイガのダークヴァイスの反応を追跡してみよう……」
有雄がパソコンを操作すると、画面上に街の地図が表示され、一つの赤い点が点滅した。
「……公園だ。どうやら、あの男は公園に逃げ込んだらしい」
地図上の赤い点は、町の公園を示していた。
どうやらタイガはそこに逃げたらしい。
「よし、多樹! 行くぞ!」
「うん!」
多樹と北斗は、急いでデジモン研究所を出た。
公園へと続く道を走り出したその時、二人の前に一つの影が立ち塞がった。
「待て」
聞き覚えのある、冷たい声。
現れたのは、あの時に多樹達を邪魔した少年、零だった。
「零……!」
多樹の表情が強張る。
北斗も警戒するように、一歩前に出た。
「どうしてこんなところに……!」
「君達に、これ以上ウィザードに深入りされては困る。僕の邪魔をするな」
零はそう言い放つと、デジヴァイスを構えた。
彼のデジヴァイスから、テリアモンが姿を現す。
「零! どうしてだよ! オレ達は、タイガを止めに行かなきゃいけないんだ!」
「だからだ。君達の邪魔は、絶対にさせない」
「だったら、一緒に行こう! 一人で戦うより、二人で戦った方が強いだろ!」
「……僕に仲間は必要ない。テリアモン、行け!」
零は冷たく言い放つと、テリアモンに攻撃を命じた。
テリアモンは北斗に向かって、勢いよく突進していく。
「なんだと! ええい、やるしかねぇな! フルーモン!」
北斗はフルーモンを呼び出し、テリアモンとフルーモンが激突した。
(戦いたくないよ……。どうして、戦わなきゃいけないの……?)
多樹は、二人の戦いを前に、デジヴァイスを握りしめたまま立ち尽くしていた。
しかし、零は多樹のそんな思いなどお構いなしに、多樹にまで攻撃を仕掛けてきた。
「無駄な心は捨てろ。それが、君のためだ」
零の言葉に、多樹はショックを受ける。
「……っ! もういい! 私、戦うよ! スプライモン、私を守って!」
多樹は意を決し、デジヴァイスを構えた。
スプライモンが多樹のデジヴァイスから飛び出し、テリアモンに立ち向かう。
スプライモンとフルーモンは、連携してテリアモンに攻撃を仕掛けるが、
テリアモンの動きは素早く、攻撃はなかなか当たらない。
「トルビヨン・エペ!」
「ライトニングボルト!」
フルーモンの風の刃と、スプライモンの電撃がテリアモンを襲うが、
テリアモンはそれを軽やかにかわしていく。
「テリアモン、いけ!」
「絶対に零の邪魔はさせないよ!」
零の指示で、テリアモンはスプライモンに突進しその耳でスプライモンを打ちのめそうとする。
スプライモンは必死に避けるが、テリアモンの攻撃は強力で、少しずつ追い詰められていった。
(どうすれば……!)
多樹は焦る。
その時、多樹の頭に、スプライモンの言葉が蘇った。
―多樹ちゃんは弱虫じゃないでしょ!!
「そうだ、私は弱虫じゃない! 怖がってばかりじゃ、何も始まらないんだ!
スプライモン! いけぇーっ!」
多樹が叫ぶと、スプライモンの体が光を放ち、テリアモンに電撃を放つ。
「ライトニングボルト!」
「ぐわぁ……!」
スプライモンの放った電撃は、テリアモンの体を直撃した。
テリアモンは苦しげな声を上げ、その場に倒れ込む。
「う、うぅぅぅ……」
「テリアモン!」
零は慌ててデジヴァイスを構え、テリアモンをデジヴァイスの中に戻した。
「……覚えておけ。このままでは、僕に勝つ事はできないぞ」
零はそう言い残し、姿を消した。
「やったね、スプライモン!」
「うん! 勝った!」
スプライモンは、喜んで多樹のデジヴァイスの中に戻った。
「ねぇ、多樹ちゃん。どうしてわたし、テリアモンに勝てたのかな?」
「きっと、スプライモンはデータ種だから、
ワクチン種のテリアモンに大ダメージを与えられたんだね!」
多樹の言葉に、スプライモンは得意げに胸を張った。
「そっかー! そうだったんだね! へへーん!」
多樹とスプライモンの喜ぶ姿を見て、北斗も笑顔になった。
二人は急いで公園へと向かった。
公園の中央には、予想通り、タイガが一人で立っていた。
「おやおや、まさかあなた達が来るとは思っていませんでしたよ」
タイガは柔らかな笑みを浮かべ、二人に話しかけた。
彼の手には、相変わらず特別なダークヴァイスが握られている。
「タイガ! どうして零が邪魔をしたんだ! お前と零は仲間なのか!?」
北斗の問いに、タイガは微笑んだまま、首を横に振った。
「いいえ、彼は私の仲間ではありません。ですが……ちゃんとウィザードの役に立っていますね」
「どういう事だよ!」
多樹と北斗は、タイガの言葉に困惑した。
零はウィザードと協力しているように見えたが、どうやらそうではなかったらしい。
しかし、今はそんな事を考えている暇はない。
「タイガ! もうあなたの好きにはさせない! ウィザードは私達が止める!!」
多樹は決意の表情で、デジヴァイスを構える。
北斗も、隣で力強く頷いた。
「今回は、絶対に負けないぞ!」
タイガは二人の様子を見て、面白そうに微笑んだ。
そして、特別なダークヴァイスを構える。
「そうですか……ならば、邪魔者は全て消えるがいい!」
ウィザードの幹部の一人との決戦が始まった。
来週、ウィザードの最初の幹部と戦います。