デジモンアストリア   作:アヤ・ノア

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今日がデジモンビートブレイクの放送開始日ですが、アストリアは連載を続けます。
昨日の個人的な出来事が妙に引っかかりましたが、それとこの話には関係ありません。


第14話 結婚詐欺にはご用心

 ダークヴァイスをばら撒いて街を混乱させている組織、ウィザード。

 彼らは社会問題を盾に人々を唆し、犯罪者を生み出しているようだ。

 その幹部の一人・タイガを倒した多樹と北斗は、今までの事を振り返っていた。

 

「私達が解決した事件のほとんどは、今の社会が抱えている問題に関わっているよね」

「でも、だからといって犯罪を正当化するのは絶対にダメだよ」

 

 いくら社会が問題を抱えていても、それが原因で犯罪に走るのは本末転倒だ。

 放っておけば社会は混乱するし、世界にも悪影響を与える。

 そのためにも、多樹達はウィザードを阻止しなければならないと思った。

 

「ウィザードがやってるのはただの犯罪だ。オレは絶対に止めるからな」

「おっと北斗、『達』が抜けてるざんす」

 

 北斗のデジヴァイスからヴォレモンが声をかける。

 多樹と北斗にはパートナーデジモンがいて、決して一人で戦っていない。

 たとえどんな危機が起こっても、パートナーデジモンがいれば必ず解決できる。

 

「……そうだよな。仲間や友達がいるもんな」

「だから、私達はウィザードには絶対に負けない。町の平和は、私達が守る」

 

 多樹と北斗は、改めてウィザードへの敵対心を露わにするのだった。

 

 星海小学校の教室に、担任教師の穏やかな声が響いていた。

 授業は2時間目の社会で、「お金と生活」についてだ。

 多樹はノートにペンを走らせながら、真剣に先生の話を聞いていた。

 

「このように、お金は人々の生活を豊かにしますが、同時にトラブルの原因になる事もあります。

 例えば、悪質な詐欺に騙されてしまう、といったケースも、残念ながら後を絶ちません」

 担任教師はそう言って、黒板に「詐欺」という文字を書き出した。

 多樹は、その文字をじっと見つめる。

(詐欺……。ウィザードがやってる事も、ある意味ではそうだよね)

 社会に不満を持つ人々を唆し、ダークヴァイスという甘い言葉で犯罪に走らせる。

 タイガは彼らを「用済み」と切り捨てた。

 それは、まるで巧妙な詐欺師のようではないか、と多樹は思った。

 

「……多樹、聞いてる?」

 隣の席から、小さな声が聞こえてきた。

 北斗が、退屈そうに肘をついて多樹を覗き込んでいる。

「うん、聞いてるよ。どうしたの?」

「いや、なんか多樹がすげぇ真剣な顔してたからさ。

 オレ、こういう話、難しくて眠くなっちまうんだよな」

 北斗はそう言って、こっそりノートを多樹に見せた。

 彼のノートには、先生の話ではなく、力強く翼を広げるヴォレモンの落書きが描かれていた。

 多樹は思わず笑みをこぼし、小さく首を横に振った。

 

「先生、質問です!」

「どうしたね、星野君」

 北斗が突然、勢いよく手を挙げた。

 教師が答えると、北斗は立ち上がって言った。

「詐欺って、どうしてなくならないんですか? 悪い事だって、みんな知ってるのに!」

 北斗の素朴な問いに、先生は困ったように微笑んだ。

「それは……非常に難しい質問だ。

 人間には、他人を信じたいという気持ちがある一方で、

 自分の欲望を満たしたいという気持ちもある。

 その二つの心の隙間につけ込んで、詐欺は起こるのだよ」

 先生の言葉に、多樹はハッとした。

 まさに、ウィザードがやっていることそのものだ。

 ウィザードは、人間の欲望という「隙間」につけ込んでいる。

 

 その時、チャイムが鳴り響いた。

 授業の終わりを告げる音だ。

 多樹はノートを閉じ、教科書をカバンにしまい始めた。

「なぁ、多樹。今日の授業、なんか難しかったよな」

「うん、そうだね……。でも、大事なことだと思うよ」

 多樹はカバンを背負いながら、北斗に言った。

「だって、人間の心にだって、デジモンみたいな危険な力があるって事だもん」

「え?」

「ううん、なんでもない」

 ウィザードの事件をきっかけに、多樹は人間の心というに少しずつ触れ始めていた。

 

 いつものように学校で授業を終えた後、多樹と北斗は連れ立って帰路についた。

 二人で他愛もない話をしながら歩いていると、賑やかなおもちゃ屋の前を通りかかった。

 店の前には、背が高く、爽やかな笑顔を浮かべた青年が立っている。

「こんにちは。君達の名前は誰かな?」

「私は遠山多樹です」

「オレは星野北斗だ」

「僕は片山智和だよ」

 青年は二人に気づくと、優しく微笑みかけた。

 彼はおもちゃ屋でアルバイトをしている片山智和だ。

「こんにちは、智和」

「片山さん、今日は早上がりなんですか?」

「うん。もうすぐ彼女と会う約束なんだ。実は、近いうちに結婚するんだよ」

 智和は嬉しそうに多樹と北斗に告げた。

 彼の表情は、幸せに満ち溢れている。

 もうすぐ家庭を作れるのだと思うと、多樹と北斗も釣られて幸せになった。

「わあ! おめでとうございます!」

「すげぇ! 智和、やるじゃん!」

「ありがとう。二人も、いつか素敵な人を見つけてね」

 多樹と北斗は智和に心から祝福の言葉を贈った。

 智和は照れくさそうに頭を掻き、二人に礼を言った。

 

 智和と別れ、少し歩いたところで、多樹と北斗は美しい女性とすれ違った。

 すらりとした体型に、艶やかな黒髪が印象的な美女だった。

「すげぇ美人だな」

 北斗が感心したように呟く。

「うん……。あの人と、片山さんが結婚できたらいいね」

 多樹はそう呟きながら、ふと振り返った。

 すると、その美女が、智和に駆け寄っていくのが見えた。

「智和さん……」

「小百合……!」

 美女は優しく微笑むと、智和の隣にそっと寄り添った。

 智和は嬉しそうに、彼女の名前を呼んだ。

 彼女の名前は、大木小百合。

 二人は幸せそうに微笑み合い、しばらくの間、楽しそうに話していた。

 そして、智和が手に持っていた封筒を、小百合に手渡した。

「はい、これ」

「ありがとう、智和さん」

 小百合は封筒を受け取ると、智和の頬にキスをした。

 しかし、その瞬間、彼女の表情が不敵な笑みに変わった。

 小百合はくるりと背を向けると、智和に背を向けたまま、走り出した。

 

「え……? 小百合! どこに行くんだい!?」

「やあね、あなたと結婚するなんて、冗談よ」

 智和の焦った声が、多樹と北斗の耳に届く。

 小百合は智和を嘲笑うかのように言い放つと、

 智和の手を振りほどき、路地の奥へと逃げていった。

「まさか……結婚詐欺!?」

 多樹は目を丸くした。

 智和が手渡した封筒の中身は、きっと結婚資金だったのだろう。

「酷い! 許せない!」

「まーたウィザードが悪さをしてるな!?」

 多樹は怒りを露わにし、大急ぎで小百合の後を追い始めた。

 北斗も多樹に続いて、走り出した。

 

 路地裏を駆け抜け、二人は小百合を追い詰めた。

 小百合は行き止まりの壁の前で、息を切らして振り返った。

「何よ、子供が! 邪魔しないで!」

「智和を騙すなんて、最低だ!」

「あなたを逮捕するよ!」

 多樹と北斗の言葉に、小百合は顔を歪ませ、

 手に持った奇妙な装置――ダークヴァイスを取り出した。

「ああ……ウィザードは本当に素晴らしいわ。

 おかげで、男なんて簡単に騙せるようになったんだから!」

 小百合がダークヴァイスを掲げると、その場に不気味な光が満ちた。

 光の中から現れたのは、長い髪を持つ女性の姿をしたデジモン、ラプンツェモンだった。

「私が相手をしてあげましょう」

 ラプンツェモンは、小百合を庇うように前に立つ。

 こう見えても、ラプンツェモンはウィルス種である。

「またダークヴァイス……! カラムモンいくよ!」

「分かったよ、多樹!」

 多樹はデジヴァイスを掲げ、カラムモンを呼び出す。

「オレだって負けないぜ! ヴォレモン!」

 北斗もデジヴァイスを掲げ、ヴォレモンを呼び出した。

 カラムモンとヴォレモンは、ラプンツェモンに突っ込んでいく。

 

「サンダービーム!」

「スフレ・バットル!」

 カラムモンとヴォレモンは、ラプンツェモンに先制攻撃を仕掛ける。

 しかし、ラプンツェモンは素早く体を動かし、

 二体の攻撃をかわすと、長い髪を伸ばして反撃に出た。

「ダンシングヘアー!」

 ラプンツェモンの髪は、意志を持つかのように自在に動き、

 カラムモンとヴォレモンに鞭のように襲い掛かった。

「きゃっ!」

「うわっ!」

 二体のデジモンは、髪の攻撃を受けて吹き飛ばされる。

「流石に、ラプンツェモンは手強いざんす……!」

「くっ……!」

 カラムモンとヴォレモンが苦しそうに呻く。

「わたしだって! パラライズウェイヴ!」

 カラムモンはラプンツェモンの動きを止めようとするが、

 ラプンツェモンは髪で盾を作り、それを防いだ。

「ゴールデンスラッシュ!」

 ラプンツェモンが髪の毛を突き出して攻撃する。

 カラムモンとヴォレモンは、必死にそれを避けるが、次第に追い詰められていく。

 しかし、多樹と北斗は諦めなかった。

「デジモンブースト!」

 二人の声が響くと、カラムモンとヴォレモンの体が再び光を放つ。

 パワーアップした二体のデジモンは、反撃に出た。

「サンダービーム!」

「スフレ・バットル!」

 二つの必殺技が、ラプンツェモンを直撃した。

「き、貴様ら……!」

 ラプンツェモンは苦しそうに唸り、光のデータとなって消滅した。

 小百合の手にあったダークヴァイスも、音を立てて砕け散った。

 

「やった!」

 多樹と北斗は、安堵の息を漏らす。

 そして、結婚詐欺師である小百合を逮捕するために多樹は110番通報をした。

「お前、どうしてこんな事をしたんだ!」

 北斗が小百合に問いかけると、小百合は顔を歪ませ、悔しそうに言った。

「あんな男は騙されて当然だったのよ!」

「しょうもない奴だな……」

「そうだね。やっぱり犯罪者に性別は関係ないみたいだよ」

 多樹と北斗は、どうしようもなく救いようのない女性を見て落胆した。

 ウィザードは、こうやって人々の欲望に付け込んで、ダークヴァイスを渡しているのだ。

 

 警察に小百合を引き渡した後、多樹と北斗は静かに歩き始めた。

 その時、多樹はふと、路地裏の向こう側に、見覚えのある少年が立っているのを見つけた。

「零……!」

「……!」

 零は、多樹と目が合うと、一瞬だけ表情を曇らせ、すぐにその場を立ち去った。

 

「どうして……」

 多樹は零が立ち去った方向を見つめる。

 

「もしかして、零のせい……?」

 多樹は、小百合にダークヴァイスを渡したのは零なのではないかと、疑い始めるのだった。




小説を最初から読んでいると、ウィザードの目的が何なのか分かると思います。
どうしてラプンツェモンがウィルス種なのかといいますと、
某TCGのラプンツェルモチーフのモンスターが闇属性でしたからです。

~オリジナルデジモン図鑑~
ラプンツェモン
レベル:成熟期
タイプ:パペット型
属性:ウィルス
必殺技:ダンシングヘアー、ゴールデンスラッシュ
美しい髪の毛を持った王女の姿を模したパペット型デジモン。
普段はデジタルワールドに建っている塔の上で暮らしている。
必殺技は長い髪の毛を動かして拘束する「ダンシングヘアー」と、
髪の毛を振り回して攻撃する「ゴールデンスラッシュ」。
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