昨日の個人的な出来事が妙に引っかかりましたが、それとこの話には関係ありません。
ダークヴァイスをばら撒いて街を混乱させている組織、ウィザード。
彼らは社会問題を盾に人々を唆し、犯罪者を生み出しているようだ。
その幹部の一人・タイガを倒した多樹と北斗は、今までの事を振り返っていた。
「私達が解決した事件のほとんどは、今の社会が抱えている問題に関わっているよね」
「でも、だからといって犯罪を正当化するのは絶対にダメだよ」
いくら社会が問題を抱えていても、それが原因で犯罪に走るのは本末転倒だ。
放っておけば社会は混乱するし、世界にも悪影響を与える。
そのためにも、多樹達はウィザードを阻止しなければならないと思った。
「ウィザードがやってるのはただの犯罪だ。オレは絶対に止めるからな」
「おっと北斗、『達』が抜けてるざんす」
北斗のデジヴァイスからヴォレモンが声をかける。
多樹と北斗にはパートナーデジモンがいて、決して一人で戦っていない。
たとえどんな危機が起こっても、パートナーデジモンがいれば必ず解決できる。
「……そうだよな。仲間や友達がいるもんな」
「だから、私達はウィザードには絶対に負けない。町の平和は、私達が守る」
多樹と北斗は、改めてウィザードへの敵対心を露わにするのだった。
星海小学校の教室に、担任教師の穏やかな声が響いていた。
授業は2時間目の社会で、「お金と生活」についてだ。
多樹はノートにペンを走らせながら、真剣に先生の話を聞いていた。
「このように、お金は人々の生活を豊かにしますが、同時にトラブルの原因になる事もあります。
例えば、悪質な詐欺に騙されてしまう、といったケースも、残念ながら後を絶ちません」
担任教師はそう言って、黒板に「詐欺」という文字を書き出した。
多樹は、その文字をじっと見つめる。
(詐欺……。ウィザードがやってる事も、ある意味ではそうだよね)
社会に不満を持つ人々を唆し、ダークヴァイスという甘い言葉で犯罪に走らせる。
タイガは彼らを「用済み」と切り捨てた。
それは、まるで巧妙な詐欺師のようではないか、と多樹は思った。
「……多樹、聞いてる?」
隣の席から、小さな声が聞こえてきた。
北斗が、退屈そうに肘をついて多樹を覗き込んでいる。
「うん、聞いてるよ。どうしたの?」
「いや、なんか多樹がすげぇ真剣な顔してたからさ。
オレ、こういう話、難しくて眠くなっちまうんだよな」
北斗はそう言って、こっそりノートを多樹に見せた。
彼のノートには、先生の話ではなく、力強く翼を広げるヴォレモンの落書きが描かれていた。
多樹は思わず笑みをこぼし、小さく首を横に振った。
「先生、質問です!」
「どうしたね、星野君」
北斗が突然、勢いよく手を挙げた。
教師が答えると、北斗は立ち上がって言った。
「詐欺って、どうしてなくならないんですか? 悪い事だって、みんな知ってるのに!」
北斗の素朴な問いに、先生は困ったように微笑んだ。
「それは……非常に難しい質問だ。
人間には、他人を信じたいという気持ちがある一方で、
自分の欲望を満たしたいという気持ちもある。
その二つの心の隙間につけ込んで、詐欺は起こるのだよ」
先生の言葉に、多樹はハッとした。
まさに、ウィザードがやっていることそのものだ。
ウィザードは、人間の欲望という「隙間」につけ込んでいる。
その時、チャイムが鳴り響いた。
授業の終わりを告げる音だ。
多樹はノートを閉じ、教科書をカバンにしまい始めた。
「なぁ、多樹。今日の授業、なんか難しかったよな」
「うん、そうだね……。でも、大事なことだと思うよ」
多樹はカバンを背負いながら、北斗に言った。
「だって、人間の心にだって、デジモンみたいな危険な力があるって事だもん」
「え?」
「ううん、なんでもない」
ウィザードの事件をきっかけに、多樹は人間の心というに少しずつ触れ始めていた。
いつものように学校で授業を終えた後、多樹と北斗は連れ立って帰路についた。
二人で他愛もない話をしながら歩いていると、賑やかなおもちゃ屋の前を通りかかった。
店の前には、背が高く、爽やかな笑顔を浮かべた青年が立っている。
「こんにちは。君達の名前は誰かな?」
「私は遠山多樹です」
「オレは星野北斗だ」
「僕は片山智和だよ」
青年は二人に気づくと、優しく微笑みかけた。
彼はおもちゃ屋でアルバイトをしている片山智和だ。
「こんにちは、智和」
「片山さん、今日は早上がりなんですか?」
「うん。もうすぐ彼女と会う約束なんだ。実は、近いうちに結婚するんだよ」
智和は嬉しそうに多樹と北斗に告げた。
彼の表情は、幸せに満ち溢れている。
もうすぐ家庭を作れるのだと思うと、多樹と北斗も釣られて幸せになった。
「わあ! おめでとうございます!」
「すげぇ! 智和、やるじゃん!」
「ありがとう。二人も、いつか素敵な人を見つけてね」
多樹と北斗は智和に心から祝福の言葉を贈った。
智和は照れくさそうに頭を掻き、二人に礼を言った。
智和と別れ、少し歩いたところで、多樹と北斗は美しい女性とすれ違った。
すらりとした体型に、艶やかな黒髪が印象的な美女だった。
「すげぇ美人だな」
北斗が感心したように呟く。
「うん……。あの人と、片山さんが結婚できたらいいね」
多樹はそう呟きながら、ふと振り返った。
すると、その美女が、智和に駆け寄っていくのが見えた。
「智和さん……」
「小百合……!」
美女は優しく微笑むと、智和の隣にそっと寄り添った。
智和は嬉しそうに、彼女の名前を呼んだ。
彼女の名前は、大木小百合。
二人は幸せそうに微笑み合い、しばらくの間、楽しそうに話していた。
そして、智和が手に持っていた封筒を、小百合に手渡した。
「はい、これ」
「ありがとう、智和さん」
小百合は封筒を受け取ると、智和の頬にキスをした。
しかし、その瞬間、彼女の表情が不敵な笑みに変わった。
小百合はくるりと背を向けると、智和に背を向けたまま、走り出した。
「え……? 小百合! どこに行くんだい!?」
「やあね、あなたと結婚するなんて、冗談よ」
智和の焦った声が、多樹と北斗の耳に届く。
小百合は智和を嘲笑うかのように言い放つと、
智和の手を振りほどき、路地の奥へと逃げていった。
「まさか……結婚詐欺!?」
多樹は目を丸くした。
智和が手渡した封筒の中身は、きっと結婚資金だったのだろう。
「酷い! 許せない!」
「まーたウィザードが悪さをしてるな!?」
多樹は怒りを露わにし、大急ぎで小百合の後を追い始めた。
北斗も多樹に続いて、走り出した。
路地裏を駆け抜け、二人は小百合を追い詰めた。
小百合は行き止まりの壁の前で、息を切らして振り返った。
「何よ、子供が! 邪魔しないで!」
「智和を騙すなんて、最低だ!」
「あなたを逮捕するよ!」
多樹と北斗の言葉に、小百合は顔を歪ませ、
手に持った奇妙な装置――ダークヴァイスを取り出した。
「ああ……ウィザードは本当に素晴らしいわ。
おかげで、男なんて簡単に騙せるようになったんだから!」
小百合がダークヴァイスを掲げると、その場に不気味な光が満ちた。
光の中から現れたのは、長い髪を持つ女性の姿をしたデジモン、ラプンツェモンだった。
「私が相手をしてあげましょう」
ラプンツェモンは、小百合を庇うように前に立つ。
こう見えても、ラプンツェモンはウィルス種である。
「またダークヴァイス……! カラムモンいくよ!」
「分かったよ、多樹!」
多樹はデジヴァイスを掲げ、カラムモンを呼び出す。
「オレだって負けないぜ! ヴォレモン!」
北斗もデジヴァイスを掲げ、ヴォレモンを呼び出した。
カラムモンとヴォレモンは、ラプンツェモンに突っ込んでいく。
「サンダービーム!」
「スフレ・バットル!」
カラムモンとヴォレモンは、ラプンツェモンに先制攻撃を仕掛ける。
しかし、ラプンツェモンは素早く体を動かし、
二体の攻撃をかわすと、長い髪を伸ばして反撃に出た。
「ダンシングヘアー!」
ラプンツェモンの髪は、意志を持つかのように自在に動き、
カラムモンとヴォレモンに鞭のように襲い掛かった。
「きゃっ!」
「うわっ!」
二体のデジモンは、髪の攻撃を受けて吹き飛ばされる。
「流石に、ラプンツェモンは手強いざんす……!」
「くっ……!」
カラムモンとヴォレモンが苦しそうに呻く。
「わたしだって! パラライズウェイヴ!」
カラムモンはラプンツェモンの動きを止めようとするが、
ラプンツェモンは髪で盾を作り、それを防いだ。
「ゴールデンスラッシュ!」
ラプンツェモンが髪の毛を突き出して攻撃する。
カラムモンとヴォレモンは、必死にそれを避けるが、次第に追い詰められていく。
しかし、多樹と北斗は諦めなかった。
「デジモンブースト!」
二人の声が響くと、カラムモンとヴォレモンの体が再び光を放つ。
パワーアップした二体のデジモンは、反撃に出た。
「サンダービーム!」
「スフレ・バットル!」
二つの必殺技が、ラプンツェモンを直撃した。
「き、貴様ら……!」
ラプンツェモンは苦しそうに唸り、光のデータとなって消滅した。
小百合の手にあったダークヴァイスも、音を立てて砕け散った。
「やった!」
多樹と北斗は、安堵の息を漏らす。
そして、結婚詐欺師である小百合を逮捕するために多樹は110番通報をした。
「お前、どうしてこんな事をしたんだ!」
北斗が小百合に問いかけると、小百合は顔を歪ませ、悔しそうに言った。
「あんな男は騙されて当然だったのよ!」
「しょうもない奴だな……」
「そうだね。やっぱり犯罪者に性別は関係ないみたいだよ」
多樹と北斗は、どうしようもなく救いようのない女性を見て落胆した。
ウィザードは、こうやって人々の欲望に付け込んで、ダークヴァイスを渡しているのだ。
警察に小百合を引き渡した後、多樹と北斗は静かに歩き始めた。
その時、多樹はふと、路地裏の向こう側に、見覚えのある少年が立っているのを見つけた。
「零……!」
「……!」
零は、多樹と目が合うと、一瞬だけ表情を曇らせ、すぐにその場を立ち去った。
「どうして……」
多樹は零が立ち去った方向を見つめる。
「もしかして、零のせい……?」
多樹は、小百合にダークヴァイスを渡したのは零なのではないかと、疑い始めるのだった。
小説を最初から読んでいると、ウィザードの目的が何なのか分かると思います。
どうしてラプンツェモンがウィルス種なのかといいますと、
某TCGのラプンツェルモチーフのモンスターが闇属性でしたからです。
~オリジナルデジモン図鑑~
ラプンツェモン
レベル:成熟期
タイプ:パペット型
属性:ウィルス
必殺技:ダンシングヘアー、ゴールデンスラッシュ
美しい髪の毛を持った王女の姿を模したパペット型デジモン。
普段はデジタルワールドに建っている塔の上で暮らしている。
必殺技は長い髪の毛を動かして拘束する「ダンシングヘアー」と、
髪の毛を振り回して攻撃する「ゴールデンスラッシュ」。