今回はライバルキャラ、零を掘り下げたいと思います。
月曜日、また学校が始まる。
「……何か、零が心配だな」
「北斗……」
多樹は、ウィザードを裏切ったという零を心配する北斗が気がかりだった。
確かに、同じデジヴァイスを持っている人と多樹は戦いたくなかったが、
ウィザードは零を許さないかもしれない。
もしも、零がウィザードに処分されたら……と思うと、多樹と北斗は身震いした。
「多樹はどう思うんだ?」
「私も心配だよ。違うクラスだからよく分からないけど……」
零のクラスは多樹と北斗の隣、1組だ。
人付き合いが苦手な多樹は、学校では零とほとんど話をしていないので、
彼の事が分からないのは当然だ。
しかし、ウィザードに協力しているらしいので、
デジモンが関わる事件を解決するうちに、彼との距離が縮まった気がした。
多樹はできれば零と協力したかったが、まだ彼の事がよく分からないので保留した。
「……零って、本当に悪い人なのかな」
小学生がウィザードに協力するのは、とてもではないが多樹は想像できない。
だったら、何かしらの理由があるはずだと多樹は思った。
しかし、多樹はとてもではないが、零と話す勇気はまだ持っていなかった。
多樹が零を心配する中、星海小学校でいつものように授業が始まる。
1時間目の授業が始まった。
今日の算数は、小学6年生が解くには難しい、複雑な文章題だ。
担任教師は黒板に問題文を書きながら、生徒達に考えるように促す。
「ふう……。なんで算数ってこんなにややこしいんだよ……」
北斗は、問題文を見ただけでげんなりしていた。
得意ではない算数に、早くも集中力が途切れそうになっている。
早く体育の時間にならないかな、と心の中で呟いた。
一方、多樹は真剣な顔でノートに向かっていた。
多樹は目で問題文を追っていたが、
その心の中は、今日の朝からずっと考えている零の事でいっぱいだった。
(零は、どうしてあんな事をしたんだろう……。何か理由があるはずだよね)
多樹は、昨日の夜からずっと、その事ばかり考えていた。
デジヴァイスを持っているなら、ウィザードに騙されているのかもしれない。
零の表情がどこか悲しそうだったのも、伺える。
担任教師がチョークを置き、生徒達の方を振り向く。
「では遠山さん、どうですか?」
多樹は、担任教師の言葉にハッと我に返った。
彼女は、問題を解くためのヒントが、まるで零の心を解き明かすための鍵のように思えた。
「はい。こういう風に答えて、こうなります」
多樹が黒板に答えと解き方を書くと、担任教師は満足そうに頷いた。
北斗は、多樹の答えに驚き、呆気に取られていた。
多樹は担任教師の期待に応えられた事に少し安堵し、席に戻って再びノートに視線を落とした。
答えはまだ見つからない。
しかし、ウィザードの謎も、零の心も、いつか必ず解き明かせると信じていた。
こうして1時間目の算数の授業が終わり、2時間目は体育の授業だ。
今日はクラス対抗バスケットボールらしい。
体育館に、生徒達の熱気とざわめきが満ちていた。
6年1組のメンバーは、赤井沙織、高橋めぐみ、田中陽一、富士崎零、吉村哲志。
対する6年2組のメンバーは、一ノ瀬明日香、伊藤拓郎、遠山多樹、馬場正弘、星野北斗だ。
「みんな、頑張るぞー!」
北斗がチームを鼓舞すると、多樹は小さく頷いた。
彼の元気な声に、多樹も明日香も、自然と顔がほころぶ。
その声に応えるように、今度は6年1組の赤井沙織が声を上げた。
「1組のみんな、やるわよ! 2組なんかに、絶対に負けないんだから!」
沙織の自信に満ちた声に、1組の生徒も拳を握り、闘志を燃やす。
零は口元を僅かに引き締めるだけで、何も言わなかったが、
その眼差しは静かな闘志を宿していた。
しばらくすると、審判のホイッスルが鳴り響き、試合が始まった。
試合開始直後から、両チームは激しい攻防を繰り広げた。
北斗は持ち前のスピードとドリブルで相手ディフェンスを翻弄し、ゴール下へ切り込む。
しかし、零の動きは素早く、北斗のシュートコースを巧みに塞いでくる。
零は無駄な動きがなく、常に冷静に相手の動きを読んでいた。
多樹は身長の高さを活かしてディフェンスに徹し、相手のパスコースを塞いだ。
(私は運動は得意じゃないけど、それでも足手まといにはなりたくない。デジモンと同じで)
試合は膠着状態に陥った。
両チームとも、相手の固いディフェンスを崩す事ができず、得点が入らない。
0-0のまま、時間だけが刻々と過ぎていく。
「くっ……零、やっぱすげぇな」
「ふっ、試合では決して手を抜かないからな」
北斗は悔しそうに零を見つめた。
零はシュートを打つわけでもなく、ただ北斗の動きを封じる事に集中しているようだった。
その冷静さが、北斗の焦りを誘う。
残り時間は3分になった。
多樹は、北斗の焦りを察した。
(北斗、焦ってる……。このままじゃ、ダメだ)
多樹は声をかけようとしたが、勇気が出ない。
しかし、このままでは試合に負けてしまう。
多樹は意を決して、大きな声で北斗に指示を出した。
「北斗!」
多樹の声に、北斗は驚いたように多樹を見た。
しかし、多樹の目は真剣だった。
北斗は多樹の言葉を信じ、パスを出した。
多樹はボールを受け取ると、すぐに伊藤にパスを出す。
伊藤はそれを一ノ瀬にパスし、パスを回しながら相手のディフェンスを崩していく。
多樹の声が、チームを一つにしたのだ。
(多樹……。デジモンでの戦いだけじゃなく、こういう場面でも冷静なんだな)
零は、多樹の指示の正確さに舌を巻いていた。
残り時間は1分になった。
北斗がドリブルで切り込み、シュートを打った。
しかし、零がブロックに入り、シュートは外れた。
リバウンドを取ろうと、両チームの選手が入り乱れる。
残り時間はついに10秒になった。
北斗がリバウンドを取り、ドリブルでゴール下まで運んだ。
しかし、零が再び立ちはだかり、北斗はシュートを打つ事ができない。
残り時間5秒。
北斗は、一か八か、スリーポイントラインの外からシュートを打った。
「……北斗、まさか……!」
北斗のシュートは、山なりの軌道を描いて、ゴールへと向かっていく。
残り時間1秒。
ボールは、リングに当たる事なく、ゴールへと吸い込まれた。
「やったー!」
北斗がガッツポーズをする。
多樹達も、北斗に駆け寄って喜びを分かち合った。
こうして、クラス対抗バスケットボールは、3-0で6年2組が勝利した。
試合が終わった後、多樹は意を決して零に話しかけた。
「あの……零、昨日の事なんだけど……」
多樹の言葉に、零は黙って多樹を見つめた。
「どうして、ウィザードに協力してるの?」
多樹は勇気を振り絞って尋ねた。
零は、少し考えてから、静かに語り始めた。
「僕の両親は、ウィザードにお金を騙し取られたんだ。
ウィザードの言葉を信じて、大金をつぎ込んでしまって……。でも、何も手に入らなかった」
零の声は震えていた。
多樹は零の過去を聞いて、自分も身体を震わせる。
「両親は絶望して、自暴自棄になった。
僕は、そんな両親を助けるために、ウィザードに協力するしかなかったんだ」
零は、ウィザードから「協力すれば、騙し取られたお金を取り戻してやる」と言われたという。
しかし、ウィザードは約束を守るどころか、零を道具のように使い、悪事に加担させていた。
零は、ウィザードのやり方に反発し、自分の力で両親を助けようと決意したのだ。
多樹は、零の悲しい事情を知り、言葉を失った。
零の目は、深い悲しみを湛えていた。
(……あんな事をしてたけど、零も、辛い思いをしてたんだ……)
多樹は、零が完全な敵ではないと信じ始めた。
「……零、話してくれてありがとう」
多樹は、そう言って零に微笑みかけた。
零は、多樹の優しさに少し驚いたようだった。
「……別に。僕の勝手だから」
零はそう言って、多樹から目を逸らした。
しかし、彼の表情は、どこか安堵しているように見えた。
「零は悪い人じゃない。この授業のおかげで、分かった」
零の過去はTOAのアニスを参考にしました。
こうでもしないと彼の行動に説得力がありませんからね。