デジモンと組織は相性が悪いそうですが、敵なら問題はありませんよね?
ミシルもまた社会問題を元に作っていますよ。
ミシルとウィザーモンとの戦いが始まった。
「先手必勝ざんす! プリューム・タンペット!」
ヴォレモンは翼から羽根の矢を放ち、ウィザーモンに先制攻撃する。
羽根の矢はウィザーモンの身体に突き刺さり、かなりのダメージを与えた。
「ダムダムアッパー!」
「サンダービーム!」
ガルゴモンがアッパーでウィザーモンを浮かせた後、カラムモンが電撃を放って痺れさせた。
ウィザーモンは精神を集中すると、雷雲を呼び出した。
「サンダークラウド!」
「ぐあぁぁぁっ!」
「うわぁぁぁっ!」
ヴォレモンとガルゴモンはウィザーモンの雷撃をまともに食らった。
しかし、ヴォレモンは属性相性で、ガルゴモンは根性でウィザーモンの攻撃に耐えた。
「ミシル様の敵は私の敵。よって、倒す!」
そう言って、ウィザーモンは距離を取って呪文を唱えた。
「マジックゲーム!」
「きゃぁぁぁぁっ!」
ウィザーモンは大量のカードを飛ばしてカラムモンを攻撃する。
攻撃を受けたカラムモンの身体にたくさんの傷がつく。
「大丈夫、カラムモン!?」
「うん……でも、あいつの攻撃は強力だよ。気を付けなきゃ!」
ウィザーモンの魔法のような攻撃は、タイガのソーサリモンに匹敵する強さだ。
しかし、ここで屈するわけにはいかなかった。
ウィザードは社会を混乱させる敵であり、倒さなければならないのだ。
「パラライズウェイヴ!」
「スフレ・バットル!」
「ガトリングアーム!」
カラムモンは電撃を放ってウィザーモンを痺れさせる。
続けて、ヴォレモンは痺れたウィザーモンを吹き飛ばし、攻撃が届かないようにする。
その後、ガルゴモンが距離を取って、両腕のバルカンから弾丸を放った。
「愚かな。いくら距離を取っても、この攻撃は避けられん! テラーイリュージョン!」
「「うっ……」」
「うぐっ……」
しかし、ウィザーモンは、まだ倒れる気配がなかった。
ウィザーモンは手から怨霊のような幻影を発する。
幻影が発するオーラは、カラムモン達のデータを少しずつ削っていった。
「ねぇ……」
「どうしたの、ミシル」
戦闘中、ミシルは唐突に自らの過去を語り始めた。
その声には、戦闘前の威嚇とは異なる、深い感情が滲んでいた。
「アタシは小さい頃から、クラスメイトの男の子がすっごく大好きだったのヨ」
多樹は、その意外な告白に、
戦闘の緊張感を一瞬忘れてしまったかのように、戸惑いながらも尋ねた。
「……そうなの?」
ミシルは、遠い目をして過去を回想するような仕草を見せた。
そのがっしりとした体躯と野太い声が、
真っ赤なドレスという装いと強烈なギャップを生み出していた。
「でも、アタシは男だっタ。
女の格好をしても、女みたいに喋っても、声も野太くて、身体もがっしりしてて……
男っていう事実は変えられなかっタ」
ミシルの言葉は、自己嫌悪と諦めが入り混じった複雑な感情を露わにしていた。
しかし、零はミシルの個人的な話には微塵も興味を示さず、冷たく言い放った。
「それがどうした。お前の過去など聞きたくもない」
「……アタシの話はまだ終わってないわヨ」
零の辛辣な言葉にも構わず、ミシルはウィザードに入った理由を語り続けた。
「男だから男の子に恋する事なんてできない……。
だからウィザードに入れば、本当の女になれるだろうと思ったノ。
けれど、アタシがウィザードに入った時、その男の子は別の女の子と結婚しちゃったノ。
アタシがいながら裏切るなんて、許せないって怒ったワ」
ミシルの瞳には、過去の裏切りに対する激しい怒りと、満たされなかった欲望が燃えていた。
しかし、多樹達から見れば、それは逆恨みでしかなかった。
「だからアタシは、同じ悩みを持ってる男が楽しく暮らせる世界にしたいのヨ!」
弱っている人から見れば、ミシルの言葉は救いの言葉なのだろう。
しかし、ウィザードに所属しているので、当然ながら多樹達は見過ごせなかった。
ミシルの動機が、あまりにも個人的で、身勝手なものである事に、北斗は怒りを覚えた。
ランサムウェアやフレアリザモンといった大規模な悪事が、
幹部の逆恨みから来ている事に、北斗は我慢できなかった。
「そんなどうでもいい事で……みんなを困らせてるのかよ!」
「生意気な坊やネ! お仕置きするわヨ!」
ミシルの表情は一変し、激しい怒りが顔を覆った。
自らの過去と動機を否定された事で、ミシルは最早冷静ではいられなくなった。
「冷静にいけ、ガルゴモン!」
「もちろんだよ! ガトリングアーム!」
ガルゴモンは零の指示通り、両腕のバルカンでウィザーモンを蜂の巣にする。
「サンダービーム!」
カラムモンが電撃のビームを放ってウィザーモンの身体を貫く。
連続で攻撃を食らったウィザーモンは、もうすぐで倒れそうになるほど体力がなくなった。
「これで終わりだぜ! ウィザーモン!」
「プリューム・タンペット!!」
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして、ヴォレモンの翼から大量の羽根が放たれ、全てウィザーモンに突き刺さる。
ウィザーモンは、カラムモン、ヴォレモン、ガルゴモンの連携攻撃により、
ついにデータの光となって消滅した。
パートナーデジモンを失ったミシルは、その場に膝から崩れ落ちた。
真っ赤なドレスは、地下街の冷たい床に広がり、
その派手さがかえって敗北の虚しさを強調していた。
「アタシは……女になりたかった……だけなのに……」
ミシルは、嗚咽交じりにその痛切な願いを口にした。
その声は、最早威嚇でも挑発でもなく、ただの嘆きだった。
多樹はデジヴァイスを静かにしまい、ミシルに近づいた。
「もう、あなたの負けだよ。大人しく警察で裁かれて!」
多樹の言葉に、ミシルは顔を上げ、憎悪と絶望の入り混じった目で多樹を睨みつけた。
「アタシを逮捕しても何の得にもならないわヨ。
現実世界とデジタルワールドを繋げたのは、ユスティアモンのせいなんだかラ」
その言葉は、多樹達の心を深く抉った。
ユスティアモンとは、デジモン研究所で調べていた、星と正義の女神の姿をしたデジモンだ。
「ユスティアモンの……せい!?」
多樹は信じられなかった。
自分達が信じてきた、平和と正義の象徴であるデジモンが、
この一連の混乱の元凶だというミシルの主張は、あまりにも唐突で受け入れがたいものだった。
「でも、お前は絶対に許さないって言っただろ? 今から110番通報するから、覚悟しな!」
「ええ……いいわヨ」
北斗は怒りに任せて携帯電話を取り出し、通報しようとする。
ミシルは最早抵抗する気力もなく、全てを諦めたかのように、静かに答えた。
そして、駆けつけた警察官達によって、ミシルは連行されていった。
その場には、ミシルの残した意味深な捨て台詞だけが、重く残った。
ウィザードの幹部を倒したにもかかわらず、多樹達の心は晴れなかった。
「あの事件がユスティアモンのせいだなんて、信じられない。ミシルは嘘をついてる!」
「うーん……」
多樹は、ミシルが自分達の動揺を誘うために嘘をついたのだと、そう信じたかった。
しかし、北斗は顎に手を当てて唸っていた。
「いや……どうも、嘘にしては全然隠してないと思う。
ていうか、ミシルの目的と、ユスティアモンの話が、全然繋がらねぇ……」
北斗は、ミシルが自分の過去をあそこまで感情的に語った後、嘘をつくとは思えなかった。
ミシルの行動原理は自己の欲望にあり、ユスティアモンの話は、
ウィザード全体の目的に関わる、もっと大きな真実のように聞こえたのだ。
「明日も学校が休みだろ? その日に、ゆっくり話せばいいじゃないか」
零が冷静に間を取り持った。
彼は、多樹がユスティアモンを信じる心を理解していた。
「そ、そうだね。正義の女神様がこんな悪い事をするはずがないよね」
多樹は、不安を振り払うかのように、自らに言い聞かせた。
しかし、多樹の心の中には、ウィザードの真の目的と、
ユスティアモンの関与という、大きな闇が芽生え始めていた。
ウィザードの幹部に勝利した多樹達だったが、何故か一抹の不安を残していた。
事件がユスティアモンのせいとは、一体どういう事だろうか。
多樹は、どうしてもそれを調べたかったが、今はもう、そんな時間ではなかった。
これにて2025年のデジモンアストリアはおしまいです。
来年を楽しみに待っていてください!