デジモンアストリア   作:アヤ・ノア

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ウィザード第2の幹部との戦いです。
デジモンと組織は相性が悪いそうですが、敵なら問題はありませんよね?
ミシルもまた社会問題を元に作っていますよ。


第26話 炎の魔術師との対決

 ミシルとウィザーモンとの戦いが始まった。

 

「先手必勝ざんす! プリューム・タンペット!」

 

 ヴォレモンは翼から羽根の矢を放ち、ウィザーモンに先制攻撃する。

 羽根の矢はウィザーモンの身体に突き刺さり、かなりのダメージを与えた。

 

「ダムダムアッパー!」

「サンダービーム!」

 

 ガルゴモンがアッパーでウィザーモンを浮かせた後、カラムモンが電撃を放って痺れさせた。

 ウィザーモンは精神を集中すると、雷雲を呼び出した。

 

「サンダークラウド!」

「ぐあぁぁぁっ!」

「うわぁぁぁっ!」

 

 ヴォレモンとガルゴモンはウィザーモンの雷撃をまともに食らった。

 しかし、ヴォレモンは属性相性で、ガルゴモンは根性でウィザーモンの攻撃に耐えた。

 

「ミシル様の敵は私の敵。よって、倒す!」

 そう言って、ウィザーモンは距離を取って呪文を唱えた。

 

「マジックゲーム!」

「きゃぁぁぁぁっ!」

 

 ウィザーモンは大量のカードを飛ばしてカラムモンを攻撃する。

 攻撃を受けたカラムモンの身体にたくさんの傷がつく。

 

「大丈夫、カラムモン!?」

「うん……でも、あいつの攻撃は強力だよ。気を付けなきゃ!」

 

 ウィザーモンの魔法のような攻撃は、タイガのソーサリモンに匹敵する強さだ。

 しかし、ここで屈するわけにはいかなかった。

 ウィザードは社会を混乱させる敵であり、倒さなければならないのだ。

 

「パラライズウェイヴ!」

「スフレ・バットル!」

「ガトリングアーム!」

 

 カラムモンは電撃を放ってウィザーモンを痺れさせる。

 続けて、ヴォレモンは痺れたウィザーモンを吹き飛ばし、攻撃が届かないようにする。

 その後、ガルゴモンが距離を取って、両腕のバルカンから弾丸を放った。

 

「愚かな。いくら距離を取っても、この攻撃は避けられん! テラーイリュージョン!」

「「うっ……」」

「うぐっ……」

 しかし、ウィザーモンは、まだ倒れる気配がなかった。

 ウィザーモンは手から怨霊のような幻影を発する。

 幻影が発するオーラは、カラムモン達のデータを少しずつ削っていった。

 

「ねぇ……」

「どうしたの、ミシル」

 戦闘中、ミシルは唐突に自らの過去を語り始めた。

 その声には、戦闘前の威嚇とは異なる、深い感情が滲んでいた。

 

「アタシは小さい頃から、クラスメイトの男の子がすっごく大好きだったのヨ」

 多樹は、その意外な告白に、

 戦闘の緊張感を一瞬忘れてしまったかのように、戸惑いながらも尋ねた。

 

「……そうなの?」

 ミシルは、遠い目をして過去を回想するような仕草を見せた。

 そのがっしりとした体躯と野太い声が、

 真っ赤なドレスという装いと強烈なギャップを生み出していた。

 

「でも、アタシは男だっタ。

 女の格好をしても、女みたいに喋っても、声も野太くて、身体もがっしりしてて……

 男っていう事実は変えられなかっタ」

 ミシルの言葉は、自己嫌悪と諦めが入り混じった複雑な感情を露わにしていた。

 しかし、零はミシルの個人的な話には微塵も興味を示さず、冷たく言い放った。

 

「それがどうした。お前の過去など聞きたくもない」

「……アタシの話はまだ終わってないわヨ」

 零の辛辣な言葉にも構わず、ミシルはウィザードに入った理由を語り続けた。

 

「男だから男の子に恋する事なんてできない……。

 だからウィザードに入れば、本当の女になれるだろうと思ったノ。

 けれど、アタシがウィザードに入った時、その男の子は別の女の子と結婚しちゃったノ。

 アタシがいながら裏切るなんて、許せないって怒ったワ」

 

 ミシルの瞳には、過去の裏切りに対する激しい怒りと、満たされなかった欲望が燃えていた。

 しかし、多樹達から見れば、それは逆恨みでしかなかった。

 

「だからアタシは、同じ悩みを持ってる男が楽しく暮らせる世界にしたいのヨ!」

 

 弱っている人から見れば、ミシルの言葉は救いの言葉なのだろう。

 しかし、ウィザードに所属しているので、当然ながら多樹達は見過ごせなかった。

 ミシルの動機が、あまりにも個人的で、身勝手なものである事に、北斗は怒りを覚えた。

 ランサムウェアやフレアリザモンといった大規模な悪事が、

 幹部の逆恨みから来ている事に、北斗は我慢できなかった。

 

「そんなどうでもいい事で……みんなを困らせてるのかよ!」

「生意気な坊やネ! お仕置きするわヨ!」

 ミシルの表情は一変し、激しい怒りが顔を覆った。

 自らの過去と動機を否定された事で、ミシルは最早冷静ではいられなくなった。

 

「冷静にいけ、ガルゴモン!」

「もちろんだよ! ガトリングアーム!」

 ガルゴモンは零の指示通り、両腕のバルカンでウィザーモンを蜂の巣にする。

 

「サンダービーム!」

 カラムモンが電撃のビームを放ってウィザーモンの身体を貫く。

 連続で攻撃を食らったウィザーモンは、もうすぐで倒れそうになるほど体力がなくなった。

 

「これで終わりだぜ! ウィザーモン!」

「プリューム・タンペット!!」

ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 そして、ヴォレモンの翼から大量の羽根が放たれ、全てウィザーモンに突き刺さる。

 ウィザーモンは、カラムモン、ヴォレモン、ガルゴモンの連携攻撃により、

 ついにデータの光となって消滅した。

 パートナーデジモンを失ったミシルは、その場に膝から崩れ落ちた。

 真っ赤なドレスは、地下街の冷たい床に広がり、

 その派手さがかえって敗北の虚しさを強調していた。

 

「アタシは……女になりたかった……だけなのに……」

 ミシルは、嗚咽交じりにその痛切な願いを口にした。

 その声は、最早威嚇でも挑発でもなく、ただの嘆きだった。

 多樹はデジヴァイスを静かにしまい、ミシルに近づいた。

 

「もう、あなたの負けだよ。大人しく警察で裁かれて!」

 多樹の言葉に、ミシルは顔を上げ、憎悪と絶望の入り混じった目で多樹を睨みつけた。

 

「アタシを逮捕しても何の得にもならないわヨ。

 現実世界とデジタルワールドを繋げたのは、ユスティアモンのせいなんだかラ」

 その言葉は、多樹達の心を深く抉った。

 ユスティアモンとは、デジモン研究所で調べていた、星と正義の女神の姿をしたデジモンだ。

 

「ユスティアモンの……せい!?」

 

 多樹は信じられなかった。

 自分達が信じてきた、平和と正義の象徴であるデジモンが、

 この一連の混乱の元凶だというミシルの主張は、あまりにも唐突で受け入れがたいものだった。

 

「でも、お前は絶対に許さないって言っただろ? 今から110番通報するから、覚悟しな!」

「ええ……いいわヨ」

 

 北斗は怒りに任せて携帯電話を取り出し、通報しようとする。

 ミシルは最早抵抗する気力もなく、全てを諦めたかのように、静かに答えた。

 そして、駆けつけた警察官達によって、ミシルは連行されていった。

 その場には、ミシルの残した意味深な捨て台詞だけが、重く残った。

 ウィザードの幹部を倒したにもかかわらず、多樹達の心は晴れなかった。

 

「あの事件がユスティアモンのせいだなんて、信じられない。ミシルは嘘をついてる!」

「うーん……」

 多樹は、ミシルが自分達の動揺を誘うために嘘をついたのだと、そう信じたかった。

 しかし、北斗は顎に手を当てて唸っていた。

 

「いや……どうも、嘘にしては全然隠してないと思う。

 ていうか、ミシルの目的と、ユスティアモンの話が、全然繋がらねぇ……」

 北斗は、ミシルが自分の過去をあそこまで感情的に語った後、嘘をつくとは思えなかった。

 ミシルの行動原理は自己の欲望にあり、ユスティアモンの話は、

 ウィザード全体の目的に関わる、もっと大きな真実のように聞こえたのだ。

 

「明日も学校が休みだろ? その日に、ゆっくり話せばいいじゃないか」

 零が冷静に間を取り持った。

 彼は、多樹がユスティアモンを信じる心を理解していた。

 

「そ、そうだね。正義の女神様がこんな悪い事をするはずがないよね」

 多樹は、不安を振り払うかのように、自らに言い聞かせた。

 しかし、多樹の心の中には、ウィザードの真の目的と、

 ユスティアモンの関与という、大きな闇が芽生え始めていた。

 

 ウィザードの幹部に勝利した多樹達だったが、何故か一抹の不安を残していた。

 事件がユスティアモンのせいとは、一体どういう事だろうか。

 多樹は、どうしてもそれを調べたかったが、今はもう、そんな時間ではなかった。




これにて2025年のデジモンアストリアはおしまいです。
来年を楽しみに待っていてください!
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