女の子が主人公という事で、女の子の視点に立って考えてみました。
ご都合主義的なところもありますが、ご了承ください。
(空が震えるなんてあり得ないよね。私の見間違いだよね)
多樹は何とか考えを振り切って、授業に集中した。
空の揺らぎは収まっていたが、
先程、多樹に見えた虹色の光の残像が、瞼の裏に焼き付いているようだった。
隣の席の北斗は、前の席の男子生徒と楽しそうに話し込んでいて、それを先生が注意している。
北斗の明るい性格は、多樹とは正反対だ。
「……なんか、変な感じ」
多樹はそう、小さく呟いた。
今日起こった事は、どれもこれも非日常的で、まるで夢の中にいるみたいだった。
多樹はその事が、全く信じられない様子だった。
その日の放課後、異変はついに具体的な形で現れた。
多樹が北斗や明日香達と下校していると、急に空が鉛色に曇り始めた。
風もなく、不自然なほどの静けさが街を包む。
そして、まるで空間が歪むかのように、空中に亀裂が走った。
「な、何あれ……!?」
明日香が恐怖に声を震わせる。
亀裂はみるみるうちに広がり、その向こうには、見た事もない奇妙な風景が広がっていた。
それは、無数のデータが光の粒となって飛び交う、幻想的な世界――デジタルワールドだった。
「ひゃああああああっ!」
誰かの悲鳴が響き渡る。
亀裂から、奇妙な姿の生物達が次々と飛び出してきたのだ。
それは、多樹達がテレビやゲームでしか見た事のない生き物、デジモンだった。
デジモン達はパニックに陥った人間達を追いかけ、街を一瞬にして混沌が包んだ。
「なんでデジモンがいるの……!?」
多樹は呆然と立ち尽くした。
デジモンは、架空の存在だと思っていたのに。
その時、多樹の目の前に、電撃を纏った小さな精霊のようなデジモンが現れた。
透き通るような体には雷光が走り、くるくると宙を舞う。
「やっほー! わたし、デジタルモンスターのスプライモンだよ!」
スプライモンは多樹の周りを飛び回りながら、甲高い声で喋り続ける。
多樹はあまりの衝撃的な出来事に、言葉を失っていた。
「わあ! 空からなんか、変なのがいっぱい出てきた!」
北斗の隣では、空から光が漏れ出し、その光の中から、
翼を持つ鳥のようなデジモン――フルーモンが飛び出した。
そのデジモンは、まるで北斗に挨拶するかのように、彼の周りを飛び回った。
「え、何これ? お前、誰だよ!?」
「ミーはフルーモンざんす。ユーのパートナーデジモンざんす」
北斗は驚きながらも、フルーモンに興味津々といった様子で手を伸ばした。
しかし、フルーモンに触る事はできなかった。
「……」
多樹の目の前に、再びスプライモンが止まる。
「ねえねえ! デジモンが嫌いなの? ねぇ、なんで喋らないの?」
スプライモンがじっと多樹を見つめる。
その瞳は、純粋な好奇心に満ちていた。
多樹は、お転婆でよく喋るスプライモンに気圧されつつも、何故か憎めない気持ちになった。
「あなた……デジモンなの?」
多樹がようやく口を開くと、スプライモンは嬉しそうに多樹の肩にちょこんと降り立った。
「そうだよ! わたし、きみのパートナーデジモンになるんだよ! よろしくね!」
「……うん、よろしく」
スプライモンの言葉と同時に、多樹の胸元が淡く光り始めた。
そして、掌には、青い見慣れない奇妙な機械が現れた。
それは、かつて人間とデジモンを繋いでいた、デジヴァイスだった。
「デジモンって、本当にいるんだな……すげー!」
同じように、北斗の手にも赤いデジヴァイスが現れ、
フルーモンが楽しそうにその周りを飛び回っていた。
北斗の目には、驚きと同時に純粋な好奇心が輝いていた。
彼が手に握っている赤いデジヴァイスもまた、淡い光を放っている。
フルーモンは微笑んでおり、北斗のパートナーデジモンになれた事を喜んでいる。
街では、パニックに陥った人々が逃げ惑い、混乱は増すばかりだ。
空から現れた凶暴そうなデジモン達が、次々と建物や車を破壊していく。
「どうしよう、多樹……!」
明日香が多樹の腕を掴み、震える声で訴える。
多樹もまた、目の前の光景に体が竦んで動けなかった。
しかし、スプライモンは多樹の肩の上で、いつものお転婆な調子で言った。
「ぼーっとしてる場合じゃないよ! あいつら、街を壊してる!」
スプライモンの言葉に、多樹はハッとする。
デジモンは、ただの空想の産物ではなかった。
今、目の前で、現実の脅威となっているのだ。
「何とかするざんす!」
フルーモンもまた、北斗の頭の上で羽ばたきながら、街を破壊するデジモン達を指差した。
「でも、どうやるんだ? このデジヴァイスも使った事がないし……」
北斗は戸惑うが、その顔には諦めの色はない。
デジモンと出会ったばかりの少年少女。
彼らの手には、まだその使い方も分からないデジヴァイスが握られている。
「簡単な事ざんす。ミー達があの悪いデジモンをやっつけるざんす!」
「お願い、わたしに協力して。わたし、戦えるから!」
「「……」」
多樹と北斗は信じられない様子だった。
しかし、このまま放っておけば、街はあっという間に廃墟になってしまう。
二人は意を決して、デジヴァイスを握って行動した。
「お願い、スプライモン! 街を守って!」
「フルーモン! あいつらをやっつけろ!」
多樹と北斗は、それぞれのパートナーデジモンに指示を出した。
スプライモンとフルーモンは、鬼人型デジモン、ゴブリモンの群れと戦った。
「いっくよー!」
スプライモンは多樹の言葉に応え、全身に纏う電撃がさらに強くスパークする。
そして、ゴブリモンの群れへと一直線に飛び込んでいく。
その小さな体からは想像もできないほどのスピードだ。
「ライトニングボルト!」
スプライモンが必殺技の名前を叫ぶ。
すると、スプライモンの周囲に強烈な電撃が奔った。
バチバチという音と共に、数体のゴブリモンが黒焦げになって倒れていく。
しかし、ゴブリモンの数は多い。
怯む事なく、残りのゴブリモンが棍棒を振り上げ、スプライモンに襲い掛かってきた。
一方、北斗の指示を受けたフルーモンは、ひらりと軽やかに空へと舞い上がった。
「フッフッフ、数だけでざんすね!」
フルーモンは余裕の表情で言い、両手を広げた。
「ミーの華麗なる風の舞を見せるざんす! ヴァン・ド・クロウ!」
フルーモンの周囲に、鋭い風の刃が幾重にも発生する。
それはまるで透明な爪のように、ゴブリモン達に襲い掛かり、切り刻んでいく。
しかし、悲鳴を上げるゴブリモンもいるが、やはり数が多い。
「スプライモン……大丈夫かな……」
多樹は、初めて目の当たりにするデジモンの戦いに息を呑んでいた。
スプライモンがあんなに小さな体で、自分よりもずっと大きなデジモン達と勇敢に戦っている。
その姿に、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「頑張って、スプライモン!」
多樹は思わず、スプライモンを応援したくなった。
「すげえぞ、フルーモン! その調子だ!」
北斗は、空中で戦うフルーモンを興奮した表情で見上げている。
こちらも大きな声で応援を送った。
しかし、ゴブリモンの攻撃は激しく、スプライモンもフルーモンも、
徐々に数体のゴブリモンに囲まれていく。
「スプライモン、危ない!」
多樹が叫んだ瞬間、ゴブリンが棍棒をスプライモンに振り下ろそうとした。
その時、フルーモンが素早く急降下し、風の力でゴブリモンの一体を吹き飛ばした。
「油断はいけないざんすよ、スプライモン!」
「ありがとう、フルーモン!」
フルーモンは少し得意げな声で言った。
スプライモンはフルーモンにお礼を言い、再び電撃を放つ。
二体のデジモンは、互いをカバーしながら、ゴブリモンの群れと懸命に戦っていた。
しかし、素人の多樹と北斗には、この状況を打破する有効な手立てが思いつかない。
ただ、固唾を飲んで見守るしかなかった。
このままでは、スプライモンとフルーモンが力尽きてしまうかもしれない――そんな不安が、
二人の胸に重くのしかかっていた。
「私がスプライモンを助けなきゃ」
「そうだな、フルーモンもピンチだし」
多樹と北斗はデジヴァイスを使い、二体のパートナーデジモンを助けるべく行動した。
デジモンをパワーアップする機能を、二人は必死で探す。
「どれを選べばいいんだ?」
「北斗、これだよ!」
多樹はデジヴァイスの機能「ブースト」を北斗よりも早く見つけた。
ブーストを使えば、デジモンが一時的にパワーアップするらしい。
しかし、未熟なうちは一日に一回使うのが限度である。
それでも、今の危機的状況を脱するには十分な力だった。
多樹の指が、デジヴァイスの光るアイコンを捉え、力強くタッチする。
同時に、北斗も目を凝らし、自分のデジヴァイスの画面を必死に操作していた。
「デジモンブースト!」
多樹の叫びと同時に、スプライモンの体が眩い光に包まれた。
纏っていた電撃がさらに激しくなり、そのエネルギーが周囲の空気をビリビリと震わせる。
スプライモンの小さな瞳が、決意に満ちた強い光を宿した。
「いっけぇーっ!! デジモンブースト!」
フルーモンの体もまた、強い光に包まれる。
漆黒の羽毛が逆立ち、全身から黒いオーラが溢れ出す。
普段は余裕綽々のフルーモンも、その強大な力に驚いたように目を見開いた。
「何、この力?」
スプライモンの声は、いつもよりずっと力強く、自信に満ち溢れていた。
その体から放たれる電撃は、先程までの比ではないほど強力になっている。
「知らない力が溢れ出るざんす!」
空中で光に包まれたフルーモンも、興奮したように叫んだ。
その身に宿った強大な風の力は、まるで巨大な竜巻のように周囲の空気を渦巻かせた。
パワーアップしたスプライモンは、一直線に目の前のゴブリモンに突進した。
以前なら避けられていたであろう棍棒の攻撃をものともせず、
稲妻のような速さでゴブリモンの懐に入り込むと、強烈な電撃を叩き込んだ。
「ライトニングボルト!」
その破壊力は凄まじく、直撃を受けたゴブリモンは跡形もなく消滅した。
「トルビヨン・エペ!」
フルーモンも負けてはいない。
全身から溢れる風の力を操り、複数のゴブリモンに向けて突進した。
竜巻のような勢いを纏ったフルーモンが通過するたび、
ゴブリモン達は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられて動かなくなった。
さっきまで苦戦していたゴブリモンの群れが、
二体のデジモンの圧倒的な力の前に、次々と倒れていく。
そして、遂に全てのゴブリモンが倒れた。
「スプライモン……!」
「これで大丈夫だな!」
多樹と北斗は、信じられない光景を目の当たりにし、顔を見合わせた。
自分達の起こした行動が、これほどの力を引き出すとは想像もしていなかったのだ。
ゴブリモンが全滅したと同時に、異変が起きていた空も元に戻り、
襲っていたデジモンは全員、デジタルワールドに撤退していった。
それと同時に、壊れていた街や車も、あっという間に元通りになった。
ブーストが解除されたスプライモンとフルーモンは、溶けるように姿を消した。
「やったな、多樹! 街は元通りだぜ!」
「……うん、そうだね」
デジモンに破壊されたものは全て元に戻った。
素直に喜ぶ北斗と、少しだけ喜ぶ多樹。
街を守る事ができたが、多樹は少しだけ、疑問を抱いていた。
この世界とデジタルワールドはとっくの昔に離れたはずなのに、何故今になって繋がったのか。
そして、何故デジモンは人間を見捨てたはずなのに、
友好的なデジモンと、敵対的なデジモンが今になって現れたのか。
「デジモンが現れたあの日は……あの空と……関係があるのかな……?」
多樹は、あの異変の事を思い出しながら、一日を終えようとするのだった。
小学生の女の子が目の前で異変を見たら、多分、こうなるんだろうなと思いながら書きました。
主人公の多樹のパートナーはデータ種、ヒーローの北斗のパートナーはウィルス種です。
この辺、他のアニメデジモンとは一線を画すようにしました。