デジモンアストリア   作:アヤ・ノア

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物語が本格的に始まります。
女の子が主人公という事で、女の子の視点に立って考えてみました。
ご都合主義的なところもありますが、ご了承ください。


第1話 パートナーデジモン

(空が震えるなんてあり得ないよね。私の見間違いだよね)

 多樹は何とか考えを振り切って、授業に集中した。

 空の揺らぎは収まっていたが、

 先程、多樹に見えた虹色の光の残像が、瞼の裏に焼き付いているようだった。

 隣の席の北斗は、前の席の男子生徒と楽しそうに話し込んでいて、それを先生が注意している。

 北斗の明るい性格は、多樹とは正反対だ。

 

「……なんか、変な感じ」

 多樹はそう、小さく呟いた。

 今日起こった事は、どれもこれも非日常的で、まるで夢の中にいるみたいだった。

 多樹はその事が、全く信じられない様子だった。

 

 その日の放課後、異変はついに具体的な形で現れた。

 多樹が北斗や明日香達と下校していると、急に空が鉛色に曇り始めた。

 風もなく、不自然なほどの静けさが街を包む。

 そして、まるで空間が歪むかのように、空中に亀裂が走った。

 

「な、何あれ……!?」

 明日香が恐怖に声を震わせる。

 亀裂はみるみるうちに広がり、その向こうには、見た事もない奇妙な風景が広がっていた。

 それは、無数のデータが光の粒となって飛び交う、幻想的な世界――デジタルワールドだった。

 

ひゃああああああっ!

 誰かの悲鳴が響き渡る。

 亀裂から、奇妙な姿の生物達が次々と飛び出してきたのだ。

 それは、多樹達がテレビやゲームでしか見た事のない生き物、デジモンだった。

 デジモン達はパニックに陥った人間達を追いかけ、街を一瞬にして混沌が包んだ。

 

「なんでデジモンがいるの……!?」

 多樹は呆然と立ち尽くした。

 デジモンは、架空の存在だと思っていたのに。

 その時、多樹の目の前に、電撃を纏った小さな精霊のようなデジモンが現れた。

 透き通るような体には雷光が走り、くるくると宙を舞う。

「やっほー! わたし、デジタルモンスターのスプライモンだよ!」

 スプライモンは多樹の周りを飛び回りながら、甲高い声で喋り続ける。

 多樹はあまりの衝撃的な出来事に、言葉を失っていた。

 

「わあ! 空からなんか、変なのがいっぱい出てきた!」

 北斗の隣では、空から光が漏れ出し、その光の中から、

 翼を持つ鳥のようなデジモン――フルーモンが飛び出した。

 そのデジモンは、まるで北斗に挨拶するかのように、彼の周りを飛び回った。

「え、何これ? お前、誰だよ!?」

「ミーはフルーモンざんす。ユーのパートナーデジモンざんす」

 北斗は驚きながらも、フルーモンに興味津々といった様子で手を伸ばした。

 しかし、フルーモンに触る事はできなかった。

 

「……」

 多樹の目の前に、再びスプライモンが止まる。

「ねえねえ! デジモンが嫌いなの? ねぇ、なんで喋らないの?」

 スプライモンがじっと多樹を見つめる。

 その瞳は、純粋な好奇心に満ちていた。

 多樹は、お転婆でよく喋るスプライモンに気圧されつつも、何故か憎めない気持ちになった。

「あなた……デジモンなの?」

 多樹がようやく口を開くと、スプライモンは嬉しそうに多樹の肩にちょこんと降り立った。

「そうだよ! わたし、きみのパートナーデジモンになるんだよ! よろしくね!」

「……うん、よろしく」

 スプライモンの言葉と同時に、多樹の胸元が淡く光り始めた。

 そして、掌には、青い見慣れない奇妙な機械が現れた。

 それは、かつて人間とデジモンを繋いでいた、デジヴァイスだった。

 

「デジモンって、本当にいるんだな……すげー!」

 同じように、北斗の手にも赤いデジヴァイスが現れ、

 フルーモンが楽しそうにその周りを飛び回っていた。

 北斗の目には、驚きと同時に純粋な好奇心が輝いていた。

 彼が手に握っている赤いデジヴァイスもまた、淡い光を放っている。

 フルーモンは微笑んでおり、北斗のパートナーデジモンになれた事を喜んでいる。

 

 街では、パニックに陥った人々が逃げ惑い、混乱は増すばかりだ。

 空から現れた凶暴そうなデジモン達が、次々と建物や車を破壊していく。

「どうしよう、多樹……!」

 明日香が多樹の腕を掴み、震える声で訴える。

 多樹もまた、目の前の光景に体が竦んで動けなかった。

 しかし、スプライモンは多樹の肩の上で、いつものお転婆な調子で言った。

「ぼーっとしてる場合じゃないよ! あいつら、街を壊してる!」

 スプライモンの言葉に、多樹はハッとする。

 デジモンは、ただの空想の産物ではなかった。

 今、目の前で、現実の脅威となっているのだ。

「何とかするざんす!」

 フルーモンもまた、北斗の頭の上で羽ばたきながら、街を破壊するデジモン達を指差した。

「でも、どうやるんだ? このデジヴァイスも使った事がないし……」

 北斗は戸惑うが、その顔には諦めの色はない。

 デジモンと出会ったばかりの少年少女。

 彼らの手には、まだその使い方も分からないデジヴァイスが握られている。

「簡単な事ざんす。ミー達があの悪いデジモンをやっつけるざんす!」

「お願い、わたしに協力して。わたし、戦えるから!」

「「……」」

 多樹と北斗は信じられない様子だった。

 しかし、このまま放っておけば、街はあっという間に廃墟になってしまう。

 二人は意を決して、デジヴァイスを握って行動した。

 

「お願い、スプライモン! 街を守って!」

「フルーモン! あいつらをやっつけろ!」

 多樹と北斗は、それぞれのパートナーデジモンに指示を出した。

 

 スプライモンとフルーモンは、鬼人型デジモン、ゴブリモンの群れと戦った。

「いっくよー!」

 スプライモンは多樹の言葉に応え、全身に纏う電撃がさらに強くスパークする。

 そして、ゴブリモンの群れへと一直線に飛び込んでいく。

 その小さな体からは想像もできないほどのスピードだ。

「ライトニングボルト!」

 スプライモンが必殺技の名前を叫ぶ。

 すると、スプライモンの周囲に強烈な電撃が奔った。

 バチバチという音と共に、数体のゴブリモンが黒焦げになって倒れていく。

 しかし、ゴブリモンの数は多い。

 怯む事なく、残りのゴブリモンが棍棒を振り上げ、スプライモンに襲い掛かってきた。

 

 一方、北斗の指示を受けたフルーモンは、ひらりと軽やかに空へと舞い上がった。

「フッフッフ、数だけでざんすね!」

 フルーモンは余裕の表情で言い、両手を広げた。

「ミーの華麗なる風の舞を見せるざんす! ヴァン・ド・クロウ!」

 フルーモンの周囲に、鋭い風の刃が幾重にも発生する。

 それはまるで透明な爪のように、ゴブリモン達に襲い掛かり、切り刻んでいく。

 しかし、悲鳴を上げるゴブリモンもいるが、やはり数が多い。

 

「スプライモン……大丈夫かな……」

 多樹は、初めて目の当たりにするデジモンの戦いに息を呑んでいた。

 スプライモンがあんなに小さな体で、自分よりもずっと大きなデジモン達と勇敢に戦っている。

 その姿に、胸の奥が熱くなるのを感じた。

「頑張って、スプライモン!」

 多樹は思わず、スプライモンを応援したくなった。

 

「すげえぞ、フルーモン! その調子だ!」

 北斗は、空中で戦うフルーモンを興奮した表情で見上げている。

 こちらも大きな声で応援を送った。

 しかし、ゴブリモンの攻撃は激しく、スプライモンもフルーモンも、

 徐々に数体のゴブリモンに囲まれていく。

「スプライモン、危ない!」

 多樹が叫んだ瞬間、ゴブリンが棍棒をスプライモンに振り下ろそうとした。

 その時、フルーモンが素早く急降下し、風の力でゴブリモンの一体を吹き飛ばした。

「油断はいけないざんすよ、スプライモン!」

「ありがとう、フルーモン!」

 フルーモンは少し得意げな声で言った。

 スプライモンはフルーモンにお礼を言い、再び電撃を放つ。

 二体のデジモンは、互いをカバーしながら、ゴブリモンの群れと懸命に戦っていた。

 しかし、素人の多樹と北斗には、この状況を打破する有効な手立てが思いつかない。

 ただ、固唾を飲んで見守るしかなかった。

 このままでは、スプライモンとフルーモンが力尽きてしまうかもしれない――そんな不安が、

 二人の胸に重くのしかかっていた。

 

「私がスプライモンを助けなきゃ」

「そうだな、フルーモンもピンチだし」

 多樹と北斗はデジヴァイスを使い、二体のパートナーデジモンを助けるべく行動した。

 デジモンをパワーアップする機能を、二人は必死で探す。

「どれを選べばいいんだ?」

「北斗、これだよ!」

 多樹はデジヴァイスの機能「ブースト」を北斗よりも早く見つけた。

 ブーストを使えば、デジモンが一時的にパワーアップするらしい。

 しかし、未熟なうちは一日に一回使うのが限度である。

 それでも、今の危機的状況を脱するには十分な力だった。

 多樹の指が、デジヴァイスの光るアイコンを捉え、力強くタッチする。

 同時に、北斗も目を凝らし、自分のデジヴァイスの画面を必死に操作していた。

 

「デジモンブースト!」

 多樹の叫びと同時に、スプライモンの体が眩い光に包まれた。

 纏っていた電撃がさらに激しくなり、そのエネルギーが周囲の空気をビリビリと震わせる。

 スプライモンの小さな瞳が、決意に満ちた強い光を宿した。

いっけぇーっ!! デジモンブースト!

 フルーモンの体もまた、強い光に包まれる。

 漆黒の羽毛が逆立ち、全身から黒いオーラが溢れ出す。

 普段は余裕綽々のフルーモンも、その強大な力に驚いたように目を見開いた。

「何、この力?」

 スプライモンの声は、いつもよりずっと力強く、自信に満ち溢れていた。

 その体から放たれる電撃は、先程までの比ではないほど強力になっている。

「知らない力が溢れ出るざんす!」

 空中で光に包まれたフルーモンも、興奮したように叫んだ。

 その身に宿った強大な風の力は、まるで巨大な竜巻のように周囲の空気を渦巻かせた。

 パワーアップしたスプライモンは、一直線に目の前のゴブリモンに突進した。

 以前なら避けられていたであろう棍棒の攻撃をものともせず、

 稲妻のような速さでゴブリモンの懐に入り込むと、強烈な電撃を叩き込んだ。

「ライトニングボルト!」

 その破壊力は凄まじく、直撃を受けたゴブリモンは跡形もなく消滅した。

「トルビヨン・エペ!」

 フルーモンも負けてはいない。

 全身から溢れる風の力を操り、複数のゴブリモンに向けて突進した。

 竜巻のような勢いを纏ったフルーモンが通過するたび、

 ゴブリモン達は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられて動かなくなった。

 さっきまで苦戦していたゴブリモンの群れが、

 二体のデジモンの圧倒的な力の前に、次々と倒れていく。

 そして、遂に全てのゴブリモンが倒れた。

 

「スプライモン……!」

「これで大丈夫だな!」

 多樹と北斗は、信じられない光景を目の当たりにし、顔を見合わせた。

 自分達の起こした行動が、これほどの力を引き出すとは想像もしていなかったのだ。

 ゴブリモンが全滅したと同時に、異変が起きていた空も元に戻り、

 襲っていたデジモンは全員、デジタルワールドに撤退していった。

 それと同時に、壊れていた街や車も、あっという間に元通りになった。

 ブーストが解除されたスプライモンとフルーモンは、溶けるように姿を消した。

 

「やったな、多樹! 街は元通りだぜ!」

「……うん、そうだね」

 デジモンに破壊されたものは全て元に戻った。

 素直に喜ぶ北斗と、少しだけ喜ぶ多樹。

 街を守る事ができたが、多樹は少しだけ、疑問を抱いていた。

 この世界とデジタルワールドはとっくの昔に離れたはずなのに、何故今になって繋がったのか。

 そして、何故デジモンは人間を見捨てたはずなのに、

 友好的なデジモンと、敵対的なデジモンが今になって現れたのか。

 

「デジモンが現れたあの日は……あの空と……関係があるのかな……?」

 多樹は、あの異変の事を思い出しながら、一日を終えようとするのだった。




小学生の女の子が目の前で異変を見たら、多分、こうなるんだろうなと思いながら書きました。
主人公の多樹のパートナーはデータ種、ヒーローの北斗のパートナーはウィルス種です。
この辺、他のアニメデジモンとは一線を画すようにしました。
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