在庫という概念があるリワードサイトは、こうならないといけないかもしれません。
かなり汚い言葉が多いですのでご注意を……。
学校から帰ってきた後、多樹はソファでゆっくりと読書をしていた。
ミシルを捕らえ、束の間の平和が訪れた事に安堵していた。
昨日のユスティアモンの話が頭の片隅にあったが、今は深く考えずにいようと努めていた。
しかし、しばらくすると、静寂を破って、デジヴァイスから音が鳴った。
嫌な予感がした多樹がデジヴァイスを取ると、北斗の声がデジヴァイスから聞こえてきた。
「北斗、どうしたの?」
「多樹! またデジモンが事件を起こしたらしい!」
「……え!?」
多樹の平穏な日常は、デジモンにより呆気なく終わりを告げた。
場所は、多樹達の町から少し離れた住宅街の一室。
女性の部屋では、パソコンの画面が明るく光っていた。
「せっかくポイントを貯めたのに、在庫切れだなんて理不尽よ!
あの運営なんか大っ嫌い! 死ねばいいのに!」
女性は、リワードサイトの運営会社に対する不満でイライラしていた。
長期間コツコツと貯めたポイントをデジタルギフトカードに交換しようとしたが、
人気商品のため在庫切れになっていたのだ。
しかも何度もサポートメールを送ったのに「復活の予定は未定です」と突っぱねる始末だった。
女性の怒りは頂点に達し、誰もいないパソコンに向かってこう言った。
「二ヶ月以上も頑張ってポイントを貯めたのに在庫切れだなんて、
ユーザーの努力を無駄にしたようなものだわ!
復活の予定が未定じゃなくて、復活の予定がないの間違いでしょ!? このクソッタレ!
これだからこのリワードサイトはクソなのよ! 早く死になさいよ、ゴミクズ運営!!」
何ヶ月も欲しい商品が在庫切れになっているのは、
リワードサイトとしてあるまじき行為だと女性は思っている。
そもそも、デジタルデータなのに、物理的な在庫という概念が間違いだと女性は断言していた。
女性の心の中で、強い欲望と、運営への憎悪が渦巻いていた。
「へぇ……在庫切れなのがそんなに不満なのか」
その時、女性のパソコンの画面端に小さな影が現れ、それが女性の目の前で実体化する。
リスの姿をしたデジモン、シューシューモンだった。
「なっ、何!?」
「私は何でも願いを叶えるよ。どんな願いがいい?」
突然、シューシューモンが現れた事に女性は驚きつつも、シューシューモンに願いを言った。
「せっかくあのデジタルギフトカードを交換したいのに在庫切れになってたの!
何が何でも絶対に交換したい!!」
「うん! 叶えてあげるね!」
シューシューモンは女性の理不尽な不満を察知すると、そのままパソコンの中に入り込んだ。
数分後、女性はもう一度ポイント交換のページを更新した。
「え……? 嘘、交換できる!」
すると、在庫切れになっていたはずのページが、交換できるようになったのだ。
画面の表示通り、女性はポイントを払い、
2500円分のデジタルギフトコードを手に入れてしまった。
「やった! やっぱり、在庫切れの原因は運営が在庫の補充を面倒くさがってたからなのね!
こんなクソみたいな運営なんか、デジモンに乗っ取られた方が遥かに有益だわ!」
女性は狂喜し、喜んでお金を手に入れた。
そして、手に入れた2500円分のデジタルギフトコードを使って、買い物をした。
その買い物は、決してリワードサイトの運営にはバレていないものだった。
決済システムへの連携も終わり、2500円分を全て使ってしまった。
しかし、これには明確な理由があった。
実はシューシューモンは、リワードサイトの運営のシステムに侵入し、
過去に誰かが引き換えたギフトコードを改造して使えるようにしてしまったのだ。
これはデジモンが行った事なので、決して一般的なセキュリティでは解決できず、
デジモンで対抗するしかないのだ。
(ふふふ、リワードサイトなんてちょろいね。
私がハッキングしちゃえば、在庫はあってないものにできちゃうんだから)
シューシューモンは、ハッキングに対して絶対の自信があった。
そして、他のリワードサイトにも、手を出そうとしていた。
多樹、北斗、零の三人は、シューシューモンが起こした事件の情報収集に奔走した。
デジモン研究所の所長、有雄の協力を得て、
シューシューモンが潜んでいるパソコンの特定に成功した。
「この家のパソコンに、デジモンがハッキングした跡があるはずだ。多樹、零、急ぐぞ!」
三人は事件現場の女性の家を特定し、まず家主に事情を説明し、許可を得る。
その後、三人は事件現場に向かった。
「……というわけで、この事件はデジモンの仕業です。あなたも被害者である可能性があります」
女性の部屋に足を踏み入れた三人は、
机の上に置かれたパソコンの画面から、僅かに歪みを感じ取った。
恐らく、事件を起こした犯人はここにいるだろう。
「ここに、犯人のデジモンがいるはずだ!」
北斗がデジヴァイスを構えた瞬間、パソコンからシューシューモンが実体化して現れた。
「あっ! 見つかっちゃった。でも、もう遅いよ!
この人は、お金が手に入って大満足なんだから!」
シューシューモンは、女性の理不尽への不満を解消した自分の功績を誇るように叫んだ。
しかし、多樹達としては、これを見過ごすわけにはいかなかった。
「あなたのやった事は、ただの犯罪だよ! みんなを困らせないで!」
「犯罪? そんなわけないでしょ、運営の怠慢を罰したんだから」
「そんなの関係ない! お前はあの人に迷惑をかけてるんだぜ!」
「迷惑だなんてとんでもない! あの人は感謝してるんだよ!」
「そうよ! 私はシューシューモンのおかげで努力が報われたのよ!」
シューシューモンの言う通り、確かに女性は感謝していた。
しかし、零は首を横に振り、シューシューモンに向かってこう言った。
「たとえ努力が報われたとしても、僕達は見過ごすわけにはいかない」
三人は迷う事なく、デジヴァイスからパートナーデジモンを呼び出す。
カラムモン、ヴォレモン、ガルゴモンは、シューシューモンを倒そうとしていた。
それに対し、シューシューモンはすぐに身構えた。
「私はこの人を助けてあげただけなのに、犯罪なんてほざくんだ」
「当たり前でしょ! ハッキングは犯罪なんだよ!」
「ハッキングは犯罪? あなた達って馬鹿正直すぎて呆れちゃうね。
せっかくのデジタルデータなのに、リワードサイトなのに、在庫だなんてほざく運営に、
あの人は相当な不満を抱いていたみたいだよ。
だから私はあの人の願いを叶えてあげただけ。私はなーんにも悪くないんだから」
「たとえデジタルでも、交換するのは本物のお金なの!
無限に交換できたら、その会社がいつ、いくら借金するのか分からなくなっちゃうから!」
「あのリワードサイト、欲しいものが二ヶ月以上も在庫切れなんだよ?
普通だったら絶対にあり得ないよね。
でも、そのリワードサイトは悪い意味で普通じゃないし、
この人が言った通り、死んで当然の人しかいない。
私はその運営に罰を与えてるだけなのに、なんで感謝しないんだろうね」
「……説得はできないみたいざんすね」
「だったら僕達が倒すしかないよ」
こうしてシューシューモンとの戦いが始まった。
シューシューモンは、愛らしいリスのような外見に反してウィルス種のデジモンだった。
女性の願いを叶えるためにシステムを混乱させたその手並みは巧妙だが、多樹達は容赦しない。
「あなたは、わたしが止める! サンダービーム!」
「ハッキングをして困らせるのは許さないぞ! ガトリングアーム!」
「早く大人しくするざんす! スフレ・バットル!」
「へへー! そんな攻撃は効かないよ!」
三体のデジモンが動き、シューシューモンを攻撃しようとするが、
シューシューモンはローラースケートのタイヤを鳴らし、すばしっこい動きで駆け巡る。
ヴォレモンは巨大な翼で風圧をかけようとするが、
シューシューモンは縦横無尽に壁や家具を滑り抜け、的を絞らせない。
「くっ、ミーの風圧が当たらないざんす!」
「ドングリボム!」
シューシューモンはヴォレモンの攻撃を避けながら、お腹のジッパーを勢いよく引き下ろし、
そこからドングリ型の爆弾を取り出し、三体のデジモンに向かって投げつけた。
爆弾が炸裂すると、大量の小さなドングリが周囲に飛び散った。
「そんなものは効かないよ! パラライズウェイヴ!」
カラムモンはドングリ爆弾の直撃を避けながら、
雷の嵐を発生させ、シューシューモンの動きを封じようとする。
だが、シューシューモンは麻痺する前に、雷の嵐の隙間を縫って滑り抜けてしまった。
「あのリワードサイトはユーザーが欲しいものを何ヶ月も在庫切れにするんだよ。
下手すりゃ一年以上も在庫切れってのもあり得るかもしれない。
もしかしたら、あのリワードサイトは私達デジモンに遠く及ばない、
無能な奴らしか運営していないかもしれないね」
「私はそのリワードサイトをやってないから、よく分からないな」
「あの運営は、デジタルの癖に在庫っていう概念をつけるゴミみたいな人しかいないもの。
しかもサポートメールに対しても定型文しか送らないんじゃ、ハッキングされて当然だよね!」
「確かにそうかもしれないけど……」
多樹はもう一度シューシューモンを説得しようとするが、
やはりシューシューモンは無視して話を続けた。
「どうしてあなた達は私を止めるの? 私のおかげでこの人の願いは叶ったんだよ?」
「そうよ! このデジモンは私を助けてくれたのに!
在庫という理不尽なものをなくしてくれるのに!」
「ほらね? あなた達は本当にどうかしてるよ、頭はあの運営と五十歩百歩だね」
「どうかしてるのはお前だ! これ以上、お前が他の奴らを苦しめるわけにはいかない!」
「だったら交換したい商品を平気で在庫切れにするゴミクズ運営を殺しなよ!」
「願いが叶わないなら誰かを殺してもいいだなんて、絶対に間違ってる!
だから、あなたは絶対に私達が止める!」
「やれるものならやってみなよ!
クソみたいな運営を止めないあんた達みたいなゴミクズなんか、
私がここで消しちゃうんだから!」
最早、シューシューモンへの説得は完全に無駄だとみなした多樹と北斗は、
カラムモンとヴォレモンに指示を続ける。
シューシューモンの動きに翻弄されかけるが、
零のガルゴモンが、そのハンターとしての本領を発揮した。
ガルゴモンは、愛用のジーンズを軋ませながら、脚力を活かして空高く飛び上がった。
上空からシューシューモンの逃走ルートを予測し、
一瞬の隙、シューシューモンが次のドングリを取り出そうとしたその瞬間、
ガルゴモンは急降下した。
「げっ! 逃げちゃおうっと!」
「そうはいかないよ! ダムダムアッパー!」
シューシューモンは慌ててデジタルワールドに逃げようとする。
しかしガルゴモンはシューシューモンの懐に入り込み、
両腕のガトリングアームを構えて強烈なアッパーを突き上げる。
正確無比な一撃がシューシューモンの身体にクリーンヒットした。
シューシューモンのローラースケートが勢いを失い、体勢が崩れたところに、
カラムモンとヴォレモンの連携攻撃が炸裂する。
「スフレ・バットル!」
「サンダービーム!」
「うわぁぁぁっ!」
ヴォレモンの翼から放たれた暴風が、体勢を崩したシューシューモンを壁へと叩きつける。
そして、カラムモンの全身の電力が一つに収束した強力な電撃ビームが、
暴風の壁から抜け出そうとするシューシューモンを正確に貫いた。
戦闘不能になり、今にも消えそうなシューシューモンは、
最後までリワードサイトの運営への憎悪を抱いた眼でこう言った。
「人の感謝を犯罪とほざいたあなた達に、ウィザードを止める資格なんて全くないんだよ。
私がいればすぐに願いは叶ったのにと、後悔すればよかったのに」
そして、シューシューモンはデータの光となって消え去った。
多樹達の予想通り、シューシューモンはウィザードがけしかけたデジモンだったのだ。
「もうあのポイントは全部、使っちゃったわ」
戦闘が終わり、女性のパソコンのシステムは元に戻った。
しかし、女性が不正に引き出した2500円分を、元のポイントに戻す事はできなかった。
そして、ポイントを使い切ってしまったと語った以上、もう元に戻す事は二度とできない。
これは、ウィザードと戦って以来の、初めての多樹達の「敗北」であった。
「……ポイントを交換できてよかったね。でも……」
多樹は、女性の目を見て言葉を選んだ。
彼女は、ウィザードに唆された被害者でもあるが、同時に欲望に負けた加害者でもある。
「ウィザードがけしかけたデジモンのせいだったわよね」
「そうだぜ。お前はウィザードに知らず知らずのうちに協力していたんだ」
「ごめんなさい……。でも、ポイントを貯めたのは不正じゃないわ」
女性は、貯めたポイント自体は正当な努力の証だと主張した。
あの結果は、シューシューモンがハッキングしただけなのだ。
「そうだな……それだけは認めよう」
零は冷静に、その点だけは認めた。
この女性は、ウィザードのように社会の根幹を揺るがす悪意を持っていたわけではない。
ただ、一時の欲と不満に負けただけだ。
「逮捕するの?」
多樹は、警察に通報すべきか迷ったが、零は首を横に振った。
「……僕にはできないよ。この件は、ウィザードが仕組んだ犯罪だ。
彼女を逮捕しても、ウィザードの真の悪は裁けない」
多樹達は、正当な手段でポイントを貯めていた女性の心に付け込み、
悪事に手を染めさせたウィザードに、改めて強い敵意を向けた。
「……確かにシューシューモンは、あの人の願いを叶えてくれた。
たとえ、ハッキングという犯罪であったとしても、ウィザードのせいだったとしても。
ウィザードは許せないけど……シューシューモンの気持ち、私はちょっと共感しちゃうな」
「多樹……」
北斗は多樹を心配そうに見つめており、デジヴァイスの中のカラムモンもどこか不安げだ。
彼らが戦うべきは、人々の心の闇そのものだと改めて悟ったのだった。
運営に泡を吹かせるために、ビターエンドにしました。
デジモンアストリアはフィクションですが、
あのリワードサイトはこれが実際に起こらなければどうしようもないほど無能ですよね。
今まで参加していたユーザーの9割以上が一斉に退会するとかの、
二度と立ち直れないほどの大ダメージを受けるべきと断言します。