だからこそ、多樹達の決意は強まるのです。
そしてキーデジモンも登場するとだけ言っておきます。
シューシューモンが起こした事件は解決したものの、
不正を完全に消し去れなかったという苦い結果に終わった。
事件が解決すれば完全にリセットされるはずなのに、と多樹は不安になる。
「多樹ちゃん、どうして落ち込んでるの?」
「……シューシューモンを倒したのに、あの会社は2500円も損しちゃったんだよ」
2500円というのは、企業の中ではささやかな金額かもしれない。
しかし、不正な手段で得たため、その損失は計り知れないものだ。
「多樹ちゃん、ショック?」
「まあ、ショックを受けていないといえば嘘になるよ。でも、私は絶対に諦めないよ。
ウィザードの犯罪が広がったら、社会は混乱しちゃうからね」
「間違いだらけの世界なんて認めたくないぜ!」
「……ああ。失敗は犯したが、ここで折れればウィザードの思うがままだからな」
かつて両親の借金の担保という理由でウィザードに協力していた零も、
今はウィザードに完全に敵対している。
それだけで、多樹は安心し、北斗も零を頼りにするようになった。
「でも……どうしてリセットされなかったんだろう」
「リセット? ああ、事件を解決したらみんな元通りになるんだよな。オレ達以外」
デジモンが関わる事件を解決すれば、
特別な子供とそのパートナーデジモン以外はリセットされるはずだった。
しかし、今回の事件では完全にリセットされなかった。
その事実が、多樹達にのしかかっていた。
「やっぱり、だんだんこの世界がおかしくなってる。何とかして元に戻さないと!」
多樹がそう意気込んだ途端、彼女の頭の中に、声が聞こえてきた。
―特別な子供達よ。私の声が聞こえますか?
それは、女性的で清らかな、多樹を安心させそうな声だった。
その声は、多樹にとって聞き覚えのある声だった。
「北斗……ユスティアモンが私を呼んでる」
「ユスティアモン? 聞こえねぇな、そんな声」
「僕もだよ……」
ユスティアモンの声は、北斗や零には聞こえなかったようだ。
しかし、声はまだ止まず、多樹に要件を伝える。
―現実世界とデジタルワールドの境界がかなり薄れてきており、繋がるのも時間の問題です。
「どういう事なの? 教えて! ユスティアモン!」
多樹はユスティアモンに話しかけるが、ユスティアモンには届かなかった。
困惑する多樹を無視して、ユスティアモンは話し続ける。
―私がいるのは、デジモンを研究している場所……。そこに、今すぐに来てください。
その声を最後に、ユスティアモンの声は聞こえなくなった。
しかし、デジモンを研究している場所といえば、あの場所しかないと多樹は判断した。
そして、多樹は北斗と零に、いつもよりも強い調子の声で言った。
「ユスティアモンは、北斗の家にいるよ! でも、今は学校があるから、また後でね!」
教室の窓から差し込む陽射しが、多樹のノートの上に柔らかく広がっていた。
多樹は静かに鉛筆を走らせながら、先生の話に耳を傾けていた。
一時間目の授業は社会で、テーマは「日本の政治制度」だった。
「じゃあ、次。国会の役割について説明できる人は?」
担任教師が問いかけると、教室は一瞬静まり返った。
多樹はそっと手を挙げた。
先生が微笑んで頷くと、多樹は立ち上がり、少し緊張した面持ちで話し始めた。
「国会は、日本の立法機関で、法律を作る役割があるんだよ。
衆議院と参議院の二つがあって、それぞれの議員が話し合って決めるんだね」
その丁寧な説明に、担任教師は満足げに頷いた。
「流石、遠山。よくできました」
多樹の隣の席では、北斗が少し退屈そうに机に頬杖をついていた。
北斗のノートには、政治制度とは関係のない落書きが広がっている。
「星野、では、内閣の役割は?」
教師が突然指名すると、北斗はびくりと肩を跳ねた。
「え、えっと……内閣って、えーと……偉い人達が集まってるとこ?」
教室にくすくすと笑いが広がる中、多樹はそっと北斗の方を見て、小さく微笑んだ。
「内閣は、行政を担当するところだよ。総理大臣が中心になって色んな大臣が仕事をしてるんだ」
「あー、そうそう、それそれ! オレ、言おうとしてたんだよ」
北斗は照れくさそうに頭をかきながら、言い訳めいた笑顔を浮かべた。
「まあ、星野も頑張れよ」
担任教師は苦笑しながらも、北斗に声をかけた。
多樹と北斗の授業時間は、静と動が交差するように流れていった。
互いに違う性格ながらも、どこか補い合うような二人の姿が、教室の中で一際印象的だった。
そして、学校の授業が終わった帰り道。
多樹の導きで、北斗と零はデジモン研究所に行った(北斗にとっては家に帰った)。
学校から帰った後、すぐにユスティアモンを探しに行くと決めたからだ。
「有雄さん! ユスティアモンがここに呼んでたみたい!」
「何? ユスティアモンが……? そんなの知らないぞ」
「父さん、多樹は嘘なんかついてない!」
北斗は必死で、有雄を説得しようとする。
夢と、多樹にしか聞こえなかったあの声は、説得の材料にはなっていないかもしれない。
しかし、息子と多樹が慌てている様子を見た有雄は、厳格さを崩さずにこう言った。
「……君と北斗が嘘をついているとは思えないな。よし……君達を、あそこに連れて行こう」
「あそこって?」
「それは、君達にも言えないな。ウィザードがまた攻めてくるかもしれないからな」
一体何を見つけたいのだろうと多樹は怪訝に思うが、
敵にバレる可能性があるかもしれないと思うと、何も言えなかった。
多樹、北斗、零は、有雄に従い、エレベーターの前に着いた。
このエレベーターを見た多樹は、改めて北斗の家がどれほど豪華なのかを知った。
「これから地下2と2分の1階に行く。
普通は移動できないようになっているが、エレベーターの停止階ボタンを4階、2階、
地下1階、1階、地下2階の順番に続けて押すと……」
有雄が言った通りにボタンを押すと、エレベーターはゆっくりと、とある階に移動する。
そんなエレベーターの中で、多樹達は小さな声で会話する。
「北斗の家って……こんなに大きかったんだね」
「オレの父さんはデジモン研究所の所長だもんな」
「知らなかったよ。どうやら僕は君を誤解していたようだ」
そんな会話が終わると、多樹達が載っていたエレベーターは地下2と2分の1階に辿り着いた。
地下深くにあるその部屋は、外部の攻撃から守るために厳重に封鎖されていた。
ここに、ユスティアモンがいるはずだと、多樹は読んでいた。
「来なさい。ここに、ユスティアモンが来ていると言っていたね。
実は、そうかもしれないと私も思ったんだ」
「……どういう意味ですか?」
「これだよ」
そう言って有雄は、サーバーのログを多樹達に見せる。
すると、そこには、25年前のデータらしきものが残っていた。
流石にコンピューター自体は新型だが、
古いコンピューターから移したという有雄の技術に多樹は言葉を失う。
画面には、絵本に描かれていたものとそっくりなデジモンと、以下の文章が映っていた。
ユスティアモン
星と正義を司る女神型デジモンで、オリンポス十二神族に匹敵する力を持っている。
他のデジタルワールドに悪影響を及ぼさないように、デジタルワールドの境界を守っている。
右手に持つ剣「スターソード」は正義の心が強いほど力を増し、
左手に持つ天秤「ジャスティスライブラ」はデジモンの善悪を計る力を持っている。
「これが……ユスティアモンか……」
―その通り。あなた達には、ここに来てほしかったのです。
多樹が硬直しながらそう言うと、多樹の頭の中にまた、ユスティアモンの声が聞こえてきた。
また慌てようとした多樹だったが、今度は冷静に、皆が困惑する中でこう言った。
「ユスティアモン、教えて!
どうしてここに呼んだのかを、どうしてバルバモンと戦ったのかを!」
―それは……ああっ、危ない! 敵です!
「大変だよ! 敵が来る!」
「父さんは先に逃げてくれ!」
「敵は倒すから!」
「あ、ああ……!」
誰も来られないはずのこの地下2と2分の1階に敵が来るとは、誰も予想していなかった。
多樹達は、慌ててデジヴァイスを構えるが、なるべくここを壊したくないとも思った。
有雄にとって、このデータは大事なもので、敵に破壊させるわけにはいかないからだ。
北斗に促された有雄は、すぐにエレベーターで帰っていった。
「このデータは、オレ達が守る! 行くぞっ、ヴォレモン!」
「ウィザードの好きにはさせないざんす!」
北斗はデジヴァイスからヴォレモンを呼び、多樹はカラムモン、零はガルゴモンを呼ぶ。
すると、ユスティアモンのデータを狙おうと堕天使型デジモン、デビモンが襲い掛かってきた。
「そのデータはいただくぞ」
「させない! デジモン研究所は、私が……」
「多樹ちゃん、『私達』!」
「じゃなくて、私達が守る!」
多樹達はデビモンを倒すために戦いを挑んだ。
しかしデビモンは動じる事なく、静かに両手を広げた。
「無駄な足掻きだな。デスクロウ!」
その瞬間、デビモンの腕が伸縮自在に伸び、カラムモンとヴォレモンを同時に襲う。
「きゃあっ! サンダービーム!」
カラムモンは咄嗟にサンダービームを放ち、伸びてきた爪を電撃で相殺しようとする。
電撃と闇の力が激しくぶつかり合い、火花が散った。
一方、ヴォレモンは巨大な翼で急旋回し、デスクロウをかわす。
「危ないざんす! スフレ・バットル!」
ヴォレモンが暴風を巻き起こし、デビモンを吹き飛ばそうと試みるが、
デビモンはその場に深く、しかし静かに留まっている。
暴風が漆黒の衣を叩きつけるが、
まるで衣の下が虚無であるかのように、その体勢は全く崩れない。
そして、デビモンの深紅の瞳が、暴風の隙間からガルゴモンを捉えた。
「その機動力、制御してやろう」
ガルゴモンは、その視線に一瞬動きが止まる。
「う、うわ……なんか、頭が……」
ガルゴモンの動きが鈍り、狙いが定まらない。
その隙を見逃さず、デビモンの左腕が再び伸長した。
「そのデータは、私のものだ」
多樹と零は、デビモンの知的な戦闘とマインドコントロールに焦りを覚える。
「零は、ガルゴモンを助けて! カラムモン、電撃を広範囲に!」
「分かった! パラライズウェイヴ!」
カラムモンは、デビモンの周囲に細かい雷の嵐を発生させた。
雷の嵐がデビモンの周囲の空間を歪ませ、精神の集中を乱す。
「助かった……!」
正気を取り戻したガルゴモンは、怒りを爆発させるように構える。
ガルゴモンは地面を蹴り、驚異的な脚力でデビモンの懐へと飛び込んだ。
「ここから動くな! ダムダムアッパー!」
ガルゴモンは、両腕のガトリングアームで、デビモンの胸に向けて強烈な突き上げを連発する。
「愚か者が……!」
デビモンは痛みに顔を歪ませるが、同時に、ガルゴモンを掴もうとデスクロウを構える。
しかし、ガルゴモンはすぐに離脱し、ヴォレモンが上空から援護射撃を開始する。
「ミーの優雅な羽根を喰らうざんす! プリューム・タンペット!」
ヴォレモンは翼から鋭い羽根を発射し、デビモンの視界を塞ぐ。
多樹と北斗は、この一瞬の隙を見逃さなかった。
「今だ!」
「サンダービーム!」
ヴォレモンが羽根で視界を塞ぎ、ガルゴモンの攻撃で体勢を崩したデビモンに、
カラムモンの強力な電撃ビームが直撃した。
デビモンの漆黒の衣から、激しい火花とデータの粒が飛び散る。
「グアアアア……ッ!」
堕天使デジモンは、その知性と強靭な力をもってしても、三体の連携には抗しきれず、
憤怒の叫びと共に、データの光となって消滅した。
静寂が戻った部屋に、多樹達の安堵の息遣いが響いた。
「はぁ、はぁ……何とか、勝った……」
多樹達はデビモンを倒し、無事にデジモン研究所のデータを守り切った。
しかし、データを守った事よりも、こんな秘密の場所をウィザードが襲ってきた事に、
多樹達は驚きを隠せなかった。
だが、それでも多樹は、ユスティアモンに何かを伝えようとする。
「それで、どうしてユスティアモンはバルバモンと戦ったの?」
―申し訳ございません。ここにも敵の魔の手が及んだ以上、話す事はできません。
敵の手に情報が渡るのを、ユスティアモンは良しとしない。
どうしても聞きたかったのだが、ユスティアモンが拒んでいる以上、多樹は渋々諦めた。
そして、ユスティアモンの声も聞こえなくなった。
「真実は私達の手で掴み取るしかないみたいだよ。北斗、零、カラムモン……」
「くそっ……ウィザードの奴め……!」
北斗が悔しそうに歯を食いしばり、零が項垂れる中、多樹はユスティアモンを心配していた。
その頃、とある場所では、一人の長身の女性がパソコンを触っていた。
女性の近くには、タイガやミシルと同じデザインのダークヴァイスがある。
どうやら彼女はウィザードの幹部のようだ。
「……ここもウィザードが支配していると思い知らせたようだ。
しかし、まだ私が出るべきではないな。もっと混乱させねば……!」
女性は落ち着きながらも、口元に微笑みを浮かべていた。
多樹は主人公ですから、こんな特別な演出もなければ、ね!
ちなみに、あのリワードサイトは根本から変わらない限り、二度とやらないと誓いました。