デジモンアストリア   作:アヤ・ノア

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これを読んで企業の運営が痛い目に遭えばいいのですが、と思いました。
私は欲しいものがたくさんあるのですが、今は計画を立てて買うようにしています。


第32話 ブラック企業を叩き潰せ

「はぁ~……もう嫌だ……。物価が上がったのに、給料が上がらないなんて……」

 そう言って溜息をついているのは、株式会社黒原で働いている男性だ。

 彼は、入社した時点では働く事に誇りを持っていたが、企業の闇を見て心が荒んでしまった。

 

「おい! 真面目に働いてるのか!? 働かないと給料を減らすぞ!」

「……元々上がってない癖に」

「ん? 何か言ったか?」

「何でもないよ」

 彼は上司の冷たい声に萎縮し、再びキーボードを叩き始めた。

 株式会社黒原の社長は利益を上げるためなら手段を選ばず、社員達に過酷な労働を強いていた。

 文句を言おうものなら、即座に「賃金を減らす」「仕事がないなら辞めろ」と脅すほどの、

 典型的なブラック企業だった。

 そのため、社員の不満や疲労はピークに達していたが、生活のため、誰も声を上げられない。

 そのストレスが、社の暗い空気に澱のように溜まっていた。

 

 その頃、多樹達はいつものように星海小学校で授業を受けていた。

 平和な日常と、オフィス街の暗闇は、まるで別世界のようだった。

 

「ふぅ、今日の算数、難しかったね」

「オレは余裕だぜ! さて、帰ってゲームでもすっか!」

「北斗、宿題を忘れてはいけないよ」

 やっと作業時間が終わった頃、例の男性は重い体を引きずって会社を出た。

 時刻はもう夕暮れ時。

 辺りには人気がなく、オフィスビルの明かりだけが虚しく輝いていた。

 

 男性はふと、近くを流れる川のほとりに立ち止まった。

「このまま、誰からも評価されずに、無駄な人生を送るのか……」

 彼は深く沈み込み、ついにあの言葉を口に出した。

「もう嫌だ……川に身を投げたい……」

「駄目だよ!」

 その瞬間、彼の背後から少女が声をかけた。

 驚いて振り返ると、そこには学校から帰ってきたらしい多樹、北斗、零の三人の姿があった。

 彼らは偶然、男性の様子と、その言葉を聞いてしまったのだ。

「あんた、何言ってんだよ!」

「命を粗末にするな!」

 多樹と零は男性に近づき、川に身を投げようとした男性を必死で止める。

 男性は顔を覆い、しゃがみ込んでしまった。

「何があったのか、話してくれませんか?」

「オレ達で力になれる事があるかもしれないからな」

 北斗が男性から事情を聴くと、彼は堰を切ったように、会社での過酷な労働、不当な低賃金、

 そして社長の非道な言動の全てを話し始めた。

 話を聞き終えた北斗は、怒りで体が震えていた。

「……ふざけるな。社員の命をなんだと思ってるんだ!」

「自分の利益のためだけに、他人の人生を踏みにじるなんて……!」

 間違いなくウィザードが関わっているだろう。

 ならば、阻止しなければならないと多樹達は決意した。

「決めたぜ! オレ達が、その黒原を叩き潰してやる!」

「待て、北斗。暴力はダメだ。法と正義で裁くべきだ」

「そうだね。このブラック企業の裏には、きっとウィザードが関わってるよ」

 

 その夜遅く、多樹達はこっそり株式会社黒原のビルへと侵入した。

 もちろん、多樹達は親にあらかじめ許可は取ってある。

 彼らは、パートナーデジモンをデジヴァイスの中に待機させ、慎重に社長室へと向かった。

 

 社長室のパソコンを零が解析すると、すぐに恐るべき真実が浮かび上がってきた。

「やっぱり……。この社長は、売上を優先するために強引な手段を取っているどころじゃない。

 競合他社のシステムにウィルスを仕掛けたり、顧客データを不正に操作したり……」

「酷い……」

 零の言葉に、多樹はそうとしか言えなかった。

「そして、これは……」

「何か見つけたの、零?」

 多樹の言葉に、零が頷く。

 零が見つけたのは、多額の裏金の存在を示す証拠だった。

 その裏金の一部が、ウィザードへと流れているらしい。

「汚い……もう、見たくない……」

「目を逸らすな、多樹。不正をしたのは事実だから」

 多樹達は、その証拠データをフラッシュメモリにコピーした。

 これで、社長の悪事を世間に晒す事ができる。

 

「お前達、何をしている!」

 その時、突然社長室のドアが開いた。

 多樹達の侵入に気づいてしまったのだ。

 社長は慌てる様子もなく、むしろ獰猛な笑みを浮かべていた。

「まさか、こんな夜更けに、ネズミが入り込んでいるとはな! 容赦しないぞ!」

 社長は懐から、禍々しい輝きを放つダークヴァイスを取り出した。

 やはり、彼はウィザードに魂を売った人間だった。

「お前達、私の財産を覗き見た罪は重い。償ってもらうぞ!」

 社長はダークヴァイスを操作し、デジモンを呼び出した。

 部屋の中央に、幽霊のようなデジモン、オボロモンが姿を現す。

「フフフ……拙者、お主らの首をいただくでござる!」

「早く逃げて! 安全な場所に隠れて!」

 多樹は、通路で待機させていた男性に大声で叫んだ。

 男性が驚きながらも指示に従い、奥へと下がっていく。

 多樹達もパートナーデジモンを呼び出した。

 

「オボロモンなんて、怖くないんだから!」

「こ、これが完全体デジモンざんすか……!」

「完全体か……だけど、僕達は負けない!」

 

 ビルの中では戦えないため、多樹達はデジモンに指示を出し、

 夜の誰もいないビルの屋上へとオボロモンを誘導した。

「カラムモン、電撃で動きを封じて!」

「ガルゴモン、属性相性は有利だ! 一気に懐に入れ!」

「ヴォレモンは支援だ! スフレ・バットルで攻撃の軌道をずらせ!」

 オボロモンは、カラムモンら成熟期デジモンの動きを上回っていた。

 多樹達は何とか、パートナーデジモンに指示を出す。

 

「拙者の相手など、分不相応でござる! 千万ノ太刀!」

 オボロモンは刀から激しい斬撃を放つ。

 その刀は脆く折れやすいが、折れるたびにすぐさま新しい刀が生えてくるため、

 攻撃は途切れる事がない。

 

「サンダービーム!」

「そんなものは効かぬ!」

 カラムモンはオボロモンとの属性相性は有利ではない。

 電撃はオボロモンを貫くが、

 オボロモンはまるで痛みを感じていないかのように、再び立ち上がった。

「嘘……。わたしの攻撃が全然効いてない……」

「お主をこの刀で切り裂くでござる!」

 逆に、オボロモンは首に巻いたスカーフ『幽玄』を変幻自在に操り、

 カラムモンを捕縛しようと襲いかかる。

 

「スフレ・バットル!」

 ヴォレモンの風はオボロモンの斬撃を一時的に押し戻すが、体力を消耗していく。

「弱き風で拙者の炎を消す事はできぬ! 羅焼門!」

 オボロモンが下半身の鬼火を分離させ、広範囲を炎で灼く。

 屋上全体が炎に包まれ、多樹達とデジモンは防戦一方となった。

「まずい! このままでは完全に焼き尽くされる!」

「こうなったら、ガルゴモンに全てを賭けるしかない!」

「もう、こんな奴らが仕掛けた戦いに、負けたくない!」

 炎の嵐の中でガルゴモンが叫んだ。

 そして、ガルゴモンは炎を避けながら、両腕のバルカンを乱射し、オボロモンを牽制する。

 オボロモンは怒り、幽玄でガルゴモンを巻き付き捕縛しようとした。

「愚か者め! 拙者の獲物になるが良い!」

 ガルゴモンがオボロモンに捕縛される直前、北斗の指示が響いた。

「今だ! 潜り込め、ガルゴモン!」

 ガルゴモンは驚異的な脚力で一気にオボロモンの懐に入り込み、身体を反転させた。

「ダムダムアッパー!」

 下から上へと、渾身の力を込めたガトリングアームの突き上げが、オボロモンに直撃した。

 ワクチン種の強力な打撃は、ウィルス種のオボロモンに決定的なダメージを与えた。

 

「……馬鹿な。拙者が敗れるとは……」

 オボロモンは断末魔の叫びと共に、光のデータとなって消滅し、

 社長のダークヴァイスは機能を停止した。

 

「はぁ、はぁ、勝った……」

 多樹達は息を切らしながら、オボロモンが消え去った屋上を見上げた。

 しかし、勝利の代償は大きく、屋上は炎と斬撃の跡で派手に荒れていた。

 

「派手にやっちゃったなぁ……。どうしよう?」

 隠れていた男性が恐る恐る出てきて、荒廃した現場を見て呟いた。

 

「むしろ派手にやった方がいいと思うぜ。この会社も痛い目を見るかもしれないからな」

「そうだね。この証拠と屋上の状況が社長の悪事とウィザードとの繋がりを証明してくれるから」

 多樹は、零がコピーしたフラッシュメモリを握りしめ、力強く頷いた。

 

 その後、多樹達は警察と関係機関に匿名で証拠を提出した。

 そして、北斗の言う通り、派手に荒れた屋上と、

 社長室に残されたダークヴァイスの残骸が決定的な証拠となり、

 株式会社黒原の社長は解任され、不正の責任を問われる事となった。

 後任の新しい社長は、以前の非道な経営方針を反省し、給与体系の見直し、

 休憩時間や有給休暇を増やすなど、社員の待遇を大幅に改善したという。

 

 数日後、川のほとりで会った男性が、多樹達にお礼を言いに来た。

 彼の顔には、以前のような疲れと絶望の色はなく、清々しい笑顔があった。

「ありがとう。あなた達のおかげで、もう一度、働く事に誇りを持てそうです」

 多樹達は、今回の事件で、正義の力が現実世界をも変える事ができると確信したのだった。

 しかし、零の表情は固いままだった。

 

「社長は逮捕されたが、ウィザードの幹部は、またも姿を現さなかった……」

 ウィザードの陰は、着実に彼らの周囲に迫っていた。




次回はウィザードの幹部を探すために奮闘します。
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