ランサムウェアの事もちょっとだけ入れてみました。
株式会社黒原の不正を解決したはいいが、ウィザードの幹部の姿はどこにもなかった。
「ったく、どこに隠れてるんだよ! 卑怯者め!」
「確かに卑怯だよね。自分はこそこそ陰で隠れてるんだから。
……現実のランサムウェアを仕掛けた人が逮捕されない理由、分かるよ」
町で様々な事件を起こしている人は、ばれないようにこっそり隠れている。
たくさんの人がいる町で、顔を隠した泥棒を見つけるのが大変なのと同じ理由だ。
また、ランサムウェアの被害にあった会社が、
恥ずかしい、仕事を止めたくない、という理由で、警察に言わない事もある。
警察は、泥棒の事を知らなければ捕まえられないからだ。
だからこそ、ウィザードの悪事を解決できるのは、この場には多樹達しかいないのだ。
今日は土曜日なので小学校は休みだ。
その間に、ウィザードの幹部を見つけなければ、ウィザードに勝ち逃げされてしまう。
「多樹、零、オレの家に行こうぜ。
きっと、いや、絶対にウィザードの幹部の居場所が見つかるから」
「……そうだね」
北斗の家であるデジモン研究所に行けば、ウィザードの幹部が見つかるかもしれない。
多樹達は希望を抱きながら、デジモン研究所に向かった。
デジモン研究所に着くと、北斗は二人の腕利きの技術者を紹介した。
一人は北斗の父である有雄、そしてもう一人は、研究所でも随一の解析能力を持つ女性だ。
「はい、私がハッカーです」
「あの……ハッカー!? それって悪い人じゃ……」
多樹は驚いて尋ねる。
彼女にとって、「ハッカー」という言葉は、株
式会社黒原の社長がやっていたような不正な情報操作のイメージが強かったからだ。
「違う! それはクラッカーだ! オレの家の人達は絶対に悪い事はしねぇ!!」
「そうだぞ、多樹。
ハッカーは、システムの仕組みを深く理解し、より良いものを作る技術者の事だ。
クラッカーは、その技術を悪用する犯罪者だ」
「そ、そっか……」
二人は、その女性技術者・蒼井彩に、ヴァンデモンやオボロモンといった事件の経緯、
そしてウィザードの幹部が潜んでいる事を説明した。
「なるほど。
これだけ連続して事件が起きているのに、物理的な痕跡がないとなると、
ウィザードの幹部は『隠蔽性の高い空間』に潜んでいる可能性が高いですね」
彩はすぐに研究所に待機しているデジモンの中から、捜索に適した一体を選び出した。
それは、あらゆるデジモンになりすまして潜入できる、ベツモンだ。
「ベツモン、あなたにはデジタルワールドを捜索してもらいます。
ウィザードの幹部が残した『不自然なデータ群』を探ってください」
「任せな! わい、化け比べなら負けへんで!」
ベツモンはデジタルワールドに侵入し、ウィザードの幹部の残した痕跡を辿り始めた。
しばらくして、彩のパソコン画面に反応があった。
「どうやらベツモンが、ウィザードの幹部の隠れ場所を見つけたようです」
「ホント!?」
多樹は思わず身を乗り出す。
「ただし、パスワードでロックされているようです。
このデータは、ただの隠し場所ではありません。
恐らく、ウィザードの本拠地に近い場所か、
次の犯行計画に関する重要なデータ群だと推測できます」
彩は、早速そのロックを解除しようと、複雑なパスワード解析のプログラムを起動した。
「今、パスワードを調べ……」
その時、彩のモニターが激しく点滅した。
「まずい! ベツモンが、何者かに見つかったようです!」
ベツモンは、デジタルワールドの暗部で
ウィザードの幹部が隠れている場所のデータを発見したらしい。
しかし、サイボーグ型デジモン、ワスプモンに見つかってしまったのだ。
データ種のベツモンは、ウィルス種のワスプモンに属性的に不利である。
しかも、ベツモンは戦闘が得意ではない。
「うわあ! やばいで、あんさん! ワスプモンや! つっこみパンチや!」
ベツモンはつっこみパンチを放つが、ワスプモンは無言でそれを避け、
急速に移動しながら大口径のレーザー砲をベツモンに向けて連射した。
レーザーの連射がベツモンを襲う。
ベツモンは、辛うじて身体を反転させて攻撃を躱すが、完全に劣勢だ。
「駄目です! ベツモンが持ちません! パスワード解析に時間がかかります!
早く、ベツモンを救助してください!」
大急ぎで多樹達は、パートナーデジモンをデジタルワールドに入れる準備を始めた。
「カラムモン、行くよ!」
「ガルゴモン、ベツモンを助けるぞ!」
「ヴォレモン、急げ!」
デジヴァイスが光を放ち、
カラムモン、ヴォレモン、ガルゴモンはデジタルワールドへと転送された。
一方、隠れ場所ではウィザードの幹部の女性が自身の端末で多樹達の行動を全て把握していた。
彼女は、騎士のような口調で、冷酷に呟いた。
「ふん……。表の問題しか対処できないとは……愚かだな」
彼女の端末には、多樹達のデジヴァイスが発信する座標と、
ベツモンが発見した隠しデータへのアクセスログが表示されている。
「私を見つける事には成功しても、真の問題はそこではない。君達の正義は、常に遅すぎるのだ」
彼女の顔にはこの世の全てを諦観したような、しかし強い憎しみを秘めた笑みが浮かんでいた。
彼女の指は、次の犯行の引き金となるインターフェースを操作している。
「チェックメイトは近い。この不公正な世界に、誰も幸せになる権利などないのだから」
多樹達の希望を乗せたパートナーデジモン達は、
ワスプモンのレーザーが飛び交う危険な空域へと飛び込んでいった。
彼らは、最強の戦略家が仕掛けた罠に、気づかずに近づいているのだった。
この回は前後編となっております。
次回は無事にパスワードを見つけられるのでしょうか?