デジモンアストリア   作:アヤ・ノア

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ついにウィザード最後の幹部の居場所を発見。
しかし、多樹達の行動は、その幹部には筒抜けのようであり……。
この町で最大の危機が訪れます。


第35話 シュテンモン現る

 タイガやミシルが隠れていたビルの中に、そのデジモンはいた。

 

「ひっひっひっ、人間どもを従わせるのは気持ちがいいのう」

 巨大な身体を持つ、オーガモンとよく似た、しかしより威圧感のあるデジモンがいた。

 腰には酒樽を模した装飾と大太刀を身に着けている。

 究極体デジモン、シュテンモンだ。

 シュテンモンの前には、恐怖で跪いている人々の姿があり、

 それを見たシュテンモンは嗜虐的な笑みを浮かべている。

 彼らはシュテンモンの圧倒的な力に、抵抗する気力を失っていた。

 

「うぅ……どうしてだ……逆らえない……」

「これこそ、ウィザードの望みじゃ。力と恐怖で跪かせる……何と美味よの」

 跪く人々の一人から漏れた呻き声を聞き、シュテンモンは満足そうに喉を鳴らした。

 力と恐怖は極めて原始的な手段で、法治の現代社会では通用しない。

 しかし、シュテンモンは究極体であり、それが通用するほどの圧倒的な力を持っていた。

「お前は何が目的なんだ!」

 まだ抵抗の意志を残す男性が、恐怖に震えながらも問いかけた。

「簡単な事じゃ。法というつまらぬものがあるから災いが起きる。

 その災いを未然に防ぐのが、わしの目的じゃ」

「そんな歪んだ目的は……必要ない!」

「これでも、わしに逆らう気か?」

 そう言って、シュテンモンは腰から大太刀を引き抜いた。

 大太刀は鋭く、一振りで首どころか身体が真っ二つになりそうだった。

「……逆らいません」

 その大太刀を見た男性は、すぐにシュテンモンに跪いた。

 男性にとって、自分の命の方が大事だからだ。

 世界を統治する法は、シュテンモンの絶対的な力の前には無力だった。

 

「ひっひっひっ! 見たか、人間どもめ! 世界はこれよりウィザードのものとなるのじゃ!!」

 シュテンモンの高笑いが、ビルの内部に木霊した。

 

 日曜日。

 多樹が朝食を食べ終わり、北斗は多樹を誘って外に出かけた。

 土曜日にウィザードの幹部に先手を打たれた事の焦りからか、

 北斗は体を動かしたかったのだろう。

 

「よし、今日はゲーセンにでも行くか!」

「え、いいの? ありがとう!」

 しかし、町はどこかおかしかった。

 日曜日の昼前だというのに、人通りが極端に少なく、車の音もほとんど聞こえない。

 

「あれ? 何か、静かだね……」

「そうか? みんな、日曜だから家で休んでるんじゃねえの?」

 よく様子を探ってみると、それは休日の静けさではなかった。

 道の隅で立ち尽くしている人が何人かいるが、

 彼らは皆、何かに怯えているように、虚ろな目をしていた。

 そして、時折、彼らの口から「シュテンモン」という聞き慣れないデジモンの名が漏れる。

 

「シュテンモン……? まさか、またウィザードのデジモンが?」

 多樹と北斗は、人々の様子から、この町が強大な何者かに従わされているという事を悟った。

「無理矢理従わせるなんて……あのブラック企業と同じだよ。

 暴力と恐怖で、人々の心を支配しているんだ」

「とにかく、シュテンモンを倒しに行こうぜ!

 究極体だろうが何だろうが、デジモンならオレ達が何とかする!」

「えっ、でも……」

「シュテンモンが悪いんだから倒せばいいんだろ?」

 北斗は、目の前の問題を解決しようと勢い込むが、多樹は立ち止まった。

「ウィザードの幹部が隠れてるかもしれないよ。昨日の事があったじゃない。慎重に行こうよ」

 多樹は、「敵に時間を使わされた」という事を覚えていた。

 目の前のデジモンを倒す事だけが目的ではない。

 多樹の話を聞いた北斗は、拳を握りしめながらも、冷静さを取り戻した。

「……くそっ。そうだな。焦ってまた罠にはまっちゃ、バカを見るだけだ」

 

 その時、突然、近くの路地から、息を切らした男性が多樹達のところにやってきた。

 彼は顔色が悪く、全身が震えていた。

「君達……若い子だね。シュテンモンのいる場所に、近づいてはいけない……」

「あなたは、シュテンモンから逃げてきたんですか?」

「そうだ……。シュテンモンは、ウィザードがけしかけたデジモンだ。究極体だぞ……。

 あいつは、『法は無力だ。力と恐怖だけが真実だ』と言って、皆を従わせているんだ。

 早く、逃げるんだ……」

 男性は、それだけ伝えると、恐怖に駆られてどこかへと走り去っていった。

 

「え……本当に、究極体なんだ……」

 究極体という響きに、多樹は一気に取り乱した。

 今まで戦ってきたのは成長期と成熟期、そして戦った回数は少ないが完全体だった。

 しかし究極体は、次元が違う強さだ。

 とても、成熟期のデジモンが敵うはずがない。

 

 しかし、シュテンモンを何とかしなければ、町は元の活気を取り戻さない。

 人々の恐怖と絶望が、ウィザードの悪事をさらに加速させてしまう。

 

「北斗……ダメだ。逃げられない。シュテンモンを探しに行こう。零も一緒にね」

 

 多樹と北斗は、まず零を探して合流する事にした。

 零を見つけ、事の次第を伝えると、零もまた、その事態の深刻さに顔を険しくした。

 

「究極体か……。シュテンモンはやっぱりビルにいるようだな。行こう、多樹、北斗」

 

 三人は、シュテンモンが潜むとされているビルへと向かった。

 そのビルの入り口前で多樹達を待ち受けていたのは、シュテンモンの配下のオーガモンだった。

 数体のオーガモンが、棍棒を構えて道の真ん中に立ちはだかっている。

 彼らの目は、シュテンモンに支配されているのか、異様な光を放っていた。

「通すわけにはいかん! この場所は、シュテンモン様の支配下だ!」

「逆らう者は、力でねじ伏せてくれる!」

 多樹達は、これがシュテンモンという究極体デジモンに挑むための、最初の試練だと理解した。

 

「いくよ! みんな!」

 多樹達はパートナーデジモンを呼んだ。

 

「絶対、負けないんだから!」

「ミーの優雅な戦いを見せてやるざんす!」

「さっさと倒して、シュテンモンって奴を懲らしめるよ!」

 

 まず動いたのは、カラムモンだった。

 オーガモンのうち、特に体格の大きな二体が棍棒を振り上げて突進してくる。

「行かせないんだから! パラライズウェイヴ!」

 カラムモンが細かい雷の嵐を発生させ、突進してくるオーガモン達を狙った。

 雷の嵐は地面を伝い、オーガモン達の全身を感電させる。

「ぐっ……し、痺れるっ!」

「体が……動かん!」

 オーガモン達は動きを止め、その間にカラムモンは距離を取り、

 後続のオーガモンへの牽制を続ける。

 データ種はウィルス種に不利だが、カラムモンが麻痺させたため、

 オーガモンの動きを封じるのに有効だった。

 その隙に、ガルゴモンが動く。

 ハンターデジモンとしての俊敏性を最大限に発揮し、

 静かに、しかし素早くオーガモンの懐へ飛び込んだ。

「早くどいてくれ! ガトリングアーム!」

 ガルゴモンは両腕のバルカンを近距離から連射し、オーガモンにダメージを与える。

 オーガモンは棍棒を振り回すがガルゴモンはそれを低い体勢で躱し、さらに攻撃を畳みかける。

「そのまま一気に畳み掛けろ! 逃げる隙を与えるな!」

 ガルゴモンは素早くオーガモンの懐に入り込み、下から突き上げる得意技を放つ。

「ダムダムアッパー!」

 ワクチン種の強力な突き上げがオーガモンの腹部に命中し、

 オーガモンは激しく地面に叩きつけられ戦闘不能になった。

 残りのオーガモン達は、仲間が倒された事に激昂し、同時に襲いかかってきた。

 彼らは一斉に棍棒を振り下ろす。

「ヴォレモン! 奴らの連携を断て!」

 北斗の指示で、ヴォレモンは、優雅な舞いを舞うように上空へ飛び上がり、必殺技を放つ。

「これでお別れざんす! スフレ・バットル!」

 ヴォレモンが巨大な暴風を巻き起こし、襲いかかるオーガモン達の群れを吹き飛ばした。

 この暴風は、オーガモン達の間合いと連携を完全に崩壊させた。

 オーガモン達は、体勢を崩し、ビル壁や障害物に叩きつけられる。

「ぐおっ! なんだこの風は!」

 暴風で動きが鈍ったオーガモン達に対し、多樹達は一斉攻撃の指示を出す。

「カラムモン、集中攻撃!」

「ガルゴモン、残りの奴を一掃しろ!」

 カラムモンのサンダービームが、痺れて動けないオーガモン達を正確に貫く。

 ガルゴモンは、ガトリングアームを掃射し、全てのオーガモンを倒した。

 

 戦いは短時間で終わった。

 流石に成熟体デジモン数体を相手にするのは容易ではなかったが、

 三体のパートナーデジモンの連携と、それぞれの特性を活かした戦術が功を奏した。




この話も前後編となっております。
多樹達は、シュテンモンを倒して町の危機を救えるのでしょうか……?
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