しかし、多樹達の行動は、その幹部には筒抜けのようであり……。
この町で最大の危機が訪れます。
タイガやミシルが隠れていたビルの中に、そのデジモンはいた。
「ひっひっひっ、人間どもを従わせるのは気持ちがいいのう」
巨大な身体を持つ、オーガモンとよく似た、しかしより威圧感のあるデジモンがいた。
腰には酒樽を模した装飾と大太刀を身に着けている。
究極体デジモン、シュテンモンだ。
シュテンモンの前には、恐怖で跪いている人々の姿があり、
それを見たシュテンモンは嗜虐的な笑みを浮かべている。
彼らはシュテンモンの圧倒的な力に、抵抗する気力を失っていた。
「うぅ……どうしてだ……逆らえない……」
「これこそ、ウィザードの望みじゃ。力と恐怖で跪かせる……何と美味よの」
跪く人々の一人から漏れた呻き声を聞き、シュテンモンは満足そうに喉を鳴らした。
力と恐怖は極めて原始的な手段で、法治の現代社会では通用しない。
しかし、シュテンモンは究極体であり、それが通用するほどの圧倒的な力を持っていた。
「お前は何が目的なんだ!」
まだ抵抗の意志を残す男性が、恐怖に震えながらも問いかけた。
「簡単な事じゃ。法というつまらぬものがあるから災いが起きる。
その災いを未然に防ぐのが、わしの目的じゃ」
「そんな歪んだ目的は……必要ない!」
「これでも、わしに逆らう気か?」
そう言って、シュテンモンは腰から大太刀を引き抜いた。
大太刀は鋭く、一振りで首どころか身体が真っ二つになりそうだった。
「……逆らいません」
その大太刀を見た男性は、すぐにシュテンモンに跪いた。
男性にとって、自分の命の方が大事だからだ。
世界を統治する法は、シュテンモンの絶対的な力の前には無力だった。
「ひっひっひっ! 見たか、人間どもめ! 世界はこれよりウィザードのものとなるのじゃ!!」
シュテンモンの高笑いが、ビルの内部に木霊した。
日曜日。
多樹が朝食を食べ終わり、北斗は多樹を誘って外に出かけた。
土曜日にウィザードの幹部に先手を打たれた事の焦りからか、
北斗は体を動かしたかったのだろう。
「よし、今日はゲーセンにでも行くか!」
「え、いいの? ありがとう!」
しかし、町はどこかおかしかった。
日曜日の昼前だというのに、人通りが極端に少なく、車の音もほとんど聞こえない。
「あれ? 何か、静かだね……」
「そうか? みんな、日曜だから家で休んでるんじゃねえの?」
よく様子を探ってみると、それは休日の静けさではなかった。
道の隅で立ち尽くしている人が何人かいるが、
彼らは皆、何かに怯えているように、虚ろな目をしていた。
そして、時折、彼らの口から「シュテンモン」という聞き慣れないデジモンの名が漏れる。
「シュテンモン……? まさか、またウィザードのデジモンが?」
多樹と北斗は、人々の様子から、この町が強大な何者かに従わされているという事を悟った。
「無理矢理従わせるなんて……あのブラック企業と同じだよ。
暴力と恐怖で、人々の心を支配しているんだ」
「とにかく、シュテンモンを倒しに行こうぜ!
究極体だろうが何だろうが、デジモンならオレ達が何とかする!」
「えっ、でも……」
「シュテンモンが悪いんだから倒せばいいんだろ?」
北斗は、目の前の問題を解決しようと勢い込むが、多樹は立ち止まった。
「ウィザードの幹部が隠れてるかもしれないよ。昨日の事があったじゃない。慎重に行こうよ」
多樹は、「敵に時間を使わされた」という事を覚えていた。
目の前のデジモンを倒す事だけが目的ではない。
多樹の話を聞いた北斗は、拳を握りしめながらも、冷静さを取り戻した。
「……くそっ。そうだな。焦ってまた罠にはまっちゃ、バカを見るだけだ」
その時、突然、近くの路地から、息を切らした男性が多樹達のところにやってきた。
彼は顔色が悪く、全身が震えていた。
「君達……若い子だね。シュテンモンのいる場所に、近づいてはいけない……」
「あなたは、シュテンモンから逃げてきたんですか?」
「そうだ……。シュテンモンは、ウィザードがけしかけたデジモンだ。究極体だぞ……。
あいつは、『法は無力だ。力と恐怖だけが真実だ』と言って、皆を従わせているんだ。
早く、逃げるんだ……」
男性は、それだけ伝えると、恐怖に駆られてどこかへと走り去っていった。
「え……本当に、究極体なんだ……」
究極体という響きに、多樹は一気に取り乱した。
今まで戦ってきたのは成長期と成熟期、そして戦った回数は少ないが完全体だった。
しかし究極体は、次元が違う強さだ。
とても、成熟期のデジモンが敵うはずがない。
しかし、シュテンモンを何とかしなければ、町は元の活気を取り戻さない。
人々の恐怖と絶望が、ウィザードの悪事をさらに加速させてしまう。
「北斗……ダメだ。逃げられない。シュテンモンを探しに行こう。零も一緒にね」
多樹と北斗は、まず零を探して合流する事にした。
零を見つけ、事の次第を伝えると、零もまた、その事態の深刻さに顔を険しくした。
「究極体か……。シュテンモンはやっぱりビルにいるようだな。行こう、多樹、北斗」
三人は、シュテンモンが潜むとされているビルへと向かった。
そのビルの入り口前で多樹達を待ち受けていたのは、シュテンモンの配下のオーガモンだった。
数体のオーガモンが、棍棒を構えて道の真ん中に立ちはだかっている。
彼らの目は、シュテンモンに支配されているのか、異様な光を放っていた。
「通すわけにはいかん! この場所は、シュテンモン様の支配下だ!」
「逆らう者は、力でねじ伏せてくれる!」
多樹達は、これがシュテンモンという究極体デジモンに挑むための、最初の試練だと理解した。
「いくよ! みんな!」
多樹達はパートナーデジモンを呼んだ。
「絶対、負けないんだから!」
「ミーの優雅な戦いを見せてやるざんす!」
「さっさと倒して、シュテンモンって奴を懲らしめるよ!」
まず動いたのは、カラムモンだった。
オーガモンのうち、特に体格の大きな二体が棍棒を振り上げて突進してくる。
「行かせないんだから! パラライズウェイヴ!」
カラムモンが細かい雷の嵐を発生させ、突進してくるオーガモン達を狙った。
雷の嵐は地面を伝い、オーガモン達の全身を感電させる。
「ぐっ……し、痺れるっ!」
「体が……動かん!」
オーガモン達は動きを止め、その間にカラムモンは距離を取り、
後続のオーガモンへの牽制を続ける。
データ種はウィルス種に不利だが、カラムモンが麻痺させたため、
オーガモンの動きを封じるのに有効だった。
その隙に、ガルゴモンが動く。
ハンターデジモンとしての俊敏性を最大限に発揮し、
静かに、しかし素早くオーガモンの懐へ飛び込んだ。
「早くどいてくれ! ガトリングアーム!」
ガルゴモンは両腕のバルカンを近距離から連射し、オーガモンにダメージを与える。
オーガモンは棍棒を振り回すがガルゴモンはそれを低い体勢で躱し、さらに攻撃を畳みかける。
「そのまま一気に畳み掛けろ! 逃げる隙を与えるな!」
ガルゴモンは素早くオーガモンの懐に入り込み、下から突き上げる得意技を放つ。
「ダムダムアッパー!」
ワクチン種の強力な突き上げがオーガモンの腹部に命中し、
オーガモンは激しく地面に叩きつけられ戦闘不能になった。
残りのオーガモン達は、仲間が倒された事に激昂し、同時に襲いかかってきた。
彼らは一斉に棍棒を振り下ろす。
「ヴォレモン! 奴らの連携を断て!」
北斗の指示で、ヴォレモンは、優雅な舞いを舞うように上空へ飛び上がり、必殺技を放つ。
「これでお別れざんす! スフレ・バットル!」
ヴォレモンが巨大な暴風を巻き起こし、襲いかかるオーガモン達の群れを吹き飛ばした。
この暴風は、オーガモン達の間合いと連携を完全に崩壊させた。
オーガモン達は、体勢を崩し、ビル壁や障害物に叩きつけられる。
「ぐおっ! なんだこの風は!」
暴風で動きが鈍ったオーガモン達に対し、多樹達は一斉攻撃の指示を出す。
「カラムモン、集中攻撃!」
「ガルゴモン、残りの奴を一掃しろ!」
カラムモンのサンダービームが、痺れて動けないオーガモン達を正確に貫く。
ガルゴモンは、ガトリングアームを掃射し、全てのオーガモンを倒した。
戦いは短時間で終わった。
流石に成熟体デジモン数体を相手にするのは容易ではなかったが、
三体のパートナーデジモンの連携と、それぞれの特性を活かした戦術が功を奏した。
この話も前後編となっております。
多樹達は、シュテンモンを倒して町の危機を救えるのでしょうか……?