デジモンアストリア   作:アヤ・ノア

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いよいよ、といった感じの物語です。
ウィザードの残る幹部を見つけるべく、多樹達が行動します。


第38話 幹部の居場所を突き止めて

 多樹達はシュテンモンをついに撃破し、町の平和を取り戻した……ように見えた。

 しかし、事件の犯人であるウィザードの幹部はまだ見つかっていなかった。

 

「最後の幹部は、さっきハッカーが見つけたんだ。一度、デジモン研究所に戻ろうぜ」

「うん」

 

 多樹達は、デジモン研究所の職員が見つけたウィザードの幹部の居場所の情報を得ようと、

 デジモン研究所に戻っていった。

 

 デジモン研究所に戻ると、サエが不安げな顔で多樹達を待っていた。

 

「無事でよかったわ。どうやら、シュテンモンを無事に倒したみたいね」

「けど、デジヴァイスのブースト機能が……」

 

 北斗が話そうとすると、多樹は首を振る。

 

「大丈夫。今はそれより、ウィザードの幹部の居場所を教えて」

 

 サエはすぐにパソコンの画面を多樹、北斗、零に見せた。

 そこには、以前にベツモンが命懸けで見つけた、

 ウィザードの幹部が潜む居場所が、詳細な座標データとして示されていた。

 それは、町の中心から少し離れた、古い廃墟となったデータ処理施設だった。

 

「間違いない。ベツモンが発見した、パスワードが守っていた場所だ」

 

 これはサエのベツモンがデジタルワールドで見つけた手がかりだろう。

 多樹達は、その座標データに従って、急いで廃墟へと向かった。

 

 廃墟となったデータ処理施設は、かつて町の情報を支えていた中枢だった。

 今では壁はひび割れ、天井からはケーブルが垂れ下がり、

 静寂の中に機械の残響だけが響いていた。

 多樹達は慎重に足を踏み入れ、

 デジヴァイスに搭載されていたライトで周囲を照らしながら進んでいく。

 床には古びた端末や破損したダークヴァイスの残骸が散らばっており、

 過去の激戦の痕跡を物語っていた。

 

「ここ……妙に静かだな。まるで誰かが、音を消してるみたいだ」

 

 北斗が警戒を強める中、零は壁の端末に手をかざし、微弱なデータの流れを読み取った。

 

「……この施設、まだ一部が稼働してる。誰かが意図的に電源を維持してるみたいだ」

 

 その言葉に、多樹は目を細めた。

 

「つまり、ウィザードはここを拠点にしてたって事か。罠の可能性もある。気をつけよう」

 

 進むにつれて、施設の奥に向かう通路は複雑に入り組み、まるで迷路のようだった。

 だが、ベツモンが残した座標データを頼りに、三人は迷わず最深部へと向かう。

 途中、彼らは奇妙な光を放つ痕跡を見つけた。

 それは、ダークヴァイスの影響を受けた痕跡であり、

 アイリアがこの場所で何らかの実験を行っていた証拠だった。

 

「見て。このデータ痕……通常の進化じゃない。強制的にデジモンを変異させた形跡がある」

 

 零の声に、北斗が拳を握り、歯を食いしばった。

 

「やっぱり、こいつ……ただの戦略家じゃねぇ。デジモンを道具としてしか見てない」

 

 そして、最深部の扉の前に辿り着いた時、扉には複雑な暗号が施されていた。

 多樹はベツモンが残したパスワードを入力し、扉を開く。

 重い音を立てて開いた扉の向こうには、冷たい空気が漂っていた。

 

「この辺にいるはずなんだけど……」

 

 多樹達が廃墟となったデータ処理施設の内部に入ると、

 建物の最深部に、一人の女性が立っていた。

 彼女の顔には、これまでのウィザードの幹部達とは違う、

 冷徹な知性と、深い絶望のようなものが混じっていた。

 その手には、タイガやミシルと同じ禍々しいダークヴァイスが握られていた。

 

「あなたがウィザードの幹部?」

 

 多樹はおずおずと、ダークヴァイスを持っている女性に声をかける。

 すると、女性は静かに多樹達に振り向いた。

 

「そうだ。名前を名乗る時は自分から名乗るもの……と言いたいところだが、私はアイリアだ。

 ウィザードの最終幹部だ」

「さっきからこそこそ隠れやがって。卑怯にもほどがあるぜ!

 卑怯者の癖に、オレ達を罠に嵌めやがって!」

「卑怯とは言わないでほしい。……私の話を聞いてくれるか」

 

 どこまでも卑怯とは認めないアイリアに、北斗は怒りで歯を食いしばる。

 しかし、多樹は落ち着いてアイリアの話を聞いた。

 アイリアの目には、単なる悪意だけでなく、何か深い悲しみが潜んでいるように感じたからだ。

 

「……私は小学校の時から将棋が好きだった。周りの生徒が羨むほど、技術に優れていた。

 奨励会でも、誰にも負けない自信があった」

 

 アイリアは、暗い目で自分の過去を語り始める。

 

「だが、私は女だからプロ棋士の道を断たれた。

 将棋をやる女は、女流棋士以外の道を進めなかった。

 私は、男達に勝つための将棋を指したかったのに、その道すら与えられなかった」

 

 多樹達に伝わったのは、アイリアが正しい努力をし、実力を持っていたにもかかわらず、

 社会の理不尽なルールによって、夢と誇りを奪われたという事実だった。

 それが、人々の幸せを恨む気持ちに変わり果ててしまったのだろう。

 彼女が将棋の『戦略』と『勝利への執着』を、

 そのままウィザードの悪事に持ち込んだ理由が、これで理解できた。

 

「不公正だ。私は全てを尽くしたのに、たった一つの理由で道が断たれた。

 その癖、能力もない凡人が、ただ生まれた性別や運で、簡単に夢を叶えていく!

 私以外の誰もが幸せになる権利など、どこにもない!

 デジモンの力で、世界を支配するのだ!!」

 

 アイリアもまた、ミシル同様に性別を理由でウィザードの幹部となり、

 その「報われなかった思い」を悪事へと転化させていた。

 しかも、彼女はずっと陰に隠れ、デジモンを使って人々を操ってきたのだから、

 見つかるはずがなかった。

 

「同じ女性として、あなたの気持ちは分かるよ。

 理不尽だったと思う。プロの道を閉ざされたのは、本当に悔しかったと思う……。

 けれど……あなたがその理不尽を、今度は力で他人に押し付けた。

 陰でこそこそ悪い事をしてたなら、私達は絶対に、見過ごせない」

 

 多樹は、アイリアに同情しながらも、彼女が行ってきた悪事は許せなかった。

 北斗と零も、多樹に続いてアイリアの悪事を止めようとする。

 三人は既に、デジヴァイスを構えていた。

 アイリアの、そして彼女のデジモンと戦う準備は、とっくにできていた。

 

「将棋の上手さをもっと別の道で使えてたら、お前もプロ棋士になれたと思うけどな。

 本当にもったいないぜ……だから、オレ達が止めなくちゃ」

「僕の両親を騙した組織に入るとは、もったいない事をしたな。

 君ほどの知略があれば、きっとこの世界の不公正を変える別の道を選べたはずだ」

 

 北斗と零は、ウィザードとして悪事をしてきたアイリアを可哀想な目で見ていた。

 しかし、それでもウィザードの幹部である彼女を、見過ごすわけにはいかなかった。

 そんな二人を見たアイリアの顔に、怒りと諦めが混じったような、複雑な感情が浮かんだ。

 

「貴様らは私の道を阻むのか。正義と称して、私を断罪するのか。

 ならば、私は全力で貴様らを迎え撃とう!

 タイガやミシルの敵を討つわけではないが……この戦いは、私が勝つ!」

 

 アイリアはダークヴァイスを力強く握りしめた。

 彼女の目には、勝利への執念が燃えていた。

 

「それはできないぜ。お前はオレ達に負けるんだからな!」

 

 今、多樹達と、ウィザードの真の頭脳であり、

 「報われなかった理不尽」が生んだ最後の敵、アイリアとの戦いが始まろうとしていた。




次回、ついにウィザードの最後の幹部と戦います。
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