敵を止めるための重要なデータを、多樹達が探しに行きます。
町ごとデジタルワールドに飛ばされるという最大の事件を経験した多樹達は、
パートナーデジモンと共にはじまりの街を後にした。
足元の土は柔らかく、空気は微かにデータノイズの匂いがする。
しばらく歩くと、遠方に、異様な光景が広がっているのを発見した。
それは、見慣れたはずの、自分達の町だった。
しかし、町は確かに存在しているものの、全てが歪んでいた。
建物の壁面は不規則なテクスチャで覆われ、
空には本来あるはずのない巨大な多角形の雲が浮かんでいる。
信号機は意味不明なデジ文字を点滅させ、
道路のアスファルトは、見る角度によって虹色のデータノイズを放っていた。
「……あれが、私達の町……」
多樹は、驚きと、悲しみと、怒りが混ざった感情で、その歪んだ故郷を見つめた。
町は辛うじて機能しているように見えるが、
デジタルワールドのデータ構造と無理矢理融合した結果、どこか悪夢のように異様だった。
「これも……アイリアのせいなんだね。町をこんな風にするなんて」
「くっそぉ……アイリアの奴、本当にやりやがったな!」
「落ち込むのは早い、多樹、北斗。アイリアは確かに倒したが、町はまだここにある。
ここを脱出するためには、まずは情報収集をしよう」
多樹達は、決意を新たにし、デジタルワールドに取り込まれた自分の町へと足を踏み入れた。
町の中は、静寂に包まれていた。
人々の姿はあるが、誰も動いていない。
スーパーのレジを打つ途中の店員、立ち止まって携帯電話を見つめる高校生、
公園でボールを追いかけていた小さな子供達。
誰もが、町がデジタルワールドに取り込まれた瞬間に時を止められたかのように、
固まっている状態だった。
まるで、巨大な写真の中に迷い込んだようだ。
無事なのは、多樹達「特別な子供」と、パートナーデジモンだけだった。
デジモンと強い絆で結ばれた多樹達だけが、
デジタルワールドの急激なデータ構造変化に耐えられたのだろう。
「おい、あれを見ろ、多樹!」
「え……?」
多樹は、通学路を歩いていたのだろう、
呆然とした表情で固まっている明日香の姿を見つけて、驚愕した。
「そんな……明日香!」
多樹が明日香の肩に触れるが、反応はない。
まるで氷のように冷たい、静止した身体だった。
「明日香、目を覚まして!」
多樹は明日香に声をかけるが、やはり明日香は動かない。
悲しむ多樹に、カラムモンが声をかける。
「多樹ちゃん、落ち込まないで! みんなを元に戻すには、元凶を倒すしかないんだから!」
「そ……そうだね! ありがとう、カラムモン!」
多樹はカラムモンに励まされ、北斗や零と一緒に街で情報を収集し始めた。
固まった人々のデータ情報、崩壊したデータ処理施設の残骸、
そして、デジタルワールドのデータノイズを解析していく。
零が、町のデータノイズの中から、一際強い情報波をキャッチした。
「多樹、北斗。これを見るんだ」
零がヴォレモンの翼に投影したデータによると、
ウィザードのボスが、どこかで大規模な計画を立てている事が分かった。
「なんだ、この壮大なデータは!?」
「ミー達の想像を超えた、悪の計画ざんす……!」
そして、ボスがいる最終拠点に辿り着くためには、
特殊なセキュリティシステムが設けられている事も判明した。
そのシステムを解除するための「鍵」は、
八体のデジモンがデジタルワールドの各地で守っているという。
零が、その八体のデジモンのデータ名を読み上げる。
「鍵を守っているデジモンは以下の八体だ。
……ノビアガリモン、カレンモン、ポットモン、ハッシャクモン、
バニプモン、チュパカモン、ミサキモン、ルリムモン」
データノイズに乗って、八体のデジモンの姿が空間に投影される。
全員、完全体のデジモンだ。
彼らは、いずれも一筋縄ではいかない強さを持っているように見えた。
「……まるで、ゲームのような、単純な解決方法だな。
八体のデジモンを倒し、八つの鍵を手に入れるという」
「でも、これくらい単純な方がいいな!
どこにいるか分からねぇデジモンを探すより、目標がはっきりしてる方が、オレは燃えるぞ!」
「うん! デジヴァイスは使えないけど、パートナーデジモンの絆の力があれば、きっと勝てる!
私達は、絶対に元の日常を取り戻す!」
多樹達の声が、静止した故郷に響き渡る。
三人は、ウィザードのボスを止め、全ての人々を救うため、
八体のデジモンとの連戦に挑む事を決意した。
その時、空から眩い光が降り注いだ。
光の中から姿を現したのは、星と正義を司る究極体デジモン――ユスティアモンだった。
「……特別な子供達よ」
澄んだ声が響き渡り、三人とパートナーデジモンは思わず顔を上げる。
右手のスターソードは淡い星屑を纏い、左手のジャスティスライブラは静かに揺れていた。
黄金の鎧に身を包み、背後から星々の輝きを背負ったユスティアモンが、
ゆっくりと歪んだ町のアスファルトに降り立つ。
その神々しさに、北斗は思わず息を呑んだ。
「なんだよ……このデジモン。オーラが全然違う……」
「右手に剣、左手に天秤……神話の正義の女神を具現化したような姿だ」
零もその圧倒的な存在感に言葉を失うが、多樹だけは違った。
彼女の瞳には、驚きよりもどこか懐かしさに似た色が宿っている。
夢の中で見た、邪悪なるバルバモンと対峙していたあの高潔な光――
多樹は一歩前へ踏み出し、まっすぐにユスティアモンを見つめて問いかけた。
「……ユスティアモン。私達に何か用でもあるのですか?」
ユスティアモンは静かにジャスティスライブラを揺らし、その清らかな声を響かせた。
「特別な子供達よ。
この町を覆う歪みを正すためには、八体の守護者を倒し、鍵を集めてください。
彼らを打ち破らぬ限り、悪しきデジモンの計画は止まりません。
世界は、均衡を失い、混沌へと飲み込まれるでしょう」
「八体の守護者……さっき零が言っていたデジモン達の事だね」
多樹の声が微かに震える。
完全体デジモン八体との連戦は、あまりにも無謀な試練に思えた。
しかし、その不安を払拭するように、隣にいたカラムモンが多樹の頬をそっと撫でた。
「多樹ちゃん、落ち込まないで! 多樹ちゃんなら絶対にできるよ。
わたし達がついているんだもん!」
「……カラムモン」
多樹が顔を上げると、そこには不敵な笑みを浮かべるヴォレモンと、
静かに銃口を点検するガルゴモンの姿があった。
「そうざんす! ミーの華麗な翼があれば、どんな敵も一網打尽ざんす。
北斗なら勝てるざんすよ!」
「ヴォレモン……。ああ、当たり前だ!
鍵だろうが何だろうが、まとめてぶっ飛ばしてやるぜ!」
北斗が拳を突き出すと、ガルゴモンも零の隣で力強く頷いた。
「零、心配しないで。零は僕が守るからね。君の作戦があれば、僕達は負けない」
「……ああ。君の盾となり、僕が道を示そう。行こう、ガルゴモン」
パートナーデジモンの真っ直ぐな言葉に、多樹の胸の奥で勇気が熱く燃え上がった。
明日香や、時を止められた町の人々。
彼らを救えるのは自分達、特別な子供しかいないのだ。
「ユスティアモン、分かりました。私達、行きます。
八つの鍵を全部集めて、必ずこの歪みを止めてみせます!」
多樹の決意に満ちた宣言を聞き、ユスティアモンは一度だけ深く頷くと、
星屑のような光の粒子となって空へと消えていった。
「よし! 最初はどいつだ? ノビアガリモンか? どこにいても引きずり出してやるぜ!」
北斗の威勢の良い声と共に、三人と三体は歪んだ町の奥、最初の鍵が眠る場所へと走り出した。
静止した世界の中で、彼らの足音だけが力強く、未来を刻むように響き渡っていた。
次回はパートナーデジモンと共に八体のボスを倒しに行きます。
つまりロッ○マン風です。