アニメでラスボスになるどころか登場すらしてないこいつは、
「強欲」をテーマにしたアストリアではまさにピッタリ、と思ってこうなりました。
多樹達は果たして、バルバモンと戦い、勝つ事ができるのでしょうか……?
そして、ユスティアモンは……。
「あ、あのデジモンは……私が夢で見た……!」
バルバモンの長い髭と、威厳に満ちた老人の姿を見て、
多樹の身体は恐怖と怒り、そして既視感から、一瞬固まる。
多樹の夢の中で見たこの魔王型デジモンこそが、町で起きた全ての事件の黒幕だったのだ。
「知ってるの、多樹ちゃん?」
プラズマでできた体躯を持つブルーエルフモンが、多樹を守るように前に出る。
「うん。夢の中でユスティアモンと戦ってたんだ。
まさか、お父さんを倒したのが、あのデジモンだったなんて……」
「多樹ちゃん、それよりも、あなたのお父さんを心配しなよ」
「……すっかり忘れてた! お父さん、大丈夫!?」
多樹は倒れた誠に駆け寄り、肩を抱き起こす。
幸い、急所は外れたので無事なようだが、誠の身体はボロボロだ。
「……すまない、多樹。あのデジモンが私を攻撃するなんて……」
「……酷い! なんでお父さんを攻撃したの!?」
多樹は誠をその場に横たえ、バルバモンを鋭い目で睨みつける。
バルバモンは魔杖デスルアーを地面に突き立て、不敵な笑みを浮かべながらこう言った。
「敗者に価値などないからだ」
バルバモンは、まるで敗者など、どうでもいいかのような態度だった。
強欲の魔王にとって、誠は用済みの捨て駒に過ぎないのが、この言葉と態度で分かる。
「おい、ふざけんな! ウィザードはどうしてオレ達に迷惑をかけたんだ!?
しかも、多樹の父さんを利用するだけ利用して、なんで殺そうとしたんだ!」
「無論、余がデジタルワールドと現実世界の宝を得るためだ。
余は人間の欲望に最も興味があった。だから少し刺激しただけだ。
ウィザードとやらは素晴らしい駒だったぞ」
バルバモンはウィザードを完全に自分の道具としか思っていなかった。
世界を支配するためなら、たとえどんなものであっても利用する、
まさしく強欲の魔王らしいバルバモンに、多樹達は震え上がる。
「酷いよ……お父さん達を利用して、用が済んだら攻撃して消そうとするなんて……。
バルバモンはお父さん達の信頼を踏みにじったって事なんだよ! 知らないの!?」
「そんな自己中な理由で現実世界を巻き込んだあんたを、わたしは絶対に許さないんだから!」
多樹は、バルバモンのあまりの非道さに、ついに涙を流した。
ブルーエルフモンは、全身のプラズマを激しく波立たせ、怒りを露わにしている。
「それがどうした! 欲深いものどもが余にとって最も価値のある宝だぞ!
これほどに素晴らしい宝、手に入れないわけにはいかぬ!」
バルバモンは開き直ったような態度を取る。
最早、話し合いや交渉の余地は、微塵も残されていなかった。
「お前みたいな自己中に町を取られてたまるか! オレ達の友情をバカにされてたまるか!」
「強欲の魔王バルバモン……。悪い事は言わないから、さっさと身を引くざんす。
ミー達は、信頼の力でここまで来たざんす!」
「僕……いや、僕達はお前を倒す。
お前一人だけのためにみんなが混乱し、大切なものを奪われたなんて、信じられないからな」
「こんな外道だからこそ、全力で戦えるよ! 遠慮はいらないって事だ!」
「フフフ……全て消し去ってくれる。
究極体の力であっても、この七大魔王の前では、塵に等しいわ」
多樹達の気持ちを背負った、三体の究極体デジモンが、バルバモンへと挑む。
世界の支配を企むバルバモンは、必ず止めなければならない。
「許さないんだから! アストラル・ブレイク!」
ブルーエルフモンの全身を構成する青いプラズマが一瞬で圧縮され、
大気圏を突き破るほどの超光速へと加速した。
流星のような青い閃光が、バルバモンの懐目掛けて一直線に突き進む。
その精緻なデータの身体と圧倒的なスピードは、
バルバモンの邪悪なオーラさえも一瞬で引き裂くかに見えた。
「援護するぞ! バーストショット!」
ブルーエルフモンの突進に合わせ、
セントガルゴモンが装備したレーザー、ミサイル、バルカン砲が一斉に火を噴いた。
一瞬にして、全身が花火と化し、無数の砲撃がバルバモンの全方位から降り注ぐ。
その全てが、バルバモンの動きを鈍らせ、
ブルーエルフモンの一撃を確実に通すための、計算され尽くした弾幕だった。
「ミーはもう、お前なんか絶対に許さないざんす! 尊天大烈風!!」
テングモンは軍配に験力を込め、バルバモンに向けて振るう。
周囲の空間に、巨大な竜巻が発生し、バルバモンの動きを僅かでも鈍らせようと試みた。
しかし、バルバモンは七大魔王の一体で、強欲を司る魔王。
その力は、子供達のパートナーデジモンの究極進化を遥かに上回っていた。
「フフフ……そう来たか。しかし、余の力は、貴様のような光など容易く飲み込む」
バルバモンは、その長い髭を風になびかせながら、微動だにしない。
ただ、手に持つ魔杖「デスルアー」を、ゆっくりと、しかし確かな力で回転させた。
「闇よ、全てを飲み込め!」
杖の回転と共に、バルバモンの周囲の空間が、深淵の闇へと変貌する。
邪悪なエネルギーが渦を巻き、それはまるで巨大なブラックホールのように、
三体のデジモンが放った攻撃の全てを吸い込み始めたのだ。
「そ、そんな……わたしの攻撃が効かないなんて!」
「なんて強い吸引力ざんす!」
「うわぁっ……僕の攻撃が、吸い込まれた……!」
ブルーエルフモンの超光速の軌道は、渦に触れた瞬間に減速し、青いプラズマの輝きが鈍る。
セントガルゴモンのバーストショットは、ミサイルもレーザーも全てが闇の中に呑み込まれ、
一発の爆発音すら残さない。
テングモンの巨大な竜巻も、邪悪な渦の前では、まるでそよ風のように掻き消された。
「パンデモニウムロスト!!」
そして、バルバモンはデスルアーの回転を一瞬で止める。
その瞬間、渦に吸い込まれた全てのエネルギーと、
バルバモン本人が持つ邪悪なエネルギーが、三体のデジモンへと反転して逆流する。
「きゃああああっ!」
「しまったざんす!」
「耐えられないよ!」
三体の究極体デジモンは、自らの力を跳ね返され、攻撃を防ぐ間もなく地面に叩きつけられた。
その強力な一撃は、彼らの身体から輝きを奪い、
立ち上がるのすら困難なほどの重いダメージを与えた。
「これで邪魔な奴は全て消えた。ついに全ての宝は余のものとなるのだ!!」
バルバモンは、勝ち誇ったように、高らかに宣言した。
その時、バルバモンの後ろから、大きな裂け目が現れ、一筋の温かい光が差し込んだ。
「させません!」
「なっ!?」
ユスティアモンが次元の裂け目から現れ、バルバモン目掛けて突っ込む。
バルバモンは、ユスティアモンが攻撃してきた事に驚く。
「ユスティアモン!? 貴様、あの時、余が消し去ったはずなのに……!」
「私は、子供達とデジモンが命懸けで戦っているのを見て、諦めるべきではないと思ったのです。
あなたのような強欲な者に、現実世界とデジタルワールドを奪われる訳にはいきません!」
光と共に舞い降りたユスティアモンは、その身を挺してバルバモンへと突撃した。
三体の究極体がバルバモンの前に倒れたため、今度は自分がバルバモンを倒そうとしたのだ。
「スターダストスラッシュ!」
右手に持つ剣「スターソード」が、ユスティアモンの心に宿る正義の力と呼応し、
瞬時に星屑のような光を纏った。
ユスティアモンは、その光の剣で、バルバモンの巨大な体躯に肉薄し、
目にも止まらぬ速さで何度も切りつけた。
スターソードがバルバモンの身体に当たるたび、凄まじい火花が散る。
ユスティアモンの攻撃は、バルバモンに確実なダメージを与えていき、
バルバモンの身体から黒いノイズが噴き出す。
「小賢しい! 正義の光など、深い欲望の闇には届かぬわ!」
バルバモンはユスティアモンに切りつけられながらも、
怯む事なく、左手の天秤「ジャスティスライブラ」へと目を向けた。
「ライブラジャッジメント!」
ユスティアモンが天秤を掲げると、その皿の一つに、
バルバモンの魔王としてのデータ、「強欲の魂」が映し出された。
天秤が激しく揺れると、バルバモンの纏う邪悪なオーラが軋み、
バルバモンの力が一時的に弱まった。
これは、ユスティアモンがバルバモンの存在そのものを「悪」であると裁いたからなのだ。
「ぐっ……余がこんなにも傷つくだと……! 貴様、やはり厄介なデジモンよ!」
バルバモンは一瞬の苦悶の表情を浮かべたが、
七大魔王としての圧倒的な力とその闇の深さは、ユスティアモンの力を凌駕していた。
そして、バルバモンはデスルアーを強く地面に叩きつけ、
体内の邪悪なエネルギーを一気に逆流させる。
「パンデモニウムロスト!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
デスルアーから解放された純粋なエネルギーの衝撃波が、ユスティアモンの身体に直撃した。
ユスティアモンの聖なる光の輪郭が罅割れ、右手のスターソードは力なく手から滑り落ちる。
バルバモンの必殺技を受けたユスティアモンは、呻き声を上げる事もできず、
空間の端まで大きく弾き飛ばされた。
「愚か者め。所詮、余に勝てる者は誰もいないのだ」
ユスティアモンは力を使い果たし、崩れ落ちる。
その身体を構成するデータは、今にも消え入りそうに弱々しく点滅していた。
バルバモンは倒れているユスティアモンに、すぐに背を向ける。
「ユスティアモン!」
「……私はもう長くないでしょう。だから、この力を、あなた達のデジモンに授けます。
どうか、バルバモンを倒してください」
多樹の悲痛な叫びに、ユスティアモンは微笑みで応えた。
「あんなの……倒せるわけが……」
「いいえ、あなた達なら必ずバルバモンに勝てます。どうか、自分とデジモンを信じてください」
ユスティアモンは最後の力を振り絞り、その星と正義を司るエネルギーを、
倒れていたブルーエルフモン、テングモン、セントガルゴモンの三体に注入し彼らを強化する。
そして、光の粒子となって、ユスティアモンは静かに消えていった。
「……ユスティアモンが、力をくれたんだ。私達は、絶対に負けない!!」
多樹は立ち上がり、涙を拭って叫んだ。
バルバモンは、強化されたデジモン達を見て、鼻で笑う。
「何度やっても同じ事! 正義など、欲望の前には無力! また返り討ちにしてくれる!」
ユスティアモンの最後の力を受け継いだ瞬間、
三体のデジモンは、自らの内に宿る友情と、正義の心が沸騰するのを感じた。
ブルーエルフモンの全身を包むプラズマは、傷つく前の何倍も強く、神々しい輝きを放った。
テングモンの全身も、ウィルス種でありながら光り輝いている。
セントガルゴモンの装甲からは、ユスティアモンの神聖な力が熱線のように立ち昇っていた。
「わたし、ううん、わたし達は絶対に……あんたを倒す!」
「小癪な真似を! その程度の力、何度でも余がねじ伏せてくれる! パンデモニウムロスト!」
バルバモンはデスルアーを振り上げ、再び邪悪な渦を発生させようとするが、
その動きは先程よりも遥かに遅い。
ユスティアモンがつけた傷が、バルバモンのデジコアに深く食い込み、
その強大な力を阻害していたのだ。
「動きが鈍い……?」
「多分、ユスティアモンのおかげでバルバモンが弱ったんだ」
「そうだよ! だから、絶対にユスティアモンの力を無駄にはしない!
エネルギー全開! ジャイアントミサイル!!」
零の強い意志に応え、セントガルゴモンの胸部のハッチが開き、
両肩の砲塔が最大出力へと切り替わった。
自分のエネルギーとユスティアモンが授けた力が融合したメガトン級のミサイルを、
唸りを上げて、バルバモン目掛けて一直線に射する。
その弾道は、邪悪な渦を無視するように、空間を一直線に貫いた。
ミサイルはバルバモンの懐で炸裂し、強欲の魔王を激しい白煙と火花の中に包み込んだ。
「チャンスは一瞬! 行くよ、テングモン! アストラル・ブレイク!」
「分かったざんす! この一撃で全てを終わらせるざんす! 魔縁斬蹴撃!!」
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
爆煙の向こうにバルバモンのシルエットが浮かび上がった瞬間、
ブルーエルフモンが再び超光速で突撃する。
ユスティアモンの加護を得たブルーエルフモンの体当たりは、
青い雷光となり、バルバモンの身体へ残された傷口へ正確に食い込んだ。
同時に、テングモンが下駄底の刃で斬撃を伴った強烈な蹴りを放つ。
それは、バルバモンの身体を四方八方から押し潰すような強力な衝撃波となり、
バルバモンの逃げ道を完全に断った。
ブルーエルフモンの突進がバルバモンのデジコアを貫き、
テングモンの衝撃波が、バルバモンの体躯を粉々に砕いた。
「バ、バカな……。この余が……! 人間の脆い信頼に、この強固な力が敗れるとは……!」
バルバモンは、信じられないというように目を見開いた。
魔王が最も軽蔑し、無価値だと見下していたはずの「信頼」が生み出した力が、
自らの絶対的な支配の野望を打ち砕いたのだ。
バルバモンの身体は急速にデータへと分解し始める。
敗れたバルバモンは、消滅する間際、
多樹達に向かって、最後の力を振り絞って恨みの言葉を吐き出した。
「だが忘れるな、人間の欲望はダークエリアより深く暗い。
余を倒したところで、それは決して消えぬ……!」
そして、バルバモンはその邪悪な捨て台詞と共に完全に消滅した。
その場に残ったのは、微かに焦げた電子の匂いだけだった。
「やった……! バルバモンに、勝った……!!」
多樹は張り詰めていた全ての力を失い、その場に座り込んだ。
彼女の瞳には安堵と、ユスティアモンへの感謝、そして父親を守り抜いた達成感が満ちていた。
「最後にバルバモンが何か言っていたが、あれは何だ? 人間の欲望がどうとか……」
「どうせ、負け犬の捨て台詞だよ。気にするな。これで全部終わったんだ」
零と北斗が安堵の表情で話をしていると、ブルーエルフモンが静かに宙に浮かび上がった。
そのプラズマの輝きが、どこか寂しげに見えた。
「多樹ちゃん、零、北斗……。そろそろわたし達、お別れの時みたい」
「ブルーエルフモン!?」
多樹は驚愕で目を見開いた。
ここで別れるだなんて、多樹はとても思っていなかったからだ。
「今、バルバモンが消滅した事で、現実世界とデジタルワールドを繋げていた力が消えて、
二つの世界が元に戻ろうとしているの」
「ミー達デジモンは、死んでもデジタマに戻るだけざんす。
だからバルバモンは、またデジタマから生まれ変わり、
いつかまた襲ってくるかもしれないざんす」
「でもね、みんなでとことん懲らしめたから、当分は襲ってこないと思うよ。
その間に、僕達がデジタルワールドを守っていくんだ」
「なんでだよ! オレ達、友達だろ!? せっかく究極体になったのに!」
究極体になったのに別れるなんて、北斗は信じられないといった表情をしていた。
しかし、テングモンは首を横に振って話を続けた。
「友達……ざんすか。それは、ミー達にとって、何よりも大切ざんす。
でも、現実世界とデジタルワールドが繋がっていたら、
人間の欲望によって、また異変が起こるかもしれないざんす」
「バルバモンの言う通り、人間の欲望は、デジタルワールドにも手を伸ばすからね。
だから、二つの世界は離れているべきなの」
「だから、これからは僕達自身が、このデジタルワールドで、平和の番人として、
デジモンがまた悪い事をしないかを監視していくんだ」
三体の究極体デジモンは、多樹達の前にデジヴァイスを見せる。
「あれは、私達のデジヴァイス!」
「もう、あなた達の役目は終わった。これからは普通の子供として生きてほしい」
銀の鍵の力を吸収したデジヴァイスが、強く光り始めた。
光に包まれていくデジモン達と共に、
多樹達のデジヴァイスも、その場でデータとなって消えていった。
「どうして……!」
「デジヴァイスがなくても、わたし達の絆は、確かにそこにある。
わたし達が友達って事は、永遠に忘れないからね」
「ユー達の事は、何があっても決して忘れないざんす!
ミー達のデジコアに刻まれた、最高の宝ざんす!」
「ずっと友達だよ! 離れ離れでも、絶対に、忘れないからね!」
「ああ……これからもデジタルワールドを守って行けよ……! また会おうな!」
「……セントガルゴモン……。もう……さよならだね」
そして、辺りは眩い光に包まれた。
光が消えた後、バルバモンによって歪められた世界は、元の姿を取り戻し始めていた。
多樹達が次に目覚めた時、そこは、日常が戻った、懐かしい故郷の風景だった。
彼らのデジヴァイスは消えたが、その胸には、究極体へと進化し、
七大魔王の一人と戦った、デジモン達との永遠に消えない友情が刻まれていた。
次回がデジモンアストリア最終回です。
どうか、多樹達の物語を、最後まで見届けてください。