彼が主人公らとどう関わっていくのか、楽しみにしていてください。
「はぁ、はぁっ……何とか間に合った……!」
「ぜぇ、ぜぇっ……ギリギリセーフだぜ……!」
「うぅっ……苦しかった……!」
多樹、北斗、明日香は何とか、星海小学校の授業の時間に間に合った。
誘拐犯とのデジモンバトルに巻き込まれてしまったからだ。
「多樹がギリギリセーフだなんて、今日は雨が降るのか?」
「あ、あの、それは……」
クラスメートに心配された多樹は慌てふためく。
事件が解決すると「特別な子供」以外から記憶が消えるため、多樹は上手く言えなかった。
北斗も「ちょっと手間取っただけだ」と誤魔化す。
「は、早く自分の席に座ろう! 多樹!」
「そ、そうだね!」
二人が自席に着くと、ちょうどチャイムが鳴り、担任の教師が教室に入ってきた。
明日香はまだ少し震えているようだったが、多樹が明日香に手を振ると安心したように頷いた。
六時間目は、理科の授業になった。
今日のテーマは「植物の成長」だ。
多樹は優等生らしく、ノートにびっしりと要点を書き込んでいく。
北斗は時々ペンを止めて窓の外を眺めたり、隣の多樹のノートを覗き込んだりしている。
明日香は、まだ少し恐怖心が残っていたが、それでも真面目に先生の話を聞いていた。
「多樹、さっきはありがとう……本当に怖かった」
休み時間になり、明日香が多樹にそっと話しかけた。
「いいんだよ、明日香。友達なんだから当たり前じゃない」
多樹は優しく微笑む。
明日香の顔に、ようやくいつもの明るさが戻ってきたようだった。
「多樹は明日香の事、本当に大切にしてるもんな」
二人でお喋りをしていると、いつもの日常が戻ってきたように感じられた。
しかし、多樹の心の奥底には、先日、北斗の父・有雄が言った
「ダークヴァイスが広がれば世界は大変な事になる」という言葉と、
昨日のインプモン、今日のガジモンの記憶が鮮明に残っていた。
そして、今朝聞こえた「特別な子供はあと一人」という謎の声も。
その頃、同じ星海小学校の別の教室――6年1組では、静かに授業が進んでいた。
このクラスで一際目を引くのは、窓際の席に座る一人の少年、富士崎零だ。
中性的な顔立ちに、伏し目がちな瞳は感情を読み取りにくく、
どこか謎めいた雰囲気を纏っている。
クラスメイトからの熱い視線にも全く無頓着な様子で、
彼はただ静かに、教科書に視線を落としていた。
(……あの二人が、余計な事をしてくれた)
零の脳裏には、昨日路地裏でガジモンと戦っていた多樹と北斗の姿が鮮明に焼き付いていた。
彼らが自分と同じような「特別な子供」である事も瞬時に理解した。
(明日香は、闇に落ちてくれるはずだったのに。
そうすれば、あの計画はもっと簡単に進んだものを……)
零は小さく舌打ちをした。
女子に恋する誘拐犯の女性を利用し、明日香を闇に引きずり込もうとしていた。
しかし、多樹と北斗の介入によって、その計画は未遂に終わった。
授業中、零はふと窓の外に視線を向けた。
青い空が広がり、雲がゆっくりと流れていく。
しかし、その瞳の奥には、どこか冷たい光が宿っていた。
(まあいい。いずれにせよ、計画は止める事はできないからな)
彼の表情は変わらないまま、静かに次のページへと教科書をめくった。
「北斗、思ったんだけど、デジモン研究所に行っていいかな?
こんなにたくさん、事件が起こるなんておかしいし」
放課後、多樹はこの事件の原因を探るために、北斗の家に行こうとしていた。
「ん? いいけど、母さんにあまり心配はかけるなよ」
「分かってるよ。……ダークヴァイスは誰が広げたのか、知りたいな……」
ダークヴァイスはデジモンを無理矢理操る危険な装置だ。
それが広がれば、悲劇が起こってしまうと北斗の父親は言っていた。
しかし、ダークヴァイスがどこから来たのか、多樹はどうしても知りたかった。
そのため、デジモン研究所である北斗の家に行きたかったのだ。
「んじゃ、調べたら早く帰ろうな!」
「うん」
多樹は北斗と一緒に、デジモン研究所に行こうとした、その時だった。
「邪魔はさせないぞ」
「あ、あなたは……!」
突然、多樹と北斗の目の前に、中性的な容姿の少年が現れた。
「よくも計画を邪魔してくれたな。ここで君達を倒さなければならない」
「待ってよ! 私、あなたと戦う理由なんてない!」
「おい! 多樹を傷つけるなら、容赦しないぞ!」
北斗は少年を睨みながらデジヴァイスを構える。
それを見た少年も、デジヴァイスを構える。
多樹は北斗と少年を交互に見て、戸惑った。
「あ、あなたにもパートナーデジモンがいるの……? だったら、戦わなくてもいいじゃない」
「いや、男には引けないものがあるんだ。多樹は下がってろ。オレがこいつと戦う」
「……」
多樹は北斗と少年が戦う事に心を痛めていたが、説得は通じなさそうだった。
仕方なく多樹は、北斗の後ろで見守る事にした。
「僕の名は
少年――零がデジヴァイスを使うと、長い耳を持った獣型デジモン、テリアモンが現れた。
「零、いくよー!」
「望むところだ、フルーモン! 行くぜ!」
「こいつを止めるのがミーの役目ざんすね」
北斗もデジヴァイスからパートナーデジモンのフルーモンを呼び出した。
テリアモンは、その可愛らしい見た目からは想像できない素早さで、北斗のフルーモンに迫る。
北斗のデジヴァイスから飛び出したフルーモンが、漆黒の翼を広げ、風を纏って応戦する。
「プチツイスター!」
テリアモンの長い耳がプロペラのように回転し、小型の竜巻が発生する。
竜巻はフルーモンに向かって一直線に飛んでいった。
「ヴァン・ド・クロウ!」
フルーモンは素早く風の刃を生み出し、プチツイスターを切り裂く。
しかし、テリアモンは怯まず、
その小さな体からは想像もつかないほどのパワーでフルーモンに突進した。
「僕のパンチは伊達じゃないよー!」
「ぐっ!」
テリアモンの拳がフルーモンの腹部にめり込み、フルーモンは苦しげな声を上げて後ずさる。
「フルーモン! 大丈夫か!?」
「くっ……なかなかのパワーざんす……!」
フルーモンは体勢を立て直すと、再び風を操り、テリアモンを囲むように旋風を巻き起こした。
「これで動きを封じるざんすよ!」
「ブレイジングファイア!」
フルーモンの巻き起こした風に、テリアモンは動きを阻まれる。
テリアモンは風の渦の中で体勢を低くし、口から高熱の熱気弾を吐き出した。
熱気弾は風を切り裂き、フルーモンに迫る。
「危ない、フルーモン!」
「うわっ!」
フルーモンは間一髪で避けるが、熱気弾はフルーモンの翼の一部を焦がし、その勢いを削いだ。
北斗は焦り、多樹も心配そうに見守る。
互いにダメージを受け、戦いは拮抗していた。
「もうやめて!」
多樹はたまらず叫んだ。
北斗も零も、テリアモンもフルーモンも、多樹の声に動きを止める。
「何だよ、多樹! 今がいいところだろ!」
「そうだぞ。僕の邪魔はしないでくれ」
「違うよ! どうして戦わなきゃいけないの!?
パートナーデジモンがいるんでしょ!? 私達と同じ仲間じゃないの!?」
多樹の言葉は、北斗の胸にも響いた。
零は無表情のまま、多樹を見つめる。
「……僕には、僕にしかできない使命がある。君達には邪魔をさせない」
「使命って何!? ダークヴァイスを広げる事が、あなたの使命だっていうの!?」
多樹の鋭い問いかけに、零の表情に初めて動揺が走った。
「何故……君がそれを知っている?」
「北斗のお父さんが教えてくれたの! ダークヴァイスは危険な装置だって!
それが広がったら、悲劇が起こるって!」
多樹は零に一歩近づいた。
「私達も、悲劇なんて起きてほしくない! あなたも私と同じ気持ちのはずだよ!
だったら、協力できるはずだよ! だから、戦わないで!!」
多樹の真剣な眼差しに、零は目を逸らした。
テリアモンも、多樹の言葉にどこか戸惑っているようだった。
「……今日のところは、この辺にしておくよ」
零は小さく呟くと、テリアモンをデジヴァイスの中へと戻した。
「覚えとけよ、零! 次に会う時は、容赦しねぇからな!」
北斗が挑発するように言うが、零は何も言わず、
多樹と北斗に背を向けて静かに歩き去っていった。
その後ろ姿は、どこか寂しげに見えた。
「はぁ……何とか止まったね」
「ったく、変な奴だぜ。いきなり喧嘩売ってきやがって」
多樹は安堵の溜息をつく。
北斗はまだ納得いかない様子だったが、ともかく戦いが終わった事に安堵していた。
「さあ、北斗、行こう」
「ああ!」
多樹と北斗は、改めてデジモン研究所へと足を向けた。
零との出会いは、まだ始まったばかりの物語の序章に過ぎない事を、彼らはまだ知らない。
テリアモンの口調は一生懸命に調べました。
多樹は女の子なので、こういう形で決着をつけたいなと思って書きました。