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放課後、謎の少年・零と出会った多樹は、複雑な表情だった。
自分と同じくパートナーデジモンを連れているはずなのに敵対するなんて信じられないからだ。
「どうして零は、みんなを困らせるんだろう」
「さぁ、知らねぇな」
零が多樹や北斗と敵対した理由は分からない。
しかし、今後また零が出てきて、自分達を容赦なく攻撃するのなら、
戦わなくてはならないと北斗は思っていた。
「……でも、私は零と戦いたくないよ」
しかし、多樹はそれでも零と戦いたくなかった。
どちらか片方が倒れれば、取り返しのつかない事態になるかもしれないからだ。
そんな多樹に対し、北斗はこう言った。
「多樹は悪い奴にはちゃんと立ち向かったじゃないか。
それなのにどうして、零とは戦いたくないんだ?」
「だって……零は、ダークヴァイスを使ってなかったんだもん。
デジヴァイスを持ってるって事は、パートナーデジモンがいるんでしょ?」
「確かにダークヴァイスじゃなくて、デジヴァイスを持ってたな」
デジヴァイスはパートナーデジモンとしっかり絆を結べるが、
ダークヴァイスはデジモンを無理矢理操る装置だ。
零がデジヴァイスを持っているという事は、彼はただの悪者ではないと多樹は思っていた。
「だから私は、零とは戦いたくない。絶対に分かり合えるはずだから」
「多樹……。まぁ、あいつからも悪いオーラは感じなかったし。
それはともかく、早くオレも家に帰りたいぜ」
「そうだね。おじさんとおばさん、また入れてくれるかな?」
多樹は不安になりながらも、改めてデジモン研究所に向かった。
「大丈夫かな……?」
多樹と北斗は、デジモン研究所の厳重な扉の前に再び立っていた。
金属製の重厚なドアは、今日の出来事を象徴しているかのようだ。
多樹は深呼吸をして、北斗を見た。
「大丈夫だって! 父さんも母さんも姉ちゃんも、多樹の事、気に入ってるぜ!」
北斗が屈託のない笑顔で答えると、研究所のドアが内側から開き、中から七香が顔を出した。
「あら、北斗に多樹じゃない! お帰りなさい!」
七香の明るい声に、多樹はほっと胸を撫で下ろした。
「こ、こんにちは、七香さん……」
「ただいまー!」
北斗は元気よく挨拶し、多樹を促して中へ入る。
デジモン研究所の中は、昨日と変わらず様々な機械が並び、
モニターの光がSF映画のセットのようだった。
「父さんなら、奥の研究室にいるわよ。
ちょうど一区切りついたみたいだから、話を聞いてくれると思うわ」
七香の案内に従い、多樹と北斗は研究室へと向かう。
有雄はモニターの前に座り、何かを真剣な表情で見つめていた。
「父さん、多樹がダークヴァイスの事で話があるんだって」
北斗が声をかけると、有雄はゆっくりと振り返った。
「おお、多樹君、よく来たね。北斗、お帰り。ダークヴァイスの事か……分かった。
しかし、その話をする前に、七香、君から一つ話があるだろう?」
有雄は七香に目を向けた。
七香は少し驚いた表情をしたが、すぐに頷いた。
「ええ、父さん。多樹ちゃん達に話しておきたい事があるの」
七香は多樹と北斗をソファに座るよう促し、自分も向かいに座った。
有雄はモニターを消し、彼らの話を聞く姿勢になった。
「実はね、昔々のお話なんだけど……」
七香は少し間を置いて、静かに語り始めた。
「かつて、人間とデジモンはお互いに共存していたの。
現実世界とデジタルワールドも、今みたいに分かれてなんかいなくて、一つになっていたのよ」
多樹と北斗は、七香の言葉に耳を傾ける。
そんな時代があった事に、二人は驚きを隠せない。
「人間はデジモンと友達になって、一緒に暮らしていたの。
デジモンは人間の生活を助け、人間もデジモンを大切にしていた。
まるで、絵本の中の世界みたいだったって、父さんが言ってたわ」
七香の声は優しく、まるで物語を読み聞かせているかのようだった。
多樹は、スプライモンがデジヴァイスの中でじっと聞いているのを感じた。
「でもね、時代が進むにつれて、人間は変わってしまったの。
デジモンを道具のように見るようになって、自分達の都合のいいように利用し始めたのよ」
七香の表情が少し曇る。
多樹の胸に、何とも言えない切ない感情が湧き上がってきた。
「デジモン達は、人間の変化に戸惑って、徐々に人間から距離を置くようになって、
デジタルワールドは現実世界と離れていったの。
それでも、最後まで人間を信じ続けていたデジモンがいたわ」
七香はそこで一度言葉を切った。
多樹はゴクリと唾を飲む。
「それが、ユスティアモンよ。
ユスティアモンは、人間の正義の心を信じ、いつかきっと、
人間がデジモンを大切にしていた頃の心を取り戻してくれると信じていたけれど……」
七香は悲しげに目を伏せた。
「とうとうユスティアモンも失望して、人間の前から離れていった。
そして、現実世界とデジタルワールドは完全に切り離されてしまったの。
それ以来、人間がデジモンに出会うには、
デジヴァイスを介する以外に方法はなくなってしまったのよ」
七香の話はそこで終わり、静寂が研究室を包み込む。
多樹は、デジタルワールドと現実世界が分かれた理由に、
そんな悲しい事件があった事に衝撃を受けていた。
「ユスティアモンって?」
「デジタルワールドの正義の女神様よ。とっても優しいんですって」
そう言って七香は、ユスティアモンの絵を見せた。
白銀の鎧に身を包み、星の兜を身に着け、両目は布で覆われ、背中に長い金髪と白い翼があり、
右手に青い剣、左手に金の天秤を持った、女神そのものと言えるデジモンだ。
「綺麗……!」
「これは母さんが描いた絵よ。ユスティアモンに会いたいわ……」
「七香さんはユスティアモンに会った事がないの?」
「ええ。デジタルワールドが消えたのは、私と北斗が生まれる前だから」
七香は溜息をつく。
現実世界とデジタルワールドが完全に離れたのは、今からおよそ25年前の事だ。
それからずっと、人間はデジモンの存在を知らずに生きてきたという事になる。
「本当にデジタルワールドがあったなんて、今となっては信じられないくらいよね」
七香は遠い目をして、壁にかかったデジタルワールドの地図を眺めた。
かつては現実世界と融合していたという、星野家が描いた広大なデジモンの世界。
今ではモニターの中のデータとしてしか見る事ができない。
「でも、どうして今、またデジモンが現実世界に現れたの?
空が揺れた事が関係してるのかな……」
多樹は純粋な疑問を口にした。
ユスティアモンが人間に失望して姿を消し、デジタルワールドが切り離された。
それなのに、何故今になって、再びデジモンが現れ始めたのか。
そして、何故自分と北斗だけが「特別な子供」として記憶を保持しているのか、
謎は深まるばかりだ。
すると、有雄が静かに口を開いた。
「多樹君の言う通りだ。空が揺れた事と、デジモンが現れた事には、密接な関係がある。
そして、その原因を今、私が調査している事なんだ」
有雄は、先程まで見ていたモニターをもう一度つけた。
そこには、複雑なデータとグラフがいくつも表示されている。
「実は、あの空の揺らぎは、単なる自然現象ではなかった。
デジタルワールドと現実世界を隔てる『境界』に、
大きな負荷がかかっている事を示すものなんだ」
「境界に負荷……?」
多樹は首を傾げる。
「そうだ。まるで、閉じた扉が無理矢理開けられようとしているかのようにね。
その扉を開こうとしている原因こそが……ダークヴァイスの存在なんだ」
有雄の言葉に、多樹と北斗はハッと息を呑んだ。
自分達が遭遇したデジモン事件の背後に、より大きな計画が隠されている事を悟ったのだ。
「ダークヴァイスは、ただデジモンを操るだけでなく、
デジタルワールドと現実世界を無理矢理繋げようとしていると……?」
多樹の問いに、有雄は重々しく頷いた。
「その可能性が高い。
そして、もし完全に境界が破壊されれば、かつての悲劇が再び起こるどころか、
もっと悪い事態になるかもしれない」
有雄の言葉に、多樹と北斗は顔を見合わせた。
そして、零の言葉が脳裏によぎる。
「僕には、僕にしかできない使命がある」
「計画は止める事はできないからな」
零も、この「境界」や「計画」と関わっているのだろうか。
「ユスティアモンは、その計画を止めるために動いているのかもしれないわ」
七香が静かに付け加えた。
その言葉に、多樹は再びユスティアモンの絵に目をやった。
ユスティアモンは、今、どこで何をしているのだろうか。
そして、何故「特別な子供はあと一人」という声が聞こえたのか。
謎はさらに深まっていくのだった。
第1クールのストックは書き終わりました。
ユスティアモンはオリンポス十二神族とちょっと関係があるとだけ言っておきます。