俺は休みの日、ソファーに横になりながらソシャゲをやっていた。
古今東西の英雄たちが人類の滅亡に立ち向かうために現代に召喚されて戦うシナリオのやつだ。
土日でイベント消化しなきゃ、配布とれないで終わる…。
あと最近のピックアップは仕事しない……課金するかなとゲームをしながら悩んでいた。
イベント期間で実装された女帝アンゼリカ欲しい……ちゃんと当世風の装いでカッコいいし、無駄に服を脱がない女キャラで、好き。
スキルも全体火力アップバフ系豊富で奥義も雑魚敵処理で使いやすい、優秀だ。
でもキャラ自体、大体揃っているから性能的に本当にいるかというとそうでもない。
サポートキャラの過労死枠の鴉ちゃんと白蛇ちゃんがいれば、手持ちでもシナリオで苦戦はしないし。
どうしようかな、と思っていると。
「おにーちゃん」
俺の横でソファーに座り、この前、俺が駅前で買ってきた文庫本を読みながら、ぴょこぴょこと狐耳を動かしていた妹が声をかけてくる。
「なに?」
「この書記官のアスカリド君がさぁ、ひどい目にあった内乱ってどうして起きたの?」
世界史でも年表くらいしか高校で習わないからな、そこ、と思うと俺は言う。
「俺の説明よりも解説動画とかで見た方がいい」
「いや、おにーちゃん、一応、中学の歴史教師でしょ」
そう言って、柔らかい毛先の尻尾でふっさふっさと顔を打ってくる、やめれ、なんか妹ながらいい匂いするからやめれ。
これ、学校で男子とかにやってないよな、こんなんされたら勘違いするから、お兄ちゃんなんか心配になってくるんだけど。
「お前、うちの国の戦国時代はなんで起きたか?みたいなのを説明するくらい難しいんだよ、家でも授業したくないわ」
それを払いながらウンザリしながら俺は言う。
「じゃあ、よくわかんないけど、この動画のやつとかどう?この猫のやつ」
妹が自分のスマホを差し出してくるのを観る。
「どれどれ…」
猫動画
帝国の継承戦争について
様々な小国を統一し、悪魔を滅ぼしたとされて建国した国ですが、領土的な野心が強く、領土の拡張に一生懸命で水利権に伴う領地問題で教会勢力との軋轢が度々発生します。
元々は痩せた土地の人間が肥沃な土地を狙って戦い勝利したのですが、勝利側が敗者側を農奴にした荘園経営で水利権を使った優遇措置をしようとしたら教会側から過去に何度も待ったがかかったからです。
教会「神の愛は平等だよ?勝ったからって自分たちだけが得するなんて、だめ、みんなの水を奪って使って人を奴隷にするだなんて神の教えにも反しているよ、だめだめ、返してあげて」
帝国「それ、おまえらの神が禁じてる政治的な関与やろ、そして俺ら王は神の奴隷じゃねんだぞ、ざけんな、それじゃ折角、戦争に勝っても貧しいままだろ」
教会「いや、やりすぎなきゃそこまで言わんよ、お前、いっつもやりすぎなの、名誉と贅沢のために人を殺しすぎ」
帝国「くっそーまじむかつくはあいつら…排除したいけど、なんかどうにかできんかな、最近、隣の王国に竜をぶっ殺すような王が即位して脅威だし…なんか方法は…ないのか」
怪しい学者「ありますよ?」
帝国「え、ほんと?」
怪しい学者「三麓神さん以外にも力のある神が過去に居たという古文書が発見されました、それと古文書に記された神々の遺産が帝国北部で見つかったそうですよ?それを使えば三麓神の奇跡を再現できるかも」
東の公爵家「おしゃ、じゃあ俺がそれゲットしてその遺産とやらで王権を高めて最強の王になってやる、神々の遺産を使った新しい国教も作って政治に都合の良い内容にして教会の文句も無視やで」
教会「それは政治のための恐ろしい邪教や、そんな宗教を作ろうとするだなんて、お前たち神が怖くないのか、教会が施す、徳と信仰と戒律によって成り立つ奇跡の恩寵こそが神の愛の具現やぞ、失ってもええんか」
東の公爵家「うっせー死ね、おまえらのせいで今まで苦労してきたんじゃ、死ね」
教会「ぎゃああ、なんてことを、神の怒りが…恐ろしくないのか」
東の公爵家「うっせー、じゃあなんで今死ぬお前たちを神は救ってくれないんだ?結局神の恩寵とやらも魔術と一緒のもんやろ、さて攻めるか」
北の公爵家「いや、急に攻めてくんなし、その遺産とやらが見つかった北部を支配してた俺が正式な王やろ、でもそのアイディアいただきやで反撃や!帝王に俺はなる!」
怪しい学者「……いくつかまだ遺産が帝国内で見つかりました…まずいかも」
南の公爵家「じゃあ全部手に入れたやつが帝王でええな、せっかくやし、俺も参戦するやで、手に入れたやつは、つまり、「神に選ばれた王」ってことで今までの生まれ順の王位継承権は無視してやる、勝ったやつが正義や」
怪しい学者「やっぱり?」
全土で内乱発生…。
同時に流行り病、飢饉、洪水が発生。
教会「祟りじゃ…神の祟りじゃ」
帝国民「教会の神の奇跡がなくなったせいで、医療制度が崩壊して、水質汚染も進んで水が安全に飲めない…もう農民なんかやめて傭兵稼業が新しいビジネスのトレンドだね、もう他人から奪って生きるしかねえ」
三麓神教信仰派諸侯連合代表「どいつもこいつも胡散臭い学者の戯言信じやがって!お前らいい加減にしろ!このままだと帝国が滅びるだろ!もういい、この女帝アンゼリカが新たに帝国を統一する!」
王国「陰で支援します、うちはまだ王が即位したばかりで、隣国が不穏なのは怖いし、それに三麓神教を粗末にする国なんて危険すぎる、このまま今まで築き上げた文明が崩壊するかもしれない」
大鴉の魔術師「なんか密偵として王国代表でいきます、怪しい学者の正体が気になるし、それに神々の遺産とか、きっと古代魔術のやべー代物だろうし」
書記官「里帰り……たった数年でかなり荒廃しててメンタルにきますね、吐きそう」
教会「大鴉くん、よろしくね、うちでも大鴉くんを「個人的」に支援するわ」
大鴉の魔術師「それはさすがにまずくないっすか?」
教会「その神々の遺産とやら、帝国から一緒に『回収』しようよ…つまり、これは信仰と人類の危機だから魔族と戦うのと一緒で問題ないよね、うちも教会最強の特殊部隊派遣するから、よろしくね」
大鴉の魔術師「……やっぱ帰っていい?」
教皇「そういう神託おりてますよ、一緒に人類を救おうね、大鴉さん、大陸の人類の1/3が死ぬ、黒い死の病と魔族が現れる前に」
大鴉の魔術師「嘘つけ、そういう歴史の闇系は関わりたくないからおうち帰る、え、教皇……?黒い……病…え?まじすか」
王国「教皇直々になんてちょうどよいやんけ、名誉だし手伝ってあげなよ、給料はいっぱいだすから、領地も免税するから、断ったら、わかるね?」
大鴉の魔術師「あああああ””!!帝国はとにかく不衛生で超メシマズ国家なんだよ!おうち早く帰らせて!!余裕で年を跨ぐ長期出張だなんて聞いてないよぉ!!」
鷲鼻の傭兵将軍「じゃあ、半月で首都落して帰らせてやる、だから全力で手伝え」
大鴉の魔術師「…慰めてくれるのはわかるけど流石に半月はww草ww」
鷲鼻の傭兵将軍「半月で終わらせたで」
大鴉の魔術師「まじか、正直、首都攻略だけでも5年くらい終わらないと思ったけど…マジで?」
書記官「これって正確に記録しても後世の歴史で創作扱いされません?嘘は書いてないけど、後世で嘘つきにされたくないですよ?」
大鴉の魔術師「うーん、別に発表したり、書籍にするつもりもないからいんじゃないか?そのまま嘘みたいな現実の話を書いても」
現代になって書籍化するとは二人は思わなかった。
2分くらいの動画を二人で見終わると、妹が言う。
「これってあってる?」
「もっと複雑だけど概ねあってるな…男系とか女系の家系とかでいろいろ揉めたんだよ、一言でいうと、当時の帝国の親戚間みんな仲が悪かったのが原因」
「なんで仲悪かったの?」
「先王がかなりの好色で、後継ぎを産ませてやる、みたいな口約束でたくさんの女性を口説いて子供つくったのが原因」
「へー最低だね…」
「そして子だくさんで、継承権をはっきりさせないまま病死した」
「もめますなぁ、それは、あと、他のこの動画とかで大鴉の魔術師が戦争の裏を引いてたって言われたりするけどなんなの?今の動画だと、なんか過労死枠じゃない?」
「あーそれはいろんな要因が重なってる…大鴉の魔術師の領地の主要な特産品が剣だったから、当時、まじで死の商人やってたんだよ、儲けるために戦争を裏で操ったみたいな話だな」
「本人も帝国統一を果たした女帝の腹心であった傭兵将軍鷲鼻が使ってた魔剣の鍛造をしたことでも有名なんだよ」
ほれ、と俺は自分の妹にスマホを見せる。
そしてタップして、ゲームを起動して、各キャラステータス画面を開いて、一人のキャラを開いて見せる。
レアリティは低いが、序盤はかなり使えるキャラだ。
剣士キャラって低レアは序盤選択肢が少ないせいもあるけれど。
「なんか強そうな武器だね」
「これが人を斬り殺さないと常に夜鷹のような鳴き声を発するのをやめない、とか言われてる赤い魔剣ゲフェングニスとそれを持った鷲鼻の傭兵ギュスターブ」
「え、鷲鼻とか言われてるのに、イケメン過ぎて鷲鼻要素なくない…?それにあんまり剣も金色の装飾多くて赤の部分少ない…」
初期兵装のイラストみせればよかったか、最終兵装無駄に盛ってるからな。
「所詮ゲームだし、で、他にも王国の国宝にもなった儀礼剣の作成とか、つまりそういうブランドが付いて、本人が作ったものでもなくても領地の武器が売れに売れまくった」
「芸能人が使った化粧品として有名になって、そのあと定番化したんだ」
「そうそう、めちゃくちゃ各国で注文が絶えないほど流行ったし、しかもゲームにでもこういう風にも残るってことは実際相当凄かったということだろうし…でも、別に魔剣自体、本人が作ったワケではないとも最近言われてる」
「そうなんだ」
「老舗のナイフメーカーとして名は今も残ってるんだが、当時の大鴉の魔術師の領地の名工と呼ばれた鍛冶職人の日記では
『鍛冶場に暖を取りにと使用人の子供たちとよく現れ、彼は子供たちと一緒に秋の落ち葉のように何度も槌が落ち、鉄が打たれる様子をじっくりと眺めていた、冬の訪れを静かに告げるように。
いつもながら、それはどこか気恥ずかしいものであった、寒い冬だが、今年も春先のように暖かった、しかし、仕事は夏に汗を流すように、忙しくなりそうだった』
なんて一文が残っていて、実際、本人は別に鍛造はしていないんじゃ…?って最近の学説では主流。
当時、迫害されてた被差別階級でも特に優秀な人材が領地で保護されていて、そんな技術者たちに福利厚生を手厚く整えて業務だけに集中できるようにして作らせていたから手柄的に領主の彼になるよねって話。
当時の彼の領地は偶然か知らないが新しい定理を発明するような数学者を始め歴史に名を残した様々な天才が領地に居たから、それで高性能な鍛冶のための炉を作らせてたんだろうと結論付けられてる」
「そうなんだ」
「それに生産数は戦争に影響するほどの数を作ってないので確かに黒幕は風評被害ではあるけれど、かなり儲けたのは確かだから、そう言われても仕方がない。
領地で作られた剣の切れ味は抜群で、当時の騎士同士の競技会の記録でも、相手と5度切り結んでも、折れず曲がらず、鴉の剣は自身の剣の刃こぼれの破片が顔に刺さらないっていう記録が沢山残ってる、鉄じゃなくて鋼の剣を作る技術があったみたいだな」
「ふーん、それでさ、過去にいた神ってなんなの?神々の遺産とか妄想?」
「神は帝国で散々迫害しまくって淘汰した古代の魔術師という説が濃厚、神々の遺産はその魔術師が残した武器とか何か、もともとすごい魔法文明の国があって、それを魔族だって言って、皆殺しにして作ったのが帝国の始まりだから。
宴で酔っぱらった魔術師に乾燥させた毒キノコの煙を吸わせて殺した、みたいな伝説も残ってるな」
「ええ……自分勝手すぎる…」
「でもまぁ、そのおかげで、個人の才能による奇跡や魔術に頼らない、現代にも通じる大衆のための錬金術や科学技術が大きく発展したとか言われるし…まぁ、歴史的にはひとつの転換点として重要なんだよ」
「それって魔術部顧問としてはどうなの?」
「歴史は歴史よ」
そして説明を終えた俺はソシャゲに戻る。
ガチャ引いてみるか、話をしていてやはりアンゼリカが欲しくなった。
無料で4回分くらいあるし。
一回目、外れ。
二回目、外れ。
三回目を押して―そういえば。
「なあ妹よ」
「なに?」
「尻尾タップで召喚すると、UR引けるというジンクスがあるんだが、一回だけおねがいしていい?」
狐系の妖の血を引いた妹の自慢のフサフサ尻尾でタップできるかは謎だが。
「変わんないって…いいけど外れても文句言わないでね……あれなんか、今、それ、虹色に光ってない?」
「うお、まじか!きた!」
「よかったね」
トピック
粉ひきについて。
王国は特に三麓神の信仰が厚いので、脱穀や製粉に使用される水車の利用税をとることを領主には推奨しなかった。
なぜなら、特に水による力とは神の愛の具現であり、それで金を儲けるとは何事かと教会に何を言われるかわからなかったからだ。
三麓神教会は政治にはかかわらず、人々の生活に直結した諸問題を解決することを神の愛の代行者としての使命として様々な奇跡を行使していた。
特に大陸では教会の修道士の奇跡なしで水源を清浄に人が口にできるほどの水質を維持するのは困難であったからだ。
そして教会が施す癒しの奇跡は科学的な医療技術が発展するまでは領土の人口維持には欠かせなかった。