三麓神「人のための最高の宗教考えたで、ちゃんと敬って信じてくれたら奇跡っていう実利がある、これは永遠に皆信じてくれるわ」
現代人「いや、身分や家族、財産すべてを捨ててから一生ボランティア活動して最後に旅に出て野垂れ死にはハードすぎる、今時無理だわ」
三麓神「それくらいみんなやってたけどね」
現代人「全員が阿闍梨様かよ、最後の旅で持っていい私物が瓢箪と杖のみって、常人なら三日くらいで死ぬだろ」
三麓神「いや、普通にみんなが修道士さんの面倒をみてくれるんだよ、宿とかも誰もが貸してくれるし、食事だってくれるよ、お金なんて持たなくていいんだよ」
現代人「うーん、ちょっとパス、癒しの奇跡とか浄化とかの代償にしてはデカすぎる、コミュ障だと即死だろ、それ」
三麓神「健康で、清潔で、綺麗な水飲めて、ごはんだって食べられるし、お墓だっていらないのに……今時の人はわかんないなー」
教会「まぁ平和になった証拠ですから、ね」
三麓神「ならいいかー」
「やっぱり体調を崩していたし、もう一回考え直した方がいいかも、ちょっと一緒に居て、冷静に考えてみて、それでも、と思ったら、また回答してね」
熱が引き、頭も体も楽になると、そう言われ、すこしの間、主人と行動を共にして気づいたことがある。
主人の仕事についてである大鴉の魔術師と呼ばれる彼の領地経営は特別秀でたものはなかったと思う。
しかし、領地は成功を収めていた。
皆、領民は誰もが小奇麗な恰好をしていて余裕のある顔で道を歩いていたのが証明だった。
貧しい領地というのは、本当に悲惨なものなので、それとは違うのはすぐに分かった。
しかし、誰よりも特別で非凡だったことがある。
誰よりも朝早く起き、護衛の食客と戦闘に備えた訓練を行い、朝の食事を済ませ、仕事をして、昼の食事をして、仕事をして、夕食を食べながら少し屋敷で数人と談笑などをして寛いでから、魔術の明かりを使って誰よりも遅くまで仕事をする。
彼の領地経営の非凡さとはことに領主として「領地経営しかしなかった」
彼は貴族のような服飾や飲食の贅沢や芸術性のある娯楽にほぼ遠い生活を送っていた。
一応、身だしなみにかける情熱は最低限度はあるようで、質の良い石鹸には拘りがあり、金に糸目はつけないが、大した額のものでもないもので、領民でも少しの贅沢と割り切れる額で簡単に買える程度のものだ。
王命の任務があると領地から離れないければならないので、普段から仕事を残しておきたくないのだろう、この数日、ほとんど内政しかしていない日々だった。
彼の日々のささやかなる贅沢は、月明かりを眺めながら、屋敷の庭に繋がる森の傍で炭や焚火を熾して、友人と静かに肉を焼いて冷えたエールを喉に流し込むことだけ。
一時期、胡桃などの木の実ばかり食べていたので、これくらいで食事に関しては十分満足はできるらしい。
ただ、時々厨房に邪魔をして、変な料理を作って子供に食べさせようとする悪癖がある。
美味しいものは美味しいそうだが、そんなものを一々用意するくらいなら、柔らかい白パンと蜂蜜が欲しいと子供たちに思われている。
そして屋敷に楽師も持たなければ、吟遊詩人も呼ばない、これは貴族にとって生命線だ。
そもそもだが、こんな風聞悪い呪われた場所と領主の町には普通の貴族は誰も来ないので社交界という概念が存在しなかった。
これは貴族としては致命的な気がするが、領地経営で一番お金がかかる部分が社交界だ。
一晩の贅沢な晩餐会を開くために、どれだけの領民が血反吐を吐くほど働かなければいけないのか、それは多くの犠牲で成り立っている。
帝国の城主の領地は、こちらの開けた領地と違い、戦争のための前線基地を兼ねる場合が多いので、戦争のため情報収集のため他の貴族との交流や客にもの凄いお金をかける必要があるからだ。
彼ら貴族も生き残るためには、それが必要だったのだ。
領民がどれだけ貧しさに苦しんでも、それは行われる。
王国でも貴族としての価値を維持するために必要不可欠な筈だが、それをやらない。
大きないくつかの屋敷と敷地、使用人の維持、貧しくはないが、白パンよりも黒パンと野菜が多く肉が少ないそこまで贅沢でも豊かでもない食事。
不人気な魚が並ぶこともあるが、どれも新鮮で脂がよくのっているので、腐りかけの肉よりも美味しいかもしれない。
そんなものくらいの維持だけで、大きな金が必要な、貴族らしい豊かな生活は見受けられなかった。
この領地とは一体どのような領地か、とても気になったので主人にその来歴を確認した。
宮廷魔術師であるというのに宮中からとある事件の後、遠い場所に追いやられ、魔法使いとしての仕事があるまで過去に魔導士によって滅びた地方都市で一人孤独な生活をしていたそうだ。
4年は領主1名のみの領地経営の日々だったという、領地経営というよりも空虚な独り遊びであった。
その4年を思い返して、王国からご機嫌取りのように沢山の私が望む、食料と嗜好品は届いていたし、この世界に来て一番幸せに満ち溢れていた、なんて主人は言う。
主人は言う。
4年はずっと預かった土地を改造して遊んでただけ、だったけどね、廃墟になったこの土地を綺麗に、理想の都市を自分の手で好きなだけ作れる。
だから、自分の好きなように魔術で作り直してたな、任務以外は暇な時間しかなかったから。
4年間一回も誰もこなかったら、当然任務もなかったから、つまりずっと暇だったね、もう趣味に没頭したね。
ちょっとしたお遊び気分でさ、領内の近くにある、ちょっとした迷宮を冒険しながら、毎日毎日コツコツとね、楽しかったなぁ、ほんと。
迷宮はとっくの昔に何も残っていなかったけれど、ちょっとした出来事もあって、いまじゃ結構、迷宮攻略は好きだな。
前に4ヵ所くらい勝手に帝国の迷宮も攻略してしまって、帝国では遺跡荒らしのお尋ね者だけどね、ここまで有名になる前だから私とはバレていないけど、バレたら縛り首だね、多分。
此処は私が4年かけて手作りした、誰も居ない場所だった。
まぁ、そんな中、死霊が残っていて、成仏できないままの夜になると黒い人影がうろうろと徘徊する都市でもあった。
黒い人影はね、教会の人たちが山ほど来て、浄化してもらうまではやはり魔術じゃ浄化できなくて放置してたんだよ。
うーだのあーだの、そんな声を残して動き回る黒い人影を観察していると、以前のここで起きた事件や生活様式がちょっと垣間観れたりして面白かったんだけどね。
土地を改造するさいに埋めても影でしかないからすぐに這い出てくるし、夜とかやっぱり怖いから全員最初に捕まえて大きくて丈夫な影を封じ込める建物に隔離しようとしたんだけど、私を見かけると何かしてくるどころか普段同じ行動を繰り返してる癖に変わったように素早く逃げるから、捕まえるのが大変だったな。
途中で完全に害がないのは分かったし、捕まえるのはあきらめて、そのままにしてた。
そんな感じでサバイバルホラーやタワーディフェンスにはならなかったなぁ。
不謹慎だけど、少しやってみたかった気持ちはある。
どちらかというと、私が彼らにとって危険な侵略者だったんだろうね、悪いことをしたな、って思うよ。
昔からああいう遊びが好きでね。
現実に出来ると、こんな気分なんだって感じで遊んでいたよ。
なんか、もう、今まで苦労したのはこの時のためだったのか、みたいな気分でね。
しかし、そんなことはなかった。
そんなことはなかった。
そんなことはなかった。
そんな「わかりましたから、そんなに楽しかったんですね、はい続きをどうぞよろしくお願いします」
でね、元々あまりこちらの人々の価値観が理解できなくてね、一人の方が楽だったのもあるんだけど。
よく、びっくりしたもんだ。
今から23年前かな、17の時、着の身着のまま言葉も通じない此処に放り捨てられて、そこで王国のとある貴族に拾われたんだ。
毎日鞭で叩かれながら必死に言葉を覚えたら魔術の才能があるということで将来を展望されて王国の学院に通わされてね。
当時、王国も不穏な影があったからね、それに対抗する道具として育成されたわけだね。
大体2週間で卒業資格は取れたから、2年後の卒業までは級友との交流を楽しんでたな、人の勉強を手伝うって楽しいって初めて感じたよ。
自分を含めて7人居る同期達もみんな癖のあるやつばっかりで、でも気の良い馬鹿が多くて楽しかった、あの時はまだ、魔術師の社会的な立場を理解してなかったし。
七賢人なんてお遊びの特に何も主義主張をしない魔術師同盟を作って、今でも連絡は取りあってる。
みんな違う小国の貴族みたいで、それなりの立場でそれなりの仕事をしているらしい。
学院の最初の友人に収穫祭のお休み期間に暇だって言ったら、軽い仕事を一緒にしないか、と誘われて連れられていったらそこが戦争だったことがあったなぁ。
まだ金銭感覚というか貨幣価値と買い物の仕方がよくわからなくて、かなりのぼったくりに遭っていたことも知らなくてね、言い値で支払っていたら生活費が底をついたから仕事中宿泊料無料、食事無料、休みと給料は応相談みたいな、誘い文句に騙されてね。
胡桃の量り売りに相当な、胡桃の木ごと買えて、林になるくらいの金貨払っていたな、多分。
未だに買い物は得意じゃない、商人から騙されずに値切るってどうやるのかわからない。
いや、心を読めばいいんだけど、会話力がね、難しいから。
無知って本当に恐ろしい。
で、その無知の結果、毎日、矢が降る中、泣いて震えながら砦の壁を魔術で修理したり、凹んだ鎧の後ろから槌で叩いて修理したりと雑用を熟してた日々だった。
2か月間。
休みなんかなかったね。
食事も酷いもんで、どれも鮮度が悪くて腐ってそうで不衛生であんまりにも酷いから、途中、馬の餌を貰って食べてた。
こっちの人があまりにも下賤で人が食べる物じゃないと思って肥料か家畜の餌になって、普段食べないだけで、ああいう軍馬が食べるような穀物って意外と栄養があるものだから、一番安全な食事だったね。
狂人扱いされてたね。
魔術師だから、まぁそんなものか、みたいには思われていたみたいだね。
こうね、親切なおじさんが居て、こんな矢なんてよっぽど運が悪くない限り当たらないって一緒に教えて貰いながら外壁の修理をしてたら、いきなり、おじさんに矢が当たってなんか倒れたりするのが日常で怖かったよ、まぁ、よほどに運が悪かったんだろうね。
途中、砦から出て、前線で戦ったりもしたよ、もちろん人も殺す羽目になったな。
友人と一緒に敵の士気を最初に挫くために魔術で敵を驚かすために一番槍だったしね。
こと戦場においては魔術師は結構頼られて大事にされる、小回りの利いた城壁すら破れる大きな巨石を担いだ投石兵のような存在だから。
敵だと優先的に狙われるけど。
あそこで、もう帰るつもりがなくなったなぁ、帰れなくなったって思ったもんだよ、まだまだ自分は子供だったからね、あの時は、少し泣いて過ごしたもんさ。
そういう時こそ、女を抱いて、酒を飲んで、賭け事をして喧嘩を楽しむ、みたいな文化も見慣れなかったし、やらなかったし。
ストレスの発散方法が砦の修理や、傭兵団に随伴している鍛冶職人の手伝いとか、馬のブラシ掛けとかの面倒とかばかりで…あれ、働いてたな。
まぁとにかく、手を動かして考えないようにしていた日々だね。
友人は「親切」で、まだ当時、毎日不安そうにオドオドびくびくしている私に対し、私に男としての度胸をつけさせたかったから、戦争に連れて行ってくれたって後で聞いて、衝撃だったね。
そういうことが思いやりや親切になるのが普通の世界と時代ってね。
学院の寮に帰りたくても戦場のど真ん中でね、どうやって帰ればいいかわからなかったから、2か月間、友人が戦争の狂気に満足して帰るまで居たね。
そこで仕事最終日近くに物凄い強弓で肩を射られて、死の手前までいって、友人に見捨てられかけたのは未だに恨んでるけど、いい思い出さ。
その時の処置が酷かったから、肩は一生治らないけど、死んだら死んだでその時、みたいな死生観を持つのが大事なんだな、という経験と勉強になった。
それはいいんだけど、終わった仕事の代金が戦争捕虜3名と馬2頭の現物支給でかなり困ったものさ。
死にそうだったから、用意してなかったらしいのでその場で渡されかけて、焦ったもんだ。
もう、頭が沸騰しそうになった。
すまんが余裕がなくて金は払えないから、多めにくれたって何?ってね。
親切で別の場所で金に換えられるところを紹介されてもね。
あの鷲鼻の人からするとそれが普通のことで、それもかなりの親切だった、もちろん驚いたね。
あの人が優しくなかったら、肩からその先はなくなってたかもしれないしね。
御厚意のお礼として、たまにお歳暮みたいな感覚で剣とか槍とか送って今でも文通はしてる、あの人、顔が広いから、各国の戦争の情報沢山教えてくれるし。
でも、その時は代わりに矢で射られて寝込んでる時に看病してくれた命の恩人で従軍娼婦の禿の子を従者として引き取らせてもらって帰ったな。
その子はほら屋敷でいつも針仕事をしてる、今も喉が焼けていて喋れない女性のスウさんだよ。
見た目が私みたいな外国人だろ、客も気味悪がってつかないから、私はかわいいと思うんだけど、美的感覚が違うのか鶏ガラの醜女ってタダ同然だったから身請けできたんだよ。
学院を卒業して、宮廷魔術師を少しやって、自分以外の王宮の魔術師を全員、結果的には皆殺しにして、ちょっと冷却期間として此処に左遷されて4年間、私がここで遊んでる間は最初に面倒を見てもらった貴族の御家で面倒を見てもらったんだけど、なんか迎えに来るのが遅い、ということでそれが未だに気に食わないのか今も急にぽかぽかと叩かれる。
彼女からするとちょっとした童話の王子様みたいに思ってたんだろうね、私を、別にそんなことはないのにね。
私の命を助けてくれたのも同胞だと思ったからみたいだし、勘違いしやすい子なんだ。
でもそれでも命の恩人だからね、感謝してるよ。
生々しい話だが、私は童貞で、これからも童貞を貫くつもりだから、セックスはしないけど、一応、私の妾みたいな位置に座っているよ。
なんで童貞か?
もし魔法が使えなくなったり、これ以上弱くなるのが嫌だからだね。
そういう伝説が一応あるんだよ、結構昔から。
雷の神様すら操る魔術師が女色にかまけて魔術を破られる話や、恋をしてしまったが故に、最後には泡になってしまった人魚とかね。
そういう伝説があるってことは、そういうことがあった可能性もあるし。
絶対にそうとは限らないんだけど、一応ね、魔術は私の生命線だし。
それに性行為の粘膜接触で私や相手、若しくは嬰児に新しい病が発症する可能性も絶無とは言えないしね、そういう歴史の汚点にもなりたくないのもある。
あ、君、なんか、まだ8歳の癖に、なるほど、興味深い、使用人くらい居る立場の子ならそうか、そういう文化もあるのか。
ほうほう、エッチでいいね、ロマンがあるね、でも「別に普通では?」みたいな顔をされるとなんかこちらが負けた気がするよ。
話がずれたな、あと、魔術や病気との天秤にかけてるだけで別に興味がないわけじゃないから下ネタは結構好きだよ。
で、この領地の成り立ちの話に戻ると、そんな4年間、人間は私一人だったけど、友達がいなかったわけじゃない。
この領地の近くの森にたくさんいる鴉たちが友達になってくれてね、使い魔にもなってくれた子も結構いる。
いまでは友達の輪が広がって、王国中の鴉は大体話が通じるね、私が得意な魔法は精神系の魔法でね、特に頭がいい鴉みたいな動物とは思念で会話できる。
王国から送られてくる糧食を全部、手軽なナッツ類にしていたから、まぁ結構、打算的に始まった友人関係かもね。
狼とか、熊とか、そういう危険なものが近づいてきたときに教えてくれる代わりに食料を渡していたんだ。
そんな鴉たちが、ある日、助けてほしいって夜中に私を叩き起こしたんだ。
行ってみるとそこには行き倒れたおじいさんが居てね。
身分は三麓神教の元修道士で、還俗した後も家族を残して最後の殉教のための救世の旅を続けていた人だった。
介抱して面倒をみて話をしていたら仲良くなっていた。
それがきっかけで此処が三麓教会を通じて国家では救えない差別や迫害を受けている人々の受け皿になっていた。
この領地に入った時、普通の見た目をした人間が少ないことに気づいたよね。
元から手とか足とかなかったり、耳がなかったり耳が多かったり、背が凄い低かったり、獣のような、そもそも人間には見えない風貌だったり、様々な人種が集まってる。
国家という大きな社会構造に守られず迫害されてきた民が多い、教会が隠して匿っていた様々な理由で発生した、そんな漂泊の民達を集めた領地なんだ。
でも、勿論、教会が助けるような人たちだから、社会の周縁の人間であるだけで、悪人はいないし、みんな必死に助け合って生きてるから、不愛想だとか、見た目で判断して悪口とか言わないでね。
まぁ、それでこの領地はちょっと特殊な領地なんだよ。
こんなにも発展したのに、誰も欲しがらない、誰もが見て見ぬふりの、呪われた地。
後で聞くと、魔術師や聖職者じゃないとそのまま住んでいると発狂死する土地だったらしいね、まぁ怖がりにはつらい土地だよね。
ああ、もう出てこないから大丈夫だよ、ちょっと勿体ない感じもするけどね。
三麓神教の教会の人はね、あの人達は、本当に人徳に優れた、本物の私心のない自己犠牲のヒーローだからね、そんな立派な人たちに頼られたのが嬉しくてね。
まぁそういうことで、気づいてたらこうなってた訳。
だって動物ですら、彼らが困ってると助けようとするんだよ?
彼らが飢えて倒れた時、身を挺して救おうとするくらいには、本物の聖者の集まりだ。
剣すら持たず、瓢箪と杖のみでこの大陸を旅が出来る人徳者しかいない。
貴族だって、彼らを何にもおいて優先して歓待する。
死ぬまで人のために奇跡を用いて働いて、最後に動けなくなって野垂れ死ぬ殉教こそが修行の完成であり最終目的なのはちょっと凄まじ過ぎて若干引くけど。
そんな三麓神教会の修道士達はこの地上で最も仁愛に溢れ、尊敬に値する存在だ。
なにせ、彼らは破戒して、神の恩寵を失った瞬間に彼らの大半は自刃するくらいだ。
そんな彼らが私たちの神の愛と奇跡を失っても良いから、それでも、この地で彼らを匿って守って、助けてほしい、なんて言われて、そりゃ、頼まれたら断れないね。
それで王国の許可を得て、正式な領地運営が始まって、この領地の特殊性を鑑みて、すぐに宮廷魔術師を辞して、しばらくしたら、王国立の学院にね、第3学院っていう、貴族を親に持つ、特別な魔術の才能のせいで人格がちょっと異常なせいで隔離された、なかったことにしたい、そんな隠し子たちが幽閉されて住む特別な学校が少し前まであってね、そこが色々あって閉鎖されてね、何処にもいけなくて困っている子が数人居て、引き取ったりして、ほら屋敷の氷室からずっと出られない子とか、屋敷の工房の燃えてる炉の中にずっといる子とか一番外側の屋敷の中で一日中1人でお人形遊びをしてる子とか、常に一人で17人くらいと喋ってる子とかいるだろ?
あの子たち、不思議でね、特別魔術の才能がありすぎるせいでああなんだけど、もう引き取って8年は立つけど未だに幼いままで、私がこの先、年を取って死んだら、どうしようかな、とは最近思ってる。
ああいうのを精霊が人の肉を持って生まれた精霊憑きっていうんだけど、古代だったら神聖な、三麓神様くらい大事に愛されて信仰されるはずの子たちなんだけど、この時代だと、どうしたらいいのか…。
で、その子たちも一応、もう2度と親御さんの方の貴族社会には戻れないけど、私に何かあった時のための生きるための人との関わり、社会ってものがそれでも最低限度必要だろう?
放っておくと異常すぎて邪悪な魔道士扱いされて処刑されちゃうし、下手をすると新しい魔族になってしまうから私が殺す羽目になるし。
だから魔術ギルドってのを最近作ってね、たまにうちの屋敷内や領地で軽い仕事をしてもらったりして人間を少しずつ学んで貰ってる。
炉の中にいる子には鍛冶を手伝ってもらったり、氷室にいる子には、近所の食堂や屋敷の食材を冷やしてもらったり、お人形遊びの子には、子供たちの縫いぐるみを作ってもらったりとかね。
この領地の外の社会にはいつ出せるのか、わからないけど、まぁ、出せないだろうね。
それでも最近はみんな、それなりに楽しいみたいだよ、正直、何が楽しいのか、よくわからんけど。
光が一切ない、真っ暗い部屋で朝から晩まで爪と指で床をがりがりと血が出ててもずーっとがりがりと床を擦るのが大好きな子とかいるし、傍から見てると狂気しか感じない場合もあるんだ。
まぁ猫の爪とぎみたいなもんかな、くらいで流すしかないね、あれ。
子どもを拾ってくるのもその一環でもある。
精霊って人間の子供が好きだから、よっぽどのことがないと危害を与えないし、そういう契約も結んでる。
だから気にしないでやって、たまに子供を驚かして遊ぶけど。
まぁ、悪夢に魘される様な、他人を夢の世界に閉じ込めたりする遊びは禁止しているから、害は本当にないから。
君みたいな頭の良い少年は特に1人で17人居る子と仲良くなれると思うよ。
それで、領地なんだけど、水脈を魔術でいじって町中を上下水道完備にした件とかでちょっと異端審問かけられかけたけど、でも、悪気がなかったから許されたし、綺麗に無駄なく作ったから褒められたね。
この地はかなりインフラも整備された、江戸というある都市をモデルにした、清潔なリサイクル都市として完成させた都市なんだけど、もう少し、手直しして作り直したり、改造したかったな。
人が住むって分ってたら、もっと冬とか夏でも過ごしやすく住みやすく作ってたんだけどね。
それよりも結構デザイン重視なところがね、ちょっと恥ずかしい部分だ、この街の民家、冬は暖かいんだけど、夏がね結構キツイ、市街区画を碁盤上にしたせいで、ちょっと風の通りが悪い民家があったりして直したいんだけど、もう住んでる人が居たりして、気に入ってるそうだから、言いづらい。
きちんとした本職の大工や設計士の領民に会って、遠回しに不備を指摘されるし。
まぁ最近は、私の作品としてではなく、住んでいる人たちが様々な方法や技術で手を加えて改造したり新しく作られていくから、みてて面白い部分もあるね。
そうして、それなりの時間が経って。
領地経営しながら王命で任務をこなしつつ、魔術ギルド長やって、密偵やって、たまに迷宮を攻略する。
それが私の仕事さ。
そして最近は帝国から教会を通して人が多く流れてきて凄い忙しい。
特に魔術ギルドなんだけど、帝国出身の魔術師が生きるためにこっちに流れてきて、本格的な生活協同体のギルドとして支援や指導をする羽目になってきてる。
ちょっと最近はやめたい、とか考えるくらい疲れてきてるね。
弟子もとったけど、それなりに鍛えて、どれか一つ任せようとしたら、無理って断られるし。
そんな中、君と出会ったのは王国に残った10個目の迷宮を攻略して閉鎖してきたばかりの時だね。
君はそんな私の毎日を記録して欲しい。
君の考えで、君の価値観で、君の思想で、君の感じる心で、素直に思ったことを書いてほしい。
私は結構、いまだにこちらの常識が理解できない時があるから、特に保守的な思想が強い帝国出身者である君の書いた文章で自分が何をしていたかを理解するためだね。
第三の目ってわけさ。
それに最近さらに肩が痛くて、ペンすら持ちたくないから、たまに言ったことを記録してもらえれば助かる。
結構物忘れも多いからね。
「話はわかりました…ご主人、良いですか」
「ん?」
「ご主人、貴方は世が世なら魔王となっていた人物なのでは?」
歴史において主流となれなかった傍流の存在が、新天地を求めて踏み出し、教会の援助を受け、主人の下に多く集っていた。
主人は新天地に集った者たちは全て平等に扱ったし、同じ人間とも認め、ありふれた日常を過ごせるように仕事や新たな生活共同体を用意した。
しかし主人は冷淡な眼差しで俯瞰していた。
この新天地が新たな争乱や災いの種になることを予期しながらも、自らは決して時代の主流になろうとはしなかったのだ。
妻も子も持たず、自らの血統を残そうとしなかったのは、その証左であり、書物すら残す気概がないのはそのような責任感が欠如していたからなのかはわからない。
彼に1400年に渡る迫害の歴史に対する復讐の魔王と求める声も小さく存在したのだが、すべて黙殺していた。
「そうかな、正直、必要に迫られて、こういうことをやっているけれども、あまり好きじゃないんだよね」
未来、かの女帝アンゼリカにもその部分を厳しく指摘されたが、あくまでこの呪われた箱庭の楽園の管理者以上のことはしなかったし、したくなかったそうである。
様々な特別な力や知恵を使って世を変えようとは考えなかった。
新たな進歩によって過去の文化の退歩や根絶を招くことを恐れていたのかもしれない。
長い年月をこの地に残っていた静かな影を結果的に滅ぼしたようなことを繰り返したくなかったのだろうか。
「なにが好きなのですか?」
「なにもしないことだね」
「なるほど、きっと、私にとっては、それは悪夢のような幸運だ、契約いたします、やります、書記官」
本心でそう言うので、なら、大丈夫だろう、と私は思ったのだ。
これで、目の前の危険人物が世に変革を齎すつもりならば、私は途中で脱落する可能性が大きく高まるからだ。
それに私も私で何か特別大きな責任を背負うのは嫌であったからだ。
「おお、助かるね」
「ですが聞きたいことがあります」
「ん?」
「この前、豚肉とか食べてましたけど、大丈夫なんですか?その……豚とか牛とか話せますよね?あっさりと人の心を読むように」
「話せる、話せるけどそれでも美味しそうだったら食べることもあるけど、それがなに?豚も牛も美味しいでしょ」
「……食べないでとは言われます?」
「食べるのを教えずに食べるよ、流石に、でも、ちゃんと感謝して食べるから問題ないの、私が元々居た場所の宗教そんな感じだから」
「気分悪くないんですか?」
「そんなことは思ったことはないな、なんで?」
やっぱ止めようか、とよく思ったものである。
そんな顔を顰めている私をみて、主人は笑って言う。
ちなみにこの領地の名前を教えてなかったね、この地の名はカースランド
そして私はカースランド領主、キタカ・アベイ伯。
よろしくね。
トピック
旅の瓢箪
旅が始まるとき、その瓢箪に聖なる泉から汲みだした水をつめてから旅に出る。
それは彼らの巡礼の旅の果てに口にする末期の水、そして守護聖樹の種である。
彼らの殉教の聖躯はひとつの大樹となり、世界を見守り続ける。
その時を彼らは待ち望んで人を救い続ける。
それこそが、旅の成功なのだから。
魔道士
魔術によって、犯罪を犯す者。