赤い夜が落ちていた。
ダソミアの空は常に血のように濁り、月すら呪詛を帯びていた。
リナは倒れていた。
胸には焼け焦げた斬撃の跡。セーバーは半ばで砕け、フォースの流れすら乱れている。
ダース・ネルヴァン——古代シスの霊魂が復活した存在。
その冷たく鋭い言葉と、一撃の重さに、リナは完膚なきまでに叩き伏せられた。
朦朧とする意識の中、リナは遺跡の崩れかけた入口を見つけ、這うようにその中へと身を隠した。
—
遺跡の中は冷たい霧が満ちていた。
壁面には古代のナイトシスターの文様、闇を讃える文字が刻まれ、魂が迷うには十分な空間だった。
リナはそこで灯のない空間に腰を下ろし、砕けたライトセーバーを見つめていた。
その時、霧の向こうから足音がした。
重く、そして懐かしい音だった。
「まだ、諦めていないようだな……リナ」
声の主は——
四本の腕、重厚な姿。黄色い目。灰色の肌。
かつての師、ポング・クレルの幻影だった。
—
「……あなたは幻だ。私の罪悪感が作り出した……」
リナは膝を抱えたまま、視線を合わせようとしない。
「その通りだ。私は、お前の中の傷にすぎん。
だがそれを見ないふりをして、誰を守れる?」
クレルの幻影は静かに言った。
「お前は私を殺した。それは正しい判断だった。
だがそれは、お前の中の闇の始まりでもあった」
「だが…お前は違う。まだ違う。
お前は私を否定した。今も、後悔し続けている。
それが、どれだけ強いかわかるか?」
リナは、初めて顔を上げた。
「後悔することが…強さだと?」
「自分の罪を抱いて立て。それがジェダイだ。
正しさなど、銀河にない。あるのは選び続ける意思だけだ」
—
リナは静かに立ち上がった。
砕けたセーバーの破片を拾い、腰のポーチにしまい込む。
「あなたのようにはならない。でも、あなたが残した痛みも無駄にはしません。」
霧の中のクレルがゆっくりと消えていく。
「それでいい。お前は、強くなった……私よりも、ずっとな フォースと共にあらんことを。リナ」
—
ダソミアの夜は重く、霧と血の臭いに満ちていた。
リナは廃墟となったナイトシスターの寺院跡で、ひとり佇んでいた。
砕けたライトセーバーの破片を握りしめながら、彼女はこの星での敗北と幻影の記憶を噛みしめていた。
そのとき——
「お前の怒りは未熟だ。だが、お前の苦しみには価値がある」
低く、冷えた声が背後から響く。
リナが振り返ると、そこには——ダース・モールがいた。
生きていた。
鋼鉄の脚をもつこのナイトブラザーは、何度も死に、何度も立ち上がった伝説そのものだった。
「シスの暗黒卿!」
「私は故郷に帰ってきた。お前もまた、自分の始まりに戻ったのだろう?」
モールの瞳が、リナの内面を見通すように光る。
「お前の中にある信じたいという希望——それを利用する術も、私は知っている」
—
数日間、モールは何も言わず、ただリナの動きを見ていた。
彼はシスのように命じることなく、ジェダイのように導くこともなかった。
ただ一つ、生き延びる術だけを教える。
逃走と逆転のための攻防転換
戦術に組み込むフォースの使い方
リナは食らいついた。
勝つためではない。倒れても、また立つために。
「強さは恐怖の中にある。
だが……その恐怖を握りつぶすのではなく、懐に抱け」
モールの言葉に、かつてのクレルの教えとの違いを感じながら、リナは何かを掴みはじめていた。
—
「お前の意志を形にしろ」
モールは鍛造室へリナを連れてきた。
朽ちた祭壇の奥、かつてナイトシスターが儀式を行っていた場所に、フォースを通すカイバークリスタルが埋められていた。
リナの手が触れた瞬間——
緑色の輝きが放たれた。
癒し、希望、そして忍耐の光。
「これは……」
「それが、お前の選んだい意思だ」
リナは、残された素材を使って新しいライトセーバーを組み上げた。
鍔のないすっきりとしたシンプルな柄。フォースとの導通を高める内部構造。
リナの呼吸と共に、緑の刃が走った。
寺院の外で、モールは背を向けたまま言った。
「この刃を握ったからといって、お前が正しくなるわけではない。
だが、選び続ける者にこそ闇の中に光を見つける資格がある」
「なぜ、私を助けた?」
「私もまた、大切なものを奪われた。
それを失い、私はすべてを憎んだ。
お前はまだ、それを捨てていない」
モールは歩き去る。
「次に会う時、お前がお前自身であることを願おう」
—
赤い霧が渦巻くダソミアの荒野に、再びリナの足音が戻ってきた。
だがかつてと違い、彼女の瞳は揺れていない。
腰には、鍛え直した緑のライトセーバー。
そして、背中にはBD-4。
「今回は逃げない」
リナは呟いた。
—
ネルヴァンが眠ると言われる黒い渓谷。
ナイトシスターの地下霊廟跡、そこで瘴気のようなフォースが渦巻いていた。
裂けた大地にリナが足を踏み入れた瞬間、闇が形を取り始めた。
「ようやく戻ってきたか、小娘……“恐れ”を忘れてきたか?」
重く、冷たい声。
黒と赤の衣を纏い、獣のような姿——ダース・ネルヴァン。
「前とは違う。私は、恐れを“抱いて”ここに来た」
リナは緑の刃を点した。
リナはフォースを集中させ、刃を構える。
ネルヴァンが迫る。鋼鉄の脚のような腕、赤い二刀の刃、衝撃波。
だがリナは逃げなかった。
モールに教わった機動性
幻影が教えてくれた心の恐怖を包む精神制御
剣の律動と正中を断つ鋭さ——ド=ジェムソ
リナは傷つきながらも刃を叩き込み続ける。
「あなたの力は確かに強い……でも、それは過去だ」
ネルヴァンの動きに乱れが生まれる。
「闇こそ、永遠の意思。貴様の“希望”など——」
「……そんなもの、何度でも踏み越える!!」
リナは自ら跳び込み、頭へ刃を突き立てた。
フォースの奔流が起きる。
緑の光が霊魂の核を貫き、ネルヴァンの叫びが響く。
爆裂する霊体の核。
遺跡が崩れ、渓谷に霧が散っていく。
—
朝焼けのような光が、ダソミアの空に射した。
マシューとBD-4が遠くから駆け寄ってくる。
「おい! まさか……! 生きてんのか!?」
「うん……ただいま」
リナは微笑む。
霧の晴れた空を見上げながら、腰の緑の刃をそっと撫でた。