スターウォーズ:シスの遺産   作:yumui

5 / 20
不安

共和国の首都コルサント。銀河で最も明るく、最も複雑な都市。

戦争の影はここにも落ちていたが、それでも歓楽街だけは“無関心”を装っていた。

 

リナ・ソレイユは、街を歩いていた。

 

その隣には、赤い髪に黒いローブを纏った姉・レナがいる。美人だが表情はいつも険しく、鋭い目つきが周囲を警戒している。

 

「こんなとこ来てる場合? どうせまたすぐ前線なのに」

 

それに対し、もう一人の少女——銀髪で、淡い光を帯びるような微笑を浮かべたジェダイ・ナイトフラナが、肩をすくめて笑った。

 

「こういう時間がないと、心がしおれちゃうよ、レナ。ね、リナ?」

 

リナはうなずいた。

 

「うん……私、ちょっと今……マスター・クレルのことで、胸が重くて……」

 

三人は、街のはずれのテラスバーに腰を下ろした。下にはネオンサインが輝き、スピーダーが流れるように飛んでいく。

 

 

「……最近のマスター、全然前に出ないんだ」

 

リナの言葉に、フラナが首を傾げた。

 

「ポング・クレルってあの? 以前は戦場の最前線に立って勇猛で呼ばれてたよね」

 

リナは目を伏せた。

 

「それが……いまは、クローンたちにばかり命令して、自分は指揮室から出てこない。……敵が多すぎるから出るな、って。確かに合理的なのかもしれないけど……兵たちが、疲れてるのが分かるのに」

 

「その命令で、誰か……?」

 

小さく、うなずく。

 

「三日前、私の部隊の前衛が包囲された。私、出ようとした。でも、彼は“全体の勝利を優先しろ”って。結局、見殺しにした」

 

フラナはそっと、リナの手を握った。手のひらは冷たく、少し震えていた。

 

「あなたの心がそれを悼んでいるなら、まだ大丈夫。……本当に怖いのは、何も感じなくなることだよ」

 

レナが低くつぶやく。

 

「戦争は、人を変える。指揮官を孤独にする。……あの人も、きっと何かを失ったんだ」

 

リナはふと、クレルの背中を思い出した。分厚く、冷たく、遠い背中。

 

(マスター……何を考えているの?)

 

 

「私ね……このままだと、マスターの言葉が届かなくなる気がするの」

 

リナは素直にそう告げた。

 

「命令に従ってる。でも、心のどこかで“また誰かが死ぬ”って……そればっかり考えてしまうの」

 

フラナは静かに語った。

 

「リナ、もしマスターの声が届かなくなったら、自分の声で決めて。ジェダイの義務は服従じゃなくて、調和と意思よ。あなた自身のフォースを信じなきゃ」

 

「……自分の声か」

 

レナがふっと笑った。

 

「私は自分の声しか信じてないけどね」

 

「そ、それはちょっと極端じゃ……!」

 

三人は顔を見合わせて、笑った。

 

戦争の只中にあって、笑える時間は貴重だった。

 

 

帰り道、ネオンサインの光を見上げながら、リナは一人、心の中でマスター・クレルの名を呼んでいた。

 

(私、まだ信じたい。あの人が、どこかで“正しさ”を信じてるって)

 

けれど、それが叶わない未来も、どこかで感じていた。

 

——遠ざかっていく背中。

——人を“数”で見るようになった声。

——戦場で、誰もが何かを置いていく。

 

リナはふと立ち止まり、宙に浮かぶ星の見えない夜空を見上げた。

 

「……マスター」

 

彼女の問いは、歓楽街の喧騒に溶けて、誰にも届かなかった。

 

だが彼女の隣には、まだ、姉が、友が、いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。