共和国の首都コルサント。銀河で最も明るく、最も複雑な都市。
戦争の影はここにも落ちていたが、それでも歓楽街だけは“無関心”を装っていた。
リナ・ソレイユは、街を歩いていた。
その隣には、赤い髪に黒いローブを纏った姉・レナがいる。美人だが表情はいつも険しく、鋭い目つきが周囲を警戒している。
「こんなとこ来てる場合? どうせまたすぐ前線なのに」
それに対し、もう一人の少女——銀髪で、淡い光を帯びるような微笑を浮かべたジェダイ・ナイトフラナが、肩をすくめて笑った。
「こういう時間がないと、心がしおれちゃうよ、レナ。ね、リナ?」
リナはうなずいた。
「うん……私、ちょっと今……マスター・クレルのことで、胸が重くて……」
三人は、街のはずれのテラスバーに腰を下ろした。下にはネオンサインが輝き、スピーダーが流れるように飛んでいく。
—
「……最近のマスター、全然前に出ないんだ」
リナの言葉に、フラナが首を傾げた。
「ポング・クレルってあの? 以前は戦場の最前線に立って勇猛で呼ばれてたよね」
リナは目を伏せた。
「それが……いまは、クローンたちにばかり命令して、自分は指揮室から出てこない。……敵が多すぎるから出るな、って。確かに合理的なのかもしれないけど……兵たちが、疲れてるのが分かるのに」
「その命令で、誰か……?」
小さく、うなずく。
「三日前、私の部隊の前衛が包囲された。私、出ようとした。でも、彼は“全体の勝利を優先しろ”って。結局、見殺しにした」
フラナはそっと、リナの手を握った。手のひらは冷たく、少し震えていた。
「あなたの心がそれを悼んでいるなら、まだ大丈夫。……本当に怖いのは、何も感じなくなることだよ」
レナが低くつぶやく。
「戦争は、人を変える。指揮官を孤独にする。……あの人も、きっと何かを失ったんだ」
リナはふと、クレルの背中を思い出した。分厚く、冷たく、遠い背中。
(マスター……何を考えているの?)
—
「私ね……このままだと、マスターの言葉が届かなくなる気がするの」
リナは素直にそう告げた。
「命令に従ってる。でも、心のどこかで“また誰かが死ぬ”って……そればっかり考えてしまうの」
フラナは静かに語った。
「リナ、もしマスターの声が届かなくなったら、自分の声で決めて。ジェダイの義務は服従じゃなくて、調和と意思よ。あなた自身のフォースを信じなきゃ」
「……自分の声か」
レナがふっと笑った。
「私は自分の声しか信じてないけどね」
「そ、それはちょっと極端じゃ……!」
三人は顔を見合わせて、笑った。
戦争の只中にあって、笑える時間は貴重だった。
—
帰り道、ネオンサインの光を見上げながら、リナは一人、心の中でマスター・クレルの名を呼んでいた。
(私、まだ信じたい。あの人が、どこかで“正しさ”を信じてるって)
けれど、それが叶わない未来も、どこかで感じていた。
——遠ざかっていく背中。
——人を“数”で見るようになった声。
——戦場で、誰もが何かを置いていく。
リナはふと立ち止まり、宙に浮かぶ星の見えない夜空を見上げた。
「……マスター」
彼女の問いは、歓楽街の喧騒に溶けて、誰にも届かなかった。
だが彼女の隣には、まだ、姉が、友が、いた。