ガンダムの世界だ……。
そう気づいたのは、生後半年くらい経ってからだった。
コロニー、スペースノイド、サイド3、それらの単語から導き出される答えはひとつしかない。
つーかジオンかよ!
せめて地球に産まれたかった。いや、地球も地球で大変だとは思うが、敗戦国よりはマシなんじゃないかな。
さて、どうすっかなぁ。年代的に考えて、普通に就職しても徴兵に引っかかりそうなんだよな。ジオンは最終的に学徒動員までして兵士を確保するくらいに追い詰められていたし。
軍人になる? それもなぁ。生き残れるとは思えん。万が一、万が一にもアムロに遭遇したら、間違いなく死ぬ。
いや、うまいことアムロを暗殺できればワンチャン……無理だな。親父の方なら危険人物として訴えることもできそうだが、息子の方は無理だ。個人でやろうにも、殺人犯で逮捕されるだけだろ。
そういえば、テム・レイって元から軍属だったのだろうか。民間の技術者とか研究者なら、スカウトすることもできるか? でも、そうするには俺自身が軍に入り、それなりに決定権を持っていないと無理だよな。
……別に、そこまでするほどジオンに愛着があるわけでもないしなぁ。サイド6にでも移住するか? たしか最後まで中立だった気がする。リボー以外なら大丈夫だろう。両親を説得するのに苦労しそうだが。
技術者になるという道もあるな。ジオニックとかツィマッドとか、そこらに就職すれば、MSの操縦もできそうだし、徴兵もされないだろう。
そんなわけで俺は、この宇宙世紀で技術者の道を選ぶことにした。
◇
俺はガンダムオタクと言えるほどガンダムに詳しいわけじゃない。精々がガンダム好き、ガンダムファンといった程度だ。
戦争の善悪について考えるほど子どもではないが、それでもコロニーを落として人類の半数を死に至らしめたジオンは"悪"なのだと思っていた。
だが両親や祖父母からスペースノイドの歴史を教わっているうちに、スペースノイドの気持ちも理解できるようになった。
宇宙への移民は、いつ頃からか義務になった。つまり強制になったのだ。しかも宇宙に上がるための費用は自腹だったのである。いきなり宇宙に移民しろと言われ、3代にわたるほどのローンを組まされる。当然拒否権はない。この時点で、地球連邦政府に対して反感を持つには十分な理由だろう。
また移民すれば当然生活費がかかる。当たり前だが、その援助もなかった。返済のために子どもは最低限の教育を受けたら働くのが当然だった。一番良いとされたのが、連邦の軍人になることだった。軍人になれば様々な特権を得ることができる。だが出世しても地球に戻れるわけではなく、移民先のコロニーの駐屯兵となるのが当然とされた。
要するに連邦は、スペースノイドを使ってスペースノイドを管理しようとしていたのだ。旧世紀から続く支配体制で、植民地支配の基本とも言えた。スペースコロニーとはよく言ったものである。
以前に俺は戦争から逃れるためにサイド6への移住を考えたことがあったが、それも難しい。別のサイドへ移住することは、かなり厳しく制限されているのだ。
また税金も高かった。有名なのは空気税だろう。地球では当たり前にあった空気に対して税金を払う。宇宙では空気すら有料なのだ。地球と違って空気が貴重なものとわかってはいても、生きるために必須なものに高い税金をかけられるのは納得のできないことだった。
そんな理由もあって、スペースノイドはアースノイドに潜在的な反発心を持っていた。
そんな中、サイド3でふたりの革命家が現れた。ジオン・ズム・ダイクンとデギン・ソド・ザビである。どちらもスペースノイドの独立を掲げていたが、考え方は対極だった。
ダイクンは穏健派で、デギンは強硬派だ。詳しく語ると長くなるので割愛するが、簡単に言えばダイクンは理想を語り、デギンは現実を語った。
独立運動はサイド3全域に広がり、宇宙世紀0058年に単独での自給自足が可能になった時点で、サイド3は独立を宣言してジオン共和国が成立した。それを成したのはダイクンだ。
だが実情が大きく変わったわけではなかった。今まで通り高い税金も取られるし、連邦軍も駐留している。形だけの独立だったわけだ。
連邦の対応も冷ややかだった。冷ややかというよりは、生温かい目で見ていたというべきか。要するに、大人が真剣におままごとをやっているように感じていたのだろう。実害はないし、この程度でスペースノイドのストレスが発散されるならやらせとくかって感じだった。
実際、ダイクンはあくまで連邦政府との話し合いで宇宙移民の国家を認めさせるという考えであり、けっして武力を用いての独立は望んでいなかった。
アースノイドとスペースノイドという2種類の人間がいるから対立するのであり、すべての人間が宇宙に上がり、スペースノイド全体で地球を管理しようという、かなり気の長い改革だったのだ。
流れが変わったのが10年後、宇宙世紀0068年のことだ。ダイクンが議会の演説中に心臓発作で急死する。その後は、デギンが国のかじ取りをするようになった。デギンは実権を握ると反対派を一掃して、翌0069年に共和制を廃止し、公王制に移行した。
権力を手中に収めたザビ家は武力による連邦政府からの独立を目指し、軍備の拡張を始めた。
その最たるものが、
「ランバ・ラルは俺を殺そうとしたぁっっ!!」
と怒鳴り声を上げたのは、オルテガだった。鼓膜が破れそうな大声だ。ギャーギャーやかましいんですよ、発情期ですかコノヤロー。
罵声の相手、ランバ・ラルも袖をまくり上げて臨戦態勢だ。それをガイアとマッシュがなだめている。
何度目だ、このやり取り。飽きもせずよくやるものだ。
なんで俺は、こんなところに来てしまったのだろう。
決まっている。ちょっとやりすぎてしまったからだ。
俺は首尾よくジオニック社への就職を果たし、希望した開発部へと配属された。そこであるプロジェクトに参加することになった。それは"ミノフスキー粒子散布下に対応した戦闘兵器"の開発だ。
俺はすぐにピンときた。これはMSだなと。
開発プロジェクトのリーダーはエリオット・レム主任で、俺はチームメンバーのひとりだった。
最初にアイディアを募った時、出てきたのは戦闘機ばかりだった。だから俺が人型のアイディアを出した時は、大爆笑された。
だがレム主任は即座にその有用性を見抜いた。
こうしてプロジェクトは進み、うちの開発した"クラブマン"が0073年に行われたコンペティションを制した。
その時、審査員のひとりであったギレン・ザビに見いだされたレム主任は、佐官待遇の軍属として出向することになった。
そこまでは予想していたのだが、レム主任が俺を推挙することまでは読めなかった。たしかに俺は、色々とアイディアを出した。レム主任にも目をかけてもらった。これが100%善意であることもわかった。だから、断り切れなかった。
まあMS開発部門なら、前線に駆り出されることもないだろう。
そんな経緯で、俺は今ここにいる。連邦の目が届かぬ辺境のコロニーで、MSの開発と運用試験を行っている。
試作型のマシンガンとヒートホーク、そして対艦戦闘用のバズーカを装備したMSは、まさしく兵器としての完成だった。
このMS"ザク"の完成をきっかけに、ジオン公国は大きく動き出した。
そして運命の日、0079年1月3日。
ギレンは連邦政府に対して宣戦を布告した。
というわけで、Gundamです。