後方支援者面で行く宇宙世紀   作:乾燥海藻類

10 / 26
閑話 「蒼き薔薇」

宇宙要塞ソロモンへと向かうザンジバル級スノーフレークの中で、マリオンはまどろんでいた。

 

(みんな、ニュータイプを当てにしすぎている。いえ、恐れているのかもしれない……)

 

シャアは言うまでもなく、アルマ、アンネローゼ組は大きな戦果を挙げている。マリオンも初陣で力を示した。シャリア・ブルも、シミュレーターで高いスコアを示して見せた。

ピピッとアラームが鳴る。まどろみの時間は終わりだ。マリオンは身支度を整え、格納庫へと向かった。

蒼い機体がマリオンを迎える。彼女の専用機、ブルーウィッシュだ。

 

「マリオン准尉、準備はできてますよ」

「ありがとう」

 

整備スタッフにお礼を言って、マリオンはコクピットに滑り込んだ。

待機の時間は、それほど長くはなかった。サイレンが鳴り、整備兵が退避を始める。

戦闘宙域に近づいてきたのだ。ブリッジから通信が入る。

 

『目標ポイントに到達。ミノフスキー粒子濃度は62。格納庫ハッチオープン。マリオン准尉、出撃どうぞ!』

「了解。マリオン・ウェルチ、ブルーウィッシュ、出ます」

 

蒼い宇宙に、蒼き機体が舞う。

続けて、浅黄色の機体と灰色の機体が宇宙に放たれた。

 

『では先陣を切らせてもらいますよ』

 

そう言って、シャリア・ブルが吶喊した。

 

「アルマ、ローゼ、聞こえる?」

 

ジラソーレの肩を掴み、マリオンは接触回線で語りかけた。

 

「うん。作戦は変更なし?」

「ええ、エネルギーの残量には注意してね。ローゼも、大丈夫?」

 

ジラソーレもブルーウィッシュも、そしてルドベキアも、既存のMSとは一線を画した戦力を有している。固めて運用するよりも、高機動を活かして遊撃として使うという作戦だ。

 

「問題ない。行けるわ」

「そう。じゃあ、行きましょう」

 

2色の機体が宇宙を流れる。

ミノフスキー粒子の影響でレーダーの機能は弱まり、高速機動する機影以外は捕捉できなくなっている。

シャリア・ブルは囮役だった。灰色のガンダムは、目視では確認しにくい。上手く敵を混乱させてくれるだろう。

 

ソロモンには光が溢れていた。爆発光、噴射光、そして、生命(いのち)の光。

マリオンの脳内に、鈍い痛みが走った。

 

(それでも私は、戦うと決めたのよ)

 

敵艦隊はルドベキアに気を取られている。今なら横っ腹に突っ込める。

 

「MSがいるわ。気をつけて」

 

V作戦の全貌は明らかにできなかったものの、連邦がMSの量産化計画を立てていることは予見できた。

ジャブローで投入してくるかと思われたが、MSの姿は確認できなかった。ジャブローでの敗因は、戦場が相手の庭であったことと、物量の差だった。

その量産型MSを、連邦はソロモンで投入してきたのだ。

 

「行くわよ、アルマ、ローゼ」

『了解!』

 

4基の蒼い薔薇(ビット)が射出される。さらにビームライフルでサラミス級に狙いをつけた。

 

(無駄撃ちはしない!)

 

戦艦のリアクター、MSや戦闘機はコクピットを確実に撃ち抜く。

敵もこちらに気づいた。ビームは回避し、ミサイルの弾幕は当たるものだけをバルカンで撃ち落とす。

 

何機のMS、何隻の戦艦を落としただろうか。エネルギーの残量が気になり始めた頃、例えようもない強烈な意識がマリオンの頭を突き抜けた。

その一瞬後、一条の巨大な光芒が宇宙を貫いた。

その光は多くの生命を巻き込んで、ソロモンを焼いた。

 

「いやぁぁぁっ!!」

 

マリオンは絶叫した。彼女の中に、散った生命の思惟が流れ込んできたのだ。恐怖、悲鳴、それすらも感じられずに喪われた生命の輝き。それらマイナスの意識を、マリオンはその身に感じ取った。

体が震える。マリオンは両手で肩を掴み、必死で震えを抑えようとした。

 

そんな狼狽するマリオンの意識に、強烈な敵意が流れ込んできた。

軽キャノンの小隊がこちらに向かってくる。

マリオンは震える手で機体を操作した。オールレンジ攻撃で軽キャノンの小隊を迎え撃つ。だがその弾幕を1機のMSが抜けてきた。

 

「かわした!?」

 

マリオンは驚愕した。必殺の一撃であるビットの攻撃をかわした。相手もニュータイプかもしれない。

 

(いえ、違うわ。()は、私の"意思"を読んでいるんじゃない。野性的な勘の良さでかわしているんだわ)

 

マリオンは一瞬で軽キャノンのパイロットを読み取った。相手はニュータイプではないが、ニュータイプに匹敵する強さを持っている。

放たれるビームライフルをかわしながら、ビットで応戦する。しかし相手は紙一重でビーム砲をかわしながら、距離を詰めてきた。

軽キャノンがビームサーベルを抜く。マリオンもビームサーベルを抜いた。鍔迫り合いが発生する。

 

「この距離じゃあ、あのバラも使えまい!」

 

野獣のような声。強烈な攻撃の意思。だが荒々しさの中に、少しだけ若さが見えた。軽キャノンのパイロットは、もしかしたらまだ少年といえる年齢なのかもしれない、とマリオンは感じた。

 

「くっ、あなたは一体……」

「この声……女だとっ!?」

 

動揺の声。だがそれは一瞬で消え失せた。

 

「戦場に女はいらん! しかし出てきたからには、落とさせてもらうぞ!」

「あなたは……この戦争で、この戦場で、あの光で! 何人の命が散っていったと思ってるの!?」

「そのセンチメンタリズム、まさしく女だな! 貴様とて数多(あまた)の連邦兵を殺しただろうに! 加害者が被害者面するのはやめろ! 殺す覚悟も殺される覚悟もない人間が、戦場に出てくるんじゃねぇ! 不愉快なんだよ!」

 

気圧される。流されるままに兵士となり、戦う覚悟をしたと自分に言い聞かせているマリオンとは、覚悟の質が違った。

指が震える。まるで蛇に睨まれた蛙のようだった。

 

ガツンと衝撃が走った。腹部(コクピット)を蹴られたのだと気づくのには、一瞬の時を要した。

正面に視線を戻すと、ビームライフルの銃口があった。

マリオンは死を覚悟した。だがその瞬間、上方から2筋のビームが降ってきた。1本はビームライフルを射抜き、もう1本は軽キャノンの左脚を射抜いた。不利を悟った軽キャノンが離脱していく。

最後っ屁のようにビームキャノンを発射したが、マリオンはギリギリで回避に成功した。

 

「無事ですか? マリオン准尉」

「シャリア大尉……はい、助かりました」

「いえ、しかしあの軽キャノンのパイロット、ただ者ではないですね。コクピットを射抜いたと思ったのですが……」

「はい。危険な相手です。しかし、大尉はどうしてここに?」

 

シャリア・ブルの担当宙域からはかなり離れている。敵に追い立てられたというわけでもあるまい。

 

「ドズル閣下が戦死されたようです。指揮系統が混乱していますが、すぐに後退命令が……」

 

言い終わらぬうちに、ソロモンから信号弾が上がった。

 

「ソロモンは失陥したようですね。艦に戻りましょう」

「……了解しました」

 

多くの人間が死んだ。敵も、味方も。この宙域は、死の匂いが強すぎる。哀しみにあふれている。

マリオンのほほに、涙が流れた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。