宇宙要塞ソロモンへと向かうザンジバル級スノーフレークの中で、マリオンはまどろんでいた。
(みんな、ニュータイプを当てにしすぎている。いえ、恐れているのかもしれない……)
シャアは言うまでもなく、アルマ、アンネローゼ組は大きな戦果を挙げている。マリオンも初陣で力を示した。シャリア・ブルも、シミュレーターで高いスコアを示して見せた。
ピピッとアラームが鳴る。まどろみの時間は終わりだ。マリオンは身支度を整え、格納庫へと向かった。
蒼い機体がマリオンを迎える。彼女の専用機、ブルーウィッシュだ。
「マリオン准尉、準備はできてますよ」
「ありがとう」
整備スタッフにお礼を言って、マリオンはコクピットに滑り込んだ。
待機の時間は、それほど長くはなかった。サイレンが鳴り、整備兵が退避を始める。
戦闘宙域に近づいてきたのだ。ブリッジから通信が入る。
『目標ポイントに到達。ミノフスキー粒子濃度は62。格納庫ハッチオープン。マリオン准尉、出撃どうぞ!』
「了解。マリオン・ウェルチ、ブルーウィッシュ、出ます」
蒼い宇宙に、蒼き機体が舞う。
続けて、浅黄色の機体と灰色の機体が宇宙に放たれた。
『では先陣を切らせてもらいますよ』
そう言って、シャリア・ブルが吶喊した。
「アルマ、ローゼ、聞こえる?」
ジラソーレの肩を掴み、マリオンは接触回線で語りかけた。
「うん。作戦は変更なし?」
「ええ、エネルギーの残量には注意してね。ローゼも、大丈夫?」
ジラソーレもブルーウィッシュも、そしてルドベキアも、既存のMSとは一線を画した戦力を有している。固めて運用するよりも、高機動を活かして遊撃として使うという作戦だ。
「問題ない。行けるわ」
「そう。じゃあ、行きましょう」
2色の機体が宇宙を流れる。
ミノフスキー粒子の影響でレーダーの機能は弱まり、高速機動する機影以外は捕捉できなくなっている。
シャリア・ブルは囮役だった。灰色のガンダムは、目視では確認しにくい。上手く敵を混乱させてくれるだろう。
ソロモンには光が溢れていた。爆発光、噴射光、そして、
マリオンの脳内に、鈍い痛みが走った。
(それでも私は、戦うと決めたのよ)
敵艦隊はルドベキアに気を取られている。今なら横っ腹に突っ込める。
「MSがいるわ。気をつけて」
V作戦の全貌は明らかにできなかったものの、連邦がMSの量産化計画を立てていることは予見できた。
ジャブローで投入してくるかと思われたが、MSの姿は確認できなかった。ジャブローでの敗因は、戦場が相手の庭であったことと、物量の差だった。
その量産型MSを、連邦はソロモンで投入してきたのだ。
「行くわよ、アルマ、ローゼ」
『了解!』
4基の
(無駄撃ちはしない!)
戦艦のリアクター、MSや戦闘機はコクピットを確実に撃ち抜く。
敵もこちらに気づいた。ビームは回避し、ミサイルの弾幕は当たるものだけをバルカンで撃ち落とす。
何機のMS、何隻の戦艦を落としただろうか。エネルギーの残量が気になり始めた頃、例えようもない強烈な意識がマリオンの頭を突き抜けた。
その一瞬後、一条の巨大な光芒が宇宙を貫いた。
その光は多くの生命を巻き込んで、ソロモンを焼いた。
「いやぁぁぁっ!!」
マリオンは絶叫した。彼女の中に、散った生命の思惟が流れ込んできたのだ。恐怖、悲鳴、それすらも感じられずに喪われた生命の輝き。それらマイナスの意識を、マリオンはその身に感じ取った。
体が震える。マリオンは両手で肩を掴み、必死で震えを抑えようとした。
そんな狼狽するマリオンの意識に、強烈な敵意が流れ込んできた。
軽キャノンの小隊がこちらに向かってくる。
マリオンは震える手で機体を操作した。オールレンジ攻撃で軽キャノンの小隊を迎え撃つ。だがその弾幕を1機のMSが抜けてきた。
「かわした!?」
マリオンは驚愕した。必殺の一撃であるビットの攻撃をかわした。相手もニュータイプかもしれない。
(いえ、違うわ。
マリオンは一瞬で軽キャノンのパイロットを読み取った。相手はニュータイプではないが、ニュータイプに匹敵する強さを持っている。
放たれるビームライフルをかわしながら、ビットで応戦する。しかし相手は紙一重でビーム砲をかわしながら、距離を詰めてきた。
軽キャノンがビームサーベルを抜く。マリオンもビームサーベルを抜いた。鍔迫り合いが発生する。
「この距離じゃあ、あのバラも使えまい!」
野獣のような声。強烈な攻撃の意思。だが荒々しさの中に、少しだけ若さが見えた。軽キャノンのパイロットは、もしかしたらまだ少年といえる年齢なのかもしれない、とマリオンは感じた。
「くっ、あなたは一体……」
「この声……女だとっ!?」
動揺の声。だがそれは一瞬で消え失せた。
「戦場に女はいらん! しかし出てきたからには、落とさせてもらうぞ!」
「あなたは……この戦争で、この戦場で、あの光で! 何人の命が散っていったと思ってるの!?」
「そのセンチメンタリズム、まさしく女だな! 貴様とて
気圧される。流されるままに兵士となり、戦う覚悟をしたと自分に言い聞かせているマリオンとは、覚悟の質が違った。
指が震える。まるで蛇に睨まれた蛙のようだった。
ガツンと衝撃が走った。
正面に視線を戻すと、ビームライフルの銃口があった。
マリオンは死を覚悟した。だがその瞬間、上方から2筋のビームが降ってきた。1本はビームライフルを射抜き、もう1本は軽キャノンの左脚を射抜いた。不利を悟った軽キャノンが離脱していく。
最後っ屁のようにビームキャノンを発射したが、マリオンはギリギリで回避に成功した。
「無事ですか? マリオン准尉」
「シャリア大尉……はい、助かりました」
「いえ、しかしあの軽キャノンのパイロット、ただ者ではないですね。コクピットを射抜いたと思ったのですが……」
「はい。危険な相手です。しかし、大尉はどうしてここに?」
シャリア・ブルの担当宙域からはかなり離れている。敵に追い立てられたというわけでもあるまい。
「ドズル閣下が戦死されたようです。指揮系統が混乱していますが、すぐに後退命令が……」
言い終わらぬうちに、ソロモンから信号弾が上がった。
「ソロモンは失陥したようですね。艦に戻りましょう」
「……了解しました」
多くの人間が死んだ。敵も、味方も。この宙域は、死の匂いが強すぎる。哀しみにあふれている。
マリオンのほほに、涙が流れた。