後方支援者面で行く宇宙世紀   作:乾燥海藻類

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第09話 「虹の先にあるもの」

空が落ちてくる、なんて大げさな表現だなと思ったが、たしかにこれは、空が落ちてくるって感じだな。

追い詰められた人間は何をするかわからないって言ったのは誰だったかな。

まさか連邦が、ソロモンを落としてくるとは。

 

連邦はジオンがルナツーを攻めている隙を狙って、ソロモンをグラナダに落とすことを画策した。ルナツー攻略に戦力を注力していたグラナダに、まともな戦力は残されていなかった。

残存しているのはソドンと、補修が間に合わなかった戦艦とMSがいくつかあるだけだ。

その部隊で特攻作戦を行うらしいが、どうなることやら。爆発光は今も続いている。だがソロモンの落下は止まっていない。

 

あの質量が月に落ちたらどうなるか。間違いなくグラナダの住民は全員死ぬだろう。月の軌道だって変わるかもしれない。そうなれば、地球にだって影響が出る。いや、月そのものが欠けてしまう可能性だってある。

何を考えて連邦が、こんなムチャクチャな作戦を立てたのだろうか。

そもそも南極条約に違反してるんじゃないのか、これ。

 

コロニーを落とされたことへの意趣返しだろうか。

よくよく宇宙世紀の人間は、なにかを落とすのが好きらしい。コロニーとか、アクシズとか。

イリアとレシアが、俺の手を強く握ってきた。怖いだろうに、泣きわめかないのは大したものだな。

 

「所長、研究員の避難は完了しました。所長もお急ぎください」

「ああ、ご苦労。キミも急げよ」

 

イリアとレシアを連れて、退避カプセルへと向かう。

その途中で、ふたりが立ち止まって空を見上げた。つられて、俺も上空へと目を向ける。

その時、不思議なことが起こった。

ソロモンの一角から、強烈な光が溢れ出たのだ。

 

「なんの光ッ!?」

 

目もくらむような眩さ。

だがどこか温かさを感じるような光だった。

これはまさか、サイコフレームの光? ソロモンを押し返そうというのか?

 

……いやサイコフレームなんてまだ存在しねぇだろ。

そもそも発光の色が違うし。サイコフレームの輝きなら緑だろ。

マジでなんなんだよ、あの光!? 爆発の光ともなんか違うし……。

 

――la、la……

 

なんだこの音、声? どこから……。

 

「なに? この声……」

「……声」

 

ふたりにも聞こえているようだ。

ラ、ラ、ララァ?

いや、ララァは研究所(ここ)には来ていない。そのうちシャアが連れてくるだろうと思って探しもしなかった。だが結局シャアは連れてこなかった。あとハマーンも来なかった。バタフライエフェクトとか、そういうのかもしれない。

 

「遠ざかっていく」

 

レシアがぼそりと呟いた。

ソロモンの軌道が、変わっている?

マジで押し返したのか……。

やっぱりシャアがやったのかな? だとすれば、凄いなニュータイプ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0080年1月3日、ジオン公国と地球連邦の間に終戦協定が結ばれた。

これは実質的な連邦の降伏と言ってよいだろう。

だが国力に乏しいジオン公国が、宇宙の全てを統括するのは難しい。

どこで線を引くか、それが重要になってくるだろう。

 

戦後、ニュータイプ研究所は閉鎖されることになった。

今後はニュータイプの素養を持つ人間を集めて、士官候補生として育成するらしい。

俺はそこの校長を打診されたが、断ることにした。

戦争が終わった後に始まるのは政争と相場が決まっている。

ギレンとキシリアの仲は良好とは言い難い。これから権力闘争が始まるだろう。巻き込まれるのはごめんだ。

 

グラナダに居続けるのも危険かもしれない。サイド3も同じだ。首都(ズムシティ)が戦場になる可能性だってある。

俺は会社も軍も辞めて、サイド6に移住することにした。サイド6は最後まで中立を保った。再び戦争が始まるようなことになっても、サイド6にいれば大丈夫だろう。

そんなわけで俺は今、サイド6行きの旅客機の中にいる。

 

「サイド6ってどんなところだろう。楽しみだね、しょちょー」

 

隣の席では、イリアが無邪気に笑っている。その隣の席では、レシアが熱心に窓の外を眺めていた。

戦争が終わると、ふたりの母親は姿を消した。ふたりの給料(協力費)が振り込まれている口座は空になっていた。母娘(おやこ)仲が良くないとは思っていたが、娘を捨てて消えるとは思ってもいなかった。

 

軍に頼れば、居場所を突き止めることはできるのかもしれない。だがそれでどうなる? 金は返ってくるかもしれないが、一度切れた母娘の絆が繋がることはないだろう。

ふたりにどう伝えるべきか悩んでいると、俺と一緒に行くと言ったのだ。ニュータイプ的な勘で、何かを感じ取ったのかもしれない。

 

「俺はもう所長じゃないぞ」

「ん~、じゃあ、おとーさん」

「……おとーさん」

 

代わりの呼び方は、まさかのお父さんだった。外を眺めていたレシアも、振り返って同じ言葉を口にした。ふたりは父親を知らない。だから父性に飢えているのかもしれない。

ふたりの父親は、サイド3に駐留している連邦軍人だった。だが民衆の間に独立の気運が高まり始めると、妻子を捨ててサイド3から姿を消した。

 

元々、出張先での遊びだったのだろう。

その後、母親は新たな寄生先()を探し始め、ふたりは育児放棄(ネグレクト)に近い状態だった。だから研究所のスカウトにも応じたのだろう。協力費ももらえて、養育費もかからないからな。

 

「ふっ、それもいいか」

 

そう言って、ふたりの髪を撫でる。

サイド6に着いたら、養子縁組の手続きをしないとな。

ソロモンのあの輝き。ゼクノヴァと名づけられたあの奇跡で、グラナダは救われた。だがその代償として、シャアとガンダムは虹の彼方に消え去ってしまった。

なぜあんなことが起こったのかは、今もってわかっていない。たぶん、というか絶対シャアがなんかやったのだろう。ニュータイプのなり損ないとか言われていたが、彼こそが真のニュータイプだったのかもしれない。

もしかしたら、アルファ・サイコミュとかいう感応波増幅器が悪さをしたのかもしれないが。

 

『戦争が終わりました。戦争が終わったということは、平和になったということです』

 

テレビではサイド6の官僚らしき男がインタビューに答えている。

戦争が終わったからといって、すべてが元通りになるわけではない。戦争が終わったからこそ生まれる問題や課題もある。

 

『食料品の値上がりも止まるでしょう。あと私、今日が誕生日なんですよ。私も誕生日に生まれたんです。昨日までは39歳だったんですが、今日40歳になりました』

 

ということは、0040年生まれか。宇宙移民が活発に行われていた激動の時代だな。

あの官僚は戦争が終わって平和になるといったが、おそらくは一時的なものだろう。戦争は終わらない。戦争をしたい人間がいるかぎりは。

そして、戦争をしたい人間がいなくなることはない。

 

原作では連邦が勝った。だがその連邦もエゥーゴとティターンズに別れて、また戦争が始まった。

この世界線ではジオンが勝った。同じように、ギレン派とキシリア派が争うだろう。それは戦争にまで発展するかもしれない。

変則Zガンダムの始まりだ。エゥーゴ、ティターンズ、アクシズ(ジオン残党)が、ギレン派、キシリア派、連邦の残党に変わるだけだろう。

 

もしかしたらガルマが担ぎ上げられて、新生ジオンが生まれるかもしれない。

虹の彼方に消えたシャアが帰還して、ネオ・ジオンを立ち上げるかもしれない。

まあ、すべては俺の予測にすぎない。それでもしばらくは、平穏が訪れるだろう。

たぶん、0087年くらいまでは。

 

 

 





(ジオンが)勝った! 第1部完ッ!
もうちょっとだけ続きます。
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