後方支援者面で行く宇宙世紀   作:乾燥海藻類

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第10話 「サイド6にて」

サイド6、カミイグサ・コロニーに移住した俺は、昆虫館で働くことになった。

特に理由はない。募集していたから応募しただけだ。そして運よく採用された。

コロニーにもよるが、基本的にコロニーは昆虫に対して厳格だ。サイド3のコロニーでは、昆虫館以外で昆虫を見ることはまずなかった。

 

「俺にとっちゃあ、嫌な思い出しかないがな、虫は」

 

隣で飲んでいたスベロアさんがぼそりとこぼした。

彼は元ジオンの軍人で、地球降下作戦でアフリカに降り、そのまま終戦までアフリカ戦線を支えていた。

 

「一番悩まされたのは虫、次は暑さだな。タバコが気兼ねなく吸えたことくらいしか、地球に良い思い出はない」

 

グラスの氷をカランと鳴らして、スベロアさんは当時のことを思い出していた。

管理されたコロニーの気候と違って、地球の環境は過酷だ。コロニー落としによって地軸も歪み、気象も乱れた。

 

「タバコを吸っていたんですか?」

「ああ、もうやめちまったがな。マリィのためにも、節約せにゃならん」

 

カミイグサ・コロニーでは決まった場所でしかタバコは吸えない。指定の場所以外で吸っているところを見つかれば、少なくない罰金を払うことになる。気兼ねなく吸えるのは工業コロニーくらいだろう。

そもそもタバコ自体が高いしな。

 

「そういえば、なんかうちの娘たちが妙なことに巻き込んだみたいで」

「……ああ。プチ・モビか。まあ構わんさ。俺が武勇伝みたいに地球での活躍を話しちまったのも、原因のひとつだろうしな」

 

スベロアさんは、終戦を機に軍を辞めた。その後、妻子と共にサイド6へ移住してきたのだ。

彼は熱心なザビ家信奉者ではない。だからサイド3がきな臭くなっているのに気づいたのかもしれない。

引っ越し先は俺のマンションの隣の部屋だった。彼の娘のマリィちゃんは、イリアたちと歳が近いこともあり、家族ぐるみで仲良くさせてもらっている。

 

「お嬢ちゃんたちから護身術も教わっているようだ。女の子がどうかとも思うが、最近は物騒だからな。身につけておいた方がいいのかもしれん」

 

戦争が終わって4年ほど経つが、難民の数は増え続けている。これは政権が変わったことも関係しているだろう。

 

「ランクの方が良かった気もするがな。ペルガミノは、どうも信用ならん。こそこそと物資の横流しで小金を稼いでいた以前の上官を思い出す」

「その上官はどうなりました?」

「死んだよ。流れ弾に当たってな」

 

流れ弾ねぇ。

戦場ってのは怖いな。こういうことがあるから、恨みは買わない方がいい。

 

「軍警も変わりましたね。難民への当たりが強くなりました」

「イズマ・コロニーの方はひどいらしいな。難民の総数も、把握できないほど膨れ上がっているらしい。だから軍警も神経が苛立っているんだろう」

 

カミイグサ・コロニーは市長が割とまともなのもあって、大きな難民問題は起きていない。

 

「意図的なものかもしれませんがね」

「ん? どういうことだ?」

「イズマ・コロニーで非合法の賭け試合が流行っているのはご存じでしょう?」

「……ああ、そういうことか」

 

スベロアさんも察したようだ。

大金が絡む事業というのは、たいてい国が絡んでいる。非合法の賭け試合(クランバトル)はネットでゲリラ配信もされ、賭けの対象にもなっている。

軍警が本気で捜査すれば、鎮圧できるのは間違いない。それをやらないのは、上の意向があるのだろう。

 

「ペルガミノ……かもしれんな。やつは造船会社時代から、横流しの疑惑があったからな」

 

ペルガミノは一年戦争時代、造船会社を経営していた。だが終戦を機に政治家へと転身。どんな手を使ったのかはわからないが、わずか数年でサイド6の大統領に就任した。

クランバトルは、退役軍人や敗残兵達の食い扶持になっている必要悪、などと言う人間もいるが、政府がしっかりしていれば、必要なものでもないだろうに。

なんなら、合法にして公営ギャンブルにでもしてしまえばいい。まあそれはそれで、なんでもアリの闇試合が生まれそうな気もするが。

 

ペルガミノでなくとも、お偉いさんが関わっているのは間違いないだろう。

運営だけじゃない。MSの部品を供給する商人たち。有力者や犯罪組織。甘い汁を吸おうと人が集まり、莫大な金が動く。そんな場所に、まともな人間は近づかない。

 

パイロットだってそうだ。頭部を破壊すれば勝ちというルールだが、コクピットへの攻撃が禁止されているわけではないようだ。そんな命懸けの賭博試合に興じるのは、まともな人間じゃない。

借金や弱みを握られているか、よほどの自信家か、よほどのバカか。あるいは……よほどの世間知らずか。

 

「若者に人気の娯楽コンテンツになってるみたいですね。見るだけならいいんですが、憧れるようになるのは困りものです。どうしますか? マリィちゃんが参加したいとか言い出したら?」

「そんときゃ、ぶん殴ってでも止めるさ」

「スベロアさんにマリィちゃんが殴れるとは思えませんがね」

「……言ってくれるじゃねぇか」

 

子煩悩だからな、この親父。愛妻家だし。先月も家族旅行でフランチェスカ・コロニーに行ったらしい。あそこはコロニーの採光部分である川を使った海洋エリアが70パーセントを占めており、マリンスポーツや海洋生物の観察が楽しめるリゾートコロニーで、なかなか人気がある。

 

マリィちゃんのことを言ったが、むしろ心配なのはうちの娘たちの方だ。

なぜならあのふたりは、MSの操縦ができるからな。ジオニック社製のものなら、どんなMSでも操縦できるだろう。基本的には同じ作りだからな。

 

噂をすれば、というべきか、バーのモニターが急に切り替わり、カウントダウンが始まった。

60秒のカウントダウンが終わると、画面が宇宙に切り替わる。

ザクが現れた。

 

「あんな骨董品がよく動くモンだ」

 

モニターに映っているのは初期型のザクだ。ザクは様々なバリエーションが造られたが、大別すると3種類しかない。大戦初期に大量生産された初期型、指揮官用に性能を向上させたS型、そして後期に生産された高機動型、この3つだ。

民生用に払い下げられた機体の多くは初期型だった。この払い下げられた機体は、武器管制システムにロックがかけられており、作業用に使うのが目的だった。

だがこのロックを外すデバイスが闇市場で流通しており、それを使ってこのような非合法バトルが行われるようになった。

 

「2対1か。見るまでもないな」

 

クランバトルは基本的に2on2のチーム戦で行われる。だがそれは最大出撃数が2機というだけで、1機で出撃してもルール違反ではない。とはいえ、1機で出撃するメリットはほとんどない。

おそらく、違約金を払うよりは修理費の方が安くすむという理由で出撃したのだろう。

クランバトルのルールはよくわからないが、違約金が高額だというのは聞いたことがある。たぶん、棄権とか降伏が認められていないのだろう。

さすがに2対1では勝負にならず、決着は一瞬でついた。

 

 

 

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