「うん。こんなものかな。お姉ちゃん、試してみて」
「りょーかい」
レシアが機体から離れたのを確認すると、イリアはマニピュレーターの操作を始めた。
正面に置かれた立体パズルを掴み、器用に組み立てていく。
「よし、完成!」
「うん。前回のタイムを更新したよ。これでバッチリだね!」
イリアはコクピットから飛び降りると、レシアとハイタッチをかわした。
振り返り、自分たちが組み上げたプチ・モビを見上げる。それが完成にまで至ったのは、感慨深いものだった。
「オーッス! やってるかぁっ!」
と、ふたりが感慨にふけっていると、ガレージに大声が響いた。少年の声である。
「相変わらずうるさいなぁ、ロメロは」
「おっと、そんな悪態ついていいのかな? とっておきのを持って来たってーのによ!」
少年――ロメロと出会ったのは近所のゲームセンターだった。対戦型のバトルゲームで戦ったのが切っ掛けで、プチ・モビを組み立てているという話題になった時に、協力を申し出てきたのだ。
だがその真の目的に、イリアもレシアも気づいていた。
「マリィはいないよ」
キョロキョロと周りを見渡しているロメロに、イリアはため息を落としながら告げた。
「な、なんだよ。俺は別にマリィ目当てで協力してるわけじゃないぞ」
「どーだか。で、あんた何を抱えてんのさ」
ロメロは胸に大きな段ボールを抱えていた。ロメロは機械に詳しいだけでなく、たまにパーツを調達してくるのだ。
「へへっ、見て驚くなよ。ジャーン、MS用のモーターだ。プチ・モビ用のモーターとはパワーがダンチだぜ!」
と、胸を張って告げるロメロだったが、イリアの反応は冷ややかだった。
「あんたねー、パワーってのはあればいいってわけじゃないのよ。MSのモーターをプチ・モビに積んだって過剰なだけよ。オーバーパワーで
「……ぐっ」
イリアに反論され、ロメロは口ごもった。良品のモーターを手に入れたことで舞い上がっていたのだ。モーターに合わせてパーツを選ぶという方法もあるが、予算は限られている。
「まぁまぁ、お姉ちゃん。ロメロさんだってよかれと思って持ってきてくれたんだし、ね」
「……ま、気持ちは受け取っとくわ」
「ごめんね、ロメロさん。お姉ちゃん、素直じゃないから」
「ああ、短い付き合いだが、それはよく知ってるよ」
モーターを胸に抱えたまま、ロメロはため息を落とした。
「けど決勝でだけ使うってんならアリじゃないか? ああでも、いきなりモーターを積み替えたら操作性も変わるし、無理か」
プチ・モビの大会は予選と決勝があり、予選は生卵を割れないように掴んだり、ボールを落とさないように運んだり、イリアが先ほどやったような立体パズルの組み立てなど、精密操作性が審査される。
そして決勝では直接のバトルが行われ、動作性や操縦技術が試されるのだ。
「ちょっと、ナメないでくれる? 出力が上がったくらいで操縦ミスるようなヘマはしないわ」
「ほー、じゃあこのモーターも無駄にはならなかったってわけか」
「……ま、決勝の相手が手ごわそうなら、使ってあげてもいいわ」
生意気なヤツだな、と思ったが、ロメロはぐっと呑み込んだ。たしかにイリアの操縦技術は、目を瞠るものがある。大口を叩くだけのことはあった。
「ふたりとも調子はどう?」
とそこで、ガレージに鈴を転がすような声が響いた。ロメロの顔がパッと明るくなる。
「マリィ!」
「あら、ロメロさん、いらっしゃい」
にこやかにマリィは笑った。いらっしゃいと言ったように、マリィの中ではロメロは仲間というよりはお客さんなのだった。
「見てくれよ、こんな良い物を見つけたんだ。これで優勝は間違いなしさ!」
「いつもありがとうございます。すごいんですね。このモーター」
ロメロは早口でいかにこのモーターが優れているかを饒舌に語った。その光景を、イリアは呆れるように見ていた。
(ああいうのは、女に嫌われるってわかんないかね。まあ、マリィもプチ・モビやMSには興味持ってるみたいだから、聞くのは嫌じゃないだろうけど)
それでも、マリィは機械工学については初心者の域を出ない。対してロメロの知識は大したもので、エンジニアとしても優秀だった。
話がマニアックなところに入りそうだったので、イリアは仕方なく助け船を出すことにした。
「良い匂いがするね、マリィ」
「え? ああ、サンドウィッチを作ってきたの。みんなで食べましょう」
「いいね、ちょうどおなかがすいてきたところだったんだ」
「マリィの手作り……そ、それは僕もご相伴に与ってもいいのかい?」
「ええ、ロメロさんもご一緒にどうぞ」
「やった! ありがとうマリィ!」
ロメロは天にも昇るような気持ちだった。
(なぁーにが"僕"なんだか)
イリアは心中で舌を出した。ロメロはマリィの前では妙に上品になるのだ。
「んじゃ、食べようか」
「ダメよ、お姉ちゃん。ちゃんと手を洗ってからでないと。ほら、ロメロさんも」
言われて、イリアは軍手を外して自分の両手を眺めた。たしかに汚れている。
みんなで手を洗って、サンドウィッチを食べた。その後は雑談をして、その日は解散となった。
イリアとレシアも片付けを終えて、あとはガレージの施錠をするだけとなった時、ふたりは妙な感覚を覚えた。
懐かしさを感じるような感覚に、ふたりは同時に振り返った。視線の先にいたのは、妙齢の女性だった。
「アルマお姉ちゃん!」
「アルマ姉じゃん、久しぶり!」
それはニュータイプ研究所でともに生活した、アルマ・シュティルナーだった。
「久しぶり、ふたりとも元気そうだね」
アルマは昔と変わらない、無邪気な笑顔を見せた。
「ホントに久しぶりだね、4年ぶり?」
「もうそんなになるのかぁ。もっと早くに会いに来たかったんだけど、見張りがあったからさ。私が接触するのはマズいかなって」
自分たちに見張りがついているのは、イリアも気づいていた。おそらくは、キシリアの手の者だろうということも。自分たちが連邦に寝返らないか、あるいはジオンに反抗しないかを見張っているのだろう、というのが、イリアの予想だった。
(お父さんもそれに気づいたから、昆虫館で働くことを選んだ。MS関連の仕事を選んでいたら、監視はもっと厳しくなったかもしれない)
隣にジンネマン一家が引っ越してきた時も警戒した。彼から軍人の匂いがしたからだ。だがそれは杞憂だった。
3年ほど経って監視はなくなった。動きがないことに安心したのか、それともジオンも人手不足なのか。
「懐かしさで会いに来たってわけじゃあ、なさそうだね」
「……それは、ニュータイプの勘ってやつ?」
「なんでもかんでもニュータイプっていうのは嫌い」
「ああ、ごめんごめん。他意はないんだよ」
パチンと両手を合わせて、アルマは頭を下げた。
「なんていうのかな。所長……カミシロ博士に、お願いがあって来たの」