後方支援者面で行く宇宙世紀   作:乾燥海藻類

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第11話 「革命の聖女たち」

チャイムが鳴って玄関のドアを開けると、そこには懐かしい顔があった。

 

「お久しぶりです、カミシロ博士」

「久しぶりだな、アルマ」

 

アルマ・シュティルナー。軍服を着ていないということは、プライベートなのだろう。あるいは、軍を辞めたか。そう思って、階級は口にしなかった。

 

『ただいまー』

 

彼女の脇をすり抜けるように入ってきたのは、イリアとレシアだった。

 

「なんだ、一緒だったのか」

「案内してきてあげたの」

「そうか。まあ、入ってくれ。お茶でも入れよう」

「はい、お邪魔します」

 

アルマをリビングに通し、紅茶とクッキーを振舞う。イリアとレシアも同席していた。

 

「今日はお休みなんですか?」

「ああ、週に2日は休みをもらえる。のんびりした職場だよ」

 

昆虫に興味がある人間はそう多くない。たまに家族連れや、男の子が連れ立ってやってくるくらいだ。

ややあって、アルマはなにかを決意したように口を開いた。

 

「博士はニュータイプ研究所がもうひとつ在ったことをご存じですか?」

「……いや、初耳だ。本国(サイド3)に在ったのか?」

 

問い返すと、アルマはふるふると首を横に振った。

 

「サイド6の8バンチ(パルダ)に在ったんです。キシリア様の直轄でした」

 

たしか、原作だとその場所だったんだよな。そこでアムロが、シャアとララァと直接出会う。

 

「ふたつある意味は、あるんだろうな。俺は嫌われたかな」

「そうかもしれません。博士が許可しないような、うちではできないような実験を、そこでは行っていたようです」

 

アルマは口の端を小さく噛んだ。その瞳には怒りがあった。

 

「覚えていますか? セリーヌ博士が、イリアちゃんを改造しようと言い出したことを」

「ああ。キミも知っていたのか」

 

イリアに目を向けると、彼女は素知らぬ顔で視線を逸らした。あの頃のイリアは、結構焦っていたような感じだった。今思うと、家に帰りたくなかったのだろう。だから、自分の価値を証明したかった。

やたらとMSに乗りたがったのも、それが理由だろう。

 

「あれで、博士の反応を確かめたのだと思います。認めていれば、うちにも被験者が回されていたはずです」

「……そうか、うちに追加要員がこなかった理由はそれか」

 

ドズルはともかく、キシリアはニュータイプの候補者を送ってきてもおかしくはなかった。戦場を見渡せば、勘の良い兵というのはいるはずだ。もちろん、勘の良い人間のすべてがニュータイプではない。

キシリアは、ニュータイプを自分の手元に置きたかったのだろう。だからもうひとつ、完全に自分の支配下における研究所を作った。キシリアならやりそうだ。そこに思い至らなかったのは、俺の落ち度だな。

 

「ならば、ドズル閣下が戦死した時に、俺を降格させるなり罷免させるなりしなかったのはなぜだ? キシリア様にはそれができたはずだ」

「反乱を警戒したのでしょう。博士が放逐されるなら、少なくとも私たち5人は博士につきます。場合によっては、連邦に亡命していたかもしれません」

 

え? 俺ってそこまで慕われてたの? というか、連邦に亡命はないだろ。連邦のニュータイプ研究所っつったら、ムラサメとかオーガスタだろ? 全然良いイメージがない。良いイメージがないどころか、悪いイメージしかない。

非人道的な実験を強要されて、拒否したら処分されるだろう。そんでキミらは、記憶を操作・改竄されてサイコガンダムとかに乗せられるんじゃないかな。

なんか想像しただけで腹が立ってきたぞ。

 

「ジオニック本社に栄転させるという方法もある」

「そこに悪意があれば、たぶんマリオンが気づきますよ」

「……ふむ」

 

マリオンのニュータイプ能力は、その頃には極まっていた感じがするからな。特に悪意・敵意・害意といったものには敏感だった。

 

「そういえば、マリオンやローゼはどうしてるんだ?」

「マリオンとローゼは……そうですね、まずはフラナガンスクールについてお話します。フラナガンスクールはご存じですよね」

「まあ、通り一遍のことはね」

 

俺が辞めた後、研究所はスクールになり、校長にはフラナガン博士が収まった。だから、フラナガンスクールだ。

 

「フラナガンスクールには、表と裏があります。表向きは士官学校ですが、裏ではサイコミュの研究を続けていました」

 

終戦協定で、サイコミュ兵器の開発・運用は禁止された。だから裏に潜るしかなかったんだろう。条約違反なんだが、まあキシリアならやるだろうな。それにたぶん、連邦もやっていると思う。戦争末期、連邦はオールレンジ攻撃に嫌と言うほど苦しめられただろうからな。

 

「まずクルスト博士主導で行われたのが、サポートAIの進化系、マリオンの精神波をシステムに落とし込み、操縦者にニュータイプと同じ感覚を与えるというものでした」

 

それEXAMシステムじゃん! いや、EXAMシステムは対ニュータイプ用のシステムだから、ちょっと違うか。どちらかというと、n_i_t_r_o(ナイトロ)システムに近いような?

どっちにしてもろくなモンじゃないな。

アムロみたいな化け物ニュータイプがいなかったせいか、戦時中はおとなしかったんだがなぁ。

 

AIがパイロットの補助をする分には問題ない。その最たるものが教育型コンピューターだし、あれは良い物だ。だが、それが逆転するのはよろしくない。人間(パイロット)がAIのために存在するというのは、それはエレガントではない。

 

「このシステムが完成して量産されれば、ニュータイプではない人でもサイコミュ兵器が使用できると、クルスト博士は豪語していましたが……」

「その様子じゃあ、上手くいかなかったみたいだな」

「はい。ある実験の時にシステムが暴走して、MSが暴れ出しました。多くの人が命を落として、クルスト博士も巻き込まれました。その時にマリオンとローゼも、亡くなりました」

「亡くな……」

 

マリオンとローゼが……死んだ? 手が震える。付き合いは1年ほどだったが、大半の時間を一緒に過ごしていた。家族、といってもいい関係だった。

思えば俺は、一年戦争で近しい人間を誰も亡くしていない。V作戦も潰そうと思えば潰せた。だがやらなかった。情報源を詰められることを恐れた。何しろ、軍の情報部ですら掴めていない情報なのだ。俺が知っている理由がない。ギレンやキシリアに睨まれることを恐れた。

 

ソーラ・システムについては、それとなくドズルに警告はしていた。しかし信用はされていなかった。それは仕方ないのだ。ドズルにとって俺は、現場を知らない研究者の一人に過ぎない。そもそもソーラ・システムが、どこに設置されているかは俺も知らなかったのだ。

戦争に、本気で勝とうとは思っていなかったのかもしれない。どこかで、傍観者の気分だったんだ、俺は……。

 

「ウソだよ」

「……イリア?」

「アルマお姉ちゃん。わたしだって、怒る時は怒るよ」

「うん、ふたりともごめんね。すいません、博士。でも公的には、ふたりは死んだんです。そうしない限り、ふたりが軍を抜けることはできなかったから」

 

そうか、たしかに軍がふたりを手放すはずないよな。イリアとレシアはまだ小さかったし、ニュータイプ能力も、あの時点ではそれほど高いわけではなかった。そもそも、軍籍はなかったしな。

 

「マリオンとローゼは今、地球にいます。先の大戦で地球が荒廃していることは、博士もご存じだと思いますが……」

「ああ」

 

コロニー落としの影響は大きく、また連邦が負けたということもあって、復興はなかなか進んでいないらしい。それは宇宙も同じで、各サイドの復興も思うように進んでいない。そのためか、一年戦争でほとんど被害を受けていないサイド6に、多くの難民が流れてきて問題になっている。

 

「環境や土地だけではありません。人も荒れています。スペースノイドの人たちは、地球に住んでいるのは特権階級(エリート)だけと思っていますが、それは違います。農業を始めとした一次産業従事者や、文明社会から外れた環境に部族単位で生きる人々、また連邦政府にお目こぼししてもらっている人たちもいます」

 

これは原作でのミハル・ラトキエ嬢を想像してもらえればすぐに理解できるだろう。彼女は、地球居住者(アースノイド)だが、とても特権階級とは思えない生活をしていた。軍人相手に商売をして日銭を稼ぎ、そしてジオンのスパイだった。

ここで疑問だったのが、なぜミハルはジオンの情報を連邦に流さなかったのか。いわゆる二重スパイをしなかったのか、ということだ。

 

ジオンの軍人(名前は忘れた)が、現地協力者と言っていたので、ジオンの人間ではない。だとすれば彼女は、コロニーを落として地球を荒廃させた人間たちに協力していたことになる。

これは俺の想像だが、彼女はコロニーが落とされる前から、同じような暮らしをしていたのではないだろうか。だから連邦が嫌いだった。ジオンは、少なくとも報酬は支払っていただろう。だから協力していた。そんなところじゃないかと思っている。

 

「地球の構造は(いびつ)です。少数の特権階級の人たちを支えるために、大多数の市民が多額の税金を支払っています。しかもその税金はインフラなどに還元されることはなく、そのほとんどが軍のために使われています。連邦政府は地球の復興よりも、軍の再建にリソースを割いているのです」

 

ジオンは開戦当初の奇襲作戦で、サイド1、サイド2、サイド4に壊滅的な被害を与えた。その後、ルウム戦役でサイド5も被害を被った。一年戦争で人口の半分が失われたとされるが、そのほとんどは連邦についたスペースノイドだった。これは連邦政府にとって多数の納税者を失ったことに等しい。

それを補うために、地球在住者にも多額の税をかけているのだろう。

 

「博士は、チベットという国をご存じですか?」

「アジアの、ヒマラヤ山脈の北側に位置する国だな。最近までは連邦政府が実効支配していた自治区だったが、独立したとニュースでやっていたが……まさか、それにふたりが関わっているのか?」

「発端は労使交渉でした。待遇改善を申し出ただけだったんです。ですが、連邦政府は聞く耳を持たず、最後には武力行使で鎮圧しようとしたんです」

「そして起こったのが、チベット独立革命だったな。その主要人物が聖女と呼ばれる3人の乙女だと言われているが、まさか、そうなのか?」

 

アルマが笑みを浮かべた。

 

「蒼の聖女がマリオン、白の聖女がローゼ、そして赤の聖女がララァ・スン。彼女たちが、革命の3聖女です」

 

……え? 今ララァ・スンって言った?

 

 

 





フラナガン機関
0079年6月に設立されたもうひとつのニュータイプ研究所。キシリアの直轄機関であり、非人道的な実験を含む様々な研究が行われていた。
表の顔は製薬会社であり、ギレンでさえもその存在を知らなかった。
戦後は解体され、フラナガンスクール[裏]に統合された。
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