百式の顔をはっきりと覚えているわけではないが、こんな「俺がガンダムだ」みたいな顔ではなかった気がする。そもそも百式って型式番号が百だから百式じゃなかったっけ? リック・ディアスの次に開発されたはずだと思うんだけど、この世界の開発ツリーはどうなっているのだろうか。
百式というよりも、アカツキっぽい顔だ。だがアカツキではあるまい。世界線が違うどころか世界が違う。
「未完成ですが、カジマ中尉の乗機となる予定です。機体名は、マリーゴールド。聖女さま方に命名してもらいました」
ああ、やっぱり「百式」ではないんだな。
というか、ユウがこんな目立つ機体になんか乗るか? いや、あいつは命令ならどんな機体にだって乗りそうだな。なんせ"パイロット殺しのMS"にも平気で乗るようなやつだし。
「ユウ中尉が乗るなら、サイコミュは必要ありませんね」
「そうですね。カジマ中尉にサイコミュは扱えません」
「では疑似サイコミュを搭載してはどうでしょうか?」
「……疑似サイコミュ、ですか?」
ナガノ博士はピンと来てないようだ。あれ? インコムってまだ基本設計すらされてなかったのか?
それとも俺の解釈が間違っているのだろうか。
とりあえず説明しよう。
「サイコミュは精神感応波で制御しますが、インコムはプログラムによって動きます。初動・中間・攻撃の過程をあらかじめプログラムしておくのです。例えば、各工程7パターン用意しておきましょう。これで7×7×7の合計343パターンの攻撃ルートが出来上がります。パイロットは攻撃パターンのコマンドを打ち込むだけです。3・5・7といった具合にね」
「……なるほど、それで疑似ですか」
ニュータイプは人の意思は読めても、機械の意思は読めない。ニュータイプを相手にするときは、適当にコマンドを打ち込めばいい。それで軌道が読めなくなる。自動追尾プログラムを設定しておけば、適当な軌道でも的には当たる。
まあケーブルや端末自体を狙撃されればおしまいだが。
もちろん、インコムにもデメリットはある。一応、誰でも使えはするが、使いこなすには高い空間認識能力が必要になる。そして、仕様上必ず有線式になってしまう。そのため、重力下での運用はなかなか難しい。
「重力下での運用は、難しいですか。サイコミュ兵器も重力下では本来の性能は発揮できませんからね。となると、脱着式にした方がよいですね」
「まあ、そうなりますか。とりあえず、基本性能を高めるという方向で良いと思いますよ。結局最後にものを言うのは、基本スペックと操縦技術です」
「そうですな。やはりスラスターを増設しましょう。カジマ中尉は耐G能力も高いですし、高機動でも大丈夫でしょう。ミサイルポッドも追加しておくか」
「そうですね。実弾兵装は必要でしょう」
ビームだらけだとIフィールドで詰むからな。まあIフィールド搭載機なんて滅多にないが。それに至近距離から撃てば関係ないし。近づけるかどうかは別として。
それから色々と語り合った。やはりモノ作りは楽しい。たとえそれが兵器だとしても。これは技術者の業なのかもしれない。
◇
話し込んでいたらすっかり日が暮れていた。
イリアとレシアが呼びに来たので、一緒に夕食をとることにした。基地内を散策していたらしいふたりについていくと、辿り着いたのは食堂ではなかった。扉の前には兵士がふたり立っている。
中に入ると、マリオンとローゼが迎えてくれた。
「お久しぶりです。カミシロ博士」
マリオンは髪を伸ばしていた。宇宙では長い髪は邪魔になることが多く、
マリオンと握手を交わす。
「歓迎しますよ」
続けて、ローゼとも握手を交わした。
「ふたりとも、元気そうでよかったよ」
「まずは謝罪させてください。私が不用意に博士の名前を口にしたせいで、准将が乗り気になってしまいました。アルマを責めないでください。すべての責任は私にあります」
アルマが「えっ!?」と戸惑いの声を上げた。崇高な目的を持った革命軍といえば聞こえは良いが、見方を変えればテロリストだからな。
まあ過ぎたことをグチグチと言うのは男らしくない。それに、やっぱり
「いや、かまわんさ」
「ありがとうございます。お掛けになってください。食事にしましょう」
テーブルには料理が並べられていた。アルマは早く食べたそうにそれらを眺めている。
俺は苦笑しながら席に着いた。
『いただきます』
全員で手を合わせて、食事を始める。
たぶんチベット料理かインド料理なんだろうが、結構美味い。肉も合成たんぱく質ではなく本物のようだ。
食べ終わった頃合いに、マリオンは語り始めた。その澄んだ声は、凛として耳に心地良い。
「ジオンが勝っても、スペースノイドは自由にはなれませんでした」
「まあ、そうだな」
金がないというのが一番の理由だろう。
あとギレンとキシリアの確執だ。お互いに暗殺者を送っているという噂もある。そんな噂が流れるくらい、緊張状態なのだろう。
「おおよその経緯は、ブレックス准将からお聞きのことと思います。自分たちが祭り上げられたことも理解しています。私たちは、人類が宇宙に上がるべきだという機運や世論を作ろうとしているのです」
誰かのために戦うというのは美しいが……う~ん、まあマリオンらしいと言えばらしいか。
「それはわかるのだがな。ブレックス准将は、理想を追い過ぎている気がするよ。革命はいつもインテリが始めるが、夢みたいな目標を持ってやるから過激なことしかやらない。しかし革命の後では、気高い革命の心だって、官僚主義と大衆に呑み込まれていく。インテリはそれを嫌って世間からも政治からも身を引いて世捨て人になる」
そもそも労使交渉の件だって、連邦軍准将が関わって連邦軍を蹴散らすというのがわけわからん。影の支援者だとしても、もっとやりようがあった気がする。たぶん、インパクトを重視したのだとは思うが、やはり過激だ。もしかしたら自作自演という可能性も……いや、さすがにそれはうがち過ぎか。
「それは博士のように、ですか?」
え? なんで俺? 俺はインテリじゃないよ。世捨て人とも違うし。革命もしてないし。
「博士は、もっと上手く生きることができたはずです。でもそれが許せなかった。その清廉さ、嫌いではありませんよ」
いや、清廉さとか意味わからん。俺はそんな人間じゃない。小心者の小市民だ。マリオンはなにか勘違いをしている。
「買い被りだよ。器用な生き方ができなかっただけさ。だから、いまだに嫁さんももらえん」
「あら、そうなのですか?」
柔和な笑みを浮かべて、マリオンは視線をイリアとレシアに向けた。
まあ、子連れというのも、女性が敬遠する理由にはなるのかもしれないが、ふたりを言い訳には使いたくないんだよな。一番の理由は、俺に甲斐性がないからだ。
「んっんっ、話を戻そう。アースノイドとスペースノイドの確執をなくすために、全人類が宇宙に上がるべきだというのは、わからんでもない」
「……自分がニュータイプであることに、苦しむこともありました。ローゼもそうです。そんな時、博士の言葉を思い出します。ニュータイプだってひとりの人間だ。神さまにはなれっこないって」
まあ言ったが。しかし俺もニュータイプがなんだか本当にはわかっていない。だって俺がニュータイプじゃないんだから、ニュータイプのことを自信満々に語るのもおかしな話だろう。
正直、並行世界の自分とつながっているなんて、普通なら信じられない話だが、ニュータイプが言ったらそんなこともあるかと妙に納得してしまった。
実は俺こそがニュータイプ信者なのかもしれない。
「判り合うことが幸せとはかぎらない。つながりすぎることが不幸になることもある。お互いに存在を感じ合えるくらいの関係こそが理想だと思います。ニュータイプを
なんとなくだが、ニュータイプ同士は判り過ぎて判り合えないような気がする。人間は本音と建前で生きるものだ。それで適切な距離感を保っている。だが本音でしか生きられないとしたら? それはひどく生き辛い人生になるだろう。
人の心に土足でズカスカと! というのはハマーンのセリフだったかな。心に入り込まれるのを拒絶する人間だっている。
アムロとシャアは仲良くやっていた時期もあるが、結果的に殺し合ってるからな。あのふたり、仲が良いのか悪いのかわからん。そういうのを超越した関係なのかもしれない。
イリアたちに目を向ける。ふたりだけを帰すというのは、危ないような気もする。なんか人質に取られそう。カミーユの母親を思い出す。ブレックス准将の敵っつったらティターンズ。ティターンズといったらバスク。
うーん、やはりここに置いておく方がいいのかもしれない。プチ・モビの大会が近いって張り切っていたんだが……。
「お父さん。私いま156cmだよ。140cmなんかとっくに超えてるよ」
なぜ急に身長の話に? 140cmを超えたからといって……あっ!?
「いかんぞ。子どもがMSに乗るなど!」
「それ、説得力ないよ。マリオンお姉ちゃんも14歳だったし」
レシア、おまえもか!
「いや、あれは戦時中だったから……」
俺がやらなかったらキシリアが……ってこのいいわけしても意味ないよな。
クソッ! こうなったら、防御重視のMSを造るしかない。チョバムアーマー着せたIフィールド搭載機を造ってやるからな!