別にララァのためというわけではないが、准将に頼んでクワトロ・バジーナについて調べてもらった。
たしか
だがクワトロ・バジーナはシャアではなかった。どうやらこの世界では無事に一年戦争を戦い抜いたようだ。いよいよ手がかりがなくなったな。
それはそれとして、いま俺の目の前には蒼いMSがある。ブルーウィッシュだ。ジラソーレはない。まああれは重力下での運用を全く考えていない宇宙専用機なので、ここにあっても仕方ないが。
代わりにあるのは、白いゲルググだ。おそらく、
ゲルググはともかく、ブルーウィッシュがあるってことは、だ。今回の革命、絶対キシリアが絡んでるだろ。
いくらなんでもジオンの警備がそんなガバガバなわけない。
周辺のジオンがおとなしいのも、キシリアが裏で抑えていると考えれば納得できる。
チベット方面は連邦の勢力下だが、インド方面はジオンの勢力下だ。薔薇の園は両方と構えているのだ。
たぶん裏でブレックス准将とも繋がっていて、絶妙なバランスの上に成り立っているのだろう。ツッコむと面倒なことになりそうだからやめとくけど。
しかしキシリアの狙いがわからんなぁ。何を考えてるんだろうか。連邦軍の弱体化か?
まあいい。俺は俺にできることをやろう。まずはこのブルーウィッシュだが、戦後にかなり改修されたようだ。だがもう少し改良できそうだな。
ゲルググの方は、かなりピーキーな仕上げになっている。ローゼのやつ、吹っ切れたか。
一年戦争末期、おそらくローゼのニュータイプ能力はかなり極まっていたと思う。戦闘経験でいうなら、アルマとローゼが一番多いからな。
だがニュータイプ能力が高まりすぎると、他人の意思を拾いすぎてしまう。上手く取捨選択できないと、意思を取り込みすぎて、下手をすれば精神が崩壊してしまう。
そういうことを教えていた。だからローゼは、意識的か無意識的か、能力を抑えていたのだ。今はちゃんと折り合いをつけて、取捨選択ができるようになったのだろう。
さて、スタッフが優秀なのはいいことだ。ならば俺はインコムの開発をするか。あとイリアとレシアのMSも造らにゃならん。
あの後、一応説得はした。MSに乗りたいだけならやめておけとか、戦争は遊びじゃないとか、まあそんなことをだ。だがふたりは折れなかった。ふたりはふたりなりに、色々と考えているようだった。
ならば親としては、とびっきりのMSを造ってやるしかない。
とはいえ、Iフィールドを搭載すると、ジェネレーターの関係上どうしても大型化してしまうんだよな。それにエネルギーが切れた時が怖い。至近距離からのビームにも対応できない。Iフィールドがあるから安心というわけではないのだ。
タブレットを操作していると、開発中止になったGファイターの資料が出てきた。元々GファイターはV作戦に組み込まれていた機体だ。ガンダムは性能面ではザクを圧倒していたが、地上での運用においては、ザク同様に移動能力の低さという問題を抱えていた。Gファイターはそれを補うためのサポート機だ。
ガンダムと連携した
Gファイターなんて玩具メーカーからの刺客だとばかり思っていたが、案外ちゃんと考えられていたんだな。要するにオーキスやフルドドの原型のようなものか。
なんとなくプランが見えてきた。まあまずはインコムだな。それにマリーゴールドの僚機も考えなきゃならん。カジマ小隊はユウを隊長に、3人の強化人間で構成されている。
救出したのにパイロットとして使っているのは、ちゃんとした理由がある。
医者曰く、彼女たちは自分の存在理由がパイロットであると認識させられているらしく、無理に押さえつけるのはよくないらしい。少なくとも薬物の影響が完全になくなるまではMSに乗せた方が良いとの判断だった。
3人とも子どもだが、全員が白髪だ。薬物の副作用のすさまじさがうかがい知れる。戦闘データを見せてもらったが、操縦技術はとても高いとは言えない。サイコミュを運用させることを主眼に置きすぎて、基礎的な操縦技術がおろそかになっていたようだ。
とはいえ、サイコガンダム自体が強力だからな。サイコミュさえ使えれば、なんとでもなると思っていたのかもしれない。
そういえば、薔薇の園を象徴するMSとやらも造らねばならない。つか薔薇の園を象徴するMSってなんだよ。マリオンもローゼも専用機があるから、たぶんララァが乗るんだろうけど、彼女MSの操縦なんてできるのか?
いや、あれか。指揮官が専用MSを持つことが慣習に定められていたジオン軍的な発想か。式典用という意味合いが強いが、いざという時には、指揮官自らが前線に立つという決意の表れでもある。それがあるだけで士気が上がる。
赤の聖女だから機体色は赤か? シャアと被りそうだが、それはそれで喜びそうな気はする。
サザビー(サイコフレームなし)でも造るか。もしくは女性的なイメージを出すために、ノーベルガンダムのようにするか。放熱索を髪の毛に見立てることもできるかもしれない。
意外とやることが多い。どうやら地球で年を越すことになりそうだな。
◇
ローゼがイリアとレシアに訓練をつけていると聞いて、俺は車を走らせた。
ふたりは模擬戦をやっていて、ローゼは戦闘区域から少し離れた台地の上にいた。
その近くには大型車両がある。各種機材を詰め込んだ、データ収集用の車両だ。
「カミシロ博士、お疲れ様です!」
「ああ。いい、いい」
機材をいじっていたスタッフにも、気にせず続けてくれと言った。
「ふたりはどんな感じだ?」
「動きは悪くありません。4年もMSから離れていたとは思えない動きです」
「シミュレーターはやっていたようだからな」
「なるほど。……よう、とは?」
ローゼが訝し気に問いかけてきた。
俺はサイド6に移住したあと、小遣い稼ぎにMSのシミュレーターを作ってゲームセンターに置かせてもらった。オンラインにすると面倒なことになりそうだったので、オフラインの
「博士の作ったシミュレーターなら、かなり本格的だったのでしょうね」
「まあ、それなりにな」
イリアとレシアも、一時期ゲームセンターに入り浸っていたらしい。ふたりの使った金が、巡り巡って俺に入ってくる。それをふたりの小遣いに充てるという、よくわからない循環をしていたのだ。
「レシア、感覚を拡げろ! 後ろにも目を付けるんだ!」
いや、そんなスペースシャトルに隠れるのよみたいなノリでクソみたいなアドバイスするのやめてやれよ。レシアもニュータイプだからなんとなくわかるのかもしれないが、実践できるかどうかは別問題だぞ。
「射撃と回避は同時に行うのよ!」
それやれたらもうエースだよ。射撃を行う時は、ほとんど停止状態までスピードを緩める。そうしないと照準が安定しないからだ。だがそうした瞬間というのが、狙い撃ちされやすいのだ。
高速機動で射撃を行うのは、けん制のようなもので、到底当てられるものではない。
これは人体で例えるとわかりやすい。走りながら銃を構え、的に当てる。素人にはまず無理だ。的が動いているなら、さらに難易度は上がる。
「それにしても、ザクを使うのはどうなんだ? あれは全天周囲モニターではないだろう?」
「見えすぎると、視覚に頼るクセができてしまいます。まずは実戦の勘を養わなければなりません」
「なるほど。そういうものか」
戦場の空気、というやつかな。よくわからんが。
「ふたりを新型のシミュレーターに移したいんだが、いいかな?」
「完成したんですか?」
ローゼにタブレットを渡す。彼女は真剣な眼差しでそれを眺めていた。
新型は、3人乗りのサイコミュ搭載型宙間戦闘用MSにした。操縦をアルマ、兵装をイリアとレシアが担当する。重力下での運用もできなくはないが、推進剤を多用するため、継戦能力がかなり落ちる。サイコミュの操作も難しくなるだろう。
「対艦ビームソードに、無線サイコミュが12基、有線アームクローに対艦ミサイル、90mm機銃弾に120mm徹甲弾、大口径メガ粒子砲にIフィールド・バリアも搭載……。これよく予算が下りましたね。というか、博士は一体なにと戦うつもりなんですか?」
娘を護るためなんだ。わかってくれ。完全に宙間戦専用に仕上げようとも思ったが、それはそれで文句が出そうなんで、能力は落ちるが重力下での運用もできるように設計したのだ。
いざとなればパージしてしまえばいいし。
「予算を削られたら、また考えるさ。まあ准将はサイコミュ開発のために俺を呼んだんだ。多少の無理は聞いてくれるだろうさ」
「多少……ですかね、これ」
そうつぶやくと、ローゼは脇に置いていたマグカップをゆっくりと口に運んだ。
ブルーウィッシュ強奪事件
0083年2月2日、グラナダのブルーウィッシュが正体不明のテロリストに強奪された事件。あまりの手際の良さから内部に手引きした者がいると思われたが、真相は不明のまま。ジオン軍は事件そのものを隠蔽した。