後方支援者面で行く宇宙世紀   作:乾燥海藻類

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閑話 「少女たちの戦場」

システムエンジニアとは、MSの駆動ソフトウェアと機体(ハードウェア)のマッチングを行う特殊技術職である。地味な仕事のように思われるが、システムエンジニアの技量が機体の性能を決めると言っても過言ではない。

 

(ニュータイプの権威などと呼ばれているから、どんな思想家かと思っていたら、彼は徹底したリアリストだな。いや、理系の人間などそんなものか)

 

並び立つ3機のMSを見上げながら、ナガノは苦笑した。

自分が手掛けた金色のMS(マリーゴールド)は、ムーバブルフレームという新機軸のフレーム構造が採用されている。

これは外装と骨格を独立させた画期的な構造だった。ナガノはいずれ、このムーバブルフレームがMSの主流になると確信していた。

 

(このムーバブルフレームとマグネット・コーティングを組み合わせれば、より実戦的な可変機を造ることもできる。だが可変機は整備士泣かせだ。それにギミックの多い機体は脆い。宇宙では変形する意味もないし、やはりSFSを使う方が現実的か。悲しいが、ロマンだけでは戦争はできんのだ)

 

この金色の機体は、ナガノの集大成とも言える機体だった。

だからこそカミシロもマリーゴールドの開発には口出しせず、搭載する特殊兵装(インコム)の開発だけを進めた。そのかたわら、ブルーウィッシュとゲルググにも手を加え始めた。

 

ブルーウィッシュは彼自らが設計した機体で、元ジオンだけあってゲルググの仕様も把握していたのだろう。1ヵ月とかからず2機は改修を終えて、新たな機体へと生まれ変わった。

尤も、ブルーウィッシュは戦後に何度か手を加えられていたらしく、ほとんどイジるところはなかったらしい。

 

逆に連邦軍の機体である軽キャノンには手こずっているようだった。他のスタッフに任せてはどうかと言ったが、せっかくだからイジッてみたいと言い、カジマ小隊の3機を受け持つことになった。

タフでパワフルな人間なのだと、ナガノは感心した。

 

(いや、あれは知識欲なのかもしれないな)

 

自分にもそういったところはあるが、どうしても目の前のことに集中しすぎてしまう。いまさらその性格を変えることはできなかった。

連邦系の技術とジオン系の技術、彼がそれを融合させたなら、面白いものができるかもしれないとナガノは思った。

 

軽キャノンは肩部キャノンを外して軽量化を図った。その代わりに増加装甲を装着し、脚部にスラスターユニットを追加した。結果的に重量は増加したが、推進力と防御力は上昇し、バランスの良い機体に仕上がっていた。

 

「ナガノ博士、機体はどうでしょうか?」

 

背後から声がかかり、ナガノは振り返った。

 

「ああ、カジマ中尉。キミの要望にはすべて応えたよ。インコムは、やはり重力下での運用は難しそうかね」

 

結局、彼が思い描いていたリレー・インコムを使った形式は見直され、射出式のキャノンという方式に変更された。動きが二次元的にはなるが、単機で多重攻撃ができるという強みはある。

 

「……難しい、というよりは、メインにするには動きが単調すぎます。補助的に使う分には、問題ありません」

「ふむ。まあ今回の模擬戦では外しておこう。では、始めようか」

「ハッ!」

 

ユウ・カジマは敬礼し、その後ろに立つ3人の少女もそれに倣った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日こそは、一矢報いたいな」

 

まだそばかすの残る白髪の少女――ツムギは《ビスカリア》のコクピットの中でつぶやいた。カジマ小隊の3人娘に与えられた軽キャノンのカスタム機は、ビスカリアと名付けられた。

ツムギは、かつてムラサメ研究所にいた実験体である。その頃は番号で呼ばれていた。だが革命軍に所属を移して、生活は変わった。

 

名前が変わり、食事が変わり、薬も変わった。最初の頃は、ソワソワしたりイライラしたり落ち着かなかったものだが、今ではそれも抑えられている。

しかし、MSに乗らなければならないという強迫観念のようなものは、いまだに残っていた。コクピットの中にいると、妙に落ち着くのだ。

 

「行くよ。アオイ、カナデ」

『了解』

『あいあい』

 

無線を開き、僚機に伝える。ふたりもムラサメ研究所の出身だったが、付き合いはほとんどなかった。顔を知っている、その程度でしかなかった。

まじめな方がアオイ、調子のいい方がカナデ、それがツムギの覚え方だった。

 

そもそも、こっちに来るまでツムギは連携など全く知らなかった。ムラサメ研究所で教わったのは、サイコミュ兵器の扱い方と、サイコガンダムの操縦法だけだ。サイコガンダムの戦い方は、僚機との連携はまるで考えていない。単機で任務を遂行できる機体なのだ。

 

(けどこれはサイコガンダムじゃない。ちゃんと連携しないと、勝てない)

 

敵は彼女たちの隊長、ユウ・カジマだった。機体性能はあちらの方が上だが、圧倒的な差というわけではない。なにより、こちらは数の有利がある。

とはいえ、今のところ全敗ではあるのだが。

 

「――ッ!?」

 

視界の端に光を感じて、ツムギはスラスターを噴かした。金色の機体は陽光を反射して、ひどく目立つ。何を考えてあんな機体色にしたのか、ツムギには理解できなかった。

金色の機体が岩陰に隠れる。

 

「やっぱり速いな。機動性では敵わない。囲んで叩くよ。カナデは援護よろしく」

『了解』

『あいあい』

 

3人の機体の特性はそれぞれ違う。アオイの機体は装甲とスラスターを増設した強襲型、カナデの機体はセンサーとカメラユニットを追加した狙撃型、そしてツムギの機体はスタンダードのバランス型だった。

ユウ機が隠れたあたりに、カナデのライフルが飛ぶ。

 

「よし。カナデはそのまま続けろ。ボクが注意を引く。隙を突いてアオイが仕留めろ」

『了解』

『コソコソ作戦だね』

「変な名前を付けるな! 神経が苛立つ!」

 

ツムギは加速しながら、丘から姿を現したユウ機にマシンガンで弾幕を張る。しかし弾はユウ機にかすりもしない。

アオイから通信が入る。

 

『そのまま追い込め。西の48で待ち伏せする』

「了解」

 

カナデのライフルとツムギのマシンガンが、十字砲火でユウ機を攻め立てる。いまだに命中はないものの、確実に目標ポイントへ追い込んでいる。

そう思った瞬間、金色の機体が天高く舞い上がった。ビームライフルを3連射。3つの光芒が空を裂く。

 

『グェー、死んだぁ。あとよろしく』

 

モニターの隅に、カナデ機の撃墜が表示された。

 

「あのバカ、支援機が真っ先にやられやがって!」

 

と悪態をつく。だが抑えきれなかった自分にも責任はあるか、と思い直す。しかし前に出すぎたアイツも悪いな、とさらに思い直して舌打ちした。

 

「でもチャンスだ!」

 

敵が姿を現したのだ。しかし空中でも高速機動を行っているユウ機に対して、モニター内のレティクルは乱れっぱなしだった。そうこうしているうちに、ユウ機のビームライフルの銃口がこちらに向いた。ロックオン警報は出ていない。

だがツムギは射撃を中止して機体を横に滑らせた。元いた位置を光芒がすり抜けていく。

 

『せめて盾くらいは使わせよーよ』

「うるさい! 死人がしゃべるな!」

 

視線を戻すと、追い込むのは無理だと判断したアオイがユウ機と空中戦を繰り広げていた。

援護をしようとライフルを向けるが、トリガーにロックがかかっている。友軍が近すぎるため、フレンドリーファイア防止のシステムが働いたのだ。

 

(クソッ、これもアイツのせいだ!)

 

以前の模擬戦で、カナデの援護射撃をユウはツムギの機体を盾にして撃破判定をもぎ取った。ユウの動きに翻弄されたツムギにも非はあるが、やはり味方に撃たれるというのは納得できるものではない。

それ以降、フレンドリーファイア防止の処置がとられた。

ユウのビームサーベルがアオイ機のコクピットを貫いた。

 

『ごめん、やられた』

 

モニターの隅に、アオイ機の撃墜が表示される。これで数的優位はなくなった。

 

(けど、隊長は初っ端からピーチャカと動き回っていた。推進剤はもう少ないはず)

 

さて、どう攻めるか。そう思案していると、ユウ機から通信が入った。

 

『模擬戦は中止だ。帰還するぞ』

『なにかあったんですかぁ~?』

 

のんびりした調子で答えたのは、撃墜されたカナデだった。

 

『ジオン軍のソドンが大気圏に突入してきたようだ。念のため、基地にて待機する』

 

通信が切れた。

 

(ソドンってなんだろう)

 

ツムギはソドンを知らなかった。

 

 

 

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