スタリオンからしばらく進んだ辺りで、アルマは機体を静止させた。
「イリアちゃん、準備はいい?」
「いつでもいけるよ、アルマ姉」
イリアはスコープを覗きながら、照準をイオマグヌッソにセットした。
機体上部に設置された大口径メガ粒子砲。1発で総エネルギーの30%ほどを消費するが、命中すれば確実にイオマグヌッソを撃破させられる武装である。
「外さないでよ、お姉ちゃん」
「バカ言わないでよね。あんなに大きくて動きもしない標的なんて外す方が難しいっての。さぁ、いくよ……え? おじさん?」
声が聞こえて、イリアはトリガーにかけた指を離した。
「どうしたの? イリアちゃん」
「コントロールルームに、人がいるって」
「そりゃあ、いるでしょ。MSにパイロットが乗っているようにね。でもイリアちゃん、それは撃たない理由にならないよ」
コントロールルームだけではない。あれだけ大きい建造物だ。整備兵だっているだろう。だがアルマの言ったように、それは撃たない理由にはならない。
「――ッ!?」
アネモネの複合センサーが迫りくる敵影を捉えた。フットペダルを踏み込み、Iフィールドを展開する。だが一瞬遅かった。メガ粒子砲の先端部分がビーム砲によって融解した。
敵機はデータにある機体だった。
「ルドベキア? まさか、中佐? 中佐ならなぜ!?」
全方位から来るオールレンジ攻撃を、機体の推進力で振り切るようにかわす。
追いすがるルドベキアが、不意に何かを感じたように回避運動に入った。するとその一瞬前にルドベキアがいた空間を一条の光芒が突き抜けた。
「ローズビット!」
強襲したブルーウィッシュにも、四方からのビームが飛んだ。蒼い機体は、宙を泳ぐようにそれをかわす。
「行きなさいアルマ。ここは私が抑えます」
「よ、よくわかんないけど、了解!」
お互いのビットがドッグファイトのように入り乱れる。マリオンはビームライフルの引き金を2度引いた。1射目はかわされ、2射目はビームサーベルで斬り裂かれる。
「殺意のない攻撃は当たりませんよ」
たしかにマリオンは、コクピットを狙ってはいなかった。
「シャリア中佐。なぜアレを護るのですか? どこまでがあなたのシナリオですか? 私はあなたの指示通りに、革命を成功させた。シャロンの薔薇も見つけた。だというのに、なぜ私たちに牙を向けるのですか?」
「順番に答えましょう。アレは破壊しますが、今はまだその時ではありません。イレギュラーはありましたが、おおむねシナリオ通りです。そして最後に、貴女は頑張りすぎたのですよ」
「頑張りすぎた……?」
ルドベキアの脚部ポッドから無数のミサイルが発射された。マリオンは頭部バルカンでミサイルを撃ち落としながら、同時に撃たれたビーム砲もかわしていく。
「貴女はほどほどに頑張ってくれればよかった。しかし貴女は人々の信仰を集めすぎた。真のニュータイプはふたり存在してはいけないのです」
「なにを……あなただってニュータイプでしょうに!」
「私は
「だからといって!」
ローズビットの1基が落とされる。機体制御とビットの操作を同時に行うのは、脳にかなりの負担がかかる。単純なMS操縦能力は、シャリアに分があった。
「世界を導く真のニュータイプは、大佐ひとりだけで良い。貴女には退場していただく」
「……くっ!」
ローズビットがさらに1基落とされ、
しかしバルカンをくぐるようにして、ルドベキアが肉薄してきた。その右手には、ビームサーベルが握られている。
(迎撃を!)
マリオンもビームサーベルを抜くべく手を伸ばした。だが間に合うかどうかは微妙だった。その瞬間、ルドベキアが急旋回した。闇を斬り裂く一条の光が割って入ってきたのだ。
「マリオン!」
「ローゼ!」
突如現れた白い機体に、マリオンの顔に安堵の色が差した。
「あれはシャリア中佐?」
「ええ」
「敵ってことでいいのよね?」
「……ええ」
逡巡のあと、マリオンは答えた。
「了解!」
ローゼはビーム・マシンガンをオート照準で掃射した。同時にファンネルも射出する。シャリアは機体を錐もみさせながらマシンガンをかわし、ファンネルの1基をビームライフルで撃ち落とした。振り向きながらもう1基。恐るべき射撃精度だった。
「操作が甘いですね。しかし、アンネローゼ・ローゼンハイン。邪魔をするというのならば、ここで討たせてもらいます」
「2対1で、随分な余裕ですね」
「数の有利が勝敗の決定差でないことを教えてあげましょう」
灰色の機体が小さく震えた。
「いつか戻ってこられる大佐のために! 世界を整えておくことが私の使命だ!」
ルドベキアの関節部から、蒼い炎が立ち昇った。
QGシャリアとの違い。
木星で絶望していない。
刻を見ていない。
シャアに強く心酔している。