後方支援者面で行く宇宙世紀   作:乾燥海藻類

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閑話 「裁かれしモノ」

マリオンがその一撃をかわせたのは、ほとんど奇跡に近かった。

至近距離から放たれた6条のビーム砲。辛うじてコックピットへの直撃は避けたが、頭部を貫かれた。

 

(ローズビットが……奪われた!?)

 

ビットは搭乗者の固有脳波によって操作されている。本人以外が操作することはできない。だが現実として、ローズビットの操作はマリオンの手を離れていた。

シャリアはローズビット6基と自機のビット8基の合計14基のサイコミュを同時に操っている。

 

「まだよ! たかがメインカメラをやられたくらいで!」

 

ブルーウィッシュは全天周囲モニターを採用している。メインカメラを潰されても、複数のサブカメラが残っている。しかし正面の視界を失ったのは、確実な戦力ダウンだ。

マリオンは武装を再確認した。頭部バルカンもビームライフルも、残弾は少ない。

 

ローズビットを奪い取ったシャリアは、その細緻な操作によって、ローゼのファンネルを次々と落としていた。

マリオンの脳裏をかすめたのは、クルスト博士が開発していた脳波を増幅するシステムだった。

このシステムにより、弱い脳波しか発せない者(非ニュータイプ)でも感応波感知型サイコミュ兵器であるオールレンジ攻撃端末の使用が可能になる。

そのシステムを、元々強力な脳波を発する者(ニュータイプ)が使用すればどうなるか。それが今起こっているのだ。

ルドベキアの背後からビームライフルを2射。しかしシャリアは振り返りもせずそれをかわした。

 

(思考が読まれている!)

 

攻撃の意思を読むことは、精度の差はあれどニュータイプならばできることだ。しかし、どこを攻撃するか、どう攻撃するかまで読み取ることは、高いニュータイプ能力を必要とする。

 

(考えて戦っていては勝てない)

 

ただでさえ操縦技術はシャリアに劣っているのだ。まともに戦っては勝てない。ならば、賭けに出るしかない。

マリオンは考えることをやめた。自身を無我の境地へと(いざな)う。

頭の中がクリアになり、心の奥底でなにかがはじけた。視界はひんやりと冴えわたり、宇宙がより蒼く染まった。周囲で起こっていることすべてが、手の中にすっぽりと収まったように感じ取れる。

 

四方から押し包むように放たれたビームをかわした。そして回避動作中にビームライフルを撃つ。その一撃はルドベキアの右腕を吹き飛ばした。

周囲を睥睨するように、頭部バルカンでローズビットの2基を落とす。そこで弾切れの警告音が鳴った。バルカンの弾が尽きたのだ。

 

一方でシャリアは動揺していた。考えが読み取れない。攻撃の意思も読み取れない。

シャリアがまともに被弾したのは初めてのことだった。シャリアが出た戦場はそう多くない。小競り合いの戦を除けばわずか数回しかない。だがそのいずれも、被弾したことはなかった。

 

ルドベキアもブルーウィッシュと同様に、ダメージコントロール能力に秀でた機体だった。頭部を失っても、四肢を失っても、ほかの動力伝達系統に影響を及ぼさないように、自動遮断システムが働くのだ。

しかし四肢のひとつを失えば、AMBAC機能にも影響が出る。なにより、ビームライフルを失ったのが痛い。

 

シャリアはバーニアスラスターを全開にして後退した。だが退路を塞ぐように、ローゼのファンネルからビームが発射された。マリオンに気を取られ過ぎた。まるで新兵のようなミスを、シャリアはこの土壇場で犯してしまった。

その一瞬の隙に、ブルーウィッシュは目の前まで迫っていた。

 

(――しまっ!?)

 

頭部バルカンを連射し、ビットのビーム砲で迎撃する。だがそのいずれも、蒼い機体を捉えることはできない。シャリアは残った左腕でビームサーベルを抜いた。

マリオンもまたエネルギーの尽きたライフルを捨て、ビームサーベルを抜いた。ふたつの光芒がぶつかり、鍔迫り合いが発生する。そう思った瞬間、ブルーウィッシュのビーム刃が消失した。予期していた衝撃は訪れず、ルドベキアが宙を泳いだ。

シャリアの額に冷たい汗が流れる。

 

「私は、負けるわけにはいかない。大佐に再び出会うまでは! 大佐だけがこの宇宙を、人類を正しき道へと導ける唯一の存在なのだ! 彼こそが正真(しょうしん)のニュータイプなのだ!」

 

冷静であったシャリアの思考が熱情に染まった。その瞬間、シャリアの思考に一瞬の空隙が生まれた。

その一瞬の隙を突いて、マリオンは再度ビーム刃を発生させた。ルドベキアの両脚を斬り落とし、返す刀で左腕と頭部を斬り裂く。

決着はついた。ルドベキアは四肢と頭部を失い、武装のすべてを失った。

シャリアの思惟が跳ねる。その思惟がマリオンにも伝わってきた。

 

シャリア・ブルは、使命に燃える男だった。自分の持てる能力のすべてを()って、公国に貢献したいと思っていた。過酷で危険な任務である木星船団に志願したのも、その使命感からだった。

だが一人の男に出会って、考えが変わった。公国ではなく、彼のために働きたいと思うようになった。それほどに惹かれたのだ。

しかしその男は、突然に消えてしまった。

 

金糸のような髪。

サファイアのような瞳。

自信にあふれた力強い言葉。

 

今でもはっきりと思い出せる。

会いたい。

どうしようもなく。

 

私の肩を叩いて、なにか言って欲しい。

寂しい。

とてつもなく。

せめて、もう一度だけ――

 

彼は端正な表情の下に、寂寥(せきりょう)の思いを抱えていたのだ。

ふたつの思惟が、光る宇宙の中で()け合う。

 

「これが……ニュータイプ同士の交感」

「シャア大佐への想いが、あなたを間違えさせたのね」

「間違い? 間違えたのか、私は……」

 

判る。判ってしまった。シャリアの思惟は、マリオンの中にある。そしてマリオンの思惟も、シャリアの中にあった。

誤謬(ごびゅう)なき、人同士の共感。

 

「シャリア・ブル。あなたを救う、などと傲慢なことは言いません。ですが、共に歩むことはできるはずです」

 

その言葉が嘘偽りでないことはわかった。

 

(この暖かさは……まるで聖母だ……)

 

シャリアはその光の中に身を委ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙を駆けるアネモネの前方に、MSの編隊が現れた。一糸乱れぬその動きは、訓練の行き届いた精兵だというのが見て取れた。

 

「あれは……ギャン!?」

 

アルマの全身に緊張が走った。

 

「ギャン?」

「どんなMSなの?」

「キシリア様の親衛隊にだけ配備された特別なMS(スペシャル)よ。ゲルググ以上の高性能機らしいけど……今は構っている暇はないわ。突っ切るよ!」

 

機体後部の大型スラスターが火を噴いた。アルマの体にのしかかる重圧が増す。ギャンはたしかに高性能機ではある。しかしアネモネの最大加速についてこれるほどの加速性能は持ち合わせていなかった。

イオマグヌッソが近づいてきた。

 

(全弾ぶち込む!)

 

ビームも実体弾も、一切合切すべて撃ち込む。そうすれば、あの巨大な悪魔の兵器も、ただの鉄くずとなり果てる。

警戒アラームが鳴り、アルマはハッとなった。先ほどとは違うギャンの編隊がこちらに向かっている。

気づいたイリアがビットを飛ばした。オールレンジ攻撃で編隊を攻撃する。

だが、そのビームはすべて回避された。

 

「かわしたっ!?」

「ウソッ!?」

 

驚愕するふたりに対して、アルマは冷静にその動きを見て取った。

 

(あの回避運動パターンは……ガンダム? そうか、シャア大佐の操縦データを!)

 

ガンダムには教育型コンピューターという高性能AIが積まれていた。教育型コンピューターの最大の特徴は、戦闘を経験する事でそのデータを蓄積し、動作プログラムを自ら更新する事が出来る点にある。

データの蓄積と解析をコンピューター自身が行い、MSの動作を最適化していくため、既存の動作パターンで対応困難な状況に直面した場合、それに適したパターンを推測し、作成・実行する。

教育型コンピューターはガンダムと共にゼクノヴァで消え去ったが、コピーを取っていたのだろう。そしてあのギャンは、シャア大佐の操縦データを搭載しているのだ。

 

(けど、AIに任せて(・・・)いるようじゃダメだよ。人間の脳は、無限の可能性を秘めている。そうですよね、博士!)

 

アルマはコントロールスティックを操作し、フットペダルを踏み込んだ。

 

「シャア大佐のデータを積んだからって、誰もがシャア大佐になれるわけじゃない! 行くよ、イリアちゃん! レシアちゃん!」

「オッケー、アルマ姉!」

「う、うん。やってみる!」

 

支援ユニットの右翼から大型ミサイルが発射された。編隊の中心に飛翔したミサイルを、ギャンは散開することで回避した。

その瞬間、編隊の中心でミサイルが弾けた。ミサイルの中から射出された小型ミサイルが全方面に向けて飛ぶ。蝶を絡め取る蜘蛛の巣のような弾幕の糸だ。

 

さらに、ギャンの退路を塞ぐようにビットのビームが放たれた。

この二段構えの攻撃により、ギャンの編隊は砕け散り、残骸の一片へと変貌した。

わずかに数秒の出来事だった。しかし、爆発の残光に照らされながら、白い機体が爆炎をまとって飛び出して来た。

 

ランスの先端から放たれたビームライフルが、Iフィールドにぶつかり光の飛沫となって散る。続けて白いギャンはシールドミサイルを射出した。

急速反転。アネモネが複雑な軌跡を描き全弾を回避した。ビットから幾条もの光芒が放たれる。だがそのいずれも白い機体を捉えることはできない。

 

「あの白いギャン、ほかの機体とは動きが違う。間違いない……あれは、エースだ!」

 

アルマは小さく息を呑んだ。

その背後で、イオマグヌッソがかすかに発光を始めていた。

 

 

 

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