ニュータイプ研究所。
本来ならばキシリアが設立する機関なのだが、非人道的な研究を行っているような記憶があったので、ドズルに出資してもらって、俺が所長になろうと計画したのだ。
これで前線に回されなくて済むし、一石二鳥だ。技術者でも戦艦に乗せられる可能性はあるからな。もしかしたら地球に降ろされる可能性だってある。その可能性は消しておきたい。
名目は原作と同じだ。ルウム戦役の戦闘データを解析した結果、亜光速であるメガ粒子砲を高確率で回避している兵がいる。彼らはニュータイプではないのか。そもそもニュータイプとはなにか。それを研究したい、というものだ。
「ニュータイプ……な。はっきり言おう。俺はニュータイプの存在など信じておらん。あれはダイクンの人気取りだと思っている。ギレン兄は、その思想を先鋭化させて選民思想を説き、我々を優良種だと言っているようだがな」
と、ドズルは不機嫌そうに鼻を鳴らした。やはりザビ家の兄弟仲は、あまり良いとは言えないようだ。
「だが貴様のデータは、一考の余地がある。たしかにシャアなどの一部のエースは、亜光速のメガ粒子砲を軽々と回避している。ヤツにも訊いてみたが、「イヤな気配がした、としか言えません」とぬかしおった。口の上手いヤツらしからぬ返答だ」
「エースというものは、総じて勘が鋭いものです。それが経験によるものか、それとも第六感、霊感と呼ばれるものか、それを調査したいと考えております」
「……霊感、な」
ドズルは腕を組み、眉をしかめた。兵士だって、ゲンを担いだりする。コクピットにお守りを吊るしたりするパイロットも、オカルトに頼るという意味では同じことだろう。
「実はな、どこから嗅ぎつけたか知らんが、キシリアもニュータイプの研究に興味を示していた」
「キシリア様が……」
もう食いついてきたか。やはりニュータイプに関しては、一定の理解を示しているようだな。いや、利用しようとしているだけか。
「ニュータイプ研究所の設立は認める。だが、キシリアとの共同出資となった。ヤツにもデータは送ってやれ」
「……かしこまりました」
まあ、キシリアに主導権を奪われなかっただけよしとするか。
◇
ニュータイプ研究所は、当初ダークコロニーに建設される予定だった。だがキシリアの横槍が入ったのか、建設場所はグラナダになった。
グラナダには兵器工場や試験場もあり、ジオニック社の支社もある。そのため、適した場所と言えなくもないのだが、キシリアの率いる突撃機動軍の本部もあるんだよな。
なんか、キシリアが近くにいると怖いんだよ。まあ常時いるわけではないだろうが。
「しかし驚きました。もう候補者を見つけていたとは。後学のために、どのように目星をつけたのか伺っても?」
「……勘ですよ」
「勘……ですか。まさか所長もニュータイプ……」
フラナガン博士が興味深そうに視線を向けてくるが、もちろんそんなわけはない。記憶に残っていたニュータイプっぽい人間を必死で思い出しただけだ。
そしてサイド3の戸籍を総ざらいした結果、見つかった。
アンネローゼ・ローゼンハイン。
アルマ・シュティルナー。
イリア・パゾム。
レシア・パゾム
この4人だ。軍人の中にもそれっぽい人間はいたが、召集は避けた。これから戦線も忙しくなってくるから、ドズルも良い顔はしないはずだ。シャアなんて絶対回してくれないだろう。回されても困るが。
クスコ・アルは、サイド3にはいなかった。俺も名前を憶えているだけで、詳しい経歴とか覚えてないからな。たぶん他のサイドにいるのだろう。
この4人に、クルスト博士が連れてきたマリオン・ウェルチを加えた5人だ。
ハマーンは、ちょっと難しい立場なのだ。簡単に言うと、アクシズに行ったマハラジャ・カーンがザビ家に出した人質のようなもので、自由に動かすことのできない立場なのである。
あとイリアは、ちょっと予想外だった。イリア・パゾムはZZの登場人物なのだが、20代後半くらいだと思っていたのだ。だが全然違っていた。レシアという双子の妹がいたことも知らなかった。
「みな年若い乙女ですな。ニュータイプには、性別も関係あるのでしょうか?」
「さて、どうでしょうね」
アンネローゼとアルマが15歳。マリオンが14歳。イリアとレシアに至っては8歳だからな。よく親が許可してくれたものだ。
「それよりも、まずは研究の基本方針を決めておきたい」
「方針ですか。伺いましょう」
「フラナガン博士は、北風と太陽という童話をご存じですか?」
「たしか、旧世紀の童話作家、イソップの書いた物語でしたな。物事に対して厳罰で臨むよりも、寛容的に対応する方が得策という教訓が得られる童話として有名ですな」
さすがに博識だな。
「ニュータイプという未知の分野を知るには、協力者が不可欠です。彼女たちが、進んで協力してくれるような体制が必要だと、私は考えています」
「……なるほど。かしこまりました」
「基本的に、研究の主導は博士に一任します。私は資金調達や根回しなど、事務的なことをやりましょう」
「それは助かります。私はどうも、そういったことは苦手でして……」
研究者や技術者って、いつも資金繰りに悩んでいるイメージがあるからな。やはり苦手な分野はあるのだろう。
それからしばらく話し合い、最初のコンセプトは「遊びの中からニュータイプ能力を測る」ということになった。
フラナガン博士はニュータイプ、いやサイコミュについてある程度研究していたので話は早かった。
サイコミュ……脳波伝導システムでマジックハンドを操作するという実験では、やはり動かせる人間と動かせない人間がいた。それがニュータイプの素養ということだろう。
要するにサイコミュ兵器の基本システムは、フラナガン博士の手ですでに出来上がっていたのだ。
一番上手に操って見せたのは、マリオンだった。マジックハンドを使って蠅を捕まえるという実験では、わずか数秒で捕まえてしまった。だがある時、力加減を間違って蠅を潰してしまった。
その時に脳波が乱れ、マイナス係数の脳波が流れた。
蠅を潰すなど、地球の人間にとっては日常茶飯事だが、厳格に管理されたコロニーでは、蠅などそうそう見かけるものではない。そこも影響しているのだろう。
まあそんな感じで、緩い日々を送っていたら――
「クルスト博士が模擬戦を行わせてみたいと」
はえーな。まだ1ヵ月も経ってないぞ。マリオンの戦闘成績がイマイチなので焦っているのかもしれない。戦闘シミュレーターじゃあ"殺気"がでないからな。単純に操作技術と反応速度の勝負なのだ。
ただサイコミュ兵器はまだ完成してないんだよな。
「フラナガン博士。あなたはどう思いますか?」
「そうですね。模擬戦ならばよろしいかと」
模擬戦でも怪我する可能性はあるんだが、クルスト博士は抑え込みすぎると暴走する可能性もあるからな。
「わかった。ではトリスタン少尉と模擬戦を行う」
この研究所には、キシリアから送られてきた警備隊がいる。
ニムバス・シュターゼン大尉。トリスタン・トレーダー少尉。セルジュ・ラウ少尉。
この3人だ。まあ見張りだろうな。
ドズルから兵は送られていない。彼は現場第一主義だから、研究所の守りに兵を割くのを嫌ったんだろう。グラナダには突撃機動軍の本部があるし、自分が兵を出すと、軋轢が生まれると思ったのかもしれない。まあ全て俺の予想にすぎないが。
それから1週間、マリオンはザクの訓練に入った。シミュレータと実機ではやはり違うからな。
そして1週間後、模擬戦が行われた。
「……これは、私にも必要なのですか?」
トリスタンが不服そうに言葉をこぼした。今、彼の頭部にはペタペタと検査用のコードが張り付けられている。彼の脳波を測るためだ。
「キシリア様からも、研究にはなるべく協力するように言われているのだろう? 今回のデータはキシリア様にも送られる。有用が認められれば、キミの出世にもつながるかもしれんぞ」
「……はぁ。了解しました」
やはり前線に出たいのだろうな。研究所の警護なんて、軍人にしてみれば閑職のようなものだし。
「では始めよう」
2機のMSが宇宙に飛び立っていく。左右に別れて開始地点へと向かって行った。
「バイタルはどうだ?」
「トリスタン少尉は安定しています。マリオンは少し乱れていますが、規定範囲内です」
「そうか」
まあ初戦だからな。誰だって緊張はするだろう。
3分経って、戦闘開始の合図が送られた。まず動いたのは、トリスタンだ。バーニアを噴かして距離を詰める。
マリオンがバズーカを撃つが、トリスタンはさらに速度を上げてこれをかわした。やはり、バズーカは弾速が遅いな。
距離を詰めたトリスタンがマシンガンを乱射する。マリオンは回避行動を取りながらバズーカを投げつけ、マシンガンを応射した。
「バーニアを噴かしすぎだ」
モニターを見ていたニムバスがぼそりとこぼした。俺にはよくわからんが、そういうことらしい。
結局、数分間の射撃戦の後、接近したトリスタンのヒートホークが、マリオン機の頭部を破壊して試合終了となった。
クルスト博士は苦虫を嚙み潰したように顔をしかめていた。
原作ではフラナガン機関の設立は6月なので、4ヵ月ほど前倒しになりますね。
イリア・パゾムの双子の妹については、存在は明らかになっていますが、名前についてはちょっとわかりませんでした。(見落とした可能性もありますが)
なのでレシアという名前は捏造設定です。