「ぐへー、ちかれたぁーー」
試験を終えたアルマはロッカールームでパイロットスーツを脱ぎ捨てると、中央のテーブルに突っ伏した。
「でも、なかなかいい機動だったじゃない?」
そう言って、マリオンは柔らかく微笑んだ。
ガサツで子どもっぽい自分と違って、物腰も言動も柔らかなマリオンに、アルマは年上でありながら姉のような感情を抱いていた。
「えへへ、そう? でもさぁ、あの機体過敏すぎるよ」
「あれでもかなり抑えているらしいわよ」
「あれで?」
アルマの口から驚きと困惑の声が漏れた。
「でもちゃんと制御できてたじゃない。空間認識能力の高さは、アルマの強みだと思うわ。サイコミュを操作しながら機動戦を行うなんて、私には無理だもの。複座式にしたのは正解だと思う」
「そう? いやぁ、照れるなぁ」
真新しい軍服に袖を通しながら、アルマは口角を上げた。
「そういえば、クルスト博士が補助AI? サポートシステムみたいのを作ってるんでしょ? それが完成すれば、ひとりでも動かせるようになるんじゃないの?」
「……あの人は、ニュータイプに夢を見すぎているような気がするのよ」
「夢って?」
「ニュータイプが、戦争を終わらせる。ジオンを勝利に導く。そんな感じかしら」
マリオンは哀しそうな瞳で、小さくこぼした。
しかしクルストが見ているのはニュータイプの限界や行き着く先であって、戦争の趨勢などまるで考えていなかった。ニュータイプといえども、心の奥底まで読み取れるわけではないのだ。
「……もしかして、勝っちゃマズかった?」
「そんなことはないわ。あの機体を造り上げた人たちも、私たちが勝つことを望んで、毎日開発に励んでいたんだもの。それに私は、勝てると思っていたわ」
「え、そうなの? あのふたり、エースパイロットだよ?」
「でも、MSとの戦闘経験は少ないわ。模擬戦もやっているでしょうけど、相手はザクよ。それ以上のMSと戦う機会はなかったでしょう。それに、あの機体はセオリー通りの戦い方が通用する相手ではないしね」
連邦軍にMSはいない。ルウムを生き抜いたふたりも、相手は戦艦と戦闘機だった。対MS戦の経験が不足しているのだ。
それはアルマやマリオンも同様であるが、彼女たちは最初からシミュレーターでMS戦を行っていた。ふたりに比べて変なクセがついていないことが幸いした。
ザクは数的優位ではあったが、ビショップゼロ改は機動と攻撃が分担されており、動きが読み切れなかったことも敗因だった。
「ねぇアルマ。アルマには
「え? そりゃあ、黒でしょ。星がキラキラしてて綺麗だよね」
「私には蒼く見えるの」
「……それってニュータイプだから?」
アルマはニュータイプを見込まれてこの研究所に来たが、サイコミュを操作できるほどの強い脳波を出すことはできなかった。それでもMSの操縦技能が高かったため置いてもらっているが、それもあってかほかの4人に対して劣等感のようなものを感じていた。
それを感じ取ったのか、マリオンはくすりと笑った。
「ニュータイプなんて、そんないいものじゃないわ。所長だって言ってたでしょ。足が速い、力持ち、それと同じような個性のひとつに過ぎないって。ちょっと勘が鋭くて、サイコミュ兵器が使える。その程度のものよ」
正直なところ、パイロットとしてならアルマが最も優れていた。操縦技術や戦闘センス、咄嗟の閃きもある。トリスタン機が肉薄した時も、閃光ビーム砲で目を眩ませ、一瞬の隙を逃さずとどめの一撃を繰り出した。
初めて乗る機体で、スペックもカタログでしか把握していないのに、これは高いパイロットセンスの現れだった。
アルマは幼少の頃より勘が鋭かった。それが災いして、人間関係が上手くいかず、両親からもそれを気味悪がられ、家族関係はぎくしゃくしていた。
そんな時に、研究所からスカウトされた。自分の勘の良さに理由が付けられたことで、アルマの心は少し楽になった。そして、家から出られることも、彼女にとってはありがたいことだった。
正直、サイコミュ兵器に適性がないと判断された時、研究所を追い出されると思っていたのだ。
「みんな、いい人だよね。研究所ってもっと怖いところかと思ってたけど」
「……そうね。みんな大切に扱ってくれるわ」
貴重な
(たしかに待遇は悪くないわ。前線で常に命懸けの戦いをしている人たちに比べれば、ずっといいと言えるのかもしれない)
それでも、いずれは実戦に投入されるだろう。敵の命を奪う時がくる。マリオンはいずれくるその時を覚悟して、