0079年6月。
ようやく無線式のサイコミュ兵器、ビットが完成した。とはいえ、ジェネレーターの小型化はまだまだ改良の余地を残しており、背部には大型ジェネレーターを背負う必要がある。
ビットそのものにも小型の熱核反応炉が内蔵されているが、6発撃てば空になってしまう。有線式に比べて操作も難しいようで、マリオンは4基が限界だった。
小型化の問題は残っているとはいえ、ビショップ計画は一応の完成を見た、と言えるだろう。
話は変わるがマッドサイエンティストという言葉を聞いたことがあるか?
SF作品などで登場する狂気的な科学者のことだ。そして大抵は天才科学者だったりする。
「所長、イリアの身体強化の許可をください。本人もそれを望んでおります」
頭おかしいのかこいつ。一番まともだと思っていた彼女が真っ先にマッドな提案をするとは。読めなかった、この俺の目をもってしても。
「セリーヌ博士、キミは医師免許も持っているはずだね」
「はい。施術は私自らが行います」
違う、そうじゃない。
「ならばわかるはずだ。成長途中の未熟な年頃の体をイジれば、重度の障害を負う可能性もある。あと数年もすれば筋肉も骨格も成長する。パイロットとなるにはそれからでも遅くない」
「……ならば、私自身ではどうでしょう?」
「うん?」
なに言ってんだこいつ。
「所長は常々言っておられましたね。ニュータイプの素養を持つ人間は少ない。貴重な素体を使い潰すのはもったいない。だからこそ大事にして、彼女たちの方から協力してくれるような体制が必要だと」
まあこじつけのようなものだが、人体実験とか俺の方が壊れそうだったし。それでなくとも研究者という人種はちょっと倫理観に欠けた人間が多いんだよな。手綱を緩めるとすぐに暴走しそうな印象がある。
「これまでのデータから、ニュータイプがサイコミュ兵器を使用する際、脳のどの部分が活性化するかは判明しております」
こいつ、身体強化じゃなくて、脳にメスを入れるつもりなのか? つかこれ、上手くいく方がマズくないか。非ニュータイプをニュータイプにできる方法が確立されれば、ヤバイやつらが増殖しそうだ。
だが、俺の記憶ではそんな方法は出てこなかった気がするんだよな。強化人間も不安定なやつばっかりだった気がするし。
「だが、自分で自分を開頭することはできまい」
「ご心配なく。ローレン博士とクルスト博士の協力は取り付けております」
あのふたりも巻き込まれたか。クルスト博士はともかく、ローレン博士は押しに弱いからな。
否定するのはたやすいが、この熱量を見るに出奔してどっかでやりそうなんだよな。
ニュータイプなんてそんないいものじゃないと思うんだが……ここまで
俺は仕方なく、セリーヌ博士の申し出を了承した。
彼女は満足そうな顔を浮かべて退室した。セリーヌ博士は、ニュータイプに妙なあこがれを抱いている。それは幻想といってもいいのかもしれない。
なんでそんなにニュータイプになりたいのだろうか?
待遇には気を配っているとはいえ、ここにいる子たちは、言ってみればモルモットのようなものだ。そしてそれを、本人たちも察しているし、受け入れてもいる。給料が出ているからというのもあるだろうが。
治験みたいなものだな。
ニュータイプに、恐れを抱く者もいる。原作では、アムロ・レイのあり得ない戦果を恐れた連邦政府は、戦後彼を鳥かごの中に閉じ込めた。
そして管理できないニュータイプの代わりに、管理できる
キシリアはニュータイプに一定の理解を示していた。だが信を置くわけではなく、ニュータイプが反乱を起こした時のための
うちの戦闘データも、その部隊に渡って対策されているだろうな。まあ、その程度でキシリアに敵視されないなら安いモンだ。
今のところ、キシリアはニュータイプを活用しようとしている。そう考えているうちは大丈夫だろう。けどやっぱり、怖いんだよなぁ、キシリア。
まあ、上手くやっていくしかないか。俺はドズルの配下だから接点が少ないのが、まだマシなところかな。
◇
0079年、8月。
データ取りと機体の最終調整が終わり、ついにニュータイプの実戦投入が決定された。これまでのデータはすべて送っていたが、やはり実戦での結果が見たいのだろう。もしかしたら、キシリアの意向でもあるのかもしれない。
派遣先は、ドズルお気に入りのシャア・アズナブル少佐の部隊だ。連邦軍のゲリラ掃討作戦に参加させよとの通達があった。
「派遣するのは、アルマ准尉とマリオン准尉ですかな?」
と、フラナガン博士は髭を撫でながら言った。たしかに成績で言えば、そのペアだろう。
「いや、アルマとアンネローゼのペアで行こうと思う」
「理由をお聞きしても?」
「マリオンは感受性が強すぎる。ナイーブと言ってもいい。人の死に触れすぎると、心が壊れてしまうかもしれない」
「……ふむ」
ニュータイプは幼い頃から勘が良い。そして子どもとは、思ったことをそのまま口にしてしまうものだ。そのせいか、人間関係がぎくしゃくしてしまうことがままある。
「了解しました。準備を進めておきます」
「頼みます」
それから3日後、ローレン博士と技術スタッフ12名を連れて、アルマとアンネローゼはグラナダを出立した。