ようこそ異能力狩人が集う教室へ   作:田舎狩人

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*やあ久しぶりだね…語り部だ。

*みんな少しばかり気になっているんじゃないかな…黒鮫真人のヒロインは誰になるのか………
*候補は6人、そのうちの二人はもうすでに関わっているけど残りの4人はまだだね……今回はそのうちの一人と関わりを持つことが出来そうだよ。


第5話

「この式にはこの方程式を…」

 

 

入学式から数日が経過して本格的な授業が始まった。授業は淡々としているがしっかりと聞いていれば理解できるような内容になっていると思う。問題はこのクラスで何人の人間がしっかりと聞いているかという事だろうか。

 

 

「でさー」

 

「マジヤバくね?」

 

 

「うぃー。」

 

「須藤今起きたのかよ。」

 

 

雑談、遅刻、居眠り、ケータイいじり……授業を受けながらもそこかしこで見えたり聞こえたりするもの、そして先生たちは誰であれその行動を咎めない。

 

 

(今ここで授業している先生は、怒っているのか、悲しんでいるのか諦めているのか…)

 

 

黒鮫はそんなことを考えていながら黒板に書かれた公式の解説をノートに書き記した。

 

 

 

***

 

 

「チャイムが鳴りましたのでここまでですね。」

 

 

そう言った先生の手元を見る。持ってきていたファイルに何かを書き記していた。黒鮫はその手元を見ていた。

 

 

(書いている文字は算用数字…間隔をあけ4か所に記入……このクラスがやったペナルティ行動の回数だろうな。しかし…合計したら11か……どれほど減らされるかわからないが一回の授業でこうならひと月で……最悪を想定するべきだろうな。)

 

 

そんなことを考えていると教室から出ようとしている教師、坂上先生と目があい互いに会釈をする。

 

 

(あの人は他の学校でも通用しそうだがな…なぜこんなところに来たのだろうか……まあなんだっていいか……)

 

 

黒鮫からしてみれば国が運営しているこの学校はどうしようもないところと評価している以上、真っ当に感じた教師を見るとそう考えてしまうのだ。だが本人が選んだ道だと考えて別のことを思考する。

 

 

(しかし、あの時の訓練がこうも役に立つとはな……)

 

 

黒鮫はふと目を閉じて自分が今よりも若かった時のことを考える…

 

 

***

 

 

「『黒喰』君、君は視力、聴力、嗅覚どれをとっても優れている。まるで獣みたいにね。」

 

「……それはどうも。」

 

 

とある森林にて、黒いニット帽を被った男『毒鼠』が黒鮫を褒める。相手が何をしてくるか警戒している黒鮫はとりあえず言葉だけ受け取ることにして一定の距離を保つ。

 

 

「だから今回はそんな君を鍛えようと思うんだ。」

 

「鍛えると言っても俺は『骸樹』に鍛えられているわけだが…」

 

「彼が鍛えているのは戦闘力、僕が鍛えるのは…そうだね今回は観察眼というべきだね。」

 

「観察眼か……」

 

 

 

本当にまともに鍛えられるのかという疑問を感じながら黒鮫は『毒鼠』をみる。そんな視線を気にするそぶりもないまま『毒鼠』は説明を続ける。

 

 

「視力検査のようなものもあれば相手の動きによる符丁もあるし、遠くにいる者の手の動きだけで何をしているのか当ててもらうよ。」

 

「そうか……」

 

 

当時の黒鮫は強くなることだけを考えていたためこの訓練を軽視していた部分があり早く済まそうと考えていた。

 

 

「ちなみに全問正解したら、僕から何かご褒美を与えよう。」

 

「そうか……」

 

「喜ばないんだね。」

 

「胡散臭いからな。」

 

 

黒鮫は師匠である『骸樹』から『毒鼠』についてこう聞いていた。

 

 

「あいつが何か無償で施しをすることなんて天地がひっくり返ってもありえんものじゃ。」

 

(爺さんがああ言っていた以上は何か裏があると見ていいな。)

 

 

そんな言葉を思い出してより疑念の目つきになる。そんな中『毒鼠』気にせずに言葉を続ける。

 

 

 

「ただ必死に取り組んでもらいたいがためにいろいろとペナルティはあるよ。」

 

「なんだ?俺の情報をばらまくとかか?」

 

「そうだね……例えば……君の初恋の相手とか?」

 

 

その言葉を聞いて黒鮫は冷静さを少しばかり失った。

 

 

「待て、なんでお前が知っていやがる!?」

 

「僕は『情報屋』だからね…なんでもお見通しなわけさ。さあ君の秘密がバレないように頑張り給え。」

 

 

その言葉を最後にこの場から去ろうとする『毒鼠』。黒鮫は感情のままに攻撃をしたかったがなんとかとどまった。

 

 

(こちらから仕掛けたら、もっと手痛い反撃があるだろう……)

 

 

『毒鼠』に感情のままに当たればそれだけで敗北のようなものだと理解していた黒鮫はただその背中を見送ることしかできなかった。

 

「いいだろう…あんたが作り出した問題を全力で解いてやるさ……」

 

 

 

***

 

 

(結局、何問か間違えたんだよなあの時……次の日から周りの大人が妙に優しかったり、生暖かい目を向けられたり……俺はどんな情報をばらまかれたのかだけがずっと謎だな……)

 

 

「なあ黒鮫。」

 

「ああ?」

 

 

過去に思いを馳せていると綾小路が黒鮫の所までやって来ていた。綾小路に視線を向ける。

 

 

「このままでいいのか?」

 

「何がだ?」

 

 

綾小路の言いたいことがある程度理解はしていたが、彼の考えや言い分を引き出すために少しばかりとぼけることにする黒鮫。

 

 

「何がって…この状況だよ。」

 

「状況か…みんな自由でいいんじゃないか?」

 

「自由…黒鮫は本当にそれでいいのか?」

 

「綾小路。何を期待しているのかわからんが俺の行動は入学式のあの日に終わったんだ。だからこれ以上別に何もしないさ。」

 

「そうか…」

 

「それと綾小路、自分の考えを語らぬまま相手の考えを引き出せるなんて考えるな。お前がそうやって誤魔化すのなら、俺は求める答えを提示することはない。」

 

「…わかった。」

 

 

そう言って綾小路は自分の席に戻る。

 

 

(好かれたか、興味を持たれたか…どちらにしても面倒な話だ。あの部屋出身故の興味か、奴の生来の性格かまあなんだっていいか。)

 

 

休憩時間が終わり次の授業が始まる。そして先程と変わらぬ光景に黒鮫は冷たい目をするだけだった。

 

 

***

 

 

(昼休み…食堂に行くか…面倒くさいな。まあ最悪コレを摂取すれば問題ないか……)

 

 

黒鮫はこの教室にて親しき友人などいない。ゆえに食事に誘われることなどない。平田は黒鮫と対話をしたいようだが、平田ガールズ(軽井沢を筆頭とした、平田の周りにつく女子の総称)によって阻まれているし、綾小路も今日に関して言えば隣人の堀北になにやら言われている。

 

ゆえに黒鮫は今一人である。

 

 

「失礼、黒鮫真人という男はいるだろうか?」

 

そんなDクラスの教室に一人の男がやってきた。

 

「ここにいるぞ、識崎。」

 

 

Dクラスの人たちからした黒鮫の評価は孤高の男、冷たい男、異端者そんな感じの評価である。そんな人が他クラスの同級生と友人関係を築けていたことに教室に残っていた生徒たちは驚きの表情をしていた。

そんなことを黒鮫も識崎も気にすることなく識崎は黒鮫の席に近づくし、黒鮫は識崎に問いかける。

 

 

「今日はいったいどうしたというんだ?」

 

「ん-?ちょっとね…充実した昼休みを過ごそうと思っていてね。ここ空いてるかな?」

 

「あぁ、前の奴は食事にでも行ったんだろう。」

 

「じゃあ遠慮なく座らせてもらうとしよう。」

 

 

そう言い識崎は黒鮫の前の席に腰かけて黒鮫の席にあるものを置いた。

 

 

「これは?」

 

「ただ雑談するだけじゃあれだからねチェスでもどうだい?」

 

「あまり得意じゃないがいいだろう…しかし唐突だな。」

 

「思い付きで行動するのもたまにはいいものだよ。じゃあ始めようか。」

 

「あぁ…」

 

 

そしてチェスが始まりコツコツとコマを動かす音だけが響く。先程まであった雑談の声も消えてしまった。識崎は目だけを動かし見える範囲で教室にいる生徒を視認する。視認した生徒のほとんどこちらに目を向けていた。それは黒鮫か自分かどちらに対する興味か、あるいはどちらもか……そう考えた識崎は黒鮫にとあることを切り出すことにした。

 

 

「ねえ黒鮫君。」

 

「なんだ?」

 

「この教室は随分と静かだね。」

 

「そうだな。だが飯時なんてそんなものだろうよ。」

 

「そうだね……だけどもう少し騒がしいものかと思っていたんだよ。」

 

「それはなぜだ?」

 

「だって君が前に言ったじゃないか…自分のクラスを例えると『動物園』だと。」

 

 

 

識崎の言葉に黒鮫に険しい目が向けられる。まるで「お前そんなこと言ってたんか」と言わんばかりのものだ。だが誰も声を上げることはない。それは黒鮫たちへの恐怖か別の何かか……ただ言われっぱなしも癪だと考えた黒鮫は口を開いた。

 

 

「ここが静かになった原因はお前が来たからだろうな。」

 

「僕かい?」

 

「あぁ、ここが動物園なら君は…片や猟銃を携え、片や透明の液体が入った注射器をもって、白衣とベスト来た男だな。」

 

「なんだいそのとんでもない恰好は……僕はそんなヤバい奴だとでも言いたいのかい?」

 

「君の素性を知らなければそんなものだろうさ。猟師とも医者とも読み取れるから動物はいないふりをして静かになる。」

 

「そうかい…でも善良な医者かもしれないよ?その注射器に入っている液体は誰かにとっての薬かもしれない。」

 

「ならば他の誰かにとっての毒だな。」

 

「それに猟銃とは言ったけどもしかしたら麻酔銃ももっているかもしれないんじゃないかな?」

 

「ならばその猟銃にはちゃんと鉛玉が入っているかもな。」

 

「君は本当に僕を恐ろしい存在にしたいようで。」

 

 

言葉の応酬にみんなが釘付けになる。彼らからしたらただの雑談かもしれないがどういうわけか目が惹かれる。今まで関わろうともしてこなかったクラスの異端者である黒鮫が他クラスの生徒とは仲よく雑談をしている姿にもの珍しさを覚えたのかもしれないし、なにか見えざるオーラという概念的な何かをクラスメイトは感じているのかもしれない。

 

 

 

「チェック。」

 

「…………詰んだな。」

 

「僕の勝ちだね。」

 

「勝てると思ったんだがな…」

 

「君はどちらかと言えば思考するより直感でいくタイプなのかな。」

 

「かもしれないな。」

 

「ならばスピードチェスはどうかな。」

 

「やってみようか。」

 

 

数分後

 

 

「負けたな。」

 

「また勝っちゃったよ。」

 

「どうやら俺はチェスが向いてないようだ。」

 

「なら将棋でもやる。」

 

「そっちもあるのか。」

 

「一応ね…それでどうする?」

 

「やろうか。」

 

 

そして今度は将棋が始まった。対局して識崎は片手にサンドイッチを持ちながら疑問をぶつけた。

 

 

「そういえば黒鮫君は昼食はとったのかい?」

 

「あぁ?」

 

「ほら僕は昼休みが始まってすぐにここに来たわけだからさ。僕は今こうやって食べているけど君が食事している姿を先程からみていないからさ。」

 

「食事か……さっきからしているだろう?」

 

「えっ?」

 

 

そう言って黒鮫は手に持っている缶コーヒーを揺らす。

 

 

「確かに先程から缶コーヒーを飲んでいる姿は見ているけど……えっ。」

 

「口にするという慣用句は飲み物にも当てはまる…ならばこれもまた食事だろ?」

 

「食事……と言っていいのかなそれ…というか足りるのかい?」

 

「まあな。エネルギー補給はこんな物でもどうとでもなる。」

 

「そうかい…まあ君がそれでいいなら僕は特に言うこともないが。」

 

 

 

黒鮫の発言により周りからはいろんな感情が向けられている。本当にそれで足りるのだろうかという心配だったり、かっこつけてるんじゃねえよと言いたげな嫉妬や嘲笑のようなものだったり…黒鮫は一切気にしてはいないが少しばかり識崎も考えていた。

 

 

(食に無頓着というべきなのかなこれは…『黒喰』という喰らう能力者がそういう性格なのは何か裏があると考えるべきなのかな…)

 

 

考えて答えは出てこないし、聞いてもはぐらかされるだろうから今の考えは頭の片隅に置いておき将棋を続けた。

 

 

「あっ王手。」

 

「ん……また詰んだな。」

 

「黒鮫君…君弱くないかい?」

 

「お前が強いんだろうさ、誇れよ。」

 

「そうか…そうさせてもらうよ。」

 

 

勝負が終わり識崎が自身の端末で時間を確認する。

 

 

「さて、僕はそろそろお暇させてもらうよ。」

 

「あぁ、じゃあな識崎。」

 

「じゃあね黒鮫君しばらく入り浸らせてもらうよ。」

 

「あぁ、わかった。」

 

 

テキパキと片付けてこの場を後にする識崎、識崎がいなくなったことで少しばかり賑わいが戻った。

 

 

「なあ黒鮫。」

 

「お前は俺以外に話し相手はいないのか?」

 

 

タイミングを計ったかのように綾小路が声をかけてくる。彼の相手をすることに少々面倒くささを感じている黒鮫であるが一応対応はする。

 

 

「そういうわけではないが……」

 

「それで?今度はどんな用件なんだよ?」

 

「よかったらチェスを教えてやろうかと思ってな……チェスならオレは経験者だからな。」

 

「いや結構、というかお前昔はそんな対局できる相手がいたんだな。」

 

 

いつもの如く綾小路の提案を即決で断る黒鮫、綾小路は何とも言えぬ顔をしていた。

 

 

「理由を聞いてもいいか?」

 

「そうだな……簡潔に言えば俺は奴の対局に勝つことを重きを置いてないからな。それに俺とお前じゃゲームの楽しみ方が違うだろうしな。」

 

「ゲームの楽しみ方?」

 

 

綾小路は疑問符を浮かべ、周りのクラスメイトも数名こちらを見ている。黒鮫はそんな視線を気にすることなく語り始める。

 

 

「俺の持論だが、こういったゲームの楽しみ方は大きく分けて3種類だと思っている。

一つ目はお前みたいな対戦相手がだれであれ勝利することを目指すやり方。相手の打ち方や思考の癖を見抜いて自身が勝てるように立ち回るやり方、攻略するということに楽しさを感じるというものだ。」

 

「なるほど……」

 

 

綾小路は黒鮫の言葉を真剣に聞いている。識崎がいなくなってから戻ってきた喧騒がまたなくなってしまっているがまだ気にせず話し続ける。

 

 

「二つ目は自身に独自のルールを課して楽しむやり方。既存のルールにとらわれず己の中で自身の楽しみ方を見出すやり方。周りは変に思うかもしれないがそういう奴は一定数いるのだろうな。」

 

「独自のルール……例えばどんなのがある?」

 

「さあな……テキトーに考えたのだが、チェスで言うと勝ち負け関係なしに自分が指定した、あるいは無作為に選ばれたコマが対局終了までに盤上に残り続けていることとかかな。」

 

「なるほど…三つ目は?」

 

「最後のは俺みたいに特定の誰かとの過ごす時間として楽しむ奴。勝ちとか負けとかではない。そいつのとの駆け引き、雑談、周りの空気いろいろな要素をもってして楽しむ奴だ。」

 

「勝ち負けが重要じゃないのか……」

 

「まあお前には理解しづらいだろうな…別にお前の思考を否定する気はない。競争本能というのは人にだって存在するものだからな。だけどお前もこういう楽しみ方を出来る奴を見つけた方がいいかもしれないが…余計なお世話だな、今のは忘れてくれ。」

 

「あ、あぁ…」

 

 

チャイムが鳴り、二人の談義も終了を告げることに、綾小路はそういう考えもあるのかと小さくこぼしながら自分の席に戻ることにした。

 

 

 

***

 

 

 

時は流れて放課後となり黒鮫はカメラのない特別棟に赴いていた。

 

 

「黄昏時…逢魔が時……」

 

 

独り言葉を口に出しながら探索を続ける。やがてある程度の探索を終えて黒鮫は立ち止まる。

 

(カメラがないからいろいろとやりたい放題だろうな……何度そんなことが起こり、何度そんなことが続くのか……まあどうでもいいか。)

 

 

この学校のやり方にいろいろと物申したい黒鮫だがそんな思考を切り捨てる。彼にとってはこの地に集う他生徒、教員、お店で働く職員たちの彼風に言うところの『牙なきもの』の平和、安寧を守ることが第一であるからこの学校に関しては変えたいと思う奴の好きにしたらいいと結論付けた。

 

 

(しかし、このあたりから怪異の気配を感じ取った気がしたが……見当たらないのは亜空間にでもいるのか、あるいは強すぎる残滓なのか……)

 

 

黒鮫がここに来た本来の目的、それはこの特別棟で感じ取った怪異の気配であった。遭遇できれば即座に討伐しようとしていたのに気配だけそこにあり実像が見当たらない。なので捜索は難航していた。

 

(咆哮でなんとか…いやこれは最後の手段だな……とりあえず鴉たちには連絡をしておこう………今日は帰るとするか。)

 

 

結局見つからないので他の狩人達に連絡して帰路につこうとした。その時に何か音が聞こえてきた。黒鮫はその音のなる方へと歩いて行った。

やがてたどり着いた先でみた光景は一人の女生徒がカメラを持ち自撮りしている姿であった。

 

 

(あれは…)

 

 

黒鮫はすぐにその生徒の正体に気づいた。同じクラスで自分の右隣の生徒である『佐倉愛里』であった。

 

(随分と教室とは違う雰囲気だな。)

 

眼鏡もなくおどおどした雰囲気もなく背も伸びていることにより肉体の美しさが現れている。黒鮫に気づいていないのか、撮ったカメラでデータを確認している。撮れたものがそれほど良かったのかカメラをみて笑顔になっている。その横顔に思わず黒鮫は

 

 

「美しいものだな。」

 

「!??!!!!??!?!?!???!」

 

 

 

そうつぶやいてしまった。佐倉は声にならない声をあげ、ビクッと体を跳ね上がらせてしまった。それと同時にカメラも宙を舞う。何とか落とさないようにしているとカメラは窓の外に落ちそうになる。それに気づいた黒鮫は身を乗り出してキャッチすることに成功した。

 

 

「すまない驚かせるつもりはなかったんだ……」

 

「あっいえ…ありがとうございます……」

 

 

隣の席ではあるが初めて話すことになったこの状況。黒鮫は手に持ったカメラを返した。そして佐倉の顔をじっと観察していた。佐倉はびくびくしながらも話しかけた。

 

 

「あの……なんですか?」

 

「やはり教室でつけていた眼鏡は伊達だったんだな。」

 

「あっ。」

 

 

ここで佐倉は自分の状態を思い出した。今は眼鏡をつけず髪型も少し変え、アイドルのような風貌であることに。話しかけたこともない、なんなら少しばかり怖いと思っている隣の席の生徒。そんな状況をどうにかしようと頭の中がぐるぐるとなり、佐倉は問いかけた。

 

 

「へ、変ですか?!?」

 

 

言い終わった後に何を言っているんだろうと考えた佐倉だったが黒鮫はそんなこと気にすることなく答えた。

 

 

「いや、変ではないな。教室でその美しさを隠しているのにも理由があるのだろうし今日ここで見た物も俺の心の中にとどめておくさ。」

 

「あっ、ありがとうございます。」

 

 

内緒にしてもらえることがわかり少し安心してお礼を言う佐倉。すると佐倉は黒鮫にあることを聞いてみた。

 

 

「あ、あの……グラビアアイドルとかって見ますか?」

 

「随分と唐突だな。俺はあまり見たことがないが………」

 

 

ここで黒鮫は言葉を発さずに思考する。

 

 

(なぜいきなりグラビアアイドルの話題に…男子同士ならいざ知らず佐倉は女子だ……それにこの質問の意図はおそらく確認…あぁ、そういう事か……)

 

 

言葉が出なくなった黒鮫を少しばかり心配そうに見る佐倉。そんな佐倉に黒鮫はたどり着いた答えを開示する。

 

 

「君、そういうのをやっていた口なんだね。」

 

「えっ?」

 

「元グラビアアイドルと言ったところだろうか、ここに来ている以上引退か、活動休止か、いやこういう自撮りをしている以上活動自粛中というべきなのかな……」

 

「あ、あの!!」

 

 

たった一つの質問で自分の過去の一つがバレたことに気づいた佐倉は声を張り上げる。何を言うつもりなのかわからないが黒鮫は先に言葉を放つ。

 

 

「先程も言った通りここで見たものは心に留めおくし、誰にも話さないから安心してくれ。もし不安なら書面による契約もしても構わない。というかこんなことを話す相手もいないからな。それとそのカメラがもし壊れていたのなら言ってくれ修理費は俺が出すから。」

 

「あ、あの…」

 

 

あまりの多くの言葉に押され気味になり困惑する佐倉。黒鮫は佐倉の言葉を待つことにした。

 

 

「ありがとうございます。」

 

「…えっと何についてのお礼ですか?」

 

「か、カメラです。壊れていなかったので。」

 

「そうか、それはよかった。」

 

「あ、あの失礼します。」

 

「あぁ………っ!?」

 

 

お礼だけ言ってその場から立ち去ろうする佐倉だったがその佐倉に何やら邪悪なオーラがまとわりつくような気配感じ取った黒鮫はすぐに佐倉に声をかけた。

 

 

 

「待て佐倉!!」

 

「はい!!!」

 

 

後ろから大声に体が硬直してしまった佐倉。黒鮫はしまったなと思いながら佐倉の元まで行った。

 

 

「またもや驚かせてすまない…ただこの時間帯は危険だ、寮まで送らせてもらう。一種のお詫びだと思ってくれ。」

 

「あ、あの大丈夫です。」

 

 

恐怖からなのか黒鮫の提案を遠慮する佐倉だが黒鮫的にはここで一人で帰すわけにはいかなかった。

 

 

(今の気配はかなりヤバいものだ。一人にしたらいけないが……どうするか…)

 

 

黒鮫はいろいろと考えた末に言葉を紡ぐ。

 

 

「体のいいボディーガードだと思えばいい、君は元とはいえグラビアアイドルだ……いろいろと問題があるのではないだろうか…例えば厄介なファンとか」

 

「っ!?」

 

 

黒鮫の言葉に驚きと恐怖が入り混じった表情をしていた。

 

 

(出まかせを言ったつもりだったがおそらく当たりを引き当てたのだろうな……)

 

黒鮫はそんなことを考えながら佐倉の言葉を待った。

 

 

「あ、あの…よろしくお願いします。」

 

 

 

その言葉により一緒に帰ることが決定した。

 

 

 

***

 

 

「……」

 

「………」

 

 

夕暮れの帰り道、その二人に話し声はない。ただ同じ寮へと一緒に帰るだけであった。佐倉は心が落ち着けるためなのかカメラを手に持ったまま歩いているそんな中黒鮫はその静寂を破った。

 

 

「君は怖いか?」

 

「へ?」

 

「俺が…怖いか?」

 

 

横並びで歩いていた二人が目を合わせる。やがて佐倉は前を向き答える。

 

 

「教室にいた時は怖いと感じていました。だけど今日話してみてそんなに怖くないことに気づきました。」

 

「そうか……ちなみにだがその恐怖が消えた理由はなんだ?」

 

「目です。」

 

「目?」

 

「はい、先ほど目があった時に感じたのですが……その、目の奥に優しさといいますか…そういうのを感じましたので。」

 

「っ!?」

 

 

佐倉の発言に黒鮫は驚き歩みを止めた。それはかつて出会ったとある少年に言われたことと同じだからだ。

 

 

 

~~~お前ってさ戦っている時の眼はやべえけど今の眼はすんげえ優しい目をしているぞ!!そんなことはない?いいやそんなことはあるね!!俺がそういってんだからな。

 

~~~お前かっこいいじゃんヒーローじゃん!!えっ自分は化け物だって?だったら化け物なヒーローでいいじゃねえか。誰がなんと言おうとお前は俺のヒーローだよ!!

 

 

 

 

かつて言われたことを思い出す黒鮫、そんな黒鮫を心配そうに見ている佐倉。

 

 

「あ、あの変なことを言いましたか?」

 

「いや……かつて友人に同じことを言われたのを思い出してな…フッ懐かしいなぁ……」

 

 

黒鮫は呟き空を見上げる。すると一度だけカメラのシャッター音が聞こえた。佐倉が黒鮫を撮影していた。

 

 

「あ、あのごめんなさい。」

 

「い、いやいきなりでびっくりしたが……なぜ撮ったか理由を聞いても?」

 

「……笑っていたんです。それがその……珍しいといいますか……残しておいたほうがいいと思ったと言いますか…」

 

「笑っていた…そうか……卒業までには現像しておいてくれないか。」

 

「えっ?」

 

「別に怒っているわけではないからな。もし申し訳なさがあるのなら現像した写真を俺に渡すことで手打ちということだ。」

 

「は、はい。」

 

「さて帰るとしよう。」

 

「はい。」

 

 

そして二人は歩みを進める。またもや静寂な空間が生まれたがその静かさに気まずさを覚えることはなかった。

 

 

(笑っていた…か………俺は久しく笑えていなかったんだろうな…)

 

 

黒鮫は歩きながらその少年の言葉をまた一つ思い出す。

 

 

~~~なぁ……お願いがあるんだ…どんな奴でも一度くらいは助けてやってほしいんだ……黒鮫はこの世界が綺麗なものじゃないというけど……綺麗なものだってあるし、綺麗に出来るはずなんだ……頼むよ…お前は最高のヒーローでいてくれ……俺には力なんてなかったけどお前と共に誰かを助ける行動が出来てよかったぜ……

 

 

 

(最期まで俺をヒーローと言い続けたあいつ…俺にとってはお前こそがヒーローだったんだからな……奴の言葉があったからこそ、今もなお戦いつづけてられるのだろうな…)

 

(守ってやるさ、お前が綺麗であれと願ったこの世界を……すべての物に失望するまではな。)

 

 

かつての約束を改めて胸に秘め帰路につくのであった。

 




*やあ語り部だよ。

ヒロインの登場回…なんて思わせて置きながら識崎とチェスしたり、黒鮫の過去が少しばかり明らかになったりと……しっちゃかめっちゃかしていたように感じるかな?

彼とのチェスは今後黒鮫君が他クラスとの関わりを持つためのきっかけのようなものになるからね、シナリオ的には必要というべきだね。

かつての少年の言葉はヒロイン候補である佐倉愛里ともう一人が同じ言葉を言うためにこれもある種必要なものだからね。

さて他クラスとの関わりとなった時、最初に黒鮫が接触するのはどこかもう決まっているんだよね…自身のクラスの孤高な奴が他クラスとの交流をしていれば興味を持つのは当たり前なのかもしれないね、天才幼女…失礼、少女はどうかかわるのかな?

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