社会人になってちょっと病み気味の主人公が熊本の海で黒岩部長とあっついあっつい言いながらジュース飲む話。 作:やゆゆゆゆ
原作:放課後ていぼう日誌
タグ:オリ主 放課後ていぼう日誌 黒岩部長 アクエリアス
お前も見ろ。
「なつみぃ、今日もマゴチ釣りに行こうよ!」
「えぇ………昨日も釣ったじゃんか!別のやつ釣りたいよ」
「いや、でも、昨日お母さんがさぁーーーーー」
ふと、そういえば近くに海があるのだと気づいたのは会社から帰って焼きそばを作っている途中だった。
窓の外からやけに大きな声で聞こえてくる中学生だか、高校生だかの声。
普段なら気にもかけない雑音だったが、なぜだか今日は耳の奥のどこかに反響する。
換気扇がからからと回る。やっすい賃貸だから焼きそばの匂いがどうにも消えない。
「……………そういえば、海。行ってないかもな」
口に出してみればそれは自分の中で考えもしない気づきだった。
東京から去年の春に熊本に引っ越して来てからもう1年と少し。
希望だった名古屋への転属じゃなく、辺鄙な田舎に飛ばされたもんだと最初は嘆いたものだったが、毎日仕事仕事と駆け回っているうちに都会だか田舎だか、自然だか観光だか、そんなことは考えないようになっていた。
うちの会社は別に特段ブラックって訳でもない。土日だって休みがあったんだから、1年のうちのどっかで海くらい見たって良かったのに。
どうしてだろうと思うと共に、頭の中に朝、スーツを着て出かけ、昼にはペコペコと頭を下げる自分の姿が思い浮かんだ。そういう、凄く現実的な自分と大きな海というのがどうにも結びつかなかったのか。
僕はソースだって入っちゃいない、豚肉とモヤシだけのお粗末な麺をいらつきと共にもしゃもしゃと食べた。
着替えたはずのパジャマがスーツになったような錯覚を覚える。
「明日、ちゃっと行ってみるのも。悪くはないか」
グーグルで調べてみれば、近くの海までは自転車で二十分と書いてあった。
一応、タイヤに空気くらいは入れておいた方がいいだろうか?
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翌日、もう随分と使っていなかったから塗装が剥げた青いチャリンコを引っ張り出して、僕は家を出た。
一足先に鳴く蝉の音が体が後ろに流れていく。
近所のよく使っている格安スーパーまで行ってそこからずうっと東。
まだ6月末だから大丈夫だろうと高を括っていたが、地球温暖化というやつはここまで進んでいたのか。アスファルトから反射した灼熱の光線が僕の体をジリジリと焼く。昔、学校で先生が言っていたツバル諸島だの何だのは、今頃、海底神殿のようになっていることだろう。
堪らなくなった僕はコンビニに飛び込んだ。ジュースの1本、アイスの一つくらい買ったってバチは当たるまい。
「いっしゃいやせ〜、どぞ〜。かぁげ、さんジョッパー引きになってやーす」
もう何を言っているか分からない店員の声を流しつつ、飲み物のコーナーへ。
コーラ、ファンタ、スプライト、麦茶、どれにしようかな、なんて悩みながらぼおっと立っていると、ふと、目の端に派手に装飾されたアクエリアスが目に入った。
いつもの青いロゴが描かれたペットボトル。
そこにゲームとコラボしたのだろう、描かれた一人のキャラクター。
昔、僕が愛して止まなかった一人のキャラクター。
愛して、愛して、いつかこのキャラクターを動かしたいと思っていた、僕の人生の転機点。
「やっぱ、良く出来たキャラデザだよなぁ」
呟いた独り言は、誰かが聞いたら負け犬のように聞こえただろうか。
脳内には必死に練った企画書のいくつかと、送られてきた「貴公の活躍をお祈りいたします」というメールがありありと浮かんだ。
「今は、ゲームとなんて、何一つ関わりのないとこで働いているんです。」
三年前、あの頃の自分にそういったなら、彼は許してくれるだろうか。
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コンビニで買ったオレンジジュースが底をつく頃、海岸の近くに併設された公園に自転車を止めた。そろそろ波が見えるのかなと思って見渡しても砂浜沿いの堤防に遮られて海は見えない。標識によるとここから海岸まで東に500メートル。
堤防へと繋がる道には自転車用のスロープはない。
「分かりました、歩けばいいんでしょう。歩けば!」
手に持った空のペットボトルがカラカラと揺れる。結局、あのアクエリアスは買えなかった。買わなかったんじゃなくて、買えなかったんだ。僕の心にその余裕はなかった。
周りに誰も人はいない、少し潮風のする歩道。
6月とは思えないうだるような暑さの中じゃあ、一歩一歩がずっしりと重い。
疲れる、疲れた、もう嫌だ、帰りたい、何で来たんだろう、家でぬくぬくしてりゃあ良かった、無理、そんな言葉をもう何十回か繰り返した後、やっとそこへとたどり着く。
それは、海を隠すように建てられた堤防の隙間、左右に木々が立ち並ぶその間。
遥かに見える、青い輝き。
僕はただ歩いた。仕事で疲れた足を圧して歩いた。
歩いて。
歩いて。
歩いて。
走って。
走って。
ただ足を前へと動かして。
ついに、そこへとたどり着く。
海へと、たどり着く。
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青が広がっていた。
目の端から端まで余すことなく、押し寄せる波が広がっていた。
「なんだ、これ」
広がる海の中で、僕はただぽつんと白い砂の上に一人でいる。
太陽と、砂と、波と、僕と、あとは頬をなでる風と、それ以外は他に何にもなかった。仕事も、夢も、誰かも、責任も、人生も、そのすべてを覆うように遥かに大きな空。
足で踏みしめる砂の柔らかさ、肌を焼く波からの光の反射、近くに落ちた古ぼけた流木、投げやすそうな丸い石。
太陽と海のコントラストの中では全てが許容されていた。
「……………邪魔だ、こんなものは全部邪魔なんだ」
僕は手に持っていたペットボトルも、背負っていたリュックも、ポケットに入れていたスマホも、全部をそこら辺に置いて砂浜を歩き回った。いや、走り回ったかもしれない。駆けずり回ったかもしれない。飛び回ったかもしれない。
ただ、足に残る砂の感触だけを確かめていた。
そうして、一しきり日に焼けた頃、ただ眺めるだけでは足りなくなった僕は長袖のズボンを膝までたくし上げて波の中にズブズブと入っていった。
ずぶりと水の中に足を入れる、抵抗する波に反発して強く足を動かす。
あぁ、冷たい。水が冷たい。
その冷たさと、足からさらわれる砂の感触と、やっぱり濡れたズボンの気持ち悪さとのすべてを感じた時、僕はやっと自分を自分だと見つめられた。
どれくらいの時間が経っただろう、いつの間にか太陽も傾いてきて、気づけば波の輝き方は橙色に、より暖かく世界を包むように変わっていた。
周りにはちらほらとルアーを持った釣り人たち。この時間帯はどうにも魚がよく当たるらしい。
「なぁ、そこの釣り人さん!僕ってさぁ、今、どんな服を着ているように見える?」
ふと、通りかかった若いキツネ顔の釣り人に尋ねると、彼女はのんびりと答えた。
「は、服ぅ?」
「えっと、普通の白Tとジーパンやけど………」
そのなんてことのない声を聞いて僕は笑った。
嬉しくって笑った。
そうか……………そうか、僕はスーツを着ては居ないのか。
「あは、あはは!」
波の中、可笑しそうに笑う変態を見て釣り人は怪訝な顔をした。大丈夫、理解されなくたって良い。これは、僕が分かっていれば良いことだ。
「えっと………お兄さん、大丈夫?熱中症たい?」
心配そうにこちらを見るお姉さんに「大丈夫です。」と笑って返す。しばらく黒岩さんというらしい釣り人さんと雑談。優しい子らしく、わざわざ足を拭くタオルまで貸してくれた。こうなってくると、大人としてちょっとくらいは礼を返すべきだろう。暑い中だからジュースとアイスを近くのコンビニに2人で買い出しに行くことになった。
「ふぃぃ、あっついあっつい。死んじゃうたい」
つい先程、訪れたばかりの海岸沿い店。クーラーガンガンの中、逃げるように2人で店内に飛び込み、汗を拭うこと数十分。
どうにも黒岩さんは食べ物のこととなると考えるタイプらしい。
飲料棚の前でむんむんとどれにしようか悩んでいる様子だった。
「お兄さんは、飲みもん何にした?」
ふと、問われたその質問。飲み物はさっさと決まったけれど、パピコか、ガリガリ君か、僕はまだアイスを決めかねていなかったので、片手間に手に持っていた籠を見せる。
「あぁ、僕はアクエリアスにしたよ」
「パッケージが好きだから」
浜辺で一気に書きました!日焼けがすごい!
感想くれ!
追記
いつも拙作を読んでいただきありがとうございます!
下らない作者の我が儘ですが、この度、夏に行われるコミックマーケット106に当選し、サークル「世界ヤンデレスキーの会」より「『別れよう』と上位存在の彼女に言うだけの短編集」という本を出すことが決まりました!やったぜ!
ここから8月まで練りに練ってよだれが出るようなぞっくぞくするヤンデレシチュを考えていく予定(知り合いの絵描きにヤンデレ絵も発注する予定)ですので是非宜しければ日曜日 南地区 “f”ブロック-25a(南2ホール)に足を運んでくださると幸いです!
怖いので10部(もう少し減るかも)しか刷らない予定なので悪しからず。うっひゃあ、楽しみ!!
ハーメルンでの次回作もなんか関連して書いていきます!遅れてすいません!