終末世界で最強になった。よし、自己犠牲のふりで美少女たちの脳を灼こう。 ~魔法に重い代償が伴う世界で、俺だけ魔法使い放題~ 作:大仙古墳
……なんか、心地いいな。
真っ暗だけど、身体を包むふかふかが――と。そこまでぼんやり思ったところで、俺の意識は急速に浮上していく。
ああ、俺眠ってたんだな。俺の部屋にはこんな質の良いベッドないから、違和感で目も覚めるってもんだ。
そんな悲しいことを考えていると、やがてうっすら開いた目から眩しい光が飛び込んできて……。
「エドガーくん……!」
「――うぇっ!?」
「目が覚めたんだね! 良かった……!」
ぐえ。目覚めに一発、美少女の頭突き。痛いけど、許す……。
なんてことを言っている場合じゃないわ。
……そうだ。俺は壁外演習で竜に襲われて、魔法でスノウさん助けようとしたらガス欠で意識を失って。
「よかった……ほんとによかった……! 私、エドガーくんがこのまま死んだらどうしようって……!」
顔を上げたスノウさんの目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちている。なんだろう、ただの魔力切れなのに、なんか気まずい。役得っちゃ役得だけど、申し訳なさが勝つわ……。
その後もしばらく抱きつかれたままスノウさんの嗚咽を聞く。
で、やっとスノウさん落ち着いてきたのを見て、俺は口を開いた。
「まあ、そんな気にしないでよ。俺元気だから。……それで、あの後ってどうなった? ここは?」
「……ぅん。気にしないのは、無理だけど……。でも、エドガーくんの命が助かっただけで奇跡なんだ、切り替えなきゃね」
ぱんっと頬を叩いて、泣き腫らした目で俺を見るスノウさんが言った。
「ここは、学園の中でも一部の生徒だけ利用できる特別治療室だよ」
「特別治療室?」
「うん。魔法の代償で倒れたエドガーくんを背負って、なんとか都市までは帰って来たんだけど。今回一番の功労者であるエドガーくんを、Cクラスだからって一般治療室に入れようとするものだから……ちょっと、怒ったらね」
そう、背筋がひんやりするような視線に変わったのは、いつでも可愛いスノウさんだ。今日も今日とて美人さんで、真っ白で絹のような髪が肩口で揺れている。
ただ、なんか表情が怖いんだよな……。薄く笑みは浮かべてるけど、目が笑ってないっていうか。まあ、その黒い感情が俺に向いてないことは分かるけど。
なんてことを思っていると、スノウさんの表情がまたすっと変わる。明らかに俺のことを心配してる顔。
スノウさんが口を開く。
「――そんなことよりも、エドガーくん。……身体と頭は……どう、かな」
なんだその質問。
スノウさんは俺に悲壮な顔を向けてくる。
で、俺の身体と頭だって……?
「身体の方は、ぜんぜん大丈夫。ほら、足も腕も元気に動く」
「あ……良かった……」
心底ほっとしたような顔するんだな。確かにスノウさん、前から優しくはあったけど、ここまで露骨じゃなかったよな。
まあ、いまはいいか……。
「あとは、頭な。何を心配してるのか知らないけど……こうやって普段通り話せてるんだから、まあ問題ないだろ」
「……」
何その意味深な沈黙。相変わらず悲壮感溢れる、どころか泣きそうな顔してるし。
「なんか、まずいことある感じ?」
「…………うん。ほんとうに……ごめんなさい」
え? それは何に対する――
「エドガーくんが使った魔法――その代償は……脳に起因する何らかの能力、あるいは記憶である可能性が高いって。身体には目立つ損傷が無かったから、きっと見えないところで代償を払ったんだって先生が」
あ、その話!? そういえばちゃんと言えてなかったっけ、俺は魔法使っても代償いらないって。
心配いらないって、ちゃんと教えてあげないと。
「そのことなんだけど――」
「――私が! すべての責任は、私がとる……! こういうケースでは、だいたい魔法士としての力を失うと、そう聞いてるけど……でも、何があっても今後のエドガーくんの人生は、私が面倒を見るから!」
「ええ!?」
なにそれ、求婚!? 言ってること、プロポーズと同じようなもんじゃん。今後ずっとスノウさんが養ってくれるってことだろ? 最高かよ。
……もうこれ、俺の力のこと黙っとこうかな。それで一生が保障されて、超絶美少女のスノウさんともずっと関わりを持てるとか。
俺、親もいないし貧乏だし。必死に働いて食い扶持稼ぐより、スノウさんにぶら下がってたほうが安泰じゃないか?
「……じゃあ、まあ。それでお願いできる? あ、全然贅沢言う気はないから。全然ほんと、せまーい部屋と飢えないだけの飯があれば、それだけで俺満足だから」
しごく真面目に、申し訳なさそうな顔でこくりと頷くスノウさん。
いやほんと、スノウさんの家からしたら小遣いくらいの額貰えればいいから。名家の跡取りを竜から守ったんだし、さすがにそんくらいの報酬は貰ってもいいよな。
そんなお気楽な考えだったんだけど……。
――スノウさんは、俺の低い望みのはるか上をぶち抜いてきた。
「じゃあ、今日から――」
その真っ白な肌に良く映える、青い瞳で俺を見つめて。うっすら頬っぺたを赤くしてるのが気になるけど……スノウさんは俺に言った。
「――エドガーくんには、私の家に来てもらう。……部屋は、私と一緒でいいよね」
なんで?
そうして。
しばらく医務室で検査を受けて、目立つ異常はないってことで。
「――ほんとうに、身体には異常なかったんだね。歩行機能も問題なさそうだし……」
「ああ、ぜーんぜん問題ない。スキップだってできちゃうぜ」
「ああっ、まだあんまり激しい動きは……!」
焦ったスノウさんに腕を掴まれる。……手、やらか!
「ほら……まったくもう。キミはまだまだ病み上がりなんだから、大人しくしておかないと。ね」
「うーん、了解」
なんか甘々すぎて怖いな……。俺に魔法を使わせた負い目からか、とんでもなく過保護になってる。
ぜんぜん今まで通りの、ちょっと素っ気ないくらいでいいんだけどな。なんか申し訳ない。
「でもさ、ほら。身体は見ての通り平気だし。あ、あと魔力だって普通に使えた」
手のひらからボッと魔力を放出する。何回か魔法でバフかけてたら、素の魔力量もけっこう増えたんだよな。
でも、この行動はさすがに俺の考慮が足らなかったみたいだ。
「――ッダメだ!! は、はやく止めて! ああ、でももう使っちゃったら……なんで、こんなところで!?」
前までの俺の魔力量と比べて明らかに多い魔力の放出は、どうもスノウさんにとっては地雷みたいだった。ここが学園の廊下だと忘れたような狼狽っぷりで、周りからもめっちゃ視線を向けられる。
いかんいかん、すぐ説明しないと。
「落ち着いてスノウさん。これ、別に魔法とか使ってないから! 魔力量増加の魔法使ったら、なんか何もしてないときでも魔力増えたみたいでさ」
「……そう、なの?」
「そうそう。だから俺、むしろ前までより強くなったんだぜ」
「それなら……。――――。……でも」
うん? 納得してくれたと思ったら。なんか、スノウさんの綺麗な目から光が消えたぞ。
「――エドガーくんは、もう魔法なんて使わなくていいからね。これ以上傷つかなくていいよう、ずうっと私の傍で…………なにもしなくても、私がお世話してあげるから」
ひえっ。今の言葉に、冗談の色なんてひとかけらもなかったんだけど。
いや、やっぱ冗談だよね?
どうもスノウさんの雰囲気が異様で、聞き返すこともできずに。
これまでと一変したその態度にも突っ込みは入れられず、俺はおとなしくスノウさんについて進むのであった。