終末世界で最強になった。よし、自己犠牲のふりで美少女たちの脳を灼こう。 ~魔法に重い代償が伴う世界で、俺だけ魔法使い放題~   作:大仙古墳

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4話 呼び出し

 

 そうして、俺がスノウさんちの子になって早一週間。

 

「――エドガーくん、エドガーくん。そろそろ起きて」

 

「んあ。……おはよう」

 

「うん、おはよう。じゃあ、私は朝ごはんを準備してもらうよう言ってくるね。エドガーくんは準備できたら来て」

 

「はーい」

 

 ぱたぱたと部屋を出ていくスノウさん。俺と違って、すでに学園の制服に着替えて、すぐ出られるくらいの状態だ。

 

 おんなじ部屋で生活してるのに、スノウさんの寝顔見たことないんだよな。ちゃんとしてるところ以外見られたくないらしいけど、だったら部屋別にしたらいいのに……。

 

 まあいいや、とにかく準備だな。服も水も、必要なものはぜんぶ用意されてるから楽ちんだ。

 

 美少女に甘やかされてどんどん堕落していくのを自覚しながら、手早く身だしなみを整え部屋を出た。

 

 いつも朝食を取る部屋まで向かって、メイドさんたちに頭を下げられながら席に着く。長いテーブルの正面にはスノウさんが座っている。

 

「今日は早かったね。二度寝しなかったんだ、えらいね」

 

「まあな! 同じ過ちは二度繰り返さない男だから」

 

「ふふ。そうなんだ」

 

 俺のちょっとふざけた返しにも、にこにこ笑顔が返ってくる。

 

 一緒に暮らし始めて、前よりずっと親しみやすくなったのはいいんだけどさ。なーんか全部肯定されるから、そのうち道を踏み外しちゃいそう。

 

 それに、相変わらずメイドさんたちからの視線が冷たい……。

 

「なー、この……朝ごはんも毎回メイドさんたち勢ぞろいなの、やっぱりどうにかならんの?」

 

「うーん……。別に私も、こんなに気を遣わなくていいと言ってるんだけどね。彼女たちも好きでやってるって。それと、エドガーくんのことはちゃんと伝えてあるから大丈夫」

 

 何が大丈夫? 俺の心は?

 

 このメイドたち、小癪なことにスノウさんの視線が逸れた隙に俺のこと睨んでくるんだよね。

 

 まあいいや。またスノウさんちに貢献する方法でも考えとこう。そしたら彼女らの視線も少しはマシになるだろ。

 

 それより、いま気になってるのは……。

 

「――やっぱり、昨日もスノウさんのお父さん帰ってこなかったな。まだ調査は難航してるって?」

 

「うん。……精霊捜索、やっぱりうまくいってないって」

 

 そう、スノウさんは神妙な顔で言った。

 

 精霊。昔は人を助けたりしてくれる存在だったらしいけど、いまは竜とコンビを組んで人類に敵対する種族だ。

 

 そんな物騒なもんをなんで捜索してるかっていうと。

 

 この間俺が倒した火竜――あれの片割れの精霊が近くにいたはずで、きっと今頃怒り狂ってるはずなんだと。でも姿を見せないから、都市は王選騎士まで動員して捜索を続けてるってわけ。

 

「やっぱここで暮らすからには、スノウさんのお父さんにも挨拶しとかないとな。ぶん殴られそうだけど」

 

「だ、大丈夫だよ! ちゃんと僕から説明もするし、命の恩人にそんなことはしないから」

 

「大事な一人娘と同じ部屋で寝てても?」

 

「……危なかったら、私が止めるから!」

 

 うーん、ベッド分けてるとはいえ、なんで一緒に寝てるんだって話だからな。そりゃお父さんも怒るわ。

 

 いや、俺は別々にしようと言ったんだけど、スノウさんが聞かないからなあ。なんか俺から目を離せないだとか、せっかくのチャンスだしとか、色々分からんこと言ってたけども。

 

 ……まあ、とにかく。どんな反応が返ってくるにしても、礼儀として家主に挨拶は必要だから、今の内から覚悟しとかないと。

 

 と、そんなことを言ってるうちに。

 

「もうあんま時間ないなー。さっさと食って学園行こうぜ」

 

「あ、ほんとだね。急がなきゃ」

 

 俺たちはテーブルに並んだ豪華な朝食を急いで詰め込む。学園の寮で食ってたのとは段違いで美味いけど、こんなもったいない食い方するようになるんだから、たった一週間の慣れって怖いなー。

 

 で、朝食を食べ終わった後は、メイドさんたちが用意してくれていた馬車に乗って学園に向かう。ほんと至れり尽くせりだな。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

「行ってきまーす」

 

「はい、お嬢様。今日もお気をつけて。エドガーくんもね」

 

 スノウさんちで数少ない、俺に温かい言葉をくれる人物が、この御者のおじさんだ。スノウさんちというか、その外も含めてかもしれないけど。

 

 あ、ほら。早速来たよ、俺に優しくないやつ。

 

「――おや? スノウさん、おはようございます。今日もお美しい」

 

「……おはようございます」

 

 学園の敷地に入ってすこし。目ざとくスノウさんを見つけて寄ってきたのは、こないだの壁外演習でも俺に絡んで来たマーリンだ。

 

 こいつ、前からちょくちょくスノウさんに近づいてくるんだよなあ。いまみたいに、足も止められず冷たくあしらわれるだけなのに。

 

 で、会話も弾まず気まずい空気が流れて、歩き去ろうとする俺たちに追いすがるマーリンが次に何をするかというと――

 

「……っああ! お前もいたんだな、エドガー。何の勘違いか、幸運にもスノウさんのおこぼれにあずかったクソ虫め」

 

「はいはい、おこぼれクソ虫でーす」

 

「チッ。プライドのひとつもないのか? やはりお前のような劣等がスノウさんの傍にいること自体――」

 

 うん? なんだ急に黙って。お得意の舌鋒は……って、ひえっ!

 

 固まったマーリンの視線のその先――マーリンに向いたスノウさんの顔は、いつもの表情から程遠く――

 

「――ついてこないでくれるかな、セルビアさん」

 

「あ……はい……」

 

 セルビアさんて、マーリンの家名か。あんま聞かないから忘れてた。

 

「さ、行こうよエドガーくん。遅刻しちゃう」

 

「おー、そうだなー。……じゃ、またなマーリン」

 

 俺を急かすスノウさんの表情は、マーリンに向けられた鬼の形相とは違う、柔らかな笑顔だった。さっきみたいな顔のスノウさん初めて見たけど、向けられたマーリンはいったいどれだけビビってるか……って。

 

 マーリン、何か俺のことめっちゃ睨んでるし。絶対逆恨みされてるじゃん。

 

 ……ま、劣等性の俺はマーリンともクラス違うし、演習の授業でもなければ会うこともないだろ。

 

 なんて、そんなことを考えながらそれぞれの教室に向かって別れた俺たちだったんだが。

 

 なかなか先生が教室にやってこず、俺たちCクラスの生徒たちが少しざわついている。そんな中、大人しく席に着く俺に掛けられる甘い声。

 

「おはよぉ、エド」

 

「お? メリーか、おはよう」

 

 俺の視線の先には、小柄でかわいらしい雰囲気の少女が一人。肩口で揺れるふんわりした髪を見ながら、俺は何の気なしに言った。

 

「なんか用?」

 

「……なに? 用がなくっちゃ話しかけちゃダメなの?」

 

「いや、んなことないけど」

 

 なんかちょっとじめっとした視線。最近……というか、壁外演習以降ちょっとおかしいんだよな、メリーのやつ。

 

 良く分からんから、とりあえずこっちから雑談振ってやるか。

 

「なんか全然授業始まんないんだけどさ。メリー、なんか聞いてない?」

 

「なんにも聞いてないよ。委員長だからって、先生からなんでもかんでも聞いてるわけじゃないんだからさ」

 

「ふーん。じゃあ、なんだろな……」

 

 そうして、すこしの沈黙。話途切れたのに立ち去らないから、なんか気まずい。

 

 なんて思ってると。

 

 メリーがどこか意を決したような表情で。ごくりと唾をのみ、そして口を開いた。

 

「エドって……いま、スノウさんと同じ家に住んでるって、本当……?」

 

「なんだ、ずいぶん気合入れて聞いてくると思ったらそんなことか。――ほんとだよ、ほんと。ほら、こないだの演習で俺とスノウさん竜に襲われたじゃん。で、スノウさんを助けて竜を倒したら、恩返しの一環で生活の面倒見てくれるって」

 

 「俺まじで貧乏だったから助かったわ!」なんて、明るく言ってみせたら。

 

 暗い目をしたメリーは、うつむきがちに言ったのだ。

 

「……そんなの。言ってくれたら、わたしだって……」

 

「え? それってどういう……」

 

 どういうことだと、聞き返そうとしたその時だった。

 

 ――学園全体に、通信魔法による声が響く。

 

「――本日、全校で授業を中止とします。繰り返します。本日、全校ので授業は中止です」

 

 授業が中止? それも、全校で?

 

 うちのクラスも、その隣も。放送にざわつく声が響く。生徒たちは家や寮に帰るよう指示される。理由の説明もなしに。

 

 ただ。まだ放送は終わってない。俺たちは続く言葉を待って――

 

「――ただし、今から読み上げる生徒は、これよりすぐに装備を整え、屋外の訓練場に集合するように。――」

 

 読み上げられていく名前。

 

 そして、俺とメリーは「えっ」と声を上げる。

 

 ――俺たちふたりとも……どうも、みんなと違って家には帰れないみたいだ。

 

 

 

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