終末世界で最強になった。よし、自己犠牲のふりで美少女たちの脳を灼こう。 ~魔法に重い代償が伴う世界で、俺だけ魔法使い放題~ 作:大仙古墳
――相変わらず、威圧感あるなー。
いま、俺の目の前にあるのは大きな建造物。つい一週間前にも潜ったばかりの、壁外に通じる巨大な門だ。
まさかこんなにすぐここへ戻って来るとは。あのときよりめちゃくちゃ空気悪いけど……。
俺は周囲へ視線を向ける。
門の前にずらっと並ぶのは、学園の生徒だけで編成された特別学生隊とやらだ。先生ひとりが引率で、学園でも成績の良い者ばかりが集められてる。
俺の知ってるとこで言うと、スノウさんやメリー、それにマーリンなんかもいる。
ただ……ほんと、とんでもなく空気悪いんだよなあ。
まず、基本的に前の演習で竜に襲われたことがあって、隊のほぼ全員がビビってる。それに、この中で一番影響力のあるスノウさんがずっとトゲトゲしてるんだよ。
俺が隊に選ばれたことをめちゃくちゃ抗議してて、それが通らないと分かったらずっとこうだよ。いまも俺の隣に張り付いて、全方位寄せ付けないオーラ出してる。
あと、メリーがその逆隣りに立ってスノウさんとにらみ合ってんだけど、これはなんで? こいつ最近ジメジメしてて調子狂う……。
――そして、そんな中で。
唯一いつもと変わらない、もはや心のオアシスもいる。空気読まない傲慢仕切り屋のマーリンくんである。
うーん、前途多難だ……。
「エドガーくん。なにかあれば、すぐに私に言って。魔法はもう、絶対使わないと約束して――」
「エドはわたしの後ろに隠れてていいからさ。わたしが一番エドと分かり合ってるんだから、二人で連携すればいいよぉ」
「おい、エドガー! お前がこの誉れある特別学生隊に選ばれたことは納得いかないが……俺たちの足を引っ張ったら許さんぞ!」
カオスだ。
あ、先生が帰ってきた。門衛の兵と喋ってたみたいだけど、話は終わったみたいだな。
そうして、先生の号令を以って。
俺たちは先週に引き続き、この危険な都市の外へと足を踏み出したのだった。
テクテクと、隊列を組んで進む俺たち。指揮官は先生で、その補佐がマーリンだ。
「おい、エドガー! ボケっとしてないで、周囲を良く警戒しろよ!」
「ええ? してるじゃん」
「黙れ! そんな……不埒な陣形で、お遊び気分なのが見え見えなんだよ!」
指揮をとるマーリンは隊列の中央にいるけど、俺もスノウさんの強権で安全中央にいるから、マーリンのすぐ傍なんだよなあ。うるさいやつが目と鼻の先にいてちょっと鬱陶しい。
で、「不埒な」とか言った瞬間にマーリンが見たのは、俺を挟んでるスノウさんとメリーときた。
たしかに美少女二人に挟まれてハッピーだけど……別に俺が言ってこうなったわけじゃないから! 不埒なのどっちかというとスノウさんとメリーだろ。
経験上、これ以上言い返したら余計にうるさくなるから黙ってるけどさあ……。
「――第一、俺はお前が選ばれたこと自体に納得がいっていない。なんでこの栄えある隊に、お前のような劣等の落ちこぼれが……」
「セルビアさん。その発言は、作戦行動に必要?」
「ぇ、あ……いや……。すみません、スノウさん……」
やーい、怒られてやんの! こいつ学習しないなあ、今朝同じようなこと言われたばっかじゃん。
あ、やべ。にやにやしてたらマーリンにバレた。ちょっと視線遮って、メリー……。
「もう。しょうがないなぁ、エドは。ほんとバカなんだからぁ」
なぜそんなニッコニコ。あ、こら、スノウさんと揉めないで。
……ちょっと君ら、さすがに緊張感なさすぎじゃないか? 見ろよみんなを! 全員悲壮感に染まった顔で索敵してるぞ!
「――お前たち! ここがどこだか忘れていやしないだろうな! 気を引き締めろ」
ああ、ほら。先生もキレたよ。マーリンとスノウに気を遣いまくってる先生だけど、相変わらずそれ以外の生徒には強気だ。今回で言ったら、俺とメリーに対してな。
「じき、先遣隊の消息が途絶えた地点へ到着する。我々は接敵する可能性が非常に高いんだ。何が起きてもすぐ対応できるよう心構えをしておけ。――特に。精霊を見つけたら、その時はすぐに私に知らせるんだ。都市で待つ本隊へ連絡する」
ゴリラ顔の先生がそう言うと、隊にピリッとした空気が走る。
うーん。何度聞いても酷い作戦だよな。
だって考えてもみろ。先遣隊――つまり本職の軍人たちがすでに精霊探索に来て、ろくな情報も残さず姿を消したんだ。
いくら優秀ったって、俺たち所詮学生だからなあ。先生は元軍人のバリバリ武闘派って聞いたけど、一人だけだし。
はぁ、何度聞いても俺たちは捨て駒にしか思えん。俺以外もそう思ってるから、こんな空気なんだろ。
「スノウさんはなんでこんな隊が作られたと思う? ……いなくなった先遣隊、お父さんもいたんだろ?」
「うん……。私が言うのもなんだけど、父はほんとに強いからね。私が五人いたって勝てないかもしれない。そんなレベルの先遣隊が何の情報も残さずに消えたのなら、正直私たちで何かできるとは思えない。精霊に遭遇して都市に連絡したって、増援が来る前に壊滅する可能性の方が高いよ」
だよなあ。確かに魔物と戦える人材が少ない今、学生が戦場に駆り出されることはけっこうあるけど、こんなあからさまな負け戦めったにないぞ。
学生と言っても貴重な戦力。まさか、無駄死にさせるために送り込まれるとは思えんけど……。
「……うーん。これからはここぞという時に力を見せようかと思ってたけど。しゃあない。――スノウさんもメリーも。何かあったらすぐ俺んとこに――」
「ちょっと待って、エド! 何か来たみたい……! 先生の指示を!」
「――総員構え! 精霊ではないが……魔物が向かって来る!」
おお、やっとか。ここに来るまで全然なんにもなかったもんな。精霊じゃないなら、この人数と戦力で心配はいらないだろうし、みんなの緊張をほぐすのにいいんじゃないか。
なんて他人事のように考えていると、腰からきざったらしく長剣を抜いたマーリンが、副指揮官として言った。
「――目標は二時の方向から向かってくる! 数は三で種類は……幸いなことに、ただの獣型だ! 四足の小型!」
お、肩慣らしにはちょうどいいな。さあ、みんな存分に準備運動してくれ。
なんて思ってたら。
「――エドガー!」
「……うおっ。びっくりした。なんだマーリン?」
「お前がやれ」
「ええ? 俺?」
なんで俺だよ。隊列の意味は?
「この中で一番よわいのはお前だ。本命の前に無駄な消耗は避けるべきだろ? なんだ、こんな簡単なこともできないのか?」
「えー? まあ別にいいけどさあ……。あっ、抑えて抑えて、スノウさん」
「――セルビア、あいつ……」
スノウさんキャラ崩壊しかけてるって。……って、メリーもかよ。
いいよもう、やるよ。あれくらいなら魔法もいらない。なんか急成長した素の魔力だけで十分。
じゃあ、隊列抜け出して、と……。
「あれ。ついてくるのか」
「もちろん。……もう、エドガーくんに無茶はさせない」
「エドはわたしがいないとダメじゃん。昔っからそうだよねぇ」
変わらず俺の両隣りを陣取る二人。マーリンも困惑してるわ。
「あ、あの、スノウさん。俺はエドガーに戦うよう命じたのであって、スノウさんには待っててもらえると……」
「――うるさいな。いい加減、私のすることに口を出すな」
「え……」
「文句があるなら、私がその地位を代わろうか? 成績で選ばれるというなら、私の方がふさわしいはず。それが嫌なら……黙って見ていればいい」
スノウさんもさすがに堪忍袋の緒が切れた感じだな……。
真正面から叩き潰されたマーリンには同情するけど、正直スカッとした。それに、俺のことそこまで気遣ってくれるのは純粋に嬉しい。
「ありがとなー、スノウさん」
「ううん。私が好きでやってることだから。……もう、エドガーくんをあんな目には合わせない」
ちょっと過保護すぎるけど、美少女に大事にされて悪い気はしないよな。スノウさんはダメ男製造機な気がする。
さらに。
「……エドのことは、わたしの方が分かってるんだから」
ちょっと曇った表情で、それでも俺の隣にぴったりくっついて離れないメリー。スノウさんに仄暗い視線を向けている。
――目がキマってる白髪美少女と、じっとり暗黒面に堕ちかけてる小動物系美少女。
うーん、魔物倒しに行く面子にしては心配が勝る。まあヤバそうなら俺が何とかすればいいか。
もう魔物も近くまで迫ってきてるし。とにかく、戦闘準備っと。