終末世界で最強になった。よし、自己犠牲のふりで美少女たちの脳を灼こう。 ~魔法に重い代償が伴う世界で、俺だけ魔法使い放題~   作:大仙古墳

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8話 精霊の要求

 

 キン、と。

 

 澄んだ音が鳴って、巨大な氷山が二つに割れた。

 

 我ながら上手くできたもんだな。二つに増えた氷塊も、ちょうど隊のみんなを避けて左右に落ちてくし。

 

 さてさて、みんなの反応はどうかな。

 

「――お、お、おま……! こ、これ夢ッ!? じゃない!?」

 

「マーリンが俺の一番近くにいるもんな。お前の反応が最初に聞こえるのは道理だった」

 

 なんか面白い顔で、落ちていく氷塊と俺を交互に見てる。あはは、壊れたおもちゃみたいだな。

 

 ……おわっ。二つに割ったとはいえまだかなりデカいから、とんでもない衝撃。

 

「――うわああああぁあぁぁっ!」

 

 ちょっと遅れて後ろから悲鳴が上がる。

 

 え? だれも当たってないよな? 一応確認……。

 

「エドガー、くん……! ま、魔法は……! まさか、使ってないよねぇッ――!?」

 

「スノウさんさすがの反応。……使ってないぞ!!」

 

 嘘だけど。言わなきゃバレんだろ。

 

 それにしても。こうして美少女が一切の余裕を失くして俺のことを想ってくれる……うーん中々。

 

 一緒に暮らし始めてからのスノウさんを見てると、なんかこれまで自覚してなかった俺の癖が見えてきたよな。趣味悪いとは思うけど……ま、行動だけ見たら善行だしいいだろ。

 

 お。メリーも中々に良い反応を。

 

「――これ、エドが……? ……これ、ほんとに、エド――?」

 

 絶句してるし、それにその台詞。ずっと身近にいたはずの俺が、急に自分の知らない存在になったみたいな……そんな感じ?

 

 ……さて。一通り気になるところは見れたし、他のやつらが驚いてる声はシャットアウトしてと。

 

「それで、精霊サン。待ってくれてたみたいだけどもういいぜー」

 

「――べつに、ニンゲン風情に気を遣ったつもりはありませんが。ただ、すこし驚いていただけです。まさか今の一撃を防がれるとはと」

 

「なかなかやるだろ。それに、これで分かっただろ? お前が探してる仇がいったい誰なのか」

 

 ひい、おっかない。恨みの炎が燃え盛ってる感じの目だな。

 

 こっちはただ自分の身を守っただけなんだから、身勝手な話だけど。

 

 ただまあ、人類の敵にそんなこと言っても仕方なし。勝てるかわからんけど頑張ってみるか。

 

 ついでに、一番いいタイミングでスノウさんたちに魔法見せつけてやろ。

 

 ……なんて、やる気満々だった俺に。

 

 精霊は美人特有のキツイ視線を向けて、ただでさえデカい魔力をさらに高める、一触即発の空気の中で。

 

 唐突に……精霊が、目を見開いた。

 

「――ニンゲン、お前ッ……? それは……!」

 

「え?」

 

「その、存在核の位階……! いったいどうやって――!」

 

 存在核? 位階? ちょっと何のことを言ってるのか……あ! もしかしてあれか?

 

 つい数週間前、俺がこの魔法使いたい放題体質になった時の……。

 

 しかしこれ、なんと返したもんかな。あんまり他のやつらに知られたくないことだし……。

 

 いっそ問答無用でこっちから飛び掛かってやろうか。

 

 なんて、そんなことを考えていたその時だった。

 

 精霊は驚きのあと、難しいことを考え込むように眉根を寄せて。そして、少しの間を置いて口を開いた。

 

「――そうですね…………それなら。……今日のところは、やめておくしかないようですね」

 

「は? やめるって……いいのか? 俺はお前の片割れの仇なんだぞ?」

 

「よくはありませんが、仕方がない。我も勝手に動くことができない理由ができました」

 

 ……。理由、とな。

 

 ちょっとは想像できるけど、火竜の仇を見逃すことができるほどのことなんてな。今もこの精霊、俺のこと祟り殺すとでも言うような目つきしてるし。

 

 でも、まあ。俺もまだ力を鍛え切れてないし、日を改めていいならこっちとしても助かる。

 

 ただ気になるのは――

 

「じゃあ、俺たちを素直に返してくれるのはいいとして。――その前に。俺たちより先にここへ来たはずの軍人、彼らがどうなったのかを教えてくれよ」

 

 先遣隊はきっとこいつにやられたはず。先生がこいつからの連絡を受け取れてる時点で、この精霊が先遣隊の装備を使ったのは明白だし。

 

 スノウさんのお父さんもいた先遣隊がどうなったのか。スノウさんも気にしてるだろうし、さすがにそれを聞かずには帰れん。

 

「ああ……あのニンゲンどもなら、我が領域で生け捕りにしていますよ。人質なので返すことはできませんし、姿を見せるつもりもないですが」

 

「俺を一回見逃すんだからそうだろな。……で、この後どうするつもりだよ。今すぐ解散ってわけじゃないんだろ?」

 

「ええ、もちろん。まだ、言っておかねばならないことがあります。――そこの、指揮をっ取っていたニンゲン。そう、お前です」

 

 まさか名指しされると思ってなかった先生が、慌てて返事した。

 

「な、なんだ!? よく分からないが、今日はもう終わりなのだろう!?」

 

「ええ、残念ながら。ただその前に、お前にはやってもらわねばならないことがあります」

 

「お、俺? いったいなにを……」

 

「簡単なことです。そこな我が半身の仇。その者が為したことと、今回の我とのやり取りを――都市に帰って、大衆へ広く周知しなさい」

 

「は……?」

 

 先生は頭にはてなが浮かんでるけど……くそ、そういうことか。陰湿なやつめ。精霊のくせにそういうやり方するのかよ。

 

「細かい内容は任せます。竜殺しが精霊の恩赦を受けて帰還したでも、恨みを買って都市に厄介ごとを持ち込んだでも。好きなように」

 

 そう、精霊が言った途端。

 

「――それじゃ、エドガーくんの立場がッ……! 都市から爪はじきにされちゃうじゃないか!」

 

 そうだな。スノウさんの言う通り。

 

 そして、それがこの精霊の狙いってわけだ。

 

 ……でもまあ、考えようによっては悪くもない。俺は都市でしばらく訓練積む時間得るんだから、改めてこの精霊を倒して名誉を挽回したらいいし。

 

 それになにより。今のスノウさんの反応を見るに、俺がどうなっても見捨てられることはなさそうだし!

 

 じゃ、いいじゃんそれで。ほら先生、はよ頷いて。

 

「わ、分かった。お前の言う通りにしよう。……しかし、その後はどうすれば? お前が捕まえた先遣隊の者たちは?」

 

「また折を見てこちらから連絡します。捕えたニンゲンどもも殺しはしないと約束しましょう」

 

「……分かった。……では、我々はもう去っていいのだな?」

 

 頷く精霊。

 

 あ、スノウさんが凄い顔で先生に……。

 

「先生、まさかエドガーくんを売るんですか!?」

 

「……止むを得まい。それに、君の御父上の命も掛かっているんだ。ここは受け入れるべきだ」

 

「でも!」

 

 食い下がってくれるのは嬉しいけど、これは精霊側の譲歩だと思うんだよな。ここはおとなしく帰ったほうが、と。

 

 そう言おうと思って口を開いたけど、その直後そばのマーリンに台詞を奪われた。

 

「スノウさん、ここは先生の言う通りにしましょう……! この男が竜を殺したとかいう……眉唾な話を広めるだけで穏便に都市へ帰れるんですから!」

 

「――このッ。気安く、私の名前を呼ぶな……! エドガーくんに助けてもらっておいてその言い草ッ……!」

 

 いやスノウさん、こいつたぶん分かってないよ精霊の狙い。ダメだ、ちょっと面白い。

 

 ……とにかく。今回の話、スノウさんにはなんとか飲み込んでもらおう。

 

「スノウさん! 俺は大丈夫だから!」

 

「大丈夫なわけ……!」

 

「ここでみんな死んじゃうよりマシだからさ!」

 

「でも! それじゃエドガーくんがぁ……!!」

 

 顔を歪めて必死に主張してくれるスノウさん。美少女にここまで想ってもらえて男冥利に尽きるけど。

 

 それでも、今回は。

 

 

 

 ――そうして。

 

 スノウさんは最後まで納得できなかったみたいだけど。

 

 俺やマーリン、先生と、並みいる面々に説得されて、結局は精霊の指示に頷いてくれた。

 

 ああ、あとはメリー。あいつも精霊の言うことはだいぶ引っかかってたみたいだけど、表立っては反対せず受け入れてるようだったな。物言いたげな視線はずっと向けられてたけど。

 

 まあ、なにはともあれ。俺たちはこうして都市への道を引き返して、無事に危険な壁外の旅を終えることができた。

 

 俺にとっては、帰ってからがまた大変かもだけど……。

 

 でも。引き続きスノウさんに面倒見てもらって、俺のことで頭一杯なスノウさんを近くで見れるんなら。

 

 ま、それも悪くはないんじゃないかな!

 

 

 

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