終末世界で最強になった。よし、自己犠牲のふりで美少女たちの脳を灼こう。 ~魔法に重い代償が伴う世界で、俺だけ魔法使い放題~ 作:大仙古墳
キン、と。
澄んだ音が鳴って、巨大な氷山が二つに割れた。
我ながら上手くできたもんだな。二つに増えた氷塊も、ちょうど隊のみんなを避けて左右に落ちてくし。
さてさて、みんなの反応はどうかな。
「――お、お、おま……! こ、これ夢ッ!? じゃない!?」
「マーリンが俺の一番近くにいるもんな。お前の反応が最初に聞こえるのは道理だった」
なんか面白い顔で、落ちていく氷塊と俺を交互に見てる。あはは、壊れたおもちゃみたいだな。
……おわっ。二つに割ったとはいえまだかなりデカいから、とんでもない衝撃。
「――うわああああぁあぁぁっ!」
ちょっと遅れて後ろから悲鳴が上がる。
え? だれも当たってないよな? 一応確認……。
「エドガー、くん……! ま、魔法は……! まさか、使ってないよねぇッ――!?」
「スノウさんさすがの反応。……使ってないぞ!!」
嘘だけど。言わなきゃバレんだろ。
それにしても。こうして美少女が一切の余裕を失くして俺のことを想ってくれる……うーん中々。
一緒に暮らし始めてからのスノウさんを見てると、なんかこれまで自覚してなかった俺の癖が見えてきたよな。趣味悪いとは思うけど……ま、行動だけ見たら善行だしいいだろ。
お。メリーも中々に良い反応を。
「――これ、エドが……? ……これ、ほんとに、エド――?」
絶句してるし、それにその台詞。ずっと身近にいたはずの俺が、急に自分の知らない存在になったみたいな……そんな感じ?
……さて。一通り気になるところは見れたし、他のやつらが驚いてる声はシャットアウトしてと。
「それで、精霊サン。待ってくれてたみたいだけどもういいぜー」
「――べつに、ニンゲン風情に気を遣ったつもりはありませんが。ただ、すこし驚いていただけです。まさか今の一撃を防がれるとはと」
「なかなかやるだろ。それに、これで分かっただろ? お前が探してる仇がいったい誰なのか」
ひい、おっかない。恨みの炎が燃え盛ってる感じの目だな。
こっちはただ自分の身を守っただけなんだから、身勝手な話だけど。
ただまあ、人類の敵にそんなこと言っても仕方なし。勝てるかわからんけど頑張ってみるか。
ついでに、一番いいタイミングでスノウさんたちに魔法見せつけてやろ。
……なんて、やる気満々だった俺に。
精霊は美人特有のキツイ視線を向けて、ただでさえデカい魔力をさらに高める、一触即発の空気の中で。
唐突に……精霊が、目を見開いた。
「――ニンゲン、お前ッ……? それは……!」
「え?」
「その、存在核の位階……! いったいどうやって――!」
存在核? 位階? ちょっと何のことを言ってるのか……あ! もしかしてあれか?
つい数週間前、俺がこの魔法使いたい放題体質になった時の……。
しかしこれ、なんと返したもんかな。あんまり他のやつらに知られたくないことだし……。
いっそ問答無用でこっちから飛び掛かってやろうか。
なんて、そんなことを考えていたその時だった。
精霊は驚きのあと、難しいことを考え込むように眉根を寄せて。そして、少しの間を置いて口を開いた。
「――そうですね…………それなら。……今日のところは、やめておくしかないようですね」
「は? やめるって……いいのか? 俺はお前の片割れの仇なんだぞ?」
「よくはありませんが、仕方がない。我も勝手に動くことができない理由ができました」
……。理由、とな。
ちょっとは想像できるけど、火竜の仇を見逃すことができるほどのことなんてな。今もこの精霊、俺のこと祟り殺すとでも言うような目つきしてるし。
でも、まあ。俺もまだ力を鍛え切れてないし、日を改めていいならこっちとしても助かる。
ただ気になるのは――
「じゃあ、俺たちを素直に返してくれるのはいいとして。――その前に。俺たちより先にここへ来たはずの軍人、彼らがどうなったのかを教えてくれよ」
先遣隊はきっとこいつにやられたはず。先生がこいつからの連絡を受け取れてる時点で、この精霊が先遣隊の装備を使ったのは明白だし。
スノウさんのお父さんもいた先遣隊がどうなったのか。スノウさんも気にしてるだろうし、さすがにそれを聞かずには帰れん。
「ああ……あのニンゲンどもなら、我が領域で生け捕りにしていますよ。人質なので返すことはできませんし、姿を見せるつもりもないですが」
「俺を一回見逃すんだからそうだろな。……で、この後どうするつもりだよ。今すぐ解散ってわけじゃないんだろ?」
「ええ、もちろん。まだ、言っておかねばならないことがあります。――そこの、指揮をっ取っていたニンゲン。そう、お前です」
まさか名指しされると思ってなかった先生が、慌てて返事した。
「な、なんだ!? よく分からないが、今日はもう終わりなのだろう!?」
「ええ、残念ながら。ただその前に、お前にはやってもらわねばならないことがあります」
「お、俺? いったいなにを……」
「簡単なことです。そこな我が半身の仇。その者が為したことと、今回の我とのやり取りを――都市に帰って、大衆へ広く周知しなさい」
「は……?」
先生は頭にはてなが浮かんでるけど……くそ、そういうことか。陰湿なやつめ。精霊のくせにそういうやり方するのかよ。
「細かい内容は任せます。竜殺しが精霊の恩赦を受けて帰還したでも、恨みを買って都市に厄介ごとを持ち込んだでも。好きなように」
そう、精霊が言った途端。
「――それじゃ、エドガーくんの立場がッ……! 都市から爪はじきにされちゃうじゃないか!」
そうだな。スノウさんの言う通り。
そして、それがこの精霊の狙いってわけだ。
……でもまあ、考えようによっては悪くもない。俺は都市でしばらく訓練積む時間得るんだから、改めてこの精霊を倒して名誉を挽回したらいいし。
それになにより。今のスノウさんの反応を見るに、俺がどうなっても見捨てられることはなさそうだし!
じゃ、いいじゃんそれで。ほら先生、はよ頷いて。
「わ、分かった。お前の言う通りにしよう。……しかし、その後はどうすれば? お前が捕まえた先遣隊の者たちは?」
「また折を見てこちらから連絡します。捕えたニンゲンどもも殺しはしないと約束しましょう」
「……分かった。……では、我々はもう去っていいのだな?」
頷く精霊。
あ、スノウさんが凄い顔で先生に……。
「先生、まさかエドガーくんを売るんですか!?」
「……止むを得まい。それに、君の御父上の命も掛かっているんだ。ここは受け入れるべきだ」
「でも!」
食い下がってくれるのは嬉しいけど、これは精霊側の譲歩だと思うんだよな。ここはおとなしく帰ったほうが、と。
そう言おうと思って口を開いたけど、その直後そばのマーリンに台詞を奪われた。
「スノウさん、ここは先生の言う通りにしましょう……! この男が竜を殺したとかいう……眉唾な話を広めるだけで穏便に都市へ帰れるんですから!」
「――このッ。気安く、私の名前を呼ぶな……! エドガーくんに助けてもらっておいてその言い草ッ……!」
いやスノウさん、こいつたぶん分かってないよ精霊の狙い。ダメだ、ちょっと面白い。
……とにかく。今回の話、スノウさんにはなんとか飲み込んでもらおう。
「スノウさん! 俺は大丈夫だから!」
「大丈夫なわけ……!」
「ここでみんな死んじゃうよりマシだからさ!」
「でも! それじゃエドガーくんがぁ……!!」
顔を歪めて必死に主張してくれるスノウさん。美少女にここまで想ってもらえて男冥利に尽きるけど。
それでも、今回は。
――そうして。
スノウさんは最後まで納得できなかったみたいだけど。
俺やマーリン、先生と、並みいる面々に説得されて、結局は精霊の指示に頷いてくれた。
ああ、あとはメリー。あいつも精霊の言うことはだいぶ引っかかってたみたいだけど、表立っては反対せず受け入れてるようだったな。物言いたげな視線はずっと向けられてたけど。
まあ、なにはともあれ。俺たちはこうして都市への道を引き返して、無事に危険な壁外の旅を終えることができた。
俺にとっては、帰ってからがまた大変かもだけど……。
でも。引き続きスノウさんに面倒見てもらって、俺のことで頭一杯なスノウさんを近くで見れるんなら。
ま、それも悪くはないんじゃないかな!