チートで雑な召喚士もどき(TS済)の長い旅路―なお原作知らず― 作:葛城
第10話: ちなみに、力づくで騙そうとする話もある
喪黒福造なる謎のサラリーマンは、その見た目通り何もかもが怪しかった。
口調が怪しい、服装が怪しい、態度が怪しい、笑い方が怪しい、纏う空気が怪しい。
もはや、怪しくないところが怪しく思えるぐらいに何もかもが怪しい。いちおう、換金ショップを探していると言えば、「お~ほっほっほっほ」と怪しく笑ってから教えてくれたけど。
信用してよい相手ではない……というのが、正直な感想である。
当然ながら、私は彼の話に耳を貸すつもりはなかった。セールスマンを名乗るだから、なにかしらの商品を私に売りつけたいはずだ。
ならば……足を止めて拒否するのは駄目だ。
とにかく会話させてしまった時点で、向こうのテリトリーに飛び込むも同じ事。
既に遅いんじゃねと言われたらそれまでだが、今ならまだ間に合うと思った私は、お礼を述べてから、その場を後に──。
「お~ほっほっほ。実は、ショップの近くに贔屓にしている美味しい蕎麦屋があるのですが。天ぷらもまた絶品ですよ」
「ほう?」
「どうです、ご一緒に。あそこは一見さんお断りでして、私と一緒ならば顔パスで入れますよぉ」
「ほうほう……」
「もちろん、料金などは取りません、御縁の始まりを祝して、ここは私に奢らせてください」
「ほうほうほう……」
「今の季節ならば、ハモの天ぷらがまた格別ですよ。揚げたてのハモをつまみに、きゅうっと一杯やりませんかぁ?」
「ほうほうほうほう……ま、まあ、そこまでおっしゃるのであれば、断るのも失礼というものですね」
「お~ほっほっほ……では、行きましょうかねぇ」
──しようと思ったけど、この人はもしかしたら良い人かもしれない。
口調が怪しい、服装が怪しい、態度が怪しい、笑い方が怪しい、纏う空気が怪しい。
でも、ここまで何もかもが怪し過ぎると、一周回って怪しくない人かもしれない。あと、美味しいお店に連れて行ってくれるし。
そう、確信を得た私は……天ぷらに合わせるのにビールが良いか、冷酒が良いか、その事を真剣に考えながら……喪黒さんの後に続くのであった。
……。
……。
…………そうして、まず案内してくれた換金ショップだが、どうも店主と喪黒さんは知り合いなようで。
相場よりも少しばかり色を付けて引き取ってくれた。とりあえず、何もしなくても3,4か月ぐらいはホテルを借りて生活できるぐらいの金額になった。
セールスマンと名乗るだけあって、顔が広いのだろうか?
まあ、美味しいお店を知っているし、一見さんではないのだから、只者でないのは既に確定している。そんな気がしていたんだ、そんな気配をしていたし。
だいたい、奢ってくれる良い人を悪く言うのは、あまりよろしくない事である。
それから、案内してくれた蕎麦屋『魔の蕎麦』にて、おススメということで天ぷら蕎麦セットと地ビールを頼んだわけだが……これがまあ、美味かった。
いや、誇張とかお世辞抜きで、マジで美味い。奢ってもらえるから、余計に美味い。
蕎麦が絶品ならそばつゆも絶品で、文句なしで一番美味い蕎麦と断言できるぐらいに美味く、思わず蕎麦を5杯も追加してもらったぐらいに美味かった。
それでいて、天ぷらも絶品である。
チェーン店とは格が違う。いや、というか、比べる事すらおこがましいレベルだ。
本当に美味い天ぷらとはコレだと叩きつけられたかのような感覚で、思わず『この天ぷらを揚げたのは誰だぁ!? (賛美)』したくなったぐらいに美味かった。
そして、それらをさらに彩るのが酒だ。
覚えのない銘柄(主要メーカー品しか知らないけど)だが、この天ぷらと蕎麦に合わせて作られたかのように、実に合う。
いや、むしろ、酒に合わせて天ぷらと蕎麦を……いや、逆で……いやいや、やはり天ぷらと蕎麦に……とにかく、文句の付け所がなかった。
なにせ、最後の〆でもある味噌汁すらも絶品だったのだから……これに文句を付けられるやつが居るのだろうか……いや、居ないだろう。
「有り難いけど、ここも奢ってくれるの?」
「お~ほっほっほ、御気になさらず。私としても、見事な食いっぷりに胸がスカッとしましたから」
「そういうものなの?」
「そういうものです。私ぐらいの歳になりますと、お嬢さんのようにガツガツしっかり食べる姿を見るだけでも、パワーを貰えた気持ちになりますからねぇ」
「ふ~ん」
「お~ほっほっほ」
そんな感じで満足ゆくまで堪能した私は、そのまま流れで喪黒さんが行きつけにしているという『Bar魔の巣』へと案内され、そこの酒もまた、美味かった。
『Bar魔の巣』は、喪黒さんが行きつけにしているだけあって、なんともモダンな雰囲気を残しながらも、静かで暖かみのある空気に満ちていた。
バーテンダーも分かっているようで、最低限の会話以外は一切喋らず、丁寧な手つきでグラスを拭いていた。
酒にうるさいわけではないし、無くてもぜんぜん構わないのだけど、こうやって雰囲気から作ってくれる店で飲む酒は、好きな法であった。
……さて、と。
「それで、喪黒さん。ここまでしてくれた理由って、いったいなんですか?」
改めて、私は喪黒さんに尋ねた。
いくら気前が良いとはいえ、限度がある。
以前からの顔見知りならともかく、私と喪黒さんは顔を合わせてから数時間の中だ。
肉体交渉を対価にしているわけでもないし、私が喪黒さんの娘にそっくり……という感じでもない。
何かしらの下心があって奢ってくれていると思うのは自然な事であり、こういう場ならいいかげん話し出すだろう……と、思ったわけである。
「おっほっほっ。特に理由などありませんよ。強いて挙げるなら、私は人々のココロのスキマを埋めて、笑顔を見るのが大好きでして」
「ふむ」
「お嬢さんのように、困っている人をお助けする……それこそが私の喜びであり、生きがいなのです。お金の問題ではありませんよぉ」
「ふ~ん……」
嘘は言っていない。
『ライブラ』で調べた限り、不自然な点は見当たらない。怪しいという認識は変わらないが、今すぐ距離を取るべき……という感じにも思えない。
ただ、警戒を怠るべきではない……という、己の勘がナニカを訴えていたので、とりあえず名前は名乗らず、『お嬢と呼ぶように』とは言ってある。
「──ところで、お嬢さんはお食事の時に『自分は旅人である』と仰っていましたが……今日みたいにお金が必要になって換金ショップを捜し歩く……といった事は、よくあるのですか?」
「よくある……と言えば、よくあるかな?」
言われてみて、むしろ毎回そうかも……と、私はちょっと考える。
世界を移動して最初に考えることは、そこが安全かどうかではない。今の私に安全でない場所なんて片手の指に収まるぐらいだ。
問題になるのは、その世界で流通しているお金を所持していない事だ。
当然ながら、同じ通貨が流通している可能性は極めて低い。
同じ日本っぽい感じでも、硬貨によ~く目を凝らしてみると、『100』と刻まれたソレが『百』になっていたり、『日本銀行』という文字が『にほん銀行』になっていたり……ほとんどの場合微妙な差異がある。
なので、世界を移動するたび、その世界の通貨を得る必要があるわけだ。
力を使って複製するのは可能だが、いちおうそれは偽札になってしまうわけだし……売るモノがまったく無くなってしまったならともかく、売れるモノがあるうちは……と、いうわけである。
「──そんな貴女に、これをプレゼントしましょう」
喪黒さんは、そう言うと一枚のカードをスッと差し出した。
それは一般的なポイントカード等と同じサイズで、表には……なんだろう、喪黒さんの口っぽいマークが描かれており、裏面には何もなかった。
「それはお金持ち、つまりセレブ御用達のカードです。それ一枚で、全世界のあらゆる買い物時の決済を済ませることができます」
「へえ、それで?」
「私たち庶民とは違い、セレブの人達は現金を持っていない事が多いのです。それは一度に使うお金が桁違いであり、それら全てを現金で済ませるとなると、アタッシュケースにたっぷり札束を詰め込んで持ち運びをしなければなりません」
「なるほど……」
「しかし、それはあまりに不用心。また、セレブたちのビジネスにおいて、即断即決はたいへん重要で、現金にていちいち枚数を確認していたら成立するはずの商談も成立しなくなるでしょう」
「ふむ、それで?」
「また、商売において、使用される通貨が違うというのはよくあること。外国との取引の際には、両替の手間暇も考慮しなければなりませぇん」
そこまで言われて、私はオヤッと軽く目を瞬かせ……なるほど、と1人静かに納得した。
換金の時、蕎麦屋に行った時、Barに行った時、途中の街並みや人々の恰好などを見ていたが、どうやらこの世界の日本ではまだ、クレジットカード以外での電子決済というのが無いらしい。
思い返せば、スマートフォンはおろか、携帯電話すら片手にしている人は皆無であったし、公衆電話の数がとても多かった。
(クレジットカードはあるだろうけど、使っていない人は多い……そんな感じなのかな?)
1人一台スマートフォン時代ならともかく、公衆電話が主流の時代なら、人によっては夢のようなカード……に、思えるかもしれない。
「そこで使われるのが、このカードです。このカードは、そういった煩わしい決済を全てこれ一枚で担うことができます」
「ほうほう」
「しかも、このカードは特別製でして……なんと、買い物を行った時のお支払いは、10000分の1。つまり、1万円の商品を1円で買うことができるのです」
「え?」
「その場合の返済は、毎月1円で良いのです。100万円の物を買っても毎月100円お支払いをすれば良いのです。利子だって付きません」
「ええ……」
「もちろん、後先考えずに高級品ばかりに手を出したら大変な事にはなるでしょう」
ですがぁ──にちゃぁ、と喪黒さんは笑みを浮かべた。
「これまでどおりの暮らしで困った時に使う程度ならば、これはとても暮らしを良くするカードなのです」
そして、それを聞いた私は……思わず、心の中で叫んだ。
──それって、リボ払いやないかい!? っと。
もう、完全にリボ払いである。善意の皮を被った悪魔のお支払方法……叫び倒さなかっただけマシだと私は思った。
いや、まあ、しかし、だ。
リボ払いというのは、基本的にクレジットカードとセットだ。言い換えたら、クレジットカードがそこまで普及していない時代なら、画期的に見えるだろう。
それに、元金の10000分の1の支払いというのは、異常過ぎるぐらいに破格だ。言葉を変えると、1万円の商品を10000回払いで支払うようなものだ。
普通に考えて、そんな取引が成立するわけがない。住宅ローンですら、400回前後が平均である。
どんな商品でも10000回払いに出来るうえに利子も付かないとか、下手したら死なれて逃げ切られる可能性が──ああ、なるほど。
そこまで考えた辺りで、私は納得した。
この人の狙いは、そこだ。
たしかに、一見するだけだと、このカードはあまりに破格過ぎる。毎月100万円使ったとしても、返す金額は一年で1200円にしかならない。
しかし、だからこそ、そこに落とし穴がある。
というのも、人の欲望には限りが……いや、正確にはブレーキが利かなくなるというか、我慢が出来なくなる。
普通の人ならば、予算を考える。
今月は○○円使ったから、ちょっと節約しても○○円まで、これを使うと困る、これを買ったら当分は我慢……といった感じで、様々な形で心理的なブレーキが掛かる。
しかし、一度タガを外してしまった者は、そうならない。
買えない、手に入らない、手元にない、その状況にとてつもないストレスを覚えるようになり、徐々に金を使うことに抵抗感が薄れてゆく。
ソレの価値や理由など二の次。
何時しか、買えるのが当たり前であり、買わない事を損と認識するようになってしまえば……後はもう、坂を転がり落ちるのと同じだ。
(なるほど……最初は日常品の買い物に使って、徐々に使うことに抵抗感を失くし……それから嗜好品、高級品へと心理的にシフト……う~ん、なんとも悪魔的な……)
──とりあえず、これは受け取らないのが吉だな。
そう結論を出した私は、「御厚意は嬉しいのですが……」断ろうとカードを喪黒さんに──その時であった。
「──いえ、貴女は受け取るのです」
ズイッと、喪黒さんの太い指が私の眼前へと迫り……ビシッと指で差された。
「別に怖がる事は無いのです。身の丈に合わない買い物をしなければ、このカードは貴女の暮らしを良くしてくれます」
「いや、だから──」
「毎日毎日我慢し続ける必要なんてありません。たまには自分を労わるご褒美、その程度で抑えておけば何も問題はないのです」
「だから、人の話を──」
その瞬間であった。
── ド ー ン !!! ──
喪黒さんの指先より、ナニカが放たれた。
それは目で認識出来る類のものではなく、光は私の意識を真っ白に染め上げ──その後にはもう、私の意識にはこのカードが刷り込まれていた。
気付けば、私は外の……人通りのない通り道にて座り込んでいた。どこを見ても、私が先ほどまで居た『Bar魔の巣』は影も形もなかった。
それから、立ち上がった私は……ぼんやりとした頭で、既に予約されているホテルへと向かう。
予約したのは喪黒さんだ。目的は分からないが、監視されているのは感じ取れた。
でも、私はそれに気付かない。いや、気付けない状態でありながら、その事に疑問を抱かないような状態にされていた
(……こういう時、『マルチタスク』が役に立つなあ)
それを、分割した思考の中で冷静に観察していた私は、喪黒さんの『ドーン!』によって意識誘導されている私の様子を伺う。
この『マルチタスク』というのは、とある世界にて会得した技術であり、別の世界では分割思考とも呼ばれていたりする。
内容はそう複雑なものではなく、思考を分割し並列処理するというもの。
一つのコアを複数に分けて使用するようなものなので、極端に頭が良くなるという類のモノではない。
しかし、今回のように思考誘導を行うナニカを行われた際、分割している方の思考はその影響を受けないので、即座に対応できるという強みがある。
で、話を戻して今の私だが……驚いたことに、今の私にすら影響を及ぼせる意識誘導が行われたようだ。
ぶっちゃけてしまえば、分割されていた先ほどまでの私はもう洗脳されてしまっている……というわけで。
良いか悪いかは別として、けっこう凄い事なので、私は素直かつ本当に驚いていた。
(……しかし、喪黒さんは人が破滅する姿を見たいのだろうか? いや、それにしては回りくどいというか……う~ん)
破滅させるにしても、妙に時間が掛かり過ぎるというか……まあ、いいか。
無事な思考を前面に出して、洗脳されている方は引っ込ませて……他の思考にて洗脳解除を並列して行う。
私が知る魔法やスキルとも系統が違うっぽいので、解除に時間が掛かるだろうが……まあ、やるしかない。
(カードは……本当に何もしないでおくと疑われそうだけど、いずれこの世界から出て行くわけだし……次に接触してくるまで待ってみるか)
とりあえず、しばらく様子見しよう。
そう、結論を出したのであった。
……ちなみに、喪黒さんが手配してくれていたホテル、けっこう良いホテルで、私が泊まろうとしていたホテルより2段階ぐらい上だった事を、報告しておく。
……。
……。
…………で、まあ、それから三ヶ月ぐらい経ったわけだが。
(……洗脳されている思考の動き、ヤバすぎィ!?)
率直な感想を言わせてもらうならば、ソレであった。
いや、もう、言葉にはできないぐらいにヤバい。ナチュラルに思考が誘導されていて、しかもその事に気付けない。
なんというか、無意識に理性のタガが本当に外れやすくなっている状態で、まだ、治せていない。
しかも、おそらくそれだけではない。
喪黒さんが裏で手を回しているのかもしれないが、とにかく都合よく欲望を刺激される場面に遭遇する頻度が極めて高い。
たとえば、デパートに入れば『今日一日だけ! 限定3本ロマネコンティ販売』という感じで、1本50万円のワインが売られていたり。
たとえば、何気なく和食店に入れば、『只今より、マグロの解体ショー始まりますよ!』といった感じで、目の前で大トロが並べられたり。
たとえば、何気なくバイク屋の横を通れば、世界に数台しかないバイクが展示されていて、『本日のみ展示! 購入相談OK!』という看板が置かれていたり。
たとえば、たとえば、たとえば。
とにかく、そういう意味での遭遇が明らかに高い。
まるで、通り道に合わせて狙って設置され続けているかのようで。
相当に理性を高く保っていないか、あるいは、膨れ上がる欲望を押さえ付けられるだけの高潔な心が無ければ……それぐらいに、コレは性質が悪い。
仮に、マルチタスクを習得していなかったら……今頃私は片っ端から高級品やら何やらを買い漁り、毎月数十万、数百万の支払いが発生していただろう。
なにせ、その時点でも理性のタガは完全に破壊され、欲しいモノが得られない事にとんでもないストレスを覚えてしょうがない状態になっているから。
『異空間』にはまだまだ換金できるモノがあるので、そうなっても支払いは可能だが……私が普通の一般人だったら、その時点で破産である。
しかも、破産とは言っても、ただの破産ではない。
このカードは、そこらの金融機関のカードではない。明らかに超常的な力を用いて作られた、喪黒さんが用意したカードの破産である。
間違いなく、その際に起こるペナルティは、普通のペナルティではない。
いったい、どのようなペナルティなのか……想像するだけでもゲンナリしてきた私は、今日も『片っ端から買い占めろ、全部私のモノだ!』と訴え続ける思考を黙らせながら、割引シールが張られている惣菜を吟味している──その時であった。
「おーほっほっほ、こんばんは、お嬢さん。お久しぶりですねぇ」
──以前の時と同じく、一切の気配を感じさせないまま私の背後より姿を見せた。
相変わらず、怪しさを具現化したかのような風貌と雰囲気だ。飯を奢ってくれた人なので悪口を言う気はないが、もう少し服装を変えた方が良いのではないだろうか。
「どうです、あのカードの使い心地は?」
「そうですね、喪黒さんの御厚意は有り難かったのですが、まだ使ってはいません」
「ほぉ? どうしてですか? お気に召しませんでしたか?」
不思議そうに首を傾げる(表情変わってないけど)喪黒さんに、私は首を横に振った。
「私は旅人だから」
「ほぉ、前もそうおっしゃっていましたね」
「うん、結果的に踏み倒しちゃうことになるかもだしね。そういう事はしたくないんだ」
私はそう言って、喪黒さんにカードを返した。
「なるほど、これは失敬。どうやら、私の勇み足だったようですね……申し訳ありませんねぇ」
対して、喪黒さんも、今回は強引な事はせず、素直に受け取ってくれた。
その際、おーほっほっほっほ……相変わらずの特徴的な笑い方をする喪黒さんに、私は苦笑いをした。
「──では、これはせめてものお詫びです」
でも、その苦笑いが、さらに深まるのは、さすがに予想外過ぎた。
「え、いや、いらない──」
「いえいえ、是非とも受け取ってください」
「いや、だから、返却もお返しも嫌だし踏み倒しになるのも嫌だから──」
「いえいえ、御気になさらず。これは旅人である貴女へのお詫びですので、返却もお返しも必要ありません」
── ド ー ン !!! ──
喪黒さんの指先より、ナニカが放たれた。
避ける間も無かった。その事に私が驚くよりも早く、狂わされていた私の洗脳が解除され、全ての分割思考が正常になった──のを自覚すると同時に。
それでは、良き旅を
喪黒さんがハンカチを振って送り出しているのを見た私は、別次元へと……己が飛ばされていくのを感じていた。
……。
……。
…………そうして、ハッと我に変えた私は……改めて、周囲を見やった。
景色は、普通だ。普通の、住宅街だ。
SFチックなアレでもないし、ファンタジー的なアレでもないし、タイムスリップ的なアレでもないし、文明崩壊後の砂漠が広がっているわけでもない。
取り付けられている看板や通行人の恰好からして、おそらく今回も日本。それも、いわゆる『現代』に分類される時代と見て良いだろう。
「喪黒さん、私は貴方を信じていましたよ!」
日本というだけで、基本的に高評価な私。別に外国でも良いのだけど、銃社会は色々と面倒臭いと言うか……まあ、とにかく、だ。
──また、換金ショップを探さなきゃ。
そう思った私は、親切そうな通行人を探しつつ、当てもなく歩き出し──っと、その時であった。
ビリビリ、と。
大気が震えた。それは衝撃波であり、比較的近い場所で爆発が起こったかのような──いや、起こっていた。
さ迷わせていた視線を向ければ、住宅街の向こうに黒煙が見える。少し遅れて、遠くの方からサイレンが……かなり、大きな事故のようだ。
……さすがに、死者を助けるつもりはない。ただ、不自然にならない程度には助けよう。
そう判断した私は、とりあえずは事故が起こった場所へと向かった──で、まあ、想像していたとおり、現場は悲惨な状況であった。
場所はビジネスビルで、ガラスも外壁も壊れている。がれきが飛び散り、火災も起こっている。
命からがら逃げだしてきた者の中には、無傷な者もいれば、大怪我を負って遠目にも分かるぐらい出血している者もいる。
中には、明らかに即死しているっぽい人や、生きてはいるけど致命傷を負っていて助からない……そんな者たちが続々と運び出されている。
周囲には救出のための人達が必死の形相で動いており、そんな者たちから離れたところでは、野次馬がゾロゾロ集まっていた。
(ああ……思っていたより酷いな。どうしようか、下手に助けて騒動になっても嫌だし……ん?)
その野次馬の内の1人になっていた私だが、ふと、違和感に気付く。
それは、続々と運び出されてきた負傷者が並べられた広場。
そこには医者らしき人物が集まっているが……その中で、遠目でも明らかに不自然な人物がいた。
髪は長めの金髪で、女性。目の色は透き通った
私の目の錯覚でなければ、腕が6本あるように見える。コスプレかと思ったが、腕の動きからして、本物だ。
あと、なんかその女の傍にいる女性……なんか、身体から触手っぽいものを出して、その中から金髪女性がナニカを取り出して……え、なにアレ?
(なんで、周りの人たちは気に留めないんだ? もしかして、その程度では驚かれない世界なのか?)
なんとも奇妙な光景に、私はこのまま野次馬を続けるべきか、それとも念のため離れるべきか……迷っていたら。
再び、爆発。ビルの一部が内部より弾けて、大きながれきが金髪女性の頭上へと──なので、指パッチン。
がれきは空中にて真っ二つになり、女性たちを避けて何も無い場所へと落ちた。
弾けたがれきに当たってちょっと怪我をした野次馬が居たけど、野次馬が悪いので私は気にしな──あん?
『──革命に栄光あれ!』
──なんか、私のすぐ隣より、変な事を叫んだやつがそう言ってスイッチのようなモノを押し──
…………。
……。
……。
……。
……。
…………あ~、なるほど、自爆テロ。
展開が早過ぎて、油断していた。
最低限のガードをしていた私だが、さすがに超至近距離からの自爆は防ぎきれなかったようで、ハッと我に返った時にはもう、首から下の感覚がなかった。
ちょいと『異空間』より取り出した鏡で見てみれば……そりゃあ、感覚が無いわけだ、物理的に存在していないのだから。
(う~ん……次からは、もう少し気を付けよう)
とりあえず、この程度ならばすぐにでも再生できるし、二度目三度目の自爆テロに巻き込まれるのは嫌だ。
超特急で首から下の再生を行いつつ、まずはこの場を離れようと『レビテト』にてフワリと身体(首だけ)を浮かした私は、フヨフヨと宙を──が、しかし。
「──ちょっと待って、そこの人!」
どうやら、天は私を放っておいてはくれないようだ。
振り返れば、先ほどまで他の人を処置していた金髪の……やはり本物である6本の腕を器用に動かしていた女性は、なにやらマスク越しでも分かるぐらいに興奮した様子で私の下へと近付いてきた。
「貴女、その身体でどうやって生命維持をしているの!? 見たところ大脳含めて無事なのが頭部しかないのに、どうやって細胞組織を維持しているの!? そもそも、どういう力学で──」
矢継ぎ早に次々質問されても答えられな──あれ、なんかこの人、顔に手術後みたいなツギハギが……いや、そうじゃない。
そう、腕が6本の医者(おそらくは、だが)と、首しかない空中浮遊女って、どんな組み合わせだろうか。
さっさと逃げ出そうか──と思っていると、「ふらん!」今度は金髪女性……『ふらん』という名前らしいが、その知り合いっぽい藍色っぽい髪色をした女性が駆け寄って来た。
「ヴェロニカ、聞いてよ! この人、栄養的な補給も無しに信じられない速度で細胞を──」
「ふらん、そういうのは後にして! さっきの爆発と、他にも飛んできたがれきで治療中の人達みんな潰されちゃったから、もう無理よ!」
「あ、そう? なら、使えそうな臓器があれば回収しましょう──そうだ、ねえ、貴女の血液のサンプルが──」
「もう、とにかく今回は諦めて! さすがに爆発までは私でも防げないから!」
そして始まる、よく分からない喧嘩。
なんだろう、地獄絵図な状況と光景なのに、この2人の周りだけギャグみたいな空気が……うん、まあ、うん。
次から次に、勘弁してほしい。
そう思った私は、悪くない。
喪黒福造さん、最初と最後でけっこう性格がマイルドになっている説
初期の喪黒鬼畜すぎ、後期の喪黒は教訓系な感じ
次回、フランケン・ふらん 編
フランケン・ふらんは、グロ要素多めのコメディ漫画なので検索する人は注意やで