チートで雑な召喚士もどき(TS済)の長い旅路―なお原作知らず―   作:葛城

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第12話: 肌に合わないんだよねえ……

 

 

 

 とりあえず、血液は手術前と手術後の2回提供ということになった。

 

 

 痛み止めを始めとして、使用する薬によっては体質が変わる(成分に変化が出る?)かもしれないので、2回もらえたら……とのことだった。

 

 特に断る理由もなかったので、承諾した。

 

 そうして、1回目の採血を行った(妙に頬を紅潮させているふらんが気持ち悪かった)後で、改めて行われた私の手術だが──結果を先に語るなら、成功はした。

 

 まず、私の見た目の問題だが、どうやらタコやイカが持つ色細胞を元に改良して作られた特殊な細胞を移植された。

 

 

 ふらん曰く、『人の見た目は肌の色だけでも相当に印象を変える』ということらしい。

 

 

 たしかに、肌の色は印象に大きく左右される。

 

 日焼けしている者は健康的に見られる事が多いし、逆に色白の者は病弱に見られる事が多い。

 

 肌の焼け方一つ取っても、どのような仕事に従事しているのか、あるいはどのような事をしていたのか、そういった副次的な情報をも与える。

 

 あまり知られていないが、白人や黒人もちゃんと日焼けする。ただ、日本人のイメージする日焼けとは少し違うだけ。

 

 白人だって日常的に日に当たる場所で働いていたらちょっとずつ小麦色になっていく(アジア人ほど顕著ではないが)し、黒人だって同じである。

 

 で、話を戻すが、ふらんに移植された『特殊細胞』のおかげで、文字通り、私の肌は意志一つで色を自在に変えられるようになった。

 

 

 ……だけで、終わらず。

 

 

 どうも、『ふらん』というマッドなドクターは、善意で余計な要素を継ぎ足す人だったようで、どうやら変化させられるのは色だけでなく、物理的な変化の他にも質感をも含まれていた。

 

 つまり、私は肌年齢を0歳のスベスベな感じにすることもできれば、どこを触っても皺が引っ掛かってカサツキがみられる100歳な感じにもできるようになっていた。

 

 試しに鏡の前で実践してみれば、これがまあ分かりやすい。

 

 背丈や体格からして大人には見られないまでも、中学生~高校生ぐらいに見られる私の見た目が、一瞬で小学生にしか見えない感じになっていた。

 

 有り体に言えば、若く……というより、幼く見られるようになった。

 

 理由はまあ、言うまでもなく肌年齢を5歳以下にしたからだ。人の印象というのは本当に些細な部分で変わり、手の皺だけでも変化するぐらいには……で、変化はそれだけではない。

 

 

「おお、おお、おお……」

 

 

 出来るかなと思って試してみたら、あっさりできた。

 

 ファンタジー的な作品に触れた少年少女ならば、一度は想像したことがある身体的特徴……人間とは明らかに異なる、大きく横に伸びた長い耳。

 

 

 ──そう、いわゆる、エルフ耳というやつだ。

 

 

 作品によってはけっこう設定が変わるけど、とにかく、魔法的な誤魔化しではなく、ちゃんと肉体的にその姿を取れたことに、私は思わず歓声をあげた。

 

 別に、エルフというモノに憧れがあるわけではない。

 

 ただ、己がまだ無垢だった頃の、淡い憧れ。思っていた形ではないにしても、こんなところで叶うとは……長生き(?)してみるものである。

 

 

「……? あれ? なんか細胞の増殖速度が想定より速過ぎるような……?」

「あいつ、普通じゃねえし、反応も違うんじゃね?」

「そうかな……でも、なんで耳を尖らせたの?」

「漫画とかアニメとかだと、耳の尖ったキャラクターはお約束じゃん?」

「でも、見た目だけの耳だよ? 別に感覚器官が拡張されたわけじゃないから、むしろ邪魔にしかならない……」

「ふらん、こういうのは浪漫なんだ、現実的に考えるものじゃないよ」

「そういうものかな?」

 

 

 なにやら、手術を施したふらんと人面猫の沖田さんがコソコソ話し合っているが……機嫌が良かった私は、聞こえないフリをした。

 

 

 ……ちなみに、だ。

 

 

 ふらんが疑問を呈していた、『細胞の増殖速度が速過ぎる』という部分だが、この理由について、私は既に把握できていた。

 

 結論から言えば、私の中にある『グルメ細胞』が関係している。

 

 『グルメ細胞』というのは、とある世界にて得た力の一つであり、美味い物を食べれば食べるほど活性化してとんでもないパワーを発揮するという細胞だ。

 

 しかし、この細胞の真価はそこではなく……あらゆる環境に適応する、万能性にある。

 

 どうやら、私の中にある『グルメ細胞』はふらんが用意した『特殊細胞』を食って、その能力を得ただけでなく、さらにパワーアップさせたようだ。

 

 だから、ふらんが把握している以上の増殖速度が出るし、ふらんの想定以上に鮮やかに能力を発揮した……というわけだ。

 

 いちおう、念のためにどこまで変えられるのか……巨人とかになれるかと、ふらんに尋ねてみたら、『それは難しい』との返答がなされた。

 

 理由は、『特殊細胞』にはそこまでの力は無いとのこと。

 

 耳の先端といった、最悪消失しても生死に影響はない末端部位ならともかく、生命維持に関わる部位の変化は『特殊細胞』では賄いきれない……というものだった。

 

 まあ、冷静に考えたら、当たり前だろう。

 

 仮に『背を伸ばそう』と思ったならば、必要となるのは細胞だけでなく、骨や筋肉や神経や血管に免疫……神経伝達をコントロールする脳の方まで考慮して調整する必要がある。

 

 あくまでも『特殊細胞』は見た目を変えるのが主目的で、耳を伸ばすといった部分はおまけ程度、車に例えるならアクセルをベタ踏み状態なので負担が大きい。

 

 下手に酷使すると細胞が壊死してしまうので、日々の入念な維持(ケア)が大事……という話であった。

 

 

「──そ、それじゃあ、満足ですね!? じゃ、じゃあ、さっそく血液のサンプルをば……!!!!」

「はいはい、逃げたりしないから。そこまで興奮されると逆に怖いよ」

 

 

 さて、要望通りにしてもらった以上は、ちゃんと対価を支払うのがスジなので、素直に腕を差し出したわけだが。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!!!」

「……沖田さん、ちょっとこの子なんとかしてくれない? なんか勃起させながら近付いてくる変質者みたいで気持ち悪いんだけど……」

 

 

 相変わらず反応が気持ち悪過ぎるので、思わずヴェロニカや沖田さんに助けを求めたわけだが。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………誰も彼もが気まずそうに視線を逸らし、1人としてふらんを止めようとはしなかったあたり……ふらんの性格が垣間見えた気がした。

 

 なお、注射は1.2を争うぐらいに上手であり、針を刺す時も、血を抜く時も、針を抜く時も、まったく痛みが無かったあたり……止めよう、うん。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………それから、ふらんの館を離れて、私はしばらくブラブラと日常を過ごしていた。

 

 

 とはいえ、数日に一回は私の血液を悪用されていないか様子を見に行くが……酷いと言われるかもしれないが、相手はマッドだ、警戒して警戒し過ぎることはない。

 

 この世界が、この世界の者たちの手で滅茶苦茶になるのなら構わないが、私の血液が原因でそうなってしまったら、さすがに目覚めが悪いにも程があるし。

 

 まあ、それを抜きにしても、この世界は悪い世界ではないから、ちょっとは手を貸すかもしれない。

 

 うん、この世界は、当初のインパクトこそ酷かったが、それ以外の部分は平和というか、おおよそ私の知る現代とそこまで違いはないから、余計に。

 

 強いて挙げるなら、時々グロテスクなクリーチャーが現れたり、なんかテロっぽい活動が起きたりといったぐらいだが、おおむね平和である。

 

 いや、まあ、色々と異論があるとは思うけど、本当にその程度で済んでいる国というか世界って、ランキングで表したら上半分に属しているから。

 

 ランキング下半分……底に近くなると、もうアレだ。

 

 誇張抜きで、『騙される方が悪い、殺される方が悪い、奪われる方が悪い』という世界で、自分の行いは棚に上げて他者の行いを徹底的に責めたてるぐらいなら優しい……なんてのが常識だったりする。

 

 それに比べたら、多少なりクリーチャーが出現しようが、なんかよく分からん理由で変なテロを起こされようが、私としてはもう平和なのである。

 

 だいたい、前の前の世界なんて『超神』ならぬ、ちん○怪獣が世界を滅ぼそうとしていた世界なのだし……ねえ? 

 

 なので、ブラブラ滞在する分にはちょうど良く、飯も私が知る現代基準なので、そりゃあもう、ダラダラ具合にも磨きが掛かるというものだ。

 

 

 ……ちなみに、だ。

 

 

 なんで、ふらんの館に滞在しなかったのかって、それはふらんの館は……外観は古めかしくも高級そうな洋館なのだが、内部が……ねえ。

 

 この際だからハッキリ言うが、普通に気色悪い。

 

 なんというか、直視すると飯が不味くなりそうなモンスター系の者が普通に歩いているし、なんならバラバラになった臓物とかが保管されていて視界に入る事だってある。

 

 ていうか、なんか客が来ると普通に手術が始まる。

 

 ふらん達はもう慣れ過ぎているというか、朝食に出てくるトーストぐらいありふれた光景なのかもしれないが、私としては御免こうむるとしか言い様がない。

 

 何が悲しくて、朝から消毒液の臭いやら鮮血の臭いやら臓腑の臭いを感じなければならないのか……さすがに、そんな場所で飯を食うのは嫌である。

 

 それに、問題はそこだけではない。

 

 それが普通の治療手術ならまだ良いのだが、たまに改造……うん、コンプレックスを直すために手術を受けに来る者がいるから、なんかこう……うん。

 

 

(なんかこう、グロテスク過ぎて気持ち悪い姿になっても、なんかあっけらかんとしているんだよなあ、この世界の人たち……)

 

 

 正直、悪い世界ではない……という評価を下してはいるが、私としては、この世界にそこまで愛着を覚えてはいなかった。

 

 そりゃあ、次の世界がどうなっているかが分からないので、いわゆる『食い溜め』の意味もあってダラダラ過ごしているが……なんだろう、こう、肌に合わないというやつだ。

 

 私が言えた義理ではないが、この世界の人達は、どうも己の身体に対する執着が薄いように思えてならない。

 

 美容整形どころか、ファッション感覚で眼球を新たに移植したり、顔をモンスターのように整形したり、手足を増やしたり……ちょっと、趣味が合わない。

 

 遺伝子整形ならぬ、遺伝子改良生物を使って殺し合いの遊びをして、それを子供が拍手喝采で楽しんでいるぐらいで……うん、やっぱり合わないな。

 

 

(とりあえず、先日で私の血液サンプルは全部使い切ったっていうし、次にふらんの様子を見に行った時に変なモノがなければ、次に向かうか……)

 

 

 そう結論を出した私は、本日10名様限定の『モンブランセット』を前にニッコリ笑いつつ、それでは……フォークをプスッとモンブランケーキに刺した。

 

 

 ──瞬間、モンブランケーキが私の前から消えた。

 

 

 いや、正確には、ナニカが私のモンブランケーキ……というか、ケーキ皿を乗せていたテーブルにぶつかり、私のケーキはそのナニカに押し潰されるようにして地面を滑って──ああ、うん。

 

 私のケーキを押し潰したのは、見知らぬ女だ。

 

 なにやら、ふらんのようにツギハギがチラホラ見られるが、まあ、それはいい。明らかに、外部の力によって飛ばされ、その着地地点がテーブルの上だっただけ。

 

 問題は、この女を飛ばしてきたやつだ。

 

 女の体重がどれほどのkgかは知らないが、人ひとりを跳ね飛ばすとなれば、そのエネルギーは相当なモノだ。

 

 少なくとも、眼前のテーブルをぶっ壊した時、女は斜め上から飛んできた。となれば、常人の力では不可能だし、車であれば、その前に私が接近に気付く──っと、その時であった。

 

 

「──おお、まさかオリジナルがこんな場所に居るとふぁ──」

 

 

 女が飛んできた方角。その先より、なにやら興奮気味に姿を見せた白衣の男……まあ、どうでもいい。

 

 指パッチンで、真っ二つにしてやる。悲鳴一つ上げる間もなく、男は絶命した。

 

 なにやら、肉体を改造して銃弾ではビクともしないようだが、その程度で私の指パッチンを防げるわけが……お? 

 

 と、思っていたら、真っ二つになった男の後方より、なんか気色悪いクリーチャーが飛び出して──きたので、それも指パッチンで真っ二つ。

 

 

(あ、こいつしぶといな)

 

 

 でも、それだけでは死ななかったので、連続指パッチン。

 

 傍目にはステップを踏みながら指パッチンをする、洒落乙な都会派女子に見えること間違いなしである。

 

 そのおかげで、なんか気色悪い姿をしたクリーチャーも、全身を72個に断たれたらさすがに絶命した。

 

 念入りに急所を狙って断ち切ったから、これで生きていたら、ちょっと『死の線』を断ち切る必要がでてくるので、これで済んでホッと一安心である。

 

 ちなみに、周りの人達は既に逃げ出している。でも、野次馬がチラホラ居て、スプラッターな亡骸を前にしても驚くだけで……こういうところが、どうも合わないのだろう。

 

 ……で、だ。

 

 視線を再び戻せば、先ほどまで倒れていた女(茶髪だ)はもう立ち上がっていて……おおう、ブラも付けずジャケットを羽織るだけとな。

 

 上は下着無しのジャケットだけ、下はジーンズ。一瞬、『痴女かな?』と思った私は悪くないだろう。

 

 とにかく、なんとも刺激的な恰好をしたその女は、ひどく苛立った様子で当たりを見回し……スプラッター状態にある亡骸を見て、ギョッと目を見開いて……ふと、私を見た。

 

 

「──やんの?」

 

 

 瞬間、直感的に、彼女から威嚇されたのを察知した私は、同様に威嚇し返した。

 

 もちろん、本気ではない。私が本気を出して威嚇したら、英雄の種族だって立ち止まるぐらいだし……まあ、そのせいで。

 

 

「それで、私のケーキを台無しにした貴女の名前は?」

「……が、ガブリール」

 

 

 顔中から冷や汗を、今にも崩れ落ちそうなぐらいに足を震わせながらも、懸命に気絶せずに堪えているのを見て、私は威嚇を解いた。

 

 その直後、ガブリールと名乗った女はぺたんと尻餅をついた……のを見計らっていたかのように、ふらんたちがフラッと姿を見せた。

 

 言っておくが、ギャグではない。

 

 本当に、フラッと姿を見せて、「が、ガブリール!?」なにやら驚いた様子で……いや、知り合いかよ。

 

 色々な意味でヤル気を失う私を尻目に、なにやらふらんとガブリールが話し合い……それから、私は改めて話を聞くと、だ。

 

 まず、ガブリールはふらんの同類というか、姉妹らしい。

 

 先ほどの男は、とあるマッドな人らしく、様々な生物の遺伝子などを研究している凄腕らしく、世界的にも名が知られる有名人らしい。

 

 それで、私が先ほど殺したクリーチャーは、その男が作り出し合最高傑作らしく、たまたま殺人依頼を受けていたガブリールが返り討ちにされてしまうほどの生物だったのだとか。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 ここからが本題なのだが、どうもその最高傑作とやらは、偶然手に入れた『とある肉片』を元に作りだした、生物兵器らしく。

 

 ガブリールへ暗殺の依頼が成されたのも、どうやらその生物兵器の危険性を別の組織が察知したらしく、完成する前に……とのことだったらしく。

 

 結果、ガブリールが事を成す前に生物兵器は完成してしまい、なんとか研究施設を始めとして、保管されていた他の生物兵器を全て壊滅させることはできたが、ガブリールは完成した生物兵器より返り討ちにあい、万能感に酔いしれた男は、逃走を図ったガブリールを追いかけた……というわけらしい。

 

 

「──で、その肉片なんだけど」

 

 

 ちらり、と。

 

 ふらんと、ヴェロニカ、両名の視線が私に……いやいやそんな馬鹿なと私は最初笑って流したが。

 

 

『……詳しくは知らねえが、どうもこの前あったテロの際に、近くにたまたま飛んできた肉片を実験的に使ったとか、そんな経緯らしいぞ』

 

 

 ガブリールより、そんな話が出た私は……思わず、天を仰いだ。

 

 

 悲しいかな──原因は、私であった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………いや、まあ、不可抗力にも程があるというか、そこまで私の責任かと言われたら首を傾げるような話だが……まあ、起こった事は仕方がない。

 

 

 というか、もはや奇跡的な話である。もちろん、悪い意味で。

 

 偶発的に飛び散った肉片……さすがに一発で成功なんて出来ないだろうから、腕とか足とか、一塊分はあったのだろう。

 

 それだけで生物兵器を作ったのは悪い意味で見事と言うしかないが、言い換えたら、それほどの天才でなければ、そのまま腐敗させてお終いである。

 

 

「……いちおう聞くけど、他に私の肉片を持ち去った者とかはいないのよね?」

「……俺は神様じゃねえからな。100%断言はできねえが、たまたまテロ現場に居合わせたところに、たまたまおまえの肉片が一塊分ぐらい回収できる範囲に飛んできて、たまたまそれを保管できる装備を所持していて、有効活用できる知識と技術と設備を持ち合わせていて……ってのがもう一人いる可能性って、どれぐらいの%なんだ?」

 

 

 言われて、私は納得した。

 

 たしかに、とんでもねえ低確率である。

 

 1等宝くじを3回当てるよりも低いのではないだろうか……嫌だなあ、こんな悪い方向に運を使いたくはなかった。

 

 でもまあ、ちょっと安心した。

 

 ガブリールが研究施設を壊滅させたなら、もう次は無い。

 

 そして、これ以上、私はこの世界に居るべきではないだろう。なにせ、私の肉片からそんなものを作りだせるようなやつがいるのだ。

 

 今回は肉片だったが、私の血液とか髪の毛とか、下手したら尿水や大便から作られる可能性だって、0ではない。

 

 

「──だ、大丈夫です! 既にサンプルは使い切りましたし、あくまでも実験データぐらいしか残って──」

「破棄しなさい」

「はい」

「いいわね? もしも転用とかしていたら、本気で私があなた達を完全に滅ぼしに向かうから」

「は、はい……」

 

 

 ギロリと睨んだら、ふらんはちょっと泣きそうに……私は無視して隣のヴェロニカを見やれば、ヴェロニカは肩をすくめて頷いた。

 

 もちろん、ガブリールも睨んでおく。

 

 すると、「俺は、そういうのは分からねえよ!」っと不機嫌そうに顔を逸らした……ので、私はふらんたちに手を振って別れの挨拶をすると、異世界へのゲートを開き、飛び込んだのであった。

 

 

 

 

 

 …………。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、そんな感じで、新たな異世界へと向かった私だが……次の世界は、夜中であった。

 

 

 どうにも生ぬるい夜風と、大きな月が頭上にて輝いている。周囲は……いわゆる、北欧を思わせる街並みが広がっていた。

 

 そう思わせるのは建物の造形がそうであること以外にも、建物の屋根に取り付けられた十字架が原因だ。

 

 そう、大きさの違いがあるにせよ、全ての建物の屋根には十字架が取り付けられている。多過ぎて、圧倒されそうになるぐらいに。

 

 別に十字架を怖がる性分でもないので、慣れたら平気だが……ここらへんでは、そういう宗教色が強い場所なのだろうか? 

 

 そうなると、面倒事になりそうだ……文化レベルは……現代というよりは、中世? 

 

 いや、やはり現代か……まあ、のどかな光景と言い表せば良いのか……とにかく、そんな光景であった。

 

 

 ──が、しかし、一つだけ。

 

 

 どうにも拭えぬ違和感を覚えた私は、辺りを見回す。

 

 今が夜だから、周囲に人の気配は無い。

 

 コンクリートジャングルと言われて久しい現代ならともかく、光源が松明とかそういう時代なら、夜はよほどの理由が無い限りは出歩かない時代である。

 

 なので、人の気配を感じないのが当たり前……なのだが、しかし、だ。

 

 

(……建物の中どころか、この街……いや、村か? あまりにも命の気配を感じないのは、どうしてだ?)

 

 

 この村全体が廃棄されたにしては、どれもこれも真新しい。

 

 むしろ、つい先日まで人々が生活していた……そんな気配の名残すら感じ取れる。

 

 

(こういうのは伝染病の類だったりするけど、その場合は建物とか色々燃やされていたりするからなあ……それすら無いのは、あまりにも不自然過ぎる)

 

 

 これは……少々、警戒した方が良いかもしれない。

 

 そう思い、とりあえずはバリアを張りつつ上空から全体を探ってみるか……と、思った、その時であった。

 

 

 ──離れたところより、獣のような……いや、獣よりもおぞましいナニカの雄叫びが、私の耳に届いた。

 

 

 直後、私はそこへ駆け出した。

 

 空を飛ばないのは、雄叫びより感じ取れた敵意と、下手に上空を飛ぶと狙い撃ちされるかもしれないから。

 

 別に全身串刺しにされても問題はないのだが、だからといって、わざわざ串刺しにされる趣味はないし、下手に警戒されても嫌なので、走って向かう。

 

 そうして──5分にも満たない時間を駆け抜けた私の眼前に広がったのは……おびただしい数の人間の死体であった。

 

 

(あ、違う。これはゾンビ、あるいはグールの類か?)

 

 

 しかし、すぐにそれが普通の死体でないことを看破した私は、倒れ伏している死体を調べてゆく。

 

 

 ……見たところ、どの死体にも矢が突き刺さっている。

 

 

 これがグールとしての致命傷っぽいが、人間として死んだのは……おそらく、数日前だ。

 

 そして、それは一体だけではない。どの死体も、死亡してから数日の時間が経過している感じがする。

 

 つまり、このグールたち……いや、人間たちは、数日前に一夜にして全員殺されてしまったとみて間違いないだろう。

 

 

(首筋に二つの傷痕……これ、もしかして噛まれた痕? しかし、こんな小さな噛み傷だけで……)

 

 

 そして、死因は……おそらく、コレだ。

 

 だが、傷痕が小さい。上手いこと動脈を傷つけたにしても、どの死体も見事というほかないぐらいに、ピンポイントにソレが…………あ、いや、待て。

 

 

(首筋に噛み痕……即死するような傷には見えないけど、死体がグールとなって動き出す……あれ、これって、もしかして──)

 

 ──まさか、吸血鬼の類か? 

 

 

 そう、私は思った──瞬間、私は斜め後方より飛んできた矢を掴んで止めた。

 

 直後、振り返れば、距離にして50mほどの地点に、男たちが呆然とした様子で他所を見つめて……ん? 

 

 

 いったい、何に見惚れて? 

 

 

 気になってそちらを見やった私は……なるほど、と頷いた。

 

 そこには、全身黒ずくめのうえに黒いマントを羽織り、黒い馬に跨った……月よりも白い肌をした、それはそれは美しい男が居た。

 

 人を魅了して惑わせる魔物と自己紹介されたら素直に信じてしまうぐらいの、まるで夜を従わせているかのような、とんでもねえ美貌である。

 

 

『──どうやら、御同輩のようだ。俺はボルゴフ。人は俺たちをマーカス兄弟とも呼ぶ。おまえの名は?』

『……D』

 

 

 そして、見た目相応にクールな性格なのだろう。

 

 ポツリと、それだけを名乗った……Dは、さっさと馬を操って……どこかへ走り去って行った。

 

 

『なるほど、あれが噂に聞く、人と吸血鬼の混血、ダンピールの吸血鬼ハンターD、か……』

 

 

 それを見送った男……ボルゴフは、自らに言い聞かせるかのようにそう呟いた後で……スチャっと、素早く私にボウガン(?)らしき武器を向けた。

 

 

「で、あんたは何者だ? さっき、俺の矢を防いだあたり、只者じゃねえのは分かっているが……」

「何者、と言われても……旅人であるとしか答えようがないわ」

 

 

 とりあえず、素直に嘘を付かずに応えれば、だ。

 

 

「旅人……ふ、ふふふ、はははは、このご時世に旅人とは、あははは、面白い嬢ちゃんだ!!」

 

 

 なにがどう琴線に触れたのかは知らないが、ボルゴフは大笑いをして……静かに、弓矢を下ろしたのであった。

 

 

 

 




フランケン・ふらんの世界って、けっこうスルーっと医学チート(モブ)キャラが出没する魔の世界なんすよね

そのせいか知らないけど、あの世界の人間ってちょっと倫理観が……なので、『私』にはどうも肌に合わず、さっさと次の世界へ


次回 吸血鬼ハンターD 、の世界になります
なお、世界観は映画版です。原作はあまりにも救いがないので……
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