チートで雑な召喚士もどき(TS済)の長い旅路―なお原作知らず―   作:葛城

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吸血鬼ハンターD 編
第13話: 野良のラスボスとエンカウント


 

 

 

 がたたん、ごととん。

 

 そんな感じで車体が弾む、その中で。

 

 

『適当な場所まで乗せて行ってやるよ。そのかわり、何か有った時は加勢しろよ』

 

 

 というボルゴフの厚意を受け取った私は、行く宛ても土地勘だって無かったので、素直に乗る事にした。

 

 

 ……女の身で、危なく感じなかったのかって? 

 

 

 その心配はごもっともだが、私に限って問題ない。

 

 ぶっちゃけ、彼らマーカス兄弟が私にそういった意識を向けた時点で、彼らの首を落としたうえで灰一つ残さず消滅させられるから。

 

 また、彼らも私が普通の女ではないのは察しているようで。

 

 おそらく、私を襲うよりも、万が一の戦力を一つ増やした方が得策と判断したのだろう……彼らの視線はあくまでも、『臨時で雇った戦力』に向けるソレでしかなかった。

 

 

 ……ちなみに、だ。

 

 

 マーカス兄弟は全員で5人いるようで。

 

 1人は、長男のボルゴフ・マーカス。

 

 髭面で、武器はボーガン。無数の銀の矢を連射し、百発百中の腕前らしい。

 

 次に、カイル・マーカス。

 

 顔に十字架のペイントを施した、なんとも特徴的なモヒカン頭の大男。武器は巨大なハンマー。

 

 次に、カイル・マーカス。

 

 皮肉屋で狂暴な性格だが、頭の回転は早い。特殊な十字短剣(回転もする)を使い、ブーメランのように操ることも可能。

 

 次に、グローヴ・マーカス。

 

 彼は他の兄弟とは違い、虚弱体質のようで車の中に設置されたベッドで横になっていて、点滴までしていた。

 

 そして、最後の1人は……どうやら私と彼らが応対している間に、先ほどのハンターDを1人で追いかけたようで、それ以上の説明はなかった。

 

 

(……この匂い、最後の一人は姉か妹……女だな。それもまだ若い)

 

 

 とはいえ、説明されなくても分かる部分はある。

 

 私ぐらいにもなれば、その場に残った『臭い』である程度情報を探るぐらいはできる。さすがに、どこぞの判断がうんぬんの天狗よりは鈍いけど。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 とりあえずの自己紹介も終わり、改めて私は暇潰しがてら、マーカス兄弟より雑談と共にこの世界についての話を聞いた。

 

 その際、なんとも呆れた眼差しを向けられ──それで分かった事なのだが、どうやら、新しく渡って来たこの世界は、中々にハードな世界のようだ。

 

 まず、先ほども私は『吸血鬼』の存在を疑ったわけだが、どうやらそのとおり、この世界には『吸血鬼』がいるようであった。

 

 ただ、どうもこの世界の吸血鬼は、私が知る中でもかなり特異な存在のようで。

 

 どうも、この世界の吸血鬼は『貴族』と呼ばれているようで。

 

 弱点こそあるが、その力は普通の人間ではどう足掻いても太刀打ちできない強さのようだ。

 

 

 その例を幾つか挙げよう。

 

 

 まず、永遠にも等しい寿命である。

 

 実質的に不老に近い存在のようで、1万歳を超えている吸血鬼……すなわち、貴族もいる。1万年を掛けてゆっくり老化しているわけではなく、個別によって変化が異なるようだ。

 

 次に、人間を超越した身体能力。

 

 単純な腕力だけではない。人間よりも速く、人間よりもタフで、一部の貴族にいたっては、サイコキネシスに似た超能力を始めとして、様々な特殊能力を有している。

 

 次に、圧倒的な再生能力。

 

 貴族と一口に言っても、その実力も再生能力もピンキリだ。

 

 共通して常人では何百人掛かりでも手も足も出ない強さで、再生能力もそれに比例し、貴族と人間は『捕食者と家畜』の関係に例えられるぐらいの差があるとしても、だ。

 

 それでも、常人をはるかに超えた身体能力を持ち、吸血鬼をも時には討伐する狩人……ハンターと呼ばれる人間に倒されてしまう程度の貴族もいれば。

 

 そんなハンターたちを瞬き一つで絶命させ、それどころか、同じ貴族ですらも服従させてしまう……そんな、真の怪物もいる。

 

 そして、再生能力もピンキリであるらしく。

 

 下位の貴族でも、それ相応の準備をしなければまず殺しきれない再生能力を有しているが、上位の貴族ともなれば、もはやどうやれば殺せるのかその貴族自身にも分からないぐらいらしい。

 

 とはいえ、貴族にも弱点が無いわけではない。

 

 不死身にも思える身体とて、真の不死身ではない。

 

 全ての吸血鬼に共通した弱点である『太陽の光』の中では、上位の貴族とてタダではすまないらしい。

 

 それでも、『タダではすまない』だけなあたり、上位の貴族がいかに化け物なのかが窺い知れるだろう。

 

 ちなみに、傷を負えばその分だけ『喉が渇く』らしく……結果的には、より多くの血を求めて狂暴化するらしいが、とにかく、非常に厄介らしい。

 

 次に、人知を超えた圧倒的な科学力を有しているらしい。

 

 今の人類ではまったく解明できないぐらいに高度な科学力らしく、それは時に魔法にしか思えないほどで……全ての貴族がそうでないにしても、である。

 

 

 つまり、この世界の『吸血鬼=貴族』というものは、だ。

 

 

 不老不死に近い存在であり、人間を超越した圧倒的な身体能力と再生能力を有し、合わせて、様々な特殊能力を持ち合わせ、人類では解明はおろかどのようなモノなのかすら判別できないぐらいの高度な科学力を持っている……そんな存在だというわけだ。

 

 

 ──なるほど、確かに『捕食者』だと、話を聞いた私は思った。

 

 

 私が見る限り、マーカス兄弟もまた常人を超越した身体能力を持っているようだが、そんな彼らですらも手も足も出ない存在が居るようだ。

 

 もちろん、彼らが弱いわけではない。

 

 彼ら曰く、これまで何人もの貴族を葬ってきたらしい。それは、間違いなく事実なのだろうと私は思ったわけで……でも、そんな彼らよりも上位の存在がゴロゴロいるのが、この世界のようだ。

 

 

(……これは、ハズレを引いたかな?)

 

 

 通り過ぎる風景を見やれば、そんな気持ちが湧いてくる。

 

 別に、荒廃しているというわけではない。植物は元気に繁茂しているし、動植物の影や、虫たちのささやきもよく聞こえ、命が息づいているのが感じ取れる。

 

 しかし、どことなく、それだけではないのもまた、感じ取れる。

 

 それは、土ぼこりを被って風化し、辛うじて原形の名残を感じさせる廃墟の一部だったり、おそらくは道路だと思われる痕跡だったり……とにかく、そういうのがチラホラ目に留まる。

 

 

(意外と、人間が核戦争とか起こして文明が崩壊した後で、隠れ潜んでいた吸血鬼が表舞台に立って、そのまま完全に支配したとか……ふふふ、まさかね)

 

 

 なんとなくだがこの世界は、終末の後……すなわち、高度な文明を築いたが、その後滅びてしまった……そんな印象を私は覚えたのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………なお、しばらくして合流した末っ子の妹のレイラ・マーカスは、想像していたとおり若い女であった。

 

 

 どうやら目的の貴族を見付けて攻撃したらしいが、返り討ちにあったようだ。

 

 腹部には破片が食い込んで出血していたが、誰かに手当てされた後のようで、安静にしていれば問題ない状態だった。

 

 ただ、一つ気になるのは……どうも、助けられたのが不本意だったようで、非常に不機嫌なのを隠しもしていなかった。

 

 考えるまでもなく、助けたのはあの時のハンター、『D』であるのは間違いないが……まあ、私は所詮、仮初めの客であり、旅人に過ぎない。

 

 適当な町に着いたら下ろしてもらうとしよう……まあ、真っ先に向かってくれる保証など、ないのだけど。

 

 そう、私はあっさり考えを終えるのであった。

 

 

 

 

 

 ──さて、そんなこんなで、だ。

 

 

 一通りの話が終わり、末っ子のレイラも戻ればもう、特にする事はないし、向こうも雑談に飽きて来るし、私もいいかげん飯を食う時間だ。

 

 さすがに、飲まず食わずのまま放置させ続けるのは、いざという時に役に立たないとでも思ったのだろう。

 

 ボルゴフからお情けで貰った缶詰(中身は、刻んだアスパラのスープだった)の味に、『う~ん、10点満点中、3点だな……』と、酷評していた、そんな時であった。

 

 

 車が……ゆっくりと、停車した。

 

 

 特に興味がなかったのでウトウトしていた私だが、さすがに車が止まれば目を覚ます。

 

 欠伸をしながら、他の者たちに次いで外に出てみれば……辺りは、それはもうどこからでも襲えますよと言わんばかりの、鬱蒼(うっそう)とした森の中であった。

 

 

「……どうしたの?」

 

 

 どう見ても目的地には思えないし、可能性は低いが、私を襲うにしても明らかに場所が悪い……というか、危険だ。

 

 

「……獲物がお待ちかねだ」

 

 

 だから、率直に理由を尋ねたわけだが、返答はそれだけで……木々の陰に隠れるようにして進む彼らに合わせて、そっと後ろから伺えば……なるほど、理解した。

 

 視線の先には、黒で統一された豪華な馬車があった。

 

 先程彼らから聞いたが、彼らの目的は、『とある貴族が攫った娘の奪還』である。既に前金は受け取っているらしい。

 

 あの馬車は、その貴族が使っている馬車だ。日差しが入らないよう窓は少なく、分厚い黒いカーテンで中の様子は確認できない。

 

 

「てめえも最低限、囮ぐらいは務めな、ここまで乗せた駄賃分は働けってこった」

 

 

 その言葉に、私はなるほどと頷いた。

 

 本当に、なるほどだ。確かに、それはそうだ。

 

 金など持っていない私をタダで乗せてくれているし、缶詰もくれたのだ。相応の働きをしろというのは、言い分としては当然である。

 

 ボウガンを、ハンマーを、十字短剣を、銃を。

 

 兄弟(レイラの武器は重火器らしい)が各々に武器を構え……そして、彼らはタイミングを見計らい、一斉に馬車を攻撃した──が、しかし。

 

 

 馬車は、偽物だった。

 

 

 おそらく、なにかしらの術でも使われたのだろう。

 

 直前まで馬車の形をしていたそれは、瞬く間に本来の姿へと戻り……後には、打たれ、撃たれ、そして、切り裂かれてバラバラになった……馬車よりも大きな黒い布だけが残された。

 

 

 ……当然ながら、ただの見間違いなんてわけがない。

 

 

 この場に居る誰もが、騙されたというわけだ。でなければ、わざわざ隙を晒して攻撃しようとするわけがない。

 

 そして……どこからともなく聞こえてくる、謎の声。

 

 その声の持ち主は、どうやら馬車を偽装して彼らを騙した張本人のようで。

 

 よほど己の術に自信があるのか。

 

 

『──5000年にも渡って研ぎ澄まされてきた我らバルバロイの秘術、甘く見ないことだ』

 

 

 と、いった感じで、聞いてもいないのになんか教えてくれた。

 

 

(……なんだろう、みんな知っているみたいな空気出しているけど、私は聞いていないから知らんなあ……)

 

 

 もしかしたら、缶詰を食べている時にでも彼らは話していたのだろうか……これもまあ、3点のアスパラ缶詰が悪い。

 

 とりあえず、彼らが周りを警戒しているので、私も周りを警戒……警戒……けいか……いや、待って、その、うん??? 

 

 私の視線の先……地面に散らばった黒い布、あるいは車の明かりによって生み出された彼らの影に、ぬるりとした気配を感じ取る。

 

 気のせい……いや、さすがにこれを気のせいでは済ませられない。

 

 だって、一瞬ばかり、影が波打つように揺れたし……ていうか、気配がどんどん強くなり始めている──うえに、なんか陰から腕が出て、その手には刃が──さて、働くか。

 

 

 ガシッ、と。

 

 

 今にも突き刺さんばかりに振り上げていたその腕を掴む。『──なっ!?』想定していなかったのか、腕の持ち主は驚愕し──それを無視して、私はえいやと引っ張りあげた。

 

 すると、まるで黒い水溜りから引っ張り出されたかのように、ドプンと影が波打って姿を見せたのは……うん、一目で人間じゃないよなって分かる顔をしていた。

 

 

「き、きさ──」

 

 

 ソイツは逃げようとするが、もう遅い。

 

 上空へ放り投げると同時に、私の指パッチンが火を噴く。残念ながら、上空には影などなく、当然ながら逃げ場もない。

 

 放たれたカマイタチの刃が、ソイツを真っ二つに……それが一つ、二つ、三つ、四つ、五つ……瞬時に肉片と称するほどにバラバラにしてやった。

 

 相手がただの人間ならば一回で済むが、人外は油断ができない。

 

 貴族とかいう面倒臭いやつもいるわけだし、貴族以外にも面倒臭い再生能力を有している化け物が居たとして不思議ではない。

 

 だから、完全に生命力がソイツから消えたのを確認するまで気を緩めず……そして、完全に死亡したのを確認した私は。

 

 

「……ボルゴフさん、倒しましたよ」

 

 

 呆気に取られている彼らに、討伐完了を伝えたのであった。

 

 その際、妙に距離を置かれるというか、『こいつ、マジか……』みたいな目を向けられたが……まあ、そうなるわな……というのが、私の正直な気持ちだけれども。

 

 

 

 

 

 ──さて、そんな感じで、だ。

 

 

 再び出発した私たちだが……ここで、またもやトラブルだ。

 

 いや、正確にはトラブルというよりは、次の目的地というか、目的の貴族が逃げ込んだとされる『バルバロイの里』……その手前にて停車した。

 

 理由は、先行しているらしい『D』の様子を伺うため、らしい。

 

 今さらながら詳しく話を聞けば、どうやらバルバロイの里というのは、先ほど私が仕留めたアレのお仲間というか、そういう者たちが隠れ潜んでいる場所らしい。

 

 どうも、『バルバロイに手を出して生きているやつはいない』という感じで有名らしく、彼らもどうするか判断が付かず、Dの動きを見てから決めるとのこと。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さすがに、面倒臭いというか、なんというか。

 

 

 回り道になりすぎるし、この先ずっとこんな感じでイタチゴッコになるぐらいなら、飽きるまで適当にこの世界をブラブラして、それから去ろう。

 

 そう結論を出した私は、彼らに手を振って……さっさと、その場を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

 …………。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、1人この世界を回ることになったわけだが……この際だし、はっきり言おう。

 

 

「……魔境過ぎじゃね?」

 

 

 なんか、想定していたよりもこの世界の生物が異常過ぎて、私は思わずそんな事を呟いていた。

 

 いや、だって、冷静に考えてみてほしい。

 

 全長にして数十メートルはある、砂漠を泳ぐ巨大なエイっぽいやつとか、なんか頭が三つある獣とか、あとはスライムっぽいやつとか。

 

 よくもまあ、これで人間たちは生き残っているなと思ってしまうぐらいの、とんでもねえ怪物がけっこうな頻度で遭遇する。

 

 いったい、どういう生体系の果てに生まれたのだろうか……もしかしたら、この世界にも『ふらん』のようなマッドさんたちが多数居るのだろうか。

 

 それならまあ、納得出来る。だって、マッドだし。

 

 特に理由はないけど、あるいは勝手な理由で、遺伝子操作とかしてクリーチャー生み出してそうだし……で、だ。

 

 

「……固いなあ、スジばっかで臭いし、食えたもんじゃないね……カレースパイスでもコレなのは」

 

 

 とりあえず──せっかくだからと、砂漠を泳いでいたエイっぽいやつを1匹仕留め、軽く調理してから食べてみたが……これがまあ、不味い。

 

 外皮が固く熱が通り難いうえに、肉は臭く、焼いても臭みが取れない。また、スジが多く、歯ごたえもよく言ってバツグン、悪く言えばゴリゴリしていて食べにくい、それに尽きる。

 

 

「……うわっ、ケルベロスっぽいやつも臭いなあ」

 

 

 次に捕らえたのは、森の中より出現した、三つの頭を持つ獣だ。

 

 基本的に肉食獣というのは肉が臭く、お世辞にも美味いとは言い難い味だが、例外を多数食べて来たので、とりあえずは食べて判断というのが私の信条である。

 

 まあ、その結果が、『う~ん、不味い!』という味だったけど。

 

 でもまあ、エイっぽいやつよりはまだ食える味だし、塩で揉んで臭みを取ったうえでカレースパイスを振れば十分に食える味だったので、個人的には良評価である。

 

 

「……スライムっぽいやつはなんかもう不味そうだからパス。ゴブリンっぽいのは臭そうだな……あ、これやっぱ臭いから駄目だわ、カレースパイスでも無理だわ」

 

 

 そして、他にも色々と捕まえては吟味しているが……こう、なんだろうか、見た目は気にしないのだが、味が悪いのだけはどうにもならん。

 

 この世界のクリーチャーたちは、どうにも味に臭みが多い。食べてるモノが悪いというより、肉質そのものがそうなのかもしれない。

 

 

 ……もしかしたら、本当にこの世界のクリーチャーたちは遺伝子改良とかそういうので作られたのかも。

 

 

 そう思わずにはいられなかった私は、そのまま当てもなくさ迷い続け……新しいクリーチャーを見付けては、『不味いなあ……』という感想と共に、歩き続けるのであった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、なんか真新しい道路(明らかに、人工物)を見つけたので、スーッと高速スライドホバー移動をしながらひたすら進んでいると。

 

 

(……なんか、でっけぇ城だな)

 

 

 これまでの景色には見られなかった、とても荘厳で、明らかに今の人間たちの科学力で作られたとは思えない、それはそれは見事な城を見つけた。

 

 なんでそう思うのかって、城の位置が地続きではなく、長い橋を通った先にあるからだ。

 

 立地からして、重機なんぞ置いて工事できるところではない。つまり、そういった常識を解決して城を建てられるだけの科学力をもって、作られた……というわけだ。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、話を戻そう。

 

 

 スーッと、城へと続く正門前の長い橋。そこにて、静かに着地をした私は……ふ~む、と首を傾げた。

 

 

(どうにも、不穏な気配がするなあ……妖気というか、邪気というか、そういうのが城全体に吹き溢れている感じがするなあ)

 

 

 具体的には、うっすらとだが、血の臭いがする。

 

 いや、正確には、拭っても拭っても取れないぐらいの、恐怖と絶望の臭い。芯までこびり付いた後のような……そんな臭いがする。

 

 いったい、どれほどの人間の血がここで流れたのだろうか。

 

 100人、1000人、10000人、それ以上。

 

 1年、10年、100年、それ以上。

 

 それほどの時を経てもなお、完全には取りされないほどの……ん? 

 

 

「ん~? 背後から狙い撃ち?」

 

 

 背後より迫って来ていたナイフをバリアにて防いだ私は、念のため振り返って辺りを見回す。

 

 当然ながら周囲には人の気配はないし、そもそも、誰の手にも触れていないのに、ナイフだけが近付いてくるのは察知していた。

 

 つまり、偶発的な事故の類ではなく、何者かが意図的に私を殺そうとしていたわけだ。

 

 だって、ナイフの当たる位置……私がガードしていなかったら、間違いなく急所に突き刺さっている角度と威力──おや? 

 

 

 ……なんだろう、気配が近付いてくる。

 

 

 それを感じ取った私は、振りかえって目に『力』を込めて見やれば……なんだろう、一台の馬車が近付いてくる。

 

 ていうか、あの馬車……マーカス兄弟が追っていた、あの貴族が乗っている馬車だ。あの馬車の目的地、ココだったのか。

 

 

「……あの人たち、失敗したのか」

 

 

 それとも、割に合わないと判断して手を引いたか……まあ、いいか。

 

 特に思い入れがあるわけでもないし、義理はもう果たした後だ。

 

 道を遮る理由も、貴族だからと攻撃する理由も私にはなかったので、素直に脇へと退いた──その時だった。

 

 

「あっ、コイツだな」

 

 

 城の中より、一瞬ばかり向けられた悪意。それは、間違いなく、城へと向かっている馬車へと放たれた。

 

 と、同時に、先ほど私に向けられた悪意もまた、同じで……なるほど、うむ、よく分からんが、とにかく、喧嘩を売られたわけだから。

 

 

「──誰だか知らんが、ぶっ殺し確定じゃい」

 

 

 私は……『テレポ』にて、城の内部……その奥深く、悪意の発信源へとワープしたのであった。

 

 

 

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