チートで雑な召喚士もどき(TS済)の長い旅路―なお原作知らず― 作:葛城
見た目からしてとても巨大で豪華な城だったが、内部もまたとんでもなく豪華な城だった。
しかし、それだけだと、私は思った。
理由は、この城には人の気配がまったくないからだ。いや、正確には、動く物の気配が全く感じ取れなかった。
それは、見る者が見れば、あまりに異様に思えただろう。
何故なら、それだけ豪華な城ともなれば、内部で働く者は相応に増える。なんでかって、何もしなくとも、内装は汚れ続けるからだ。
雑菌に、埃に、ダニ、その他諸々。
文字通り、内部の時間を止めない限りは、微々たる速度ではあっても汚れ続け……せっかくの豪華な内装も、台無しになってしまう。
それは、科学が発展した現代でも同じ事。
2,3日程度でも、換気扇だけは点けっぱなしの方が良いと言われているし、長期間ともなれば、全ての扉を開放したうえで、換気扇を点けっぱなしにした方が良い。
換気せずに空気の流れが停滞すると、それだけカビや湿気、有害物質が停滞するわけで、結果的には内装の劣化を速めてしまうから……らしい。
なので、どんな豪邸であっても、定期的に誰かが入って清掃なり何なりはする。空気の入れ替えというやつで、これをするかしないかだけで、劣化の度合いを抑えられる。
それは、おそらくこの世界でも変わらない。そして、この城は……1人や2人で回りきれるような広さではない。
ましてや、ここは閑静な住宅街ではなく、周り全てが自然に囲まれているような場所だ。
鳥や獣が入り込むことだって0ではないだろうし……少なくとも数十人は常駐して管理しておかなければ、あっという間に劣化していくだろう。
もちろん、そういう事に関してまったく気にならない場合はあるだろう。
だが、そういう者であるならば、こんな豪華な城など作りはしないし、作ったとしても、もっと荒廃しているか、砂埃など、自然の劣化がもっと進行しているはずである。
(……やっぱり、人の気配が無いな。それどころか、熱源の反応も無い)
だからこそ、私は不思議に思えてならなかった。
どうにも、ちぐはぐだからだ。
あるはずの場所に、あるはずのモノがなく。無いはずなのに、何故かある……そんな、どうにも拭い去れない違和感。
先ほど、貴族がこの城の中へと向かうのを見ていたが……と、なれば、必ず出迎える者がいるわけだ。
ゆえに、そちらの方向へと気配を探ってみるが……やはり、無い。
いや、正確には、あるには、ある。
正面出入り口の辺りに、あの貴族とかいう吸血鬼の気配が一つ。その傍に、人間の女の気配……おそらく、貴族が攫ったとかいう娘だ。
後は……もう一つだけ、気配がある。しかし、あまりに希薄すぎる。
言うなれば虚像。
精巧に作られた立体映像みたいなもので、中身がスカスカで、まるで風船のような……しかし、それでも私ぐらいでなければ気付かせないぐらいに、取り繕っている。
……ますます、意味が分からない。
場合によっては、居るかも居ないかも分からない……この城に残された残留思念が、機械的に生前の姿をトレースしているだけかも……いや、その可能性は低い。
もしもそうなら、この城へと向かっていた貴族はどうして?
藁にもすがる思い……それにしては、ずいぶんとあの貴族は高いリスクを取っているようで、それこそ割に合わない話である。
いくら貴族自身が強いとはいえ、絶対に死なないわけではないし、弱点だってある。
実際、マーカス兄弟を始めとして、ハンターによって討伐された貴族は相当数いるらしく。
絶対的な強者であることには変わらないが、それでもなお、貴族は徹底的に恨まれ続けているので……つまり、それでもなお、外に出る理由があったわけだ。
それに……私を襲った存在、その気配は、間違いなく城の中からだった。付け加えるなら、あの風船のように気迫は気配と同一である。
もしもアレが偽物で、本体が逃げ出したのであれば、気配が遠ざかるのが分かる。
私にも感知させないほどの隠密能力を持っていたら、その限りではないが……私を襲ってきた時の感覚からして、その限りではないだろう。
と、なれば……だ。
(たぶん、本体が城のどこかに居て、娘をさらった貴族を出迎えているのはハリボテみたいなもので……ふむ)
おそらく、本体の位置は城の最奥部の可能性が極めて高い。
同じ貴族相手にハリボテ(リモコン操作)で応対するぐらいだ……間違いなく、本体は身動き出来ない状態か、あるいは、辛うじて死んでいないだけの状態だろう。
(……あっ、いた)
この世界の貴族の強さがどれほどかは人伝なので分からないが、こんな馬鹿でかい城を持っているぐらいだ……相当に格の高い貴族なのだろう。
そう思って探ってみれば、けっこうあっさり見つかった。
探すまで私が感知出来なかったのは、単純に本体が死にかけであるから……いや、これは、封じられ……まあ、どちらでもいいか。
とりあえず、さっさと『テレポ』にてそこへ転移する。
そこは、まるで祭壇のような空間であった。
階段を登った先には、大きな棺桶が一つ。
そこに本体かと階段に足を掛ければ、どこからともなく飛んでくる短剣。いちいち指パッチンで壊すのも面倒なので、念動力によるバリアにて防ぐ。
死んだふりをせず、わざわざ『ここに本体がありまぁす!』みたいな反応だ……考えるまでもなく、これまで一度として身の危険を覚えたことがないのだろう。
続いて、何本もの短剣やら何やらが暗がりの奥より飛んでくるが……っと。
急に、視界が切り替わる。見覚えのある光景、懐かしい光景、今は遠き光景。
と、同時に、肌に触れる空気、臭い、感触の全てが、まるで目の前の光景が本物であるかのように私に見せて来る。
……それを、「──破ぁ!!」私は一息で破壊して……悪あがきとも言えるヤツの術を粉砕する。
今のは、幻覚だ。
大方、この幻覚に釣られて移動したりジッとその場に居たりすると、どこからともなく飛んでくる刃物の餌食になるか、あるいは罠がある場所へと連れて行かれ……というのだろう。
まあ、仮に私が幻覚に引っ掛かったままだとしても、この城にある罠や刃物では、私を殺せないだろうけど。
無視したまま、階段を登り……棺桶の前へ。
棺の蓋は空けられていて、その中には女性と思わしきミイラが一つ。その胸には黄金色の剣が、根本のあたりまでグッサリ深く突き刺さっていた。
「あ、こいつ、まだ死んでないじゃん」
──駄目じゃないか、死人はちゃんと死んでなきゃ。
そう思った私は、さっそく指パッチンを……しようとして、止める。
なんでかって、この吸血鬼、おそらく単純に身体を破壊しただけだと、そのうち何らかの方法で復活しそうな感じがするのだ。
根拠は何も無いが、こういう時の私の直感は良く当たる。少なくとも、『やったところで無駄』と思った事を実際にやって、事態が好転した事は一度としてないから、余計に。
『──人間無勢が、よくも我が寝床へ──』
「う~ん、どうしようかな……」
その証拠に、階段下の……なんだろう、おそらくはこのミイラの生前の姿というか、立体映像というか……まあ、どちらでもいい。
とりあえず、指パッチンでそいつの全身を素早くバラバラにした私は……あっという間に復活しようとしているのを尻目に、こぉぉぉ……っと、久しぶりに『波紋の呼吸』をすると。
「
ミイラの顔面に、波紋パンチを打ち込んだ。
この技は、特殊な呼吸によって太陽の波長と同じ波長を生み出し、増幅して放つ、疑似的な太陽エネルギーによる攻撃である──
“Topics! ”
“『山吹色の波紋疾走』とは、マンガ『ジョジョの奇妙な冒険:第一部』にて登場する主人公、『ジョナサン・ジョースター』が得意としていた、『波紋法』と呼ばれる呼吸法を用いて行う攻撃である”
“『波紋法』とは、特殊な呼吸法によって、人体に流れる血液の流れをコントロールし、太陽光の波と同じ波長の生命エネルギーを生み出す秘法である”
“この秘法によって生み出されるエネルギーは、太陽光がもたらすエネルギーと同質。ゆえに、太陽光を弱点とする存在に対しては、太陽光を浴びせるのと同じ効果を発揮する”
“かつての『私』自身、波紋の才能は中の上ぐらいが限界だったが、幾度の転生の記憶を取り戻した今の私ならば、かつての数千倍以上のパワーを発揮することができる”
“なお、波紋法を用いて戦う者を、波紋戦士と呼ぶのだとか”
──その一撃は、太陽光を弱点とする『貴族』にとっては、致命的な一撃である。
平均レベルの波紋戦士の一撃ならば、おそらく殺しきれない。こいつ自身は今にも死にそうな気配だが、それだけではないからだ。
伊達に、貴族と称される存在ではないのだろう。
しかし、下手すれば火山活動を誘発させてしまうほどの、膨大な私の波紋エネルギーの前では、さすがの貴族とて無事では済まず。
一瞬にして、ミイラの頭部が溶けて蒸発した。淡く光り輝きながら……しかし、さすがは貴族というべきか、それでも殺しきれないようだ。
並みの吸血鬼……少なくとも、『ジョジョの奇妙な冒険』に登場する『柱の男』ですら直撃すれば致命傷に至る攻撃を受けてもなお、そいつは煙を噴き出しながらも顔を再生させた。
『──ぐぁぁああ!!??!? こ、小娘が!?』
ただし、元のミイラの顔である。
『人間ごときがわらわに何を──っ!!!!!』
今の今まで沈黙を保ち続けていたミイラが、悲鳴と怒声をあげる。
空洞だった眼孔の奥より邪悪な光が灯り、閉じていた口がカチカチと音を立て、真冬を思わせる冷気が一気に噴出された。
だが、それだけだ。
こいつは、自力ではここから一歩も、それどころか指一本動けない。しぶとく生き長らえているし、常人では太刀打ちできないような力を未だに有しているが、それだけだ。
こいつの力が及ぶのはこの城の中、敷地のふちギリギリあたり。
それですらも短剣を飛ばしたり、幻覚を見せたり、シャンデリアなんかを落としたりするような、搦め手しか使えない。
つまり、そういう搦め手をモノともしない相手には手も足も出ない……雑魚でしかないわけだ。
もちろん、それはあくまでも私を基準にしているだけで。
今しがた、波紋攻撃を受けてもすぐさま再生したのが、その証拠。雑魚ではあるが弱者ではなく、攻撃手段が乏しいだけで、その身に宿る力は健在のようだ。
「……面倒だな」
と、なれば、だ。
私は、すぐさま扉を開く。
だがそれは、異世界への扉ではなく……私が用意した異空間。通称、『ここが決戦のバトルフィールド』空間である。
ちなみに、長いので『KKBF』と略称しているが……まあ、今はそんな事はどうでもいい。
「よっこらせ、と」
一息に、ミイラに突き刺さっていた剣を抜く。(うわっ、とんでもねえ剣だ……)それが、見た目とは裏腹にとんでもねえ性能だということに気付いた私は、思わず手を止める。
どういう性能かって……具体的には、そう。
年月にして数百年……数千年という月日の間、剣そのものが一切劣化することなく、この貴族を封じ続けるだけの性能と言えば、分かりやすいだろうか。
数千年の間一切の補給無しでもなお、並みの吸血鬼なら一瞬で蒸発する弱点攻撃をされても即座に再生する……なるほど、並大抵の貴族ではない。
『が、ががっ、き、きさま……!!!』
「ほぉ……これでもなお、朽ち果てぬとは……なるほど、本当に強いな」
事実、こいつは波紋を常時流し続けてもなお、耐えている。
さすがに反撃するだけの力は無いようで、ミイラ化している身体の再生もできないようだ。
要は、ガス欠みたいなものだ。
封じていた剣を抜いたから、いくらか楽になったとはいえ……それで私に勝とうだなんて、10000年早いというものだ。
「別に、大した理由なんてないよ。ただ、やられた以上は、やりかえすってだけなので」
『に、
「それと、一つばかり興味が湧きまして……貴族って、弱点を突かない限りはほぼ不死身って聞いたけど、本当かなって思って」
そう言うと同時に、私の背後の空間より、ぬるりと姿を見せた……というか、召喚したのは、ジェノサイバーである。
『──っ!? な、なんだそいつは……!!』
「あ、気付いた? あんたぐらいにもなると、見ただけでコイツのヤバさがわかるよね」
その姿を見た瞬間、ミイラから発せられる声がいきなり弱弱しくなった。言うまでもなく、ジェノサイバーの危険性を察知したからだろう。
そう、ベルクロスよりはマシ……みたいな印象を抱かれがちなジェノサイバーだが、けして、軽視して良い存在ではない。
なにせ、適当に暴れ回るだけで、生半可な文明ならあっという間に壊滅してしまうだけのパワーをこいつは有している。
実際、こいつは一度人類の文明を粉砕し、絶滅寸前にまで破壊して殺しまわったのだから、いかにヤバいやつかが窺い知れるだろう。
全身をバラバラにしても再生する──『ヴァジュラ』によって細胞一つ残らず完全に焼き尽くされても?
人間をはるかに超越した身体能力──突進するだけで周囲の建物はおろか、鋼鉄の戦車すら粉々にするやつっすよ?
人知を超えた、あらゆる超能力を持つ──無限にも等しいエネルギーである『ヴァジュラ』の化身に、そんなの通じると思う?
こいつ、私の制御下にある間は、実質的に無限のエネルギーが供給され続ける……ぶっちゃけると、破壊以外の全てを捨てて破壊にのみ特化した、本当にヤベーやつである。
なお、傍から見たら、ミイラの頭を掴んで抱えている少女と、カタカタ歯を鳴らして話すミイラと、どこから見ても化け物にしか見えない破壊神。
う~ん、客観的に見て、まともな人間が1人も居ない構図だ。人間からしたら、勝手に争え……みたいな感じだろうか。
でもまあ、喧嘩を売って来たのはこいつが先である。
「頑張ってね、そいつ、1万年でも2万年でも無限に破壊し続ける存在だから」
『──ま、待て!!』
とにかく、そんなヤベー破壊神と、貴族だなんて大層な名を自称するコイツを、戦わせてみたい。
はたして、どっちが勝つのだろうか。
ゆえに、誰の邪魔も入らない『KKBF』へとポイッとミイラを投げ入れてすぐ、ジェノサイバーもそこへ突撃させると、ゲートを閉じて封鎖した。
……。
……。
…………ヨシッ!
色々とスッキリした私は、さて用も済んだし帰ろうかな……と、思って踵をひるがえした──その時であった。
──ごごごごっ、と。
急に聞こえ始めた振動音。地震かと思ったらそんな事はなく、それは建物全体が軋む音で……あ、もしかして。
(まさか、さっきのミイラと城は繋がっていた? なら、ミイラがこの世界から居なくなった以上は、繋がりが途絶える=死なわけで、つまり、この城も……こりゃあいかん!)
そこまで考えた(約0.2秒)あたりで、私は右腕を高く掲げる。
合わせて、私の腕が、胴体が、足が、膨張した筋肉によって一回り大きくなり──瞬間、私は右の拳で床を叩いた!
「グランドノッキング!!」
それは、とある世界で得た奥義の一つ。
正しい位置、正しい角度、正しい力加減、正しいタイミング、それら一つを一切損なわずに正確に打ち込む事で、対象の時間を止める技だ。
ずどん、と。
私の拳によって陥没した床──しかし、効果は絶大。
範囲を城全体に絞ったおかげで、物理的に破壊しないかぎり、この城の倒壊は私がノッキングを解除しない限りは半永久的に大丈夫な状態になった。
……。
……。
…………ヨシッ! (2回目)
ひとまず、これで良いだろうと判断した私は、さて用も済んだし今度こそ帰ろうかな……と、思って踵をひるがえした──その時であった。
「──キサマ! そこで何をしている!」
「ん?」
振り返れば、白髪に肌の白い、それはそれは端整な顔立ちの、赤い瞳の男が……ん、あれ、こいつ、さっきの貴族と似たような気配が──。
「カーミラ殿にな──」
「インパクトノッキング・ウェルダン!!!」
──あ、こいつ、マーカス兄弟が追っていた貴族か。
そう思い出すと同時に、なにやら攻撃してきそうな気配を感じ取った私は、すぐさまその貴族の全身にパンチを叩き込み、ノッキングを行うのであった。
……。
……。
…………ヨシッ! (3回目)
驚愕の顔のまま硬直している貴族の男に、「小一時間したら解けるようにはしたから」とだけ伝え、さて次の世界へ向かうかと踵をひるがえした──その時であった。
「──状況を、説明してもらいたい」
何時の間に、接近していたのだろうか。
全身黒づくめのハンター『D』が、スルリと長剣を抜いた状態で、私を見据えていた。
……。
……。
…………あ~、う~ん。
(こいつと戦って勝つのは……本当に面倒臭いだろうなあ……)
チラリとDの能力を『ライブラ』で確認した私は、内心にて溜息を零した。
いちいち説明すると長くなるので省略するが、Dを本気で倒そうと思ったら、因果律を操作して概念的な死を与えつつ、相手の概念操作を妨害し続けるなんて……うん!
「人間サイズのゲッターの意思みたいなやつと戦うとか、マジで終わりのない永劫の戦いじゃん……」
「……? 何を言っている?」
「いや、うん、ただの独り言。え~っと……とりあえず、お互いの事を話そっか?」
こいつと戦うのだけは止めよう……そう結論を出した私は、話し合いにて戦闘を避ける方法を取るのであった。
冷静に考えて、Dってどうやったら倒せるん?
こいつ、分かりにくいタイプのゲッターエンペラーor因果律を操るマジンガー0とかそういうやつよ?