チートで雑な召喚士もどき(TS済)の長い旅路―なお原作知らず―   作:葛城

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たまにはね


第15話: 世界からボッシュートされちゃった……

 

 

 

 結論から述べるならば、なんとか話し合いで解決した。

 

 というか、正確には話し合いで終わらせた。

 

 

 どうやったのかと言えば、それは互いにwin-winの状況を提示したからだ。

 

 まず、娘をさらった貴族の吸血鬼……先ほど私がノッキングで固定したやつだが、こいつの名はマイエル・リンク。

 

 さすがに一人だけ固定したままってのはダメなので、とりあえず話し合いでいくぞって流れからのノッキング解除……で、話をしたわけだけども。

 

 娘の美貌に目が眩んで……という事前情報とは裏腹に、どうやら本気の相思相愛だったらしく、実際は駆け落ちというやつだった。

 

 これは、実際に連れ去った娘とやらが来て、誓いの証だといわんばかりにキスをしたから……まあ、それで納得した。

 

 その際『D』の方から……いや、正確には、『D』の手(?)の辺りから、『すでに、身も心も言いなりになっているだけ』みたいな言葉が……まあ、今はいい。

 

 それから、さてどうしたものかと思ったわけだけれども、ここからが予想すらしていなかったオリジナルチャートが発動。

 

 ミイラ吸血鬼が入っていた棺桶と、放置されっぱなしの剣。

 

 特に、マイエル・リンクの注意を引き付けたのは、棺桶の方だ。

 

 私としては、なんか臭そうな気配が漂う棺桶だが、同じ吸血鬼であるリンクは、どうやら中に居たヤツの残り香から、その時の状態を察したらしい。

 

 

 そこで、疑問を一つ覚えたようで、それは『そんな体で、どうして自分たちを……』ということ。

 

 

 さすがに、マイエル・リンクも同じ吸血鬼であって、貴族とも呼ばれているこの世界の吸血鬼がどういう存在なのかは十二分に理解している。

 

 この世界の吸血鬼にとって、同じ吸血鬼に対して、同胞なんて考えは非常に薄い。

 

 利用できるか利用できないか、強いか弱いか、邪魔になるかならないか、そういった損得勘定の果てにあるモノでしかない。

 

 まあ、そりゃあ、そうだ。

 

 なにせ、貴族はとにかく個人主義だ。

 

 中には協力関係にある貴族もいるだろうが、基本的には個人主義であり、殺しあうような間柄ではないにせよ、仲良しな関係であるのは稀な方だ。

 

 それは、マイエル・リンクも分かり切っていた。

 

 だからこそ、今にも死に瀕した状態の吸血鬼が、そんな己をそのままにして、誰かのために……それも、貴族と人間(かちく)の逃避行を後押しなどするだろうか……と、疑問を覚えた。

 

 

「……この剣は、どうやらここの主を封じ込めていたモノのようじゃな」

 

 

 その疑問は、床を転がっていた『剣』……やつに突き刺さっていたソレを拝見した『D』の発言によって、晴れた

 

 正確には、『D』の言葉ではない。

 

『D』の手の辺りから、明らかに『D』とは異なる、爺っぽい声が……なんだろう、気づいていないフリをした方が良いのだろうか? 

 

 

 で、だ。

 

 

 私からしたら、なんじゃらほい? 、みたいな話だけど、どうやら今の発言でマイエル・リンクと『D』は察したようで……分からなかった私は、素直に尋ねる。

 

 

 内容を簡潔にまとめると、だ。

 

 

 この城の主である女吸血鬼カーミラ。

 

 つい先ほど、私が異空間に『ジェノサイバーと無限稽古(意味深)』させたやつの名であり、その剣が突き刺さっていたやつだ。

 

 で、そのカーミラの目的は、愛し合う二人の逃避行を手助けする……なんてものではない。

 

 先に答えを述べるならば、カーミラの目的は自身の復活であった。

 

 本来ならば瞬く間に傷を修復して復活するところを、あの剣がソレを封じてしまい、自力での脱出は不可能となった。

 

 そのうえ、様々な能力をも弱体化させてしまっていた。

 

 いくら吸血鬼とはいえ、からっからのガス欠状態で全力を出せるかと問われたら……という話だ。

 

 ゆえに、カーミラは暗躍した。

 

 女貴族カーミラの名は、1000年の時を経てもなお言い伝わる悪名。いかな狂暴な悪党だろうと、その城にすら恐れて近寄らない。

 

 ミイラと化したその身体より放たれている瘴気によって、獣はおろか、虫すらも時には距離を取る。

 

 そんな状態では、外部からエネルギーを補給……すなわち、食料である人間を食らって回復しようにも、夢また夢。

 

 だから、カーミラは恋心を利用した。

 

 生命力に満ち溢れた、若くて、特に美しい女。

 

 その血を食らい、その顔を奪うことで、自らを縛り続けている剣を抜き放ち、復活しようと企んだのだ。

 

 そして、計画は……少しばかり不穏な要素があったにせよ、順調に進んでいた。

 

 不穏な要素とは、ヴァンパイアハンターであろうと生意気な餌でしかない人間どもの妨害はともかく、貴族たちの間にもその名が知られている『D』が関わってきた、という点だ。

 

 しかし、それでもなお、計画は順調であった。

 

 なにせ、結果だけを見たら、呼び寄せた貴族の若造と人間の小娘はまったく己を疑っておらず、あとはタイミングを合わせて……という段階だったのだ。

 

 

「……つまり、私が余計なちょっかいを入れたから、カーミラとやらの計画が御破算に終わった……というわけか」

 

 

 まったくその気はなかったのだが……とはいえ、助けられた方からしたら、そんなことは関係ない。

 

 

「……そうだな。意図せぬ話だったとはいえ、結果的には助けられた……ありがとう、人間の娘よ。私の名はマイエル・リンク。この恩はけして忘れぬ」

「ありがとうございます、お嬢さん。わたくしの名は、シャーロット。なにかお礼をしてあげたいのですが、今は……申し訳ありません」

 

 

 貴族と、攫われた人間の両方から、お礼を言われた。

 

 

(……冷静に考えたら、これってけっこうすごい話なのだろうか?)

 

 

 なにせ、この世界……とにかく、貴族と人間との関係は最悪を通り越して、不倶戴天の怨敵と言っても過言ではない間柄である。

 

 

 まあ、客観的に考えたら、だ。

 

 

 人間は、一方的に貴族から家畜として刈られ、時には遊び半分に弄ばれ、悲惨な死を遂げてきた……という歴史を、気の遠くなるような昔から繰り返されてきた。

 

 対して、貴族はまさしく暴君である。

 

 中には暇つぶしがてら善政みたいな事をした貴族も居ただろうが、ほぼほぼ人間に対する認識は食料であり、放っておけば勝手に増える家畜という認識でしかなかった。

 

 そんな歴史が、長く……本当に、何十、何百、それ以上の世代に渡って続いてきているのだ。

 

 そんな中で、貴族と人間が仲睦まじくしているばかりか、その二人から並んでお礼を言われるなんて……っと、その時であった。

 

 

「──こら『D』とやら。あんた、無言のままになんで鞘から剣を抜いた」

 

 

 二人の目的は無くなったけど、逃避行はこれから先も続く……そんな雰囲気というか、空気になってきている中で、『D』は無表情のまま剣を抜いていた。

 

 これには、マイエル・リンクもハッと我に返って構え……シャーロットも、急いでマイエル・リンクの背後へ……いやいやいや、待て待て待て。

 

 

「『D』とやら、その物騒なモノは仕舞え。攫われたわけではなく、お互いが合意のうえでの駆け落ちだった。ならば、これで終わりでしょ?」

「──違う」

 

 

 ポツリと、青白い顔の『D』は否定した。

 

 

「俺が受けた依頼は、娘の奪還だ。お互いが合意であるかどうか、そこは関係ない」

「それは分かったけど、なら、なんで剣を抜いたの?」

「抵抗するならば、貴族は切る」

「う~ん、分かりやすい」

 

 

 切る。

 

 その言葉にマイエル・リンクとシャーロットは身構え……まあ、待ちなさいよと手で押し留めた私は、どうしたものかと首を傾げた。

 

 正直、面倒くさいから勝手にやっておけ……という気持ちはある。

 

 だが、同時に、せっかく恋し合う二人が一緒になれたのだから、そっとしといてやれよ……という気持ちにもなる。

 

 

 というか、だ。

 

 

 この世界の常識で考えたら、当たり前すぎて誰も疑問を覚えたりはしないのだろうけど……アレだぞ、逃避行しちゃうぐらいに恋しているわけで。

 

 そんな相手が目の前で殺されて、果たして平気で居られるだろうか……どう考えても、まともな精神状態ではいられないだろう。

 

 身柄は引き渡せていても、ショックで廃人みたいになっていたら意味無いし、下手したら、連れ戻そうとした家族に恨みをぶつけて……なんて事態になりかねない。

 

 そうならなくとも、自暴自棄になって自殺なんてされたら……その、あまりにも直情的じゃないかなと思ったわけである。

 

 

「もうちょっとさ、その、対話から始めてもいいんじゃない?」

「……ダンピールは、人間としても、吸血鬼としても、生きられない」

「あ、そっちから来るか……」

「お前たちがやろうとしている事の先に待っているのは、そういうことだ」

「う~ん……」

「生まれたその時から、追われ続ける日々が始まる。それを覚悟したうえで、お前たちは共に行くつもりなのか?」

(どうしよう、思っていたよりエグイ方向からのボディブローが飛んできたぞ)

 

 

 これは、どう答えるのか……チラリと振り返って二人を見やれば……私の視界に飛び込んできたのは、だ。

 

 まさかの、二人ともが何も言えず視線を逸らしていた、という光景であった。

 

 

 ──いや、ノープランだったんかい! 

 

 

 これには、さすがの私も思わずツッコミを入れそうになり……寸前にて、なんとか堪えた。

 

 まあ、そりゃあ、そうだ。

 

 本当にそこらへんを考えたうえでの結論を出していたら、逃避行を企てるにしても、もうちょっと穏便な形になっていただろう。

 

 そうなっていないから、こんな大事になっているわけで……いや、しかし、う~ん……。

 

 

「……そこの、『D』の手に宿っている別の気配のやつ」

「──ん? ワシか?」

 

 

 これは一人で考えても埒が明かないなと判断した私は、この中で一番知識が深そうな感じがするやつへと尋ねることにした。

 

 なんでそいつなのかって、それは……『ライブラ』でも、なんか詳細部分がぼやけて調べきれなかったからだ。

 

 コイツ……この、『D』ってやつもそうだが、調べれば調べようとすればするほど、災厄ネタの気配がビンビン伝わってくる。

 

 おそらく、下手に調べない方が良いタイプで、下手に調べるとこちら側を感知されてしまうタイプだ。

 

 だから、もう私は『D』については調べようとは思わない。ただし、情報は必要なので、言葉で尋ねることはするけど。

 

 で、なんか、表情こそ変わらないけど、ちょっと嫌そうな気配を醸し出している『D』の……さて、話を戻そう。

 

 

「あんたに聞きたいんだけど、この世界の吸血鬼って、生物的な意味での生命体なの? それとも、概念的あるいは情報的な存在なの?」

「ん~?? 質問の意味が分からんのう。具体的に、何が聞きたいんじゃ?」

「つまり、レーザーで首から下が消し飛んだら死ぬの? それとも、消し飛んでも死なないけど、胸に杭を打ち込まれたら死ぬのかってこと」

「ああ、そういうことか。そうじゃな、分類としては、概念的か、あるいは、情報的な存在じゃろうな」

「なるほど、それが分かれば十分……っと」

 

 

 さて、知りたいことは知れたから、お次は……ってところで、先ほどから柱の陰に隠れてこちらの様子をうかがっている者へ、軽く指パッチン。

 

 あえて外したが、その威力は柱など容易く……切り落としたらマズイので、傷つける程度で。

 

 

「レイラ、盗み聞きしていないで、顔を出せ。あと、その物騒なモノは下せ、この場でそんな玩具が通じる相手は一人しかいないぞ」

 

 

 私の言葉に、そっと姿を見せたのは……やはり、レイラであった。私の言葉を聞く前に察してはいたのか、手に持っている銃を無言のままにホルダーへと戻した。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………やけに、おとなしいな。

 

 

 知った事じゃねえ吸血鬼は殺すって来るかと思っていたが……なにやら難しい顔をして、恋人たちと『D』を交互に見やって……まあいいか。

 

 

「生物的な存在ならともかく、概念的な存在なら、なんとか出来るかもしれない」

「──どういう意味じゃ?」

 

 

 尋ねられた私は、彼らに対して簡潔に説明した。

 

 私なりの結論だが、この世界の貴族とやらは……要は、そのように定められた事象であり、普遍的な性質であり、ある意味では情報生命体なのだ。

 

 たとえば、一般的な生物の場合、『死』に至る理由は様々だが、胸に杭を打たれても、臓器を傷つけないように打って速やかに手術を行えば死なない可能性が出てくるだろう。

 

 

 対して、吸血鬼である貴族は違う。

 

 

 日差しの強さに関係なく時間帯に関係なく、太陽光を浴びれば致命傷に匹敵するダメージを負う。なのに、宇宙空間では、そうならない。

 

 武器で直接心臓を打たれると死ぬけど、レーザーで完全消滅させても死なない。核爆発を至近距離で受けても復活するのに、子供の手であろうが剣などで心臓を打たれたらあっさり死ぬ。

 

 定められた条件を満たさない限り死なないが、定められた条件を満たせば、それこそ赤子相手にも敗北する。

 

 それ、すなわち、この世界の吸血鬼は、そのように定められた情報的な生命体だからだ。

 

 そして、情報的な生命体ならば、その定められた情報を変えてしまえば、性質を根っこから変えることが可能である。

 

 

「つまり、吸血鬼ではなく人間になってしまえばダンピールは生まれないし、生まれてくる子供は人間の子供になるってわけ」

 

 

 私の出した結論に、一人の例外もなく……なんと、『D』すらもちょっと驚いた様子を見せた。

 

 そりゃあまあ、驚くのも無理はない。

 

 情報生命体の根幹を変えるなんてのは、実質的には神の領域、この世の生命体が触れて良い領域ではない。

 

 ただ、この二人の問題を……この先どうなるかは知らないけど、『D』の剣を収めさせるためには、これ以外の方法はない。

 

 

「どう? マイエル・リンク殿……人間になってみる気はない? 吸血鬼でなくなることに、未練がないのであればの話だけど」

 

 

 私の問いに、マイエル・リンクは……緩やかに目を瞑って、すぐに開いた。

 

 ギュッと、シャーロットから向けられる視線を、笑みで返せば、ふわりとシャーロットは不安が解れたかのように笑い。

 

 

「……考えるまでもない。私を、人間にしてくれ」

「いいの? 貴族と違って、人間はあっさり死ぬよ。ずっとずっと、不便な毎日になるよ」

「かまわない、シャーロットと同じ時を歩めるなら。それに、私は吸血鬼である己には、なんの未練もない」

「そうなの?」

「貴女には分からないだろう。永遠に生きねばならぬということが、どういうことか。忌まわしい喉の渇きが心を獣に変えてしまう、その惨めさを」

「ふむ」

「愛おしいと思っている相手を抱きしめるたび、己が貴族であることがどれほど辛いかを、どれほど自らの心臓を抉り出したいと思うのかを」

「…………」

「いつか死が、あるいは別の形で別れる日が来ようとも……それでも、私はシャーロットと同じ時間を歩みたいのだ」

 

 

 ポツリとこぼれた返答に、心から嬉しそうにシャーロットはマイエル・リンクの胸に身を寄せたのであった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………その光景を見て、納得してくれたのかどうかは知らないけど。

 

 

「…………」

「なんじゃ、『D』。お前さん、意外とロマンチストなんじゃな」

 

 

 無言のままに、『D』は鞘に剣を戻したのであった。

 

 

 

 

 

 ──で、だ。

 

 

 そんな流れで、さっそくマイエル・リンクを人間に変え──もちろん、ただ人間に変えたわけではない。

 

 私は、この世界の治安の悪さを、すでに把握している。

 

 だから、ただ人間に戻すだけではない。

 

 貴族ではないけど、奥さんとなるシャーロットと、これから増えていく家族を守れるだけの能力をある程度残したまま、マイエル・リンクを人間に変えた。

 

 私はね、せっかくハッピーエンドを迎えたのに、その次回作では不幸になっていたのが発覚した……ってのがとにかく嫌いなわけで。

 

 ハッピーエンドになったなら、次回作では大勢の孫やひ孫に囲まれ、笑って大往生した……ってのが好きなのよ。

 

 だから、燃料無制限&超魔改造な超快適キャンピングカー(自己修復機能付き)を、新婚祝いとして二人に贈呈した。

 

 

「ほら、ちゃっちゃとしなさいよ。今の身体のコントロールも兼ねているんだから」

「う、うむ……しかし、人間になってから最初にすることが、窃盗とはな」

「どうせ向こうはこちらを全員始末するつもりだったのだし、こういうのは窃盗じゃなくて正当な報酬よ」

「そういうものなのか……」

「シャーロットを見習いなさい。人間の逞しさってのは、アレよ。貴方も、人間になったのならば、受け入れなさいな」

「う、うむ……そうだな」

 

 

 それから、ちょっと気まずそうに作業を進めるマイエル・リンクに、私はそう切り捨てる。

 

 そう、正当な報酬である。

 

 一方的に奪うならまだしも、向こうから奪おうとして返り討ちにしたのだ、文句を言われる筋合いはない。

 

 その証拠に、見ろ。

 

 おしとやかなお嬢様みたいな雰囲気していたシャーロットなんて、率先して金になりそうなやつを城の中から引っ張り出しては選別している。

 

 女はこういう時、男よりもよほど現実的であり、即物的であり、リアリストなたくましさがある。

 

 これから先、お金は絶対に必要になる。

 

 有って困ることはあっても、無い時より困るなんてことはぜったいにない、それがお金というもので、人間として生きていくためには絶対に必要なのだ。

 

 シャーロットにとって、もはやカーミラの事は過去の話。

 

 これからの未来を生きていくためには、この程度の泥は進んで被って生きていく……それぐらい図太くなければならないのだ。

 

 

「……シャーロット、手伝おう」

「あなた……ええ、お願い。私一人だと、重い物が大変で」

 

 

 そして、今はまだ慣れてないので面食らっているマイエル・リンクだが、同じように、そうやって泥を被って生きていく覚悟がある。

 

 二人並んで、忙しそうに……それでいて、どこか幸せそうに作業を進める二人を見て……私は、安堵のため息をこぼした。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そんな私に対して、だ。

 

 

「……あんた、何者なの?」

 

 

 何故か、二人から見えない角度からレイラが銃を突き付けてきた。

 

 その背後では、遅れてやってきたマーカス兄弟が、つまらなさそうに車にもたれかかってあくびを零していた。

 

 彼らからすれば、既にシャーロットが朽ちた証としての指輪を受け取っているので、このまま帰れば残りの報酬が手に入るだけ。

 

 拍子抜けな仕事だが、楽して金が手に入るのであれば、それにいちいち口をはさむつもりはない、ということなのだろう

 

 ……ちなみに、『D』は少し離れたところで馬に乗ったまま、私の方をじっと見つめて……まあ、うん。

 

 

「私は私だ、それ以上でもそれ以下でもない」

「ふざけているの?」

「ふざけていないさ。ただ、さすがにここまでしちゃうと、私はこの世界においては仮初めの客ですらなくなったから……そろそろ、追い出されちゃうかな」

「は?」

 

 

 ──あんた、何を言って

 

 

 そう、呟いて困惑するレイラの顔を見やったのを最後に、フッと私の視界からレイラは消えた。

 

 正確には、レイラだけではない。

 

 後ろに居たマーカス兄弟も、新婚夫妻も、『D』も、改造キャンピングカーも、城も、何もかもが消えて……代わりに私の前に姿を見せたのは……ん、なんだろうか、木造住宅なのは分かる。

 

 ただ、美味しい食べ物が当たり前のように手に入る現代社会の木造住宅ではない。

 

 見た目からして、もっと前……江戸時代か、あるいはそれに近しい時代を想像させる、そんな住宅が──あ、いや、これはお寺か? 

 

 思い返せば、寺を見るのは相当に久しぶりというか、己を思い出してから初めてではないだろうか。

 

 そのせいで、気づくのが遅れた。

 

 現在の時刻は不明だが、夜空に浮かぶ星々の輝きからして、けっこう日が暮れて長いのは察せられる。

 

 

「『D』からうっすら感じ取れていたけど、やはり警戒されていたのか……」

 

 

 もはや気配はおろか、痕跡すら完全に消えているのを察した私は、ひとまず、夜が明けるまで寺で一休みさせてもらおうかな……ん? 

 

 

「なんだ?」

 

 

 なんだろう、今から向かおうと思っていた寺から、男と女が飛び出してきた。その勢いは相当なモノで──しかも、それだけではない。

 

 なんか、寺の正門をぶっ壊しながら、中から飛んできた……ブーメランっぽいそれが、ひゅるるると空気を切り裂いて、私の方へと飛んできた。

 

 

「──娘、避けろ!!」

 

 

 ただモノとは思えない身軽さで避けた男女──男の方が、そう私に向かって叫んだ──ので。

 

 

「『アストロン』」

 

 

 とりあえず、私は己の身体を鋼鉄……いや、そんな生易しいものではない。

 

 

 

 “Topics! ”

 

 “『アストロン』とは、ゲーム『ドラゴンクエスト』に登場する魔法のこと”

 

 “ゲーム内では一定ターン、自らを鋼鉄に変えて敵の攻撃をやり過ごす……といった使い方をする防御呪文である”

 

 “弱点として、魔法効果中は一切身動きできないし他の魔法も使えないというが、私の『アストロン』は、文字通りの無敵の防御魔法”

 

 “その場から動けなくなるのは同じだが、超新星爆発の中でも余裕で耐えられるだけでなく、相手の武器破壊などにも使える、特別性なのだ”

 

 

 

 

 

 ──そう、今回みたいに。

 

 

「──なんだぁ!?」

 

 

 がきぃん、と。

 

 驚愕に目を見開く男(女も)をよそに、無敵の超金属ボディな状態になっている私に直撃したブーメランは、ものの見事に砕けて壊れてしまった。

 

 無理もない、私の『アストロン』を突破しようと思ったら、ベルクロスのパワーフル充填からの全力パンチぐらい……で、だ。

 

 とりあえず、魔法を解除して──そのまま、バック走で二人に並ぶよう追いかけながら……名を問うた。

 

 

「あんた、誰?」

「俺か!? 俺は牙神獣兵衛(きばがみ・じゅうべえ)だ! とにかく今は逃げろ、話は後だ」

「あいあい」

 

 

 知らない名前だ。あと、女は名乗らなかった。

 

 とりあえず、歴史上の人物ではなさそうだな、というのが私の正直な感想であった。

 

 

 

 




Dとは戦わないのかって?

ゲッターとインベーダーとの戦いに決着が着くまでの時間ぐらいかかるから、戦いません
神祖なんて、そもそも倒す倒さない以前の相手なので


次回より、獣兵衛忍風帳編、です
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