チートで雑な召喚士もどき(TS済)の長い旅路―なお原作知らず― 作:葛城
第16話: 誰も気づいていない、RTA獣兵衛夫婦ルートの始まり
──なんで逃げていたのか。
とりあえず、しばし足を動かし続け、追いかけてくる気配が無いと判断した私たちは、それでもなお暗がりに身を潜める。
辺りには、ずいぶんと蛍が飛んでいる。
文明が発達した現代社会では絶滅危惧種も同然の存在だが、江戸時代っぽいこの世界の文明では、ごくごくありふれた虫の一匹にしか過ぎないのだろう。
コレは、アレだ。
何時の時代も、それが本来どれほど貴重なモノだとしても、当たり前にありふれていたら誰も有難るなんてことをしないのと同じこと。
現代では絶滅危惧種として非常に希少性が高いとされている動物も、それは、絶滅危惧種だから。
同じ猫なのに、固有種であるイリオモテヤマネコは保護されているのに、血が混ざった雑種の猫にはその価値が無い。
同じ猫なのに、片や何百万もすれば、片や数万円……下手したら、0円。
人が定める価値なんて、結局はその程度の話でしかないわけで。
その証拠に、息を整えている獣兵衛も、まだ名乗っていない女も、欠片も気に留めていなかった。
……私か?
正直に語らせてもらうなら、けっこう風流だな……という感想であった。
思い返せば、これまで渡ってきた世界はSF的に荒廃しているか、モンスター的なミュータントが跋扈しているか、あるいは宇宙か……そんな感じであった。
つまり、この世界のように、手つかずの自然が多い場所はなかった。
先ほど私が居た世界ですら、一度は荒廃してから復興していった……そんな世界であり、自然の流れがそのまま続いているこの世界の光景は、ある意味ではとても新鮮であった。
……で、だ。
「……礼を言っておく。私は甲賀組の
「俺は、牙神獣兵衛」
「ふむ、私は小町だ。まあ、好きに呼べ」
改めて、自己紹介をしてから、私は改めて問うた。
「あんたら、何に追われていたんだ? あんな物騒なモノを飛ばしてくる相手とか、借金でも踏み倒したのか?」
「──そうだ、おい娘っ子。おまえ、さっき何をした?」
質問に質問を返すのは……そう思ったけど、獣兵衛の態度というか、反応はごもっともなので、あえて私はそこにツッコまなかった。
客観的に考えたら、だ。
ちょんまげが常識な江戸時代で、杖を片手に呪文を唱えて魔法を使っている者なんて居たら、普通は大騒ぎである。
むしろ、こちらを不必要に怖がらせないような声色で尋ねてくるだけ、かなり胆の据わった男なのだということが察せられた。
「ふむ、魔法だ。あるいは、妖術の類と思って構わん」
だから、私は下手に隠さずそのまま答えることにした。
「妖術……娘っ子、いや、お嬢ちゃんは、妖怪の類なのか?」
「言い得て妙、かな。似たようなモノだ、こう見えて人の何倍も何十倍も時を重ねている」
──あくまでも、精神的にというか、記憶的にというか、魂的な話だけど。
「……本当に妖怪の類なのか?」
当然ながら、獣兵衛は疑いの眼差しを私に向けた。
それは、彼の横で話を聞いている陽炎も例外ではなく、どこか胡散臭い者を見るかのような……えぇ?
(おまえら、さっき私がブーメランっぽいやつを壊したのを見て……いや、まあ、それでも信じきれないというやつか)
状況証拠があろうと、実際に妖怪の証でも見ないと納得しきれないのか……まあ、いいか。
「なんだ、疑り深いやつめ……ほら、これで良いか?」
こんな時のために、という言い方をするのは少し違うが、『ふらん』から受けた改造が私にはある。
にょきっと、黒髪をかき分けて飛び出した獣の耳……具体的には、猫を想像させる形の耳をピコピコと動かせば、二人はぽかんと呆けた。
ほほほ、驚いている。まあ、実物を見せられたのだ、驚いて当然である。
機能性皆無で見た目を取り繕っているだけだが、さすがに、そこまで言及するつもりはない……というか、思考にすら無いのだろう。
心底驚きに目を瞬かせている二人に、「人の前に出るときは、こうして隠しているのよ」そう言って耳を髪の中へ。
はた目には、黒髪黄金色の瞳を持つ少女にしか見えない状態になってようやく、ハッと二人は我に返ったのであった。
──で、まあ、うん。
それから結局、二人がなんで追われているのかは分からなかった。
どうしてかって、まず、獣兵衛は巻き込まれただけというか、襲われていた陽炎を哀れに思って手を貸しただけで、無関係であった。
事情を知っているのは、甲賀組という組織に所属する、陽炎と名乗った女だけだが……彼女は、ほとんど何も語らなかった。
礼を述べるが、不必要に首を突っ込めば、ただ死ぬだけ……この場で別れるとだけ告げると、それ以上は何も語らなかったからだ。
そうなれば、私は当然のこと、私より関わっている時間が長い獣兵衛もお手上げで……まあ、獣兵衛はあまり興味を持っていないようだけど。
なので、分かったのは、せいぜい二人を襲った(正確には、陽炎を襲っていた)人物は、異形な姿をした怪力持ちの大男、というだけであった。
「……で、なんで付いてくるんだよ」
「そう言うな、私はおまえ以上に土地勘が無いのだ。町に着いたら別れるから、それまで一緒じゃ」
整備され、壁まで設置されている街道を歩いていた獣兵衛の呟きに、私はそう言って誤魔化した。
「──ったく、途中で疲れたとか言っても置いていくからな」
「無論、それで構わないよ」
そうして、だ。
作戦とかそういうのではなく、本当に土地勘が全く無いので、せめて人里までは一緒にと私は獣兵衛に付いていくことにした。
獣兵衛も、私が本当に土地勘が無いのを察したようで、悪態は付きつつも本当に置いていこうとするような素振りは見せなかった。
これはまあ、私が獣兵衛のことをまったく尋ねなかったからだろう。
こんな夜更けに一人歩いている時点で、事情がありますと証明しているようなもので……そのことを理解しながらも、あえて触れないようにしているだけでも……ん?
……前方の先、なにやら走って来る……馬が来た。
背中には、誰も乗っていない。
小屋から逃げ出してきたのか、野生の馬か……パッと見た限り、筋肉の付き具合からして、逃げ出してきた馬だろうな、と私は思った。
ならば、歩くのも面倒に思えてきたし、ちょうど良いなとも私は思った。
人の手が入っていない馬だと、そもそも慣れていないから人なんて載せられないし、馬にも危険がある。
私自身は浮いて誤魔化せば良いし、いざとなれば売って路銀にしても良いだろう……そう考えたわけである。
「『止まれ』」
言葉と共に、馬にも伝わるよう言霊を込めて抑えに掛かる。
完全に野生の馬だと怯えてパニックになってしまう可能性が高いが、人に飼われていた馬ならば、強者であり人の気配に気づいて、言うことを聞いてくれことが多い。
今回は……言うことを聞いてくれた。
ヒヒーン、と鼻息荒く走ってきた馬だが、私の意思に気づいて速度を落とし……ブフフン、と鼻息を吹きながら、緩やかに私たちの前で立ち止まった。
「よし、よし、良い子だ。獣兵衛、こいつに乗って行こう」
「へえ、達者なもんだ、さすがは年の功ってやつか?」
「ふふふ、獣兵衛も200年ほど生きたら出来るようになるかもしれんぞ」
「200年は俺には長すぎらぁ、遠慮させてもらおう」
苦笑を零した獣兵衛は、そう言いながらも馬をなだめるように首を摩りながら、横へと周り──ん?
「獣兵衛、敵だ。壁の向こう」
「なに!?」
殺気というか、気配が膨れ上がったのを感じ取った私は、素早く馬を避難させつつ壁から離れる。
合わせて、獣兵衛も壁から距離を取った──直後、壁にヒビが入ったかと思ったら、壁を壊してゴロゴロと──ボールのように転がって来る黒い巨体というか、人間──馬鹿か、こいつ?
「『サンダラ』」
それは、雷系魔法。相手に雷を浴びせる攻撃魔法。
転がって来る巨体の周囲に浮かんだ光の玉より、雷が放たれる。
それは一瞬だけとはいえ、目が眩むほどの光を放ち──と、同時に、地面が解けるほどの高温を伴いながら、ボール男は悲鳴一つ上げる間もなく、焼けた肉の塊に早変わりだ。
おそらく、防御力というか、頑丈さに特化したやつなのだろう。
江戸時代ぐらいの文明レベルなら確実に苦戦するが、言い換えたら、頑丈さではカバーしきれない部分からの攻撃には、無防備だということ。
実際、この男は一発で致命傷となった。
ああ、もちろん、その魔法を放つ前に、馬が驚かないようガードしておくのは忘れずに。
せっかく落ち着かせた馬を、こんなしょうもない事で驚かせるわけには……ん?
「どうした、獣兵衛」
「……いや、お前さん、思っていたよりずっと強い妖怪だったんだなって」
「伊達に、長生きはしとらんからな」
冷や汗を掻いている獣兵衛に、私はそう言って笑ったのであった。
……。
……。
…………まあ、それはそれとして。
(……暗がりに隠れてこちらを覗いているやつがいるけど、手出ししてこないなあ……別勢力か?)
とりあえず、警戒は解かないままにしたのであった。
……。
……。
…………そうして、世が明けて。
無事に人里へと到着した私は、馬を売り払い、金銭を山分けして……それでは息災で……と、別れたのであった。
──で、人から人へ道を尋ねながら、てちてちと練り歩いたり、空を飛んだりして移動をしていたわけなのだけど。
(う~ん、飯のレベルは文明レベル相応だな……)
正直なところ、この世界はあまり長居する気持ちがなくなっていた。
そりゃあ、最初のうちは、心の中の田園風景というか、なんとも表現し難い懐かしさが楽しかったけど……それだけだ。
不便を楽しむもまた旅の醍醐味とは言うが、やはり、文明の利器があった方が色々と快適だし、料理だって美味い。
これは断言できるのだが、食事の質は、どうひいき目に考えても文明が進歩した現代の方がはるかに良いのだ。
たま~に、〇〇時代の料理を再現した……なんてことをする者はいるけど、それはあくまでも、現代の美味い調味料を使った、当時よりも美味い〇〇時代の料理でしかない。
塩一つ、水一つ、食材一つ、すべて文明が進んだ現代の方が美味いのは、握り飯を買って食べた時に発覚した。
それを知っているからこそ、どれを食べてもまあ、10点中5点は超えない……だからこそ、私の興味はもうすっかり薄れかけていた。
「はあ……今回はハズレだな。米が食えたのは良かったけど……まだ数日とて過ごしていないけど、次の世界に行こうかしら……」
まあ、魚に関しては、水質の関係からなのかは知らないけど、塩を掛けたらけっこうイケる……けど、それだけだし。
とりあえず、魚は美味い。
だから、川に沿って移動して、新鮮な魚を楽しんでいるわけだが……しかし、さすがにずーっと魚だけとなると、飽きが来るのは必至。
こういう時は、動物の肉が一番良いのだが……しかし、見かけるのが流れてくる魚ぐらいで……しかたなく、川に入って魚を捕まえ、今晩のおかずはと──おっ?
バチバチバチ、と。
体に痺れが走った。突然のことに、私はちょっと驚き……ふと、視線を足元に向ける。
……。
……。
…………気付いたのだが、なんか大量に浮いた魚が流れてくる。
「『ライブラ』」
確認すれば、死因は毒ではない。
どの魚も感電死している。すなわち、誰かが川の上流にて高電流を流し、一気に殺したというわけだ。
(……電気? そんなものがあるのか? というか、そんな高電流を操れる設備や人物が??)
と、いうか、だ。
(これ、私じゃなかったら死んでるぞ……は? これをやったやつ、そこらへんを確認せず電気を流したのか?)
ちょっと、イラっときた私は──片手の指で〇を作ると、そこに『オーラ』を流して、望遠鏡替わりにする。
そうして……しばし、上流を見つめていた私の視線が、崖の上より、糸らしきモノを垂らしている男を捉えた。
明らかに、常人ではない。
服装からして、猟師や漁師の類ではない。
つまり、こいつが、電気を流した張本人であり、私でなければ命を落としたような……うん、処す、処そう、処さねば。
──『テレポ』──
ワープ移動にて、そいつの背後に移動した私は、その背中に手を当てると。
「──っ!? なにやっ──」
「『フレア』」
火炎系魔法のフレアを放った。
フレアとは、ゲーム『ファイナルファンタジー』に登場する火炎系魔法。
超高熱を対象の体内に凝縮し、一気に解放することで相手を爆散させるという、超強力な攻撃魔法である。
当然ながら、魔法的ガードあるいは耐熱ボディでなければ、ほぼ即死。人間がまともにコレをくらえば、炭すらも残らぬ超高温で灰になるだろう。
実際、この……なんだろうか、男色桃太郎みたいな風貌の、この男は……反撃はおろか私を認識するよりも前に、体内から焼き尽くされ……灰になって、爆散したのであった。
……。
……。
…………そうして、跡形もなくなって、飛び散る灰の中で……私は一つ、手を叩いた。
「一度目は成り行きというか偶然、二度目も偶然、なら三度目は……うむ、私が弱かったら両方とも死んでいた」
ならば、答えは決まっている。
「先手必勝、問答無用、結果的に私が死ななかったのであれば、結果的に私がおまえらを仕留めてやろう」
殺される前に、殺せ。
これ、大自然の掟なり。
RTAだからね、次回で、また次の世界へ行くぞ