チートで雑な召喚士もどき(TS済)の長い旅路―なお原作知らず― 作:葛城
第3話: こいつら、いつも隙あらば飲んでんなあ……
驚くことに、私はどうやら宇宙船……正確には、宇宙用の軍艦の中に転移してきたようだ。
牢屋(というより、留置用の部屋?)へと連れて行った軍人さんより話を聞いた私は、率直に驚いた。
逆に向こうからの視線は冷たくなった。たぶん、密航者なうえに、ある種の薬物中毒者とでも思ったのだろうが……構う事はない。
いちおう言っておくが、私が驚いたのは転移してきた場所が宇宙船の中だったから……というのは、半分間違い。
正解は、広大過ぎる宇宙に比べたら、砂粒よりも小さな……人間が生存できる僅かな空間へピンポイントに転移した……という部分に私は驚いたのだ。
そんな事で、と。
事情を知らない者からすれば思われそうだが、宇宙という広大さの一端でも知っていたら、いかに私の驚きに正当性があるか、それを察することができるだろう。
本当に、けっこう奇跡的というか、ものすごい低確率を引き当てたぐらいの事で……正直、こんなところで運を使いたくはなかったなあ……というのが、私の本音である。
だって……別に、宇宙空間に放り出されても平気だし。
たかが無重力の真空に放り出された程度であっさり死ねるなら、命が幾つあっても足りない……そういう世界で生きていた事もある。
あれは、なんだったか……ああ、そうだ、外宇宙からの侵略者との生存競争の真っただ中に生まれた時だ。
だから、宇宙船の中だろうが、宇宙に居ようが、特に私にとって新鮮味はない。
せいぜい、見慣れない内装だな……といった程度で、むしろ、「椅子もあるし、トイレもある……!!」牢屋代わりに閉じ込められたにしては上等だなとすら思っていた。
……で、だ。
色々な意味での尋問が始まるかなと思いつつ、実際に始まったので着ている服を全て畳んで、さて、と尋問担当の軍人へ向き直ったわけだが。
「……なんの、つもりかな?」
「え、いや、尋問をするんでしょ? なら、裸にさせるでしょ? いちいち服を破かれるのは嫌だし」
「……君は、古臭い映画マニアか?」
「そういうわけじゃ……え、脱がなくても良かったの?」
「むしろ、どうして服を脱ぐと思ったのかね?」
「捕虜って、そういうものかと……じゃあ、服を着ますね」
驚きつつも銃口をこちらに向け、さりとて、どこか気まずそうに……視線を逸らしたくとも職務上逸らすわけにはいかない。
そんな目で見られながらも静かに頷かれてしまい、勇み足が過ぎたかもと私はちょい反省した。
これは、別に私に露出狂の気があるわけではない。
これまで幾度となく世界規模の戦争が続いている世界にて転生した私だが、捕虜になった事は一度や二度ではない。
捕虜に関する取り決めなんぞ、有って無いようなものだ。
さすがに、今の私は最後までおとなしくされるがままなつもりはないが、それでも、従順な態度で居た方そこまで手荒な事はされないのは、経験上のこと。
ついでに、己が武器その他一切を不所持でいる事を示した方が、その分だけ対応が柔らかくなりやすい事も色々と経験済みである。
この世界でも、同規模の戦争が行われているのかどうかは知らないが、私にとっては他人事の戦争に過ぎない。
さっさと身の潔白を証明して、この世界のご飯を食べに行きたい……その一心で服を脱いだわけだが、まあ、そういうわけだ。
──そんなわけで、脱いだ服を着て、今度こそ尋問が始まったわけ……なのだが。
「それじゃあ、まず、名前と年齢を教えてくれるかな?」
「え、う~ん、名前は小町です。覚えている範囲でおおよそ24万歳……ぐらいかな」
「……では、何の目的で本艦に忍び込んだのかね?」
「意図せぬ事故みたいなものなので、特に目的があったわけでは……強いて挙げるなら、グルメツアーの途中、といったところでしょうか」
「……グルメ、つまりは美食。君は、美食のために本艦の警備を潜り抜けて、ヤン中将が乗っていた本艦に乗り込んだと?」
「いえ、ですから、乗り込んだというのは誤解で、たまたまです、たまたま。そのヤン中将なる人の事は、名前ぐらいしか知りませんし」
「……言っておくが、君が子供だからとて、ふざけた態度を取るならば容赦はしない。君は既に、第一級軍事犯罪に該当する罪を犯している。この場での銃殺すらも正当な行為に当たる……そのうえで、もう一度聞こう」
「はい」
「君は、どこから来た?」
「別の世界からです。つまり、異世界から。嘘のような本当です。信じる信じないは貴方たちが決めることですけど、そんな玩具で私は殺せません、弾の無駄でしかないですよ」
「……ふう、分かった」
溜息が零れた直後、軍人さんの銃口が私から少し逸れて、背後に置かれている花瓶へ──ピッ、とレーザーが発射された。
それを──私は、片手を上げて掌で受け止める。
「なっ!?」
当てるつもりはなく威嚇のために撃ったのに、それが間違って当たれば動揺して当たり前である。
レーザーは、一瞬ばかり私の掌で止まった。
それを見て、この世界の武器の威力はどんなモノかと『オートプロテス』を解除した──
“Topics! ”
“『オートプロテス』とは、ゲーム『ファイナルファンタジー』に登場する魔法である。物理防御力を上げるプロテスが、自動で発動するから『オートプロテス』”
“シリーズによっては習得に至るまでには非常に手間暇が掛かるモノもあり、有ると戦闘ではとても便利だが、無くてもなんとかなる、そういう立ち位置の魔法である”
──瞬間、掌を貫通したレーザーは、当初の狙い通り背後の花瓶へと着弾して貫通し、衝撃でパカンと粉々に割れた。
おそらく、最初からそのために置いてある花瓶だ。
軍艦には似合わないうえに、花の一つも活けていない花瓶が放置されている時点で不自然さがMAX……っと、思っていると、ノックも無しに扉が開かれ──この世界初のコンタクトの相手であったヤン・ウェンリーが入って来た。
いや、ヤンだけではない。
初コンタクト時、あの場所に居た、見覚えのある顔がチラホラと……中には露骨に顔をしかめている者も居て、その視線は銃を撃った軍人さんへと向けられていた。
「や、ヤン中将! こ、これは──」
「挨拶はいいよ、事故なのはちゃんと見ていたから」
そう言うと、ヤンの傍を通って、白衣を着た男が駆け寄ってきて……私の手を取ると、素早くタオルを手の下に敷くようにすると、ばしゃっと冷たい液体を掛けた。
たぶん、消毒&洗浄をしているのだろう。
レーザーでの貫通によるので、瞬間的な出血量は少ない。
しかし、ジワジワと出血が始まれば結果は同じだし、結果的には弾丸が貫通したのと同じである。
なので、白衣さんの目付きは真剣だし、だからこそ、私を撃った軍人さんの動揺も……が、しかし。
「──傷が、ない?」
「この程度なら、何もしなくとも治ります。心配させて、申しわけありません」
そう、私が保有しているスキル『生命の泉』にて、ものの1分と経たずに完治するので、むしろ、驚かせてしまって申し訳ない気持ちであった。
“Topics! ”
“『生命の泉』とは、ゲーム『ペルソナ3』にて登場する、行動ターンが来るたびに自動回復するスキルのこと”
“ゲームではとあるキャラクターが習得するのだが、それに至るまでの経緯は涙なくしては語れない、『私』も思わず涙したぐらいである”
“なお、『私』の場合は積み重ねてきた『私』の魂の影響で習得している”
さて、呆然としている白衣さんを尻目に、私は改めて……ヤン中将なるお人へ挨拶をした。
……。
……。
…………そうして、選手交代という事で、今度はなんとヤンさん(お偉い人らしく、周りから滅茶苦茶止められていたけど……)が私の尋問をすることになったわけだけど。
「尋問を始める前に、いくつか質問をしたい。君は……えっと、コマチと言ったね?」
「はい」
「緊張するなとは言わないけど、そこまで緊張しなくてもいいよ。安っぽい騎士道に感化されたわけじゃないけど、おとなしく本当の事を語ってくれるなら、手荒な対応は取らない」
改めて対面する形で椅子に座った『ヤン・ウェンリー』なる人物への、私の印象は……軍人には見えない、とぼけた男である。
華奢だとか、卑屈だとか、そういうのではない。
声色だとか、表情だとか、話し方だとか、身体の動きとか……私の手を撃たせた軍人さんの方がよほど軍人っぽい雰囲気をしているように見えた。
でも、本当にそれだけならば、周りの者たちから向けられる信頼の眼差しはありえない。
少なくとも、ヤン・ウェンリーという男は、周りからそれだけ信頼され、信用を得るだけの実績を持っている……そういう人物なのだと思った私は、改めて居住まいを正したのである。
……で、始まった尋問……だったけれども。
「それで、君は先ほど異世界の人だと自称したわけだけど、それを証明出来るナニカは持ち合わせているのかな?」
「と、言いますと?」
「たとえば、この世界の人にはできない事……一目で異世界人だと分かるような、そういう特別なナニカはあるかい?」
「ふむ、では、こういうのはどうでしょうか」
立てた指先に、ぼうっと炎を立ち昇る。
「安直に、炎の魔法です。威力を強くするのは危ないので、この場ではこれぐらいですけど」
それを見て、ヒューッと口笛を吹く人が……と、思ったら、別の人から物言いが入った。
「それだけだと、腕の良い手品にしかならん。もっと派手なモノを見せてもらわんとな」
「キャゼルヌ先輩……相手は子供ですよ」
「しかしなあ、ヤン中将。集まっている軍人たちを納得させるのだ。細長いライターを見せられても、せいぜいコーヒー1杯分にしかならんよ」
キャゼルヌと呼ばれた明るい茶髪の白人さんの言い分は、もっとも。
確かに、指先から頼りない炎を出しただけでは、できの良い手品と言われても仕方がない面はある。
「ふむ……では、少しお待ちを」
なので、私は『異空間』より『取り寄せバッグ』を取り出すと、そこへ手を突っ込み──
“Topics! ”
“テレビアニメ『ドラえもん』に登場する、秘密道具の一つ”
“どれだけ離れていようと、バッグの中から目的のモノを取り出すことができる。初期設定では、お金が必要だったとか……”
──ふと、尋ねる。
「この世界の、とんでもない極悪者は誰ですか?」
「そんなの、皇帝フリードリヒ4世だろ」
応えたのは、また別の軍人さんであった。
「皇帝?」
「俺たちが戦っている敵の総大将。俺たちからしたらとんでもねえ悪者。実際に絶対的な悪者かどうかは知らねえけど」
「そうですか……では──ん?」
皇帝フリードリヒ4世の所持品の中で大切なモノ──と、念じながら掴んだモノを取り出した私は……はて、と首を傾げた。
「白ワイン、ですか?」
「……? 取り出した君がどうして首を傾げるんだい?」
「何が取り出されるのかは分からないので」
不思議そうにヤンさんから尋ねられた私だが、私もまた、不思議そうに首を傾げて答えると、ラベルをちらり。
「……ええっと、名前はちょっと読めませんけど……410年の、白ワイン?」
──410年物の白!? ──
瞬間、室内に集まっている軍人さんたちの半数がギョッと声を荒げた。
おや、と、目を瞬かせる私の手から、それはもう必死の形相で奪い取ったヤンさんたちは……私を尋問する時とは比べ物にならないぐらいに真剣な眼差しで、ボトル全体を舐めまわすように見つめていた。
……もしかして、けっこう貴重なやつなのだろうか?
まあ、皇帝の所持品だし、お高いのは想像するまでもないけど、そこまで興味を引かれるぐらいに特別なワインなのだろうか?
とりあえず、2本、3本、4本……と取り出していく。
私の直感では、フリードリヒ4世とやらはとんでもねえレベルの極悪人というわけではないが、少し格落ちする程度の悪人だという判定なので、欠片の良心も痛まない。
なんとなくだけど、この皇帝さん、色々と屁理屈捏ねて傍観者の立場で気取っているけど、とんでもねえ贅沢はしっかり老後まで楽しみつつ自殺する度胸すらなかったゴミ屑な感じがするし。
そんなわけで、ポンポンと15本ほど取ったあたりで底を尽いたのか、バッグからの手ごたえが無くなったので、私はパチンとバッグを閉じて『異空間』へと戻した。
……。
……。
…………それから、改めて軍人さんたちを見やれば、だ。
相も変わらず、軍人さんたちは、とんでもなく真剣な眼差しでワインボトルを見ている。そんだけ見たところで、いったい何の意味があるのだろうか……っと。
「──おっほん!」
たまたま目が合った……キャゼルヌさん、だったかな?
なんか、わざとらしく大げさな感じで咳をした。
「……言うまでもない事だが、これは窃盗に当たる行為であり、これは盗品であることは、言うまでもない事である」
その言葉に、軍人さんたちの肩がビクッと震えた。
誰もが……こう、分かっていますよといった感じで、なんとも曖昧な笑みを浮かべていた。そして、1本、また1本と……それはもう、名残惜しそうな目で見やりながら、私に返して行った。
……。
……。
…………なので、だ。
「では、ヤンさん。試飲をお願いします」
「えっ!?」
「本物でないと、私が異世界の人かは分からないでしょう」
「い、いや、しかしだな……」
話を聞くのが面倒なので、風の魔法にてコルクを抜く。『異空間』より取り出したワイングラスに、コポコポと音を立てて注がれて……ズイッと、それをヤンさんに差し出した。
「──そういう事なら、謹んでいただこう」
途端、ヤンさんは満面の笑みを浮かべた。
「おい、ヤン中将。そういうのはまず部下に、特に先輩に振る舞うべきだと思うのだが?」
「いやいや、キャゼルヌ先輩。上に立つ立場として、まず率先して身を切るのもまた私の務めでありますから」
いけしゃあしゃあとそう言い切ったヤンさんは、「……おお、芳醇な香りだ」それはそれは嬉しそうな顔で、グラスを傾け……深く、それはもう深く頷くと。
「ようこそ、異世界人。立場上歓迎することはできないし、監視されるけど、そこだけは諦めてね」
とりあえず、密航の件は許される感じになった。
「おいおい、いくらなんでも独断が過ぎると思うのだが──」
言われたので、キャゼルヌさんのグラスも用意して、たっぷり注いであげる。
「──しかし、時には臨機応変に動くのもまた、大事だな」
とりあえず、密航の件は許される感じになって……ボトルが全部無くなるまで、それは繰り返されたのであった。