チートで雑な召喚士もどき(TS済)の長い旅路―なお原作知らず― 作:葛城
──悲しいお知らせである。
【自然の味】この世界の軍人飯、けっこう微妙【大雑把】
いや、まあ、うん、別に責めているわけではない。
ただ、私の口に絶妙に合わないだけで、けして不味くは……ごめん、自分に嘘はつけない。
なんだろう、不味くはないのだけど、なんか不味いのだ。
これはもう私の貧弱極まりない
本当に、不味くはないのだ。
たとえば、フライドポテトは、ちゃんとフライドポテトだ。
変な味のジャガイモが使われているわけでもないし、奇妙奇天烈な味付けが行われているわけでもない。
ただ、美味しいかと問われたら、美味しくはないかな……と答える味だ。
問題は、二つある。
たとえば、先述したフライドポテトだが、揚げ過ぎて煎餅みたいな食感になっているのと、半生みたいにブヨブヨと柔らかいのが混在している。
おそらく、油に投入したポテトを全て取り出す前に、追加でボトボトと冷凍ポテトを投入したか、もしくは、全て電子レンジなどで雑に温めたものか。
あるいは、一度に挙げる量がとんでもなく、ザバッと入れてザバッと機械で杓子定規的な時間で油から取り出したから、ムラが出来てしまうのか。
それは私には分からない。
ただ、もうちょっと油を切れよと思わなくはない、脂っこいものは嫌いじゃないが、油っぽいものは好きではないから。
そして、もう一つは料理に使用する調味料も問題だ。
たとえば、ケチャップ。
見た目などは同じだが、私の知るケチャップより、どうにも味が大雑把というか……具体的には、少々甘すぎる。
マヨネーズも、こう、独特の癖があるというか、なんか雑ぅ……と違和感を覚えるし、塩コショウもやたらしょっぱいというか、辛いというか。
とにかく、フライドポテト一つ取ってもそんな感じなのだから、他の料理ともなれば……想像するまでもないだろう。
(パン、かってぇ……)
もそもそ、と。
手応え抜群のパンをちぎっては、微妙な味付けのスープに浸し、口に運ぶ。当然ながら、パンもバターの香りは薄く、そんなに美味しくない。
(青臭いサラダだぁ……)
もしゃもしゃ、と。
100人中90人の子供が嫌いそうな青臭いサラダの味わいを誤魔化すためのドレッシング。それもまた微妙な味だが、無いよりはマシだ。
(飲み物のジュースも、砂糖めっちゃ入っているっぽくて……水で良いって言ったら、変な顔されたなぁ……)
酒は付き合いで嗜む程度だから無くてもまったく問題ないが……しかしまあ、こう思っているのはどうやら私だけのようだ。
なにせ、誰も彼もが特に不満を持っていないっぽいのだ。
老年の軍人も、若輩の軍人も、男性女性問わず、誰一人として不味そうな顔をしておらず、むしろこれが唯一の楽しみだと言わんばかりに笑顔を見せているから。
……まあ、うん。
軍艦、それも宇宙空間を航行する船において、もっとも重要視しなければならないのは、水と食料である。
地上ならば最悪は魚などを釣ったり、海水をろ過して飲料水を確保して食料を調達できるが、宇宙空間ではそれができない。
つまり、補給手段が非常に限られている。
まして、保存期間の短い生鮮食品なんてそう数は置けないし、長期間の保存を利かせるための処置を施すだろうし……さて、結論をドドン。
──数値で表すと、10段階で2とか3とかの味である。
物資的な意味では、イクールが居た世界の方が乏しかった。
でも、味覚の好みが似ていたのか味付けは好みが多く、対して、この世界では物資は十分だが、味覚の好みがどうにもハズれているようで。
(……ヨシ、船を降りたら地上の飯を食おう。ここが軍艦だから、この味なのかもしれないし)
とりあえず、そう私は結論を出して、出してくれた食事を胃袋に流し込んだのであった。
……。
……。
…………で、まあ、先に結論から語るけど、私はまだまだ地上に降りられそうにない感じになった。
なんでかって、どうやら私が乗っているこの軍艦は巡回パトロール中なんかではなく、軍事作戦中だったからだ。
機密だから詳しくは教えてくれなかった(私としても、興味はない)が、どうやら極悪人たる皇帝たちを倒すための作戦らしい。
何時の時代も、何処の世界も、戦争は日常のように起こるものなのだろう。
幸いにも、まだ戦端が開かれているわけではなく、あくまでも敵陣地に向かっている途中なので、そこまでピリピリした感じではなかった。
私の立場も、扱い的には身元不明の密航者ではあるが、最初に酒を提供したのが効いたのか、邪険に扱われることはなかった。
おそらく……私の見た目が原因なのだろう。
どうやら、今の私の見た目はこの世界の人達基準だと、かなり若々しく見えているようで……聞いてみたら、ギリギリローティーンに見えなくもないかも……とのこと。
このギリギリとは、上限ではない、下限の話である。
「世辞抜きで何歳に見える?」と尋ねてみたら、だいたいの人が11歳ぐらいと答え、中には『ローティーン? 背伸びには早いぜ』と笑う者もいた。
……まあ、いいけど。
おまけに、私は背丈も女性兵士たちに比べてかなり低い。
具体的には、頭一つ分ぐらい小さい。
あるいは、この世界の人達が平均して背丈が高いだけかもしれないが、とりあえず、小さい。
前回の世界では機械人間が多く、比較対象のイクールもそこまで背丈がなかったから気付けなかったけど……まあ、これもいい。
(……そりゃあ、訓練した軍人だとしても、そんな小さな子供に対してそこまで厳しい態度を取れるか……まあ、嫌がるよなあ)
不本意だが、結果的にはプラスに働いているので、私はあえて訂正しようとは思わなかった。
…………それは、とある会議室での会話。
……。
……。
「ヤン中将、本当にあの子を連れて行くんですか?」
「その点に関しては、私も迷っている。だが、どうすればいいと思う? 今回の作戦は、これまでの作戦とはワケが違う。後方に下げたところで、その後方も常に前方の艦隊を追いかける形で前進し続けているのに」
「それは……」
「自由惑星同盟軍の総力を結集して挑む『帝国領侵攻作戦』。御立派に着飾ってはいるが、やっていることは戦略も戦術も関係ない無作為の総力戦だ。子供が紛れ込んでいるだなんて言い訳、子供を使ったスパイとして処刑しろという命令が出されるのがオチだろう」
「そんなことは……!!!」
「それが、あるんだ。それに、この作戦には懐疑的な視線を向けている者は多い。『本当は子供なんて居ないんじゃないか?』と、あらぬ疑いを掛けられ、敵前逃亡容疑で軍法会議に掛けられる可能性も高い」
「…………」
「また、引き返すには遅すぎる、そもそも遠すぎる。既に、帝国領は目と鼻の先だ。もはや小型艇では到底燃料が足りないし、この作戦で安全な場所は一つとしてないんだ」
「…………」
「だから、せめて目が届く場所に置いておきたいし、万が一不幸にもこの艦が撃沈したとしても、目の届かない所に送った結果死に追いやったという苦しみに比べたら、幾分かマシだとは思わないか?」
「……返答を、控えさせていただきます」
「それに、これは私の個人的見解なんだが、この艦で一番安全なのは、あの子……コマチだと私は思う」
「と、言いますと?」
「考えてもみてくれ。あの子はロックされた密室から、まるでワープしたかのように脱出し……真空の甲板に平気な顔でいる姿や、ましてやレーザー銃で頭を打ち抜かれても平気な姿を実演しているわけだ」
「……あまり、思い出させないでください」
「ああ、失礼。とにかく、艦隊が壊滅してもコマチだけは生存している。拘束する術は無いが、当人は協力的でおとなしくしている、事故で入り込んでしまった少女……それが一番丸く収まるし、そうするしかない……というわけだ」
……。
……。
…………それは、密航者には伝えない、秘密裏の会話であった。
──まあ、しかし、そう思っているのは彼らだけだが。
(パニックを起こされて銃撃戦が始まるよりマシだな。見て見ぬフリ、それが一番ベター。さすがに、当てもなく宇宙をさ迷い続けるとなれば、すぐ別世界へ移動するところだ……)
伊達に、数える事が馬鹿馬鹿しくなるぐらいに転生を繰り返したわけではないし、積み重ねた『力』もまた伊達ではない。
ある程度の盗み聞きを終えた私は、最近になって少量になりつつある今日の晩御飯に目を向ける。
(……食パン2枚を使ったサンドイッチに、薄味のコーンスープ。私は別に食べなくても餓死はしないけど、育ち盛りの子供に与えるには少なすぎるわね)
当然、文句などない。さすがに、だ。
(それでも、密航者の私にもこれだけの量を用意してくれるのは、それだけここの軍人さんたちにも良心があるのでしょうね)
そんな立場でないのもそうだが、それ以上に、他の人達(つまり、軍人さんたち)へ提供されている食糧が、以前に比べて明らかに減っているのだ。
最初は気のせいかと思ったが、2日、3日と過ぎれば、嫌でも気付く。
食料の消費を、抑えようとしているのだ……ということに。
戦場において、それが行われる理由は一つしかない。備蓄している食糧が不足し、補給の目途が立っていない時だ。
それ以外に、食料を節約する理由はまったくない。
少なくとも、兵士を飢えさせるメリットはまったくない。極々一部の局所的な場合においては違う事はあっても、全体として見たら、只々弱体化させるだけの行為だからだ。
……私がこの軍艦に入り込んでから、何日経ったか。
日数の興味が無かったので分からないが、異変が起こり始めているのを私は感じ取っていた。
関わる気が無いし興味も無いので、必要最小限の盗み聞きに留めているが、それでも分かる事はある。
どうやら、今回の軍事作戦だが……どうも、隊列を伸ばし過ぎているようで、食料その他諸々の補給が上手くできていないようなのだ。
そんなにか……とも思ったが、こっそり調べてみれば、これがまあ、えげつない。
ヤンさんが『総力戦』と言っただけあって、今回の作戦に動員された人数だけでも3000万人を超えているというのだ。
正直、『人類存亡を賭けた戦争でもやってんの?』と思った私は、悪くないだろう。
だからこそ、現状が如何にヤバイのかが窺い知れる。
だって、3000万人だ。
食事を朝と夜の二回で抑えたとしても、毎日6000万食だ。
とある世界の、とある国の、一日消費する食糧ですら、この作戦では二日で使い切ってしまうほどの消費量だ。
そんな規模の大作戦中に食糧が枯渇する……実質、この作戦は敗北しているも等しいのでは……というのが、私の率直な見解である。
……。
……。
…………まあ、どうするかを決めるのは、私ではない。この世界で生きて戦っている者たちだ。
とりあえず、軍事作戦とやらが終わるまでは……そう、私は思っていた。
──が、しかし。
それより、さらに数日後……日に日に軍人さんたちの気配がピリピリし始めているのを感じ取っていた私は、聞き捨てならない話を盗み聞きした。
(物資を乗せた艦隊が全て攻撃され完全に爆破された……なるほど、敵対者はここの人達を飢えさせるのが狙いか)
つまり、焦土作戦というやつだ。
相手の補給線を叩くというのは、戦争においてけして珍しいことではない。上手くハマれば、無血のまま戦いを終えさせることができる。
……しかし、それはあくまでも、全てが上手くいった場合に限る。だいたいにして、この手の作戦は軍人以外を大多数巻き込む。
(飢えれば、どれだけの善人であろうと鬼と化す。ここはもう敵の領土なれば、飢えて死にたくない兵士たちは……略奪に走るだろう)
当然ながら、向こうもそれを承知の上でやっている。つまり、自分たちの領民を犠牲にして、こちらにダメージを与える……という方法を取ったわけだ。
(……そういうのは、嫌いだなぁ。飢えるって、本当に苦しくて、辛くて、悲しくて……そういうの、ちょっと許せないなぁ)
それは、私にとって……非常に無視出来ない話であり。
(本当に、餓死しかけるほどに飢えた者は焦土作戦なんて取れないよ……取れるやつが居ても、私は嫌いだなぁ……取られたからやり返すならともかく……これはもう、仕方ないね)
基本的にノータッチでいようと思っていた私の考えを、一時的に変えるには十分すぎる理由であった。
「運が悪かったね、帝国の軍人さんたち。私を巻き込まなければ、上手くいったかもしれないのにね」
その言葉と共に、私はヤンさんの下へ向かいつつ……そっと、『異空間』より、『取り寄せバッグ』を取り出したのであった。
……で、だ。
「いやぁ、本当に助かった。このまま行けば、遠からず我が軍の中に略奪兵が現れるところだったからね」
「御気になさらず、ご飯のお礼でありますから」
世辞抜きで、本当に安堵の溜め息をこぼすヤンさんたちの眼前……昨日まで空っぽだった、艦内にある多目的倉庫には、大量の食糧等がこれでもかと積み上がっていた。
理由は、天井付近の空中にて固定されている大量の『取り寄せバッグ』。開きっぱなしのそこから、途切れなく大量の食糧やら何やらが滝のように出てきているからである。
実は、この『取り寄せバッグ』から取り寄せられる物には限りがないし、距離も関係ない。
帝国のやり方に怒った私は、『取り寄せバッグ』を使い、帝国領にある食糧庫の中身をこっちに取り寄せ続けているのだ。
「──閣下、先ほど報告が来ました。どうやら、貯水タンクもフルに達したみたいです。その時点でバッグは消失したとのこと」
「そうか、報告ありがとう、フレデリカ」
「並びに、他の艦隊にも順次物資の輸送を行っております。さすがに詳細は明かせませんので、閣下が伝手を使って……という話で通しています」
「非常に苦しい言い訳だが、今はどこも背に腹は代えられないからね」
そう、久しぶりに朗らかな顔を見せるヤンさんと、ヤンさんを閣下と呼ぶフレデリカさん。
フレデリカさんはヤンさんの副官(?)らしい。
個人的には副官というよりは、ヤンさんの年下の奥さんかと思っていたが……まあ、この前こっそり聞いたら照れ隠しに背中を叩かれたので、知らない方が良いであろう。
……それよりも、だ。
「ヤンさん」
「ん? なんだい?」
「ちょっと、100億倍返しをしてきます」
「……どういうこと?」
首を傾げるヤンさんに、私はキッパリと告げた。
「言葉通りです。それでは、ちょっと甲板に出ますので」
──『テレポ』──
返事を待たず、私は軍艦の甲板に出る。視界は切り替わり、私の周りには、当たり前だが誰もいない。
外は当然、宇宙である。
視界の中を点在する軍艦を除けば、光年の彼方より届く星々のきらめきの他には、暗黒の宇宙が広がっているばかり。
空気はなく、音だってない。
そんな中で、私は……『異空間』より、『神器エーテルフローズン』を取り出すと……意識を集中させ、別次元、別世界の……宇宙の英雄を召喚した。
──来なさい、『ベルクロス』!!
私の呼び声に応えたのは、別世界の英雄。
その世界においては絶対不変の存在であり、神にも等しい存在であった『黄金の種族』のみが制御することができた、最強種族の内の1体。
その姿は人型だが、全長は100m近くにも達し、手足に鋭い爪や角が生えており、サメのように鋭い牙も備えている。
みぞおちの辺りに一つ、両肩に一つずつ、腰の両端に一つずつ、青い球体を持つのが特徴で、『存在』という属性を持っている──。
“Topics! ”
“『ベルクロス』とは、TVアニメ『ヒロイック・エイジ』に登場する人類の救世主であり、『英雄の種族』と呼ばれた内の1体であり、『鉄のノドス』という別の呼び名もある”
“その力は英雄の種族の中でも抜きん出て強大であり、あらゆる現象に耐えるだけでなく干渉し、不変にして限界のない肉体を持つ”
“かつての『私』は、こいつを始めとして英雄の種族を抑えるのに苦労した……まあ、昔の話だ。最後は、外宇宙の彼方より現れたゲッターエンペラーと戦い、無理をし続けた私はそのまま過労死したが……”
──この、ベルクロスという存在は、おそらくこの世界においても別格である。
なにせ、超新星爆発の衝撃波を受けても耐えるし、突進で惑星一つを粉々に破壊するし、亜光速以上の速度で宇宙空間を移動するのだ。
(……誰かは知らないけど、もう見つけたよ、赤毛の男……さあ、ベルクロスを相手に逃げ切れるかな?)
杖を振るえば、ベルクロスは雄叫びを上げて宇宙空間へと飛び立ってゆく。それは一筋の閃光になると同時に、一瞬にして宇宙の彼方へと突き進んで行ったのであった。
…………。
……。
……。
……。
……。
…………これより、しばらくして。
帝国領内にある宇宙艦隊にて此度の全体指揮を取っていた、金髪の獅子とも呼ばれていた男の下に、一つの凶報が届いた。
──『ジークフリード・キルヒアイス率いる艦隊、全滅。最後の通信より、誤報の可能性極めて低し』──
男は幾度となく、何度も何度も何度も、誤報であるかどうかを確認するよう指示を出したが……終ぞ、それは誤報ではない、という結果を男の下へ伝えられるばかりであった。