【警視庁・庁舎内 会議室】
重厚な防音扉が閉まる。
時計の針が静かに進む音がやけに耳に残る。
長机に並ぶ、警視庁の要職たち。刑事部長、警備部長、公安部長。
その前に、捜査一課の刑事・東大寺氷室が直立していた。
刑事部長・香取が、苦々しげに唇を結ぶ。
「……東大寺くん。これまでの君の働きは認める。だが――残念だが、次のジャンヌ事件の対応からは外れてもらう」
氷室の眉が僅かに動く。口は開かない。ただ、険しい目だけが理由を問うていた。
「次回以降、現場指揮は別の者が担当する。君は待機だ」
一瞬の沈黙。
代わって、警備部長・鳴神が低い声で言った。
「――入りなさい」
コツ、コツ、とブーツの音が会議室に響く。
入ってきたのは、整然と制服を着こなし、冷ややかに状況を見渡す若き女性指揮官だった。
彼女は、隊服の袖を静かに折り、三人の部長に対して見事な敬礼を見せる。
「第四機動隊、隊長・白峰あかね、指揮命令を拝命し、出動準備完了しております」
その瞬間――
氷室の目がわずかに見開かれた。
(まさか……女か……それも――)
警備部長が続けるように言う。
「紹介しよう。**“鬼の姫君”**と呼ばれる、第四機動隊 隊長・白峰あかね警視。次回のジャンヌ予告への出動は、彼女の指揮の下で行われる」
公安部長・笹塚も腕を組んだまま補足する。
「通常の捜査や包囲では彼女は捕まらない。――我々が“ジャンヌ”と呼んでいるあの女は、明らかに人間離れした行動能力を見せている。機動力・跳躍・索敵回避……」
「科学的証明はできないが、通常の犯人対応では追いつけない。そこで、我々は切り札を切る」
刑事部長が静かに付け加える。
「あさま山荘事件と同じだよ。正規の法手続きでは突破できない“壁”があるならば、それを“力”で突破するしかない。もちろん――生け捕りが前提だ」
氷室の拳が震える。
「……力業、ですか……。たかが少女ひとりに、鬼の第四を――?」
そのとき、白峰あかねが一歩前に出て、凛とした声で言った。
「失礼します。
私は、“たかが”という言葉で彼女を侮るつもりはありません。むしろ、彼女は、制圧すべき“敵”としては、かつて私が相対してきたどの対象よりも――理解不能で、脅威です」
静寂が走る。
あかねはその場にいる全員に軽く会釈した後、氷室にだけ向き直った。
「東大寺警部補。あなたの捜査記録、全て拝見しました。――貴方の執念には敬意を払います。
ですが今、これは**法の領域を越えた“秩序の綻び”**に差し掛かっている。ゆえに、第四機動隊が引き継ぎます」
氷室は黙ったまま、彼女を睨むように見据える。だが――どこかで、自分の届かぬ正義があることもまた、悟っていた。
背後のガラスには、東京の夜景。
その遥か上空には、再び“ジャンヌ”が舞い降りる夜が近づいていた。
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