神風怪盗ジャンヌ vs鬼の第四機動隊   作:山さん

21 / 33
検察の憂鬱

 

【1】静寂に満ちた検事総長室――訓示の余波

 

東京都千代田区、最高検察庁15階・検事総長室。

重厚なテーブルを囲むのは、最高検次長、東京高検検事長、公安担当、刑事部長、法務官僚出向者など十数名。

窓の外には春の青空――だが室内の空気は、重く張りつめていた。

 

机上のモニターには、再生が止まったままのニュース映像。

 

 

---

 

> 「――我々は、法と秩序を守る者。

向こうは、法と秩序への挑戦者。

だからこそ言う。“力による現状変更は、認めない”」

 

 

 

 

---

 

あかねの訓示――その明瞭で正統的、だが強烈すぎる宣言が、

“法の番人”たちの心に微細な振動を与えていた。

 

 

---

 

「……どうする? 我々は、どう処理すればいい?」

 

最初に口を開いたのは、公安担当検事。

眉間に深い皺を刻み、拳で額を押さえている。

 

「“神風怪盗ジャンヌ”……現場では“魔的存在”と戦っているというが、

 我々の手元にあるのは、“建造物侵入”“窃盗未遂”“公務執行妨害”……その程度の刑法犯だ」

 

「しかも、誰も死んでいない。負傷者も出ていない」

 

 

---

 

最高検次長が首を横に振る。

 

「現場の映像では、明らかに“異常”が発生している。

 一部の警察官が幻覚、意識混濁、動悸、視覚障害を訴えてる。

 だが、それを法的に“悪魔の仕業”とは認定できない」

 

 

---

 

東京高検検事長が呟いた。

 

「だが――白峰隊長は、“生け捕り”を前提に訓示を出した。

 つまり、逮捕の後、我々に“託す”ということだ」

 

「……我々が、“ジャンヌ”を起訴することが“正義”になるのか?」

 

 

---

 

沈黙が落ちる。

 

誰もが分かっていた。

これは単なる窃盗事件ではない。

 

国家の法制度そのものが、“見えざる正義”と衝突しているのだ。

 

 

---

 

【2】検察官たちの葛藤――正義の矛盾

 

若手の刑事部担当検事が、震える声で言った。

 

「正直……彼女に悪意は感じられません。むしろ、使命感です」

 

「彼女は――“神のために悪魔を祓う”と信じている。

 その対象が、確かに何らかの実害を出している……とすれば……」

 

「仮に“心神耗弱”と見なして不起訴にした場合――国民は納得するでしょうか?」

 

 

---

 

法務官僚出身の出向幹部が口を挟む。

 

「それはまずい。政治的にも……高城総理が“災厄”と認定して自衛隊を出している。

 つまり、政府レベルでは“犯罪ではない”という立場を取っている」

 

「だが警察は“秩序の維持”の観点で逮捕を進めている。この矛盾が、検察に丸投げされる可能性が高い」

 

 

---

 

「……これが、“法治国家”だというのか」

 

中堅の検事が吐き捨てた。

 

「敵を“悪魔”と呼んで戦いながら、味方の少女を“犯人”として送致してくる。

 しかも、その少女は“誰も殺していない”」

 

「我々が起訴すれば、人類が初めて“神の使徒”を法廷に立たせた前例になるぞ?」

 

 

---

 

その言葉に、検事総長がようやく重い口を開いた。

 

机に手を組み、低く、冷静に――しかし声の底には確かな迷いが滲んでいた。

 

 

---

 

「……我々は、“正義”の番人ではない」

 

「我々は、“法”の番人だ」

 

「どれほど正義を語ろうとも、“それが法に即しているか”を判断するのが、我々の職責だ」

 

「――だが」

 

少しだけ、言葉が途切れた。

 

「法の中に、“祓い”や“神の使命”という項目は、存在しない」

 

「彼女の行為は、今の日本の刑法では説明できない。だが、裁くことも正当化できない」

 

 

---

 

検事総長は、深く椅子にもたれた。

 

「……時代が、法を追い越しているのかもしれん」

 

 

---

 

室内には、再び沈黙が満ちた。

 

白峰あかねの言葉は、警察庁でも政治の中枢でもなく、

“法の最後の番人たち”をも揺るがせていた。

 

正義とは何か。

法とは何か。

人を裁くとはどういうことか。

 

その問いが、検事たちの胸に突き刺さっていた。

 

 

---

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。